46 祝賀会
謁見の間には、任務に携わった全員が参上していた。
「王都の伝染病も魔物の脅威も終息した。皆、大儀であった。」
リロイ国王陛下から労いの言葉を賜った。
謁見が終わった後は、大広間に会場を移して祝賀会が開かれると聞いている。
リロイ国王陛下によって、命じられた任務を完了すると、立食パーティーが開かれ、労を労うのがテナール王国の定番らしい。
リロイ国王陛下が玉座に座って見守る中、ティミラー王太子が、一人一人に勲章を授与する。
「リーリス、よく頑張ったね。これは君の努力が認められた証だよ。」
ティミラー殿下がフレイル殿下から勲章を受け取って、私の胸に付けながら言ってくれた。
「有り難うございます。殿下方を始め、沢山の方々のお陰です。」
淑女の礼をして笑顔で答えた。
全員が勲章を授与されると、全員にお酒の入ったグラスが配られる。
全員にグラスが行き渡り、リロイ国王陛下が最後にグラスを手にして、玉座から立ち上がった。
「皆、無事で何よりである。今夜は大いに羽目を外し、明日からまた、私と共に国の為に尽くしてくれ。乾杯。」
「「「乾杯。」」」
リロイ国王陛下がグラスを高く掲げて宣言すると、全員、同じようにグラスを高く掲げているので、それに倣った。
これが祝賀会開始の合図らしい。
祖国で祝賀会がある時、国王の労いの言葉のみで、声の掛け合いはない。
静かに始まるので、こんな風に皆で声を出すのは新鮮だった。
立食、と聞いていたのに、所々に背の高い丸テーブルや、椅子、ソファーがあり、寛げる配慮がされている。
軽食かと思っていたけれど、料理の品数は豊富で、量も多い。
フルーツやデザート、飲み物も様々な種類が用意されていた。
皆、それぞれ皿に食べ物を盛り、早速食べ始めていた。
殆んどが騎士だからか、辺境の騎士食堂みたいな賑わいになっている。
「妃殿下どうぞ。」
後ろの方にいる私に気づいた騎士が、大きな皿を渡してくれた。
「これがお勧めですよ。」
料理の前にいた騎士が代わる代わるやって来て、皿に料理を盛ってくれたので、気づけば皿が一杯になっていた。
「良かったな。」
グレーシス様がその様子を見て笑っている。
料理は、全てフォーク一本で食べられるように工夫されていたので、片手に皿を持ったままでも食べられる。
ただ、沢山の料理が皿に乗っているので、少し重い。
「リーリスはそこのテーブルに置いて食べた方が良さそうだな。」
グレーシス様が近くにある、背の高い円テーブルに誘導してくれた。
立ったまま何人かで食べられる円テーブルに皿を置いて、食事を食べた。
どれも美味しい。
食事をしていると、騎士が代わる代わる、やって来る。
「お疲れ様です。」
次々にグラスを持って乾杯しに来てくれたので、グレーシス様に倣う。
「ありがとう。お疲れ様。」
声をかけて乾杯した。
ティミラー殿下とフレイル殿下も、乾杯しに来てくれた。
「此方から伺わず、申し訳ございません。」
慌てて謝辞を述べると、フレイル殿下の手が、ポンポンと私の肩に軽く触れた。
「そんな事、気にしなくて良い。リーリスは我々の家族だし、今日は、任務を終えた者達を労う会だからな。」
「リーリス、グレーシスを少し借りても良いかな?兄弟とは言え、お互いに忙しいから、なかなか話す機会がなくてね。どうかな?」
ティミラー殿下に、素敵な笑顔でお願いされては、断れない。
「私は大丈夫ですよ。お話してきてくださいませ。」
「別に、私は話す事なんて無いが……。」
私を気にするグレーシス様に、笑顔で頷く。
「有り難う、リーリス。じゃあ酒でも飲もうか、グレーシス。」
「すぐ戻る。」
ティミラー殿下とフレイル殿下に、嫌々ついて行くグレーシス様の背中を、食事をしながら目で追った。
ドリンクを手にして、少し人気のない離れた場所で、何か話をしている。
ティミラー殿下もフレイル殿下も、グレーシス様を見る目が優しい。
遠目からでも、兄弟仲が良いと分かる。
男性兄弟って、どんな会話をするのかしら?
そんな事を思っている間に、話は終わったらしい。
二人と別れたグレーシス様が、次々と騎士達に話し掛けられている。
乾杯したり、お酒を注がれたり、大人気で途切れる様子が無い。
「妃殿下楽しんでいますか?」
クレインが乾杯しに来てくれた。
「ええ、とても。こんなに楽しいパーティーは、初めてよ。」
「それは何よりです。では、次に譲ります。」
クレインが苦笑いしている。
え?次?
「妃殿下、乾杯!」
「楽しんでいますか?」
「あれ?部隊長は?ああ、捕まってますね。」
クレインの後にも途切れる事なく、騎士達が次々に乾杯しに来てくれたり、話しかけてくれる。
祖国ではパーティーに出ても、王族が座る壇上から参加者をただ、傍観するのみだった。
ダンスもお兄様と始めに踊った後は、再び壇上に座らなければならない。
交流といえば、王族に挨拶しに来る方々に対して、黙って微笑むだけしか許されなかった。
だから、パーティーを楽しい。と感じたことは、一度も無かった。
でも、今は輪の中にいる感じがして楽しい。
ふと見ると、グレーシス様が何処に行ったのか、見失ってしまった。
けれど、不安は無い。
お腹も満たされたので、近くのソファーに座って、グレーシス様を待っていると、部隊長補佐のエイガーが、グラスを持ってやって来た。
「こういう時は無礼講なんです。妃殿下さえ良ければ、お隣よろしいですか?」
「ええ、どうぞ。」
微笑むと、エイガーが隣に腰かけた。
エイガーは社交的で紳士的。グレーシス様や騎士からの信頼も厚い。そんな印象がある。
「このパーティーが、いつまで続くかご存知ですか?明け方までなんですよ。まだ夕方だと言うのに、そろそろ酔いつぶれる奴が出てきて、結局、ここで眠る羽目になるんです。自分はそうらないように、こっそり休憩しに来たわけです。まだ夜は長いですからね。」
そう言うと、エイガーはグラスのお酒をクイッと飲み干した。
「そうなのですね。では私も、ここで皆さんと、お泊まりでしょうか?」
エイガーを見て首を傾げる。
「それはグレーシスが絶対に許さないでしょう。困ったな。グレーシスが心配する気持ちが、少し分かる気がするよ。」
何を思ったのか、エイガーが、クスリと笑った。
「楽しそうだな。」
いつの間にか、グレーシス様が戻って来た。
「楽しいですよ。羨ましいなら、早く戻って来ればいいのに。」
エイガーが、サッと立ち上がって、グレーシス様の肩に手を乗せた。
「では自分はこれで。」
エイガーは此方に笑顔を向けると、グレーシス様と入れ替わるように去って行った。
その時、独りにならないよう、傍に居てくれのだ、と気がついた。
このパーティーを楽しめているのは、エイガーを始め、クレインや騎士の皆、グレーシス様が気遣ってくれていたからだ。と気がついて皆の思いやりが、とても嬉しかった。
もう少し、ここに居たいな。
「あのっ、私も、お泊まりを体験してみたいです。」
「そろそろ収集がつかなくなるから帰ろう。」
私とグレーシス様が、ほぼ同時に言った。
「駄目。絶対。」
優しく、でも決して譲らない感じで、言われてしまった。
エイガーの言う通りだった。




