54 グレーシスの休日(グレーシス視点)
リーリスが王都に通っている時、お休みが取れたグレーシスの話です。(目次45)
魔物討伐が続く中、順番で休みを取れる運びとなった。
邸に戻ったのは、日付けが変わる前。
寝る準備をして、そっとリーリスの私室を訪ねた。
毎日癒し手の任務で疲れているのだろう。
既にぐっすりと眠っている。
明日、私は休みになったが、リーリスは朝九時頃から王都へ行く筈だ。
起こさないように気を付けながら布団に入ると、無意識なのか、猫が暖を求めるように、ピッタリとくっついて来た。
なんて愛しいんだ。
手を出さないようにしなければ……いや、たまに、つい、ちょっかいを出してしまってはいるが、いつまで持つか心配だ。
結婚式の夜、愛するつもりは無い。と言った、あの時の言葉を取り消したいが、タイミングが掴めず、未だ言えずにいる。
翌朝五時。
リーリスを起こさないように起きて、日課にしている剣の素振りや、トレーニングを終わらせた。
今日は大事な用がある。
以前、リーリスにハンカチを貰ったので、お礼に何かプレゼントしたい。と話した。
「グレーシス様の瞳の色と同じ物で、身に着けられる物ならば、何でも嬉しいです。」
頬を赤らめて教えてくれた。
本当、可愛い。
セーラン王国では、好きな人の瞳と同じ色の物を身に着ける事で、誰のものかをアピールする意味がある。と言う。
邸に店を呼ぶと、リーリスに気付かれそうなので、王都へ買いに行くと決めた。
テナール王国の王子は、護衛さえ付ければ、王都を自由に散策出来る。
私はそもそも騎士なので必要無いが、こういった時は、執事のドルフが付き合ってくれる。
ドルフは今でこそ執事だが、元騎士だ。
「いやはや、殿下が、女性にプレゼントを買いたい。と言う日が来るとは。」
生暖かい目を向けられ、了解を得た。
所用がある。と理由をつけて、リーリスとクレインの乗る馬車に相乗りした。
ドルフが帯剣しているのを初めて見たリーリスが、驚いていたのは、新鮮だったな。
リーリス達が治療している間に、王都にある王宮御用達の宝石店へ行く。
店主に、私の瞳と同じ色で、女性が身に着けられるアクセサリーを幾つか用意させた。
その中で、イエローダイヤモンドのネックレスが目についた。
華奢なチェーンに、繊細な装飾の爪で支えられた綺麗な黄色い石が、存在感を放っている。
「大変稀少な石です。」
店主は説明する。
「殿下、なかなか良いセンスですね。これは妃殿下に、よく似合いそうです。顔を見ると目に付きますので、アピールにもなります。」
リーリスが着けている姿を想像した。
確かに似合いそうだ。
しかし、普段使いには少々派手な気がした。
「確かにパーティーでも良いかもしれません。」
ドルフも同意見だった。
他にも用意された物を見てみると、一つの髪留めに目が行った。
小さなシトリンがあしらわれ、派手過ぎず品があり、リーリスに似合いそうだった。
「シトリンも大変貴重な石でございます」
店主が説明してくれた。
早速、イエローダイヤモンドのネックレスと、シトリンの髪留めを買った。
ネックレスは、パーティーに参加する時が来たら渡す。と決めた。
プレゼントを買ったは良いが、渡すタイミングが難しい。
今まで女性にプレゼントを贈った事が、全くなかった訳ではない。
獣人女性は明確に欲しい物がハッキリしていたので、金を出して贈れば満足して貰えた。
欲しいものは幾らでも沸いてくるので、プレゼントは義務的で、悩む事も無く、楽だった。
しかし、リーリスにはそんな渡し方をしたくなかった。
自分の瞳の色を身に付けたい。と言ってくれた。
きっと黄色い物ならボタンでも、石ころでも、大事にしそうだ。
でも、それでは自分が納得いかなかった。
プレゼントをこんなに真剣に選んだのも、初めてだった。
だから喜んで欲しい、でも気に入って貰えるだろうか、出来れば最高の雰囲気で渡したい。
多分、欲張りすぎたのだろう。
馬車の中や庭園での散歩、リーリスの私室……。
一緒に過ごす時間は沢山あった。にも関わらず、リーリスの胸に抱かれた患者に大人げなく嫉妬し、独占欲から時間を無駄にした挙げ句、寝る時間になってしまった。
「明日から討伐ですね。やっぱり寂しいです。」
リーリスの言葉を聞いて、渡すのは今ではないだろうか。もう、今しかないだろう。そう思った。
「では、私の代わりにこれを。」
ポケットから、ピンクのリボンで飾られた小箱を出して渡した。
「ハンカチのお礼だ。」
リーリスは丁寧にリボンを解き、箱の中にあるシトリンの髪留めを見ると、パアッと目を輝かせた。
「グレーシス様の瞳の色と同じ石が……ありがとうございます。毎日着けます。」
幸せそうに微笑んで、早速着けて見せてくれた。
「よく似合っている。」
「ありがとうございます。」
鏡で確認しながら、頬を染めて喜んでいる姿に、買った甲斐があったな。と嬉しく思った。
久しぶりのリーリスとの共寝は心地好く、眠るのが勿体無かったが、夜営の疲れが残っていたせいもあって、すぐに眠ってしまった。
翌朝になり、任務に出立する時、贈った髪留めをつけて、リーリスが見送ってくれた。
別れるのが名残惜しい。
唇にキスを落として、可愛らしく少し赤くなったリーリスを堪能してから、馬に跨がり任務に向かった。
さっさと魔物を殲滅して、早く戻らねばな。
リーリスのくれたハンカチを撫でて、気持ちを切り替えた。




