55 肉祭り地獄 (グレーシス視点)
魔物討伐で、王魔討専部隊を率いるグレーシスの話です。
肉祭り地獄。それは我々王魔討専部隊にとって、最も過酷で厳しい七月~九月の大型魔物大発生の時期を指している。
「さて、今年の肉祭り地獄はいつもとは違う。伝染病のせいで、森にいる魔物が王都を目指している。魔物を絶対に森から出してはならない。心してかかれ。」
「「「「はっ。」」」」
命がかかっている為、騎士達の士気は高い。
そして、これを乗り越えれば、討伐した魔物肉で、真の肉祭りが開催され、魔物肉料理の食べ放題が出来る。
それを楽しみに我々は、今年も肉祭り地獄に専念するのだった。
七月~九月以外は通常、ほとんど小、中型の魔物しか出ない。
まさかの事態に備えて、王魔討専部隊が二人ほど見回りに同行するものの、基本的に小、中型魔物討伐と肉の解体は、下級騎士の担当だ。
しかし、肉祭り地獄の時期になると、小、中型は数が減り、代わりに大型魔物が大発生する。
大型を相手に出来るのは、我々王魔討専部隊しかいない。
下級騎士達には肉の解体を任せて、兎に角、大型を討伐する。
黒の鬼神と呼ばれるようになったのも、肉祭り地獄が、きっかけだった。
いかに体力を温存し、早く効率的に大量の魔物を討伐するか、それだけを考えて行動した結果、不本意な通り名に繋がった。
獣人の為に戦っているのに、獣人に恐れられるとは本末転倒だ。と思いながら、任務が達成出来るならば、王族としての義務は果たしている。と開き直ったのは、いつからだっただろうか。
肉祭り地獄の時期は夜営も珍しくない。が、今回は、伝染病患者を狙う魔物が王都へ向わないよう、二十四時間体制で警戒が必要な為、毎日夜営をする判断になった。
夜営での食事は、討伐した魔物肉を火で焼いて食べる。味付けは塩のみ。
それが毎日毎食、三か月も続くと流石に飽きる。
これも肉祭り地獄と言われる所以だ。
それに、何時もならリーリスを抱えてベッドで眠るのに、寝袋に入った野郎の寝顔をおがむ日々。
精神的に辛い。
いつもお側に。そう言ってリーリスがくれた、剣のモチーフとイニシャルが刺繍されたハンカチを、胸元から取り出して指でなぞり、口付けした。
残念なことに、別れ際に口付けした感触は、もう思い出せない。が、リーリスの紅潮した顔を思い出して、ふと笑みが零れた。
「グレーシス、もしかしてソレ、刺繍のハンカチか?」
夜、焚き火の番をしていたエイガーが、私のハンカチを凝視している。
「ああ、リーリスが刺繍してくれたものだ。リボンと違って、慕っている者にだけ、渡すのが祖国の風習らしい。」
慕っている者にだけ、を強調した。
「待て待て、モチーフの刺繍なんて超高級品じゃないか。お返し、どうするんだよ。」
エイガーが顔面蒼白になっている。
獣人の常識として、女性からプレゼントされたら、男性は倍以上の価値ある物を、返さなければならないからだ。
「リーリスが私の瞳と同じ色の、身に付けられるアイテムを希望したから、髪飾りを贈った。」
勿論、他にも用意してあるが、それは時期が来てからだ。
「どんな高級髪飾りだよ。」
「髪飾りは普段使いできる値段の物だ。決して高くはない。」
「それは失礼過ぎるだろう。」
エイガーが、信じられない、非常識だ。と言わんばかりの目を向けてくる。
それが一般的な反応だと勿論、分かっている。
実際、リーリスには髪飾りしか渡していないのだ。
「そうかもしれないが、私の瞳と同じ色の石だ、毎日身に付ける、と可愛らしく喜んでくれた。リーリスなら、その辺の石ころでも、ボタンでも喜んでくれるだろうな。」
リーリスの笑顔を思い出して、幸せな気分になった。
「俺、今なら魔物討伐の効率上がりそうだ。」
エイガーが珍しく不機嫌になった。
私が羨ましかったのだろう。
「私もだ。」
リーリスに早く会う為なら、全魔物を葬れそうだ。
エイガーからハンカチの話を又聞きし、私を羨ましく思う騎士達は、嫉妬の怒りを討伐に向け、同じく私も、リーリスとの時間を奪われる不満を、討伐に向けた。
いつもよりもハードな筈の肉祭り地獄は、激しい負の力で、意外と大きな危機も無く乗り越えられた。
むしろ、大量に討伐された、大型魔物を解体する下級騎士達の方が、大変そうに見えたが、お陰で真の肉祭りには、充分過ぎる程の肉が確保出来た。
徹夜明けの朝日が眩しい中、討伐も終わり、夜営からも解放され、やっと帰路につける。
背伸びしたエイガーが言った。
「いや~今年の肉祭り地獄も無事終わったね。後は真の肉祭りを楽しむだけだな。」
「ああ、リーリスも楽しみにしてたな。」
「護衛、要るだろう?私が引き受けるよ。」
エイガーが申し出てくれた。
「じゃあ、毒味役引き受ける。毎年の事だしな。」
ベクターが続いた。
王族は護衛と毒味役が付けば、肉祭りにも参加出来る。
エイガーとベクターは士官学校時代からの付き合いで、毎年肉祭りを共に過ごしている。
何時もの流れで二人とも申し出てくれたのだろう。が、今年は違った。
「いや、私が。」
「いやいや、俺が。」
次々に騎士達が、護衛と毒味役を立候補してくる。
「では、誰が最強か決めるか?」
最後には護衛と毒味役を巡って、物騒な戦いが始まりそうになった。
「公平にクジ。」
部隊の権力者エイガーによって、平和的なグジ引きで落ち着いていた。
しかし、流石、我が王魔討専部隊だ。だまだ元気があり余っているらしい。
交代で休みは取るものの、明日も通常任務だから、頼もしい限りだ。
「お前ら、リーリスと一緒に行動したいだけだろう。」
「何を言っているんだグレーシス、忠誠を誓った主と共にしたいと望むのは、騎士ならば当然だろう。」
其っぽい感じでエイガーは言うし、多くの野郎が頷いているが、やはりリーリスと行動したいだけだった。
これでも王族だから、誰かしら付けないと王都には行けない。
どうせなら気心が知れている奴の方が良いに決まっているし、彼らが有能なのは知っている。
「では、頼む。」
クジで当たったのは、毎年お馴染みのエイガーとベクターだった。
権力を行使して作った、エイガーのクジが公平だったのかは疑問だが、まあ良い。
他の奴等もこっそり付いて来るのだろう。
邪魔しないなら見てみぬふりをするが、邪魔したら……。
リーリスには絶対に言えないような、物騒な事を思ってしまったのだった。




