48 茶会
王宮内には王族居住区域と、政務を行う一般区域に分かれている。
次期国王である王太子、ティミラー殿下のお住まいは、王宮内本邸で王族居住区域にある。
本邸に行くのは、伝染病に罹ったリロイ国王陛下を訪問して以来になる。
約束の午前十時、グレーシス様に案内されて、本邸の一室を訪ねた。
「グレーシス、リーリスよく来てくれたね。リーリスとは、ゆっくり話す機会がなかったから、嬉しいよ。」
第一王子、ティミラー殿下は、穏やかな口調でニコニコと迎えてくれた。
「王太子殿下お招きいただき、ありがとうございます。」
淑女の礼をする。
「ティミラーお義兄様とは呼んでくれないのかい?」
寂しそうにされてしまった。
「そうでした、ティミラーお義兄様。」
「それで良いよ、リーリス。」
ティミラー殿下は、うんうんと頷くと、すぐに機嫌が良くなった。
「突っ立っていないで座りたまえ。」
第二王子、フレイル殿下が椅子を引いてくれた。
「ありがとうございます、フレイルお義兄様。」
フレイル殿下が、フッと満足そうな顔をしている。
「何故リーリスの隣に、お前達が座るんだ?」
私の両サイドに、サッと着席したお義兄様達に、グレーシス様が素早く指摘した。
「グレーシスと違って我々は、リーリスとの親睦が足りないのだから、これくらい良いじゃないか。」
「嫉妬深い男は嫌われるぞ。」
二人から言われて諦めたのか、グレーシス様は溜め息をついて、私の向いに着席した。
グレーシス様の顔が正面に見えるので、この席でも悪くないと思う。
「あの、こちら、お土産のクッキーです。宜しければどうぞ。」
忘れないうちに、クッキーの入った箱をティミラー殿下に渡した。
「ありがとう。早速いただこうか。」
ティミラー殿下の言葉に反応した侍女が、一度クッキーの入った箱を預かって部屋を出て行った。
暫くして、紅茶と皿に並べられたクッキーが、運ばれて来た。
お皿が良いと、手作りクッキーも高級そうに見える。
「お土産とは気が利くではないか。なかなか味には煩いが、気を悪くしないでくれたまえ。」
フレイル殿下はハキハキとした口調で、思った事は素直に口にするタイプ。
でも、嫌な感じはしない。
フレイル殿下とティミラー殿下が、早速クッキーを口に入れる。
グレーシス様から味は保証して貰ったけれど、やはり緊張する。
「うまい。サクサク感が堪らないな。」
「本当だね。クッキーでこんなに違いがあるとは、知らなかったよ。」
「それはリーリスが作ったものだ。」
二人の反応を確認してから、グレーシス様が説明してくれた。
「「王女がクッキーを作るのか!?」」
二人ともグレーシス様と全く同じ反応をした。
見た目は違っても、やはり兄弟って似るのね。
クッキーは二人に好評で安心した。
ホッとしてグレーシス様に視線を向けると、良かったな、と言うように頷いてくれた。
「ところでリーリス、グレーシスとの生活はどうだい?不便はないかい?」
ティミラー殿下に話を振られた。
「はい、とても良くして頂いています。」
「それは良かった。気を悪くしないで欲しいのだが、最近リーリスが浮気をしている、と噂を耳にしてね。」
「浮気?」
全く思い当らない。
「王魔討専部隊の部隊長補佐にだけ、手作りの黄色いリボンを贈ったらしい、と。」
「それは誤解だ。あれは騎士全員に贈った物だ。」
直ぐにグレーシス様が否定してくれて、セーラン王国のリボンを渡す文化について説明してくれた。
「百以上はいるだろう?それだけのリボンを作ったなんて、凄いね。」
「まあ、リーリスなら我々と違って可能か。」
驚くティミラー殿下と、冷静に分析するフレイル殿下、兄弟でも性格は全く違う。
「其で無事帰還したから。と祝賀会の時に、私がリボンを回収して回ったのだが、エイガーのリボンを回収し損ねていたんだ。仲間から、お前だけ回収を免れたのか。と話しているのを、誰かが勘違いしたのだろう。」
グレーシス様がリボンを回収していたなんて、初めて聞いた。
「そのリボンも既に回収したがな。」
「グレーシスのせいじゃないか。紛らわしい事しないでよ。」
ティミラー殿下が呆れている。
「まあ、疚しいことが無いなら良いんだ。こちらでも把握していないと、弁護出来ないからね。それに、子供が生まれたばかりで、妻に余計な心配をさせたくないし。」
ティミラー殿下が結婚していると、今初めて知った。
「ティミラーお義兄様、赤ちゃんが生まれたのですか?おめでとうございます。」
「あれ?グレーシスには言った筈だけど、聞いてない?」
ティミラー殿下が、グレーシス様を見る。
「聞いた気がするが、リーリスに言い忘れていた。」
グレーシス様は今、思い出したらしい。
「グレーシス、その顔、言う気無かったな。」
フレイル殿下はお見通しらしく、呆れた顔でグレーシス様に突っ込んでいる。
ティミラー殿下が、苦笑しながら教えてくれた。
「四人生まれたんだ。」
「四ツ子なんて珍しいですね。」
驚いていると、フレイル殿下が捕捉してくれた。
「そうでもない。獣人は普通三~六人一度に生むんだ。私達も誕生日は同じで、一番最初がティミラー、次に私、最後にグレーシスの順番で出てきた。第何王子と言っているが、全員第一王子とも言える。だから王位継承権も全員あるのだが、私とグレーシスは辞退したわけだ。」
「そうだったのですね。」
まさか殿下達皆が、同じ日に生まれていたなんて思わなかった。
「リーリス、獣人の赤ちゃんに興味はあるかい?」
ティミラー殿下の言い方には、何か含みが感じられた。
「人間の赤ちゃんと何か違いがあるのですか?」
「見れば分かるよ。良かったら今から見に来るかい?」
「そんな、急に良いのですか?」
「勿論良いよ。是非見に来てよ。」
ティミラー殿下は、とても嬉しそうに言ってくれた。
「私は仕事があるから、これで失礼する。リーリス、今後も定期的に茶会を開こう。」
「はい、フレイルお義兄様、お仕事頑張って下さい。また、ご一緒出来るのを楽しみにしています。」
フレイル殿下は穏やかな笑みで、ポンポンと私の肩に触れて、席を立った。
「私達も行こうか。」
ティミラー殿下に言われて、私とグレーシス様も席を立ち、ティミラー殿下の後について歩く。
隣に来たグレーシス様の指が、私の指に、そっと絡まってきた。
「あの……。」
「駄目か?」
「……じゃないです。」
何時も、ピンッと立っている獣耳と尻尾の力が、心なしか抜けている?
何だかグレーシス様の元気がない気がする。
元気づけるように、絡めた指をキュッと握った。




