41 失態
辺境へ行ってから、十六日ぶりに王宮内の邸に戻って来た。
「「「リーリス妃殿下、お帰りなさいませ。」」」
ドルフを始め、侍従達が玄関で迎えてくれるのが、嬉しい。
ふと、初めてこの邸に着いた日の事を思い出した。
そんなに経っていない筈なのに、随分と前の出来事みたいに感じる。
グレーシス殿下は、まだ戻っていないので、先に食事と湯浴みを済ませ、紅茶を飲みながら、私室で過ごしていた。
辺境と違って、邸では、各々私室がある。
グレーシス殿下と一緒に過ごす機会が、少なくなってしまう気がして、なんだか寂しいと感じてしまう。
夜八時頃、続き扉からノックがして、いつの間にか帰宅していたグレーシス殿下が、部屋に訪ねて来た。
「少しいいか?」
「はい、勿論です。」
一緒に過ごしたい、と思う気持ちが通じたようで、嬉しい。
グレーシス様とソファーに腰かけた。
「明日から一週間は討伐で帰れない。現地で夜営する方が効率が良い、と話し合いで決まってな。状況によっては延びる可能性もある。」
王魔討専部隊が、そこまでしなければならない。と判断するのは、余程魔物が多いからだろう。
心配になって、思わずグレーシス殿下の袖を、キュッと握った。
「心配無い。そもそも暑くなると、魔物は増える。毎年の事だ。で、終われば大猟を祝して、肉祭りが開かれる。」
「肉祭り?」
「ああ、国中で様々な魔物肉の料理が食べ放題になる。今年は魔物が特に多いから、盛大になるだろう。」
「それは楽しみですね。」
「さっさと片付けて帰って来る。貰ったリボンも返さないといけないしな。」
安心させるように、頭を撫でられた。
「せっかく一緒に居るのに、楽しく過ごさないと勿体無いな。帰還祝いに乾杯でもするか。」
グレーシス様がドルフに声をかけて、お勧めのお酒を用意してくれた。
今まで、お酒は口に含む程度しか飲んだことがない。
けれど、せっかく二人で帰還祝いをするのだから、飲むことにした。
用意してくれたお酒は、ジュースみたいに飲みやすかったので、思ったより沢山飲めてしまった。
何だか頭が、ぼんやりとしてきたような……。
「大丈夫か?少し飲ませ過ぎたな。」
グレーシス殿下が心配してくれている。
「優しいですね。」
顔がにやける。
「そんなことは無いが。」
グレーシス殿下が謙遜する。
「いえ、優しいです。紳士だし素敵です。たまに可愛い所もあって好きです。」
ふふっと笑ってしまう。
何故か思うと、直ぐに口から出てしまう。
「リーリス酔っているな。」
グレーシス殿下が少し、恥ずかしそうにしている。
「いえ、そんなこと無いですよ。ほら。」
立ち上がって手を広げて見せた。
「ふらついてるぞ。」
グレーシス殿下が、立ち上がって支えてくれた。
そろそろ十二時になる。
明日も忙しくなるから、もう休まなければならない。
グレーシス殿下が私室に戻ってしまう。
そう思うと、寂しくなって、ギュッと抱きついた。
「今日は帰しません。一緒に寝ましょう、ね?」
「寝ましょう……って。」
グレーシス殿下が横を向いて、顔を手で覆っている。
どうしてか気になって、顔を覆っている手を剥がして、シャンパンのような黄色い瞳をじっと見つめる。
「駄目、ですか?」
獣耳がピクリと動いて、グレーシス殿下は一瞬、目を見開いた。
「駄目って……こんなに可愛らしくお願いされたら、断れないな。」
「じゃあ今日と、討伐から帰ってからも、毎日一緒ですからね。」
一緒に居られるのが嬉しくて、笑みが止められない。
私の顔を見て、グレーシス殿下が、フッと吹き出している。
「明日、覚えてないなんて言うなよ。」
「そんなこと絶対、言いませんよ。」
ハイハイとなだめるように、抱きついている手を解かれると、抱き抱えられてベッドに運ばれた。
それからお互い、向かい合って寝転がった。
「リーリスは酔うと、甘えん坊になるんだな。」
「ふふっ、酔ってませんよ。」
グレーシス殿下の胸に、頬をすり付けて、幸せな気持ちで眠りについた。
翌朝、グレーシス殿下が隣で寝ていて、飛び起きた。
確かお酒を飲んで……それから?
目を覚ましたグレーシス殿下に、昨日の事を聞いたら、フッと笑いながら教えてくれた。
「酔ったリーリスが、毎日一緒に寝たい、と可愛らしく懇願してきた。明らかに酔っているのに、酔ってないって言い張っていたな。」
可愛らしく懇願?何それ、全く覚えて無い。
ああっ、なんてはしたない事をしてしまったのかしら……。
猛省した。




