37 信頼の証
王都へ帰還する日の午前十時、出立式が始まった。
グレーシス殿下によると、出立式とは出発する者を見送るだけの儀式らしい。
互いに挨拶をして出発する、それだけだと。
式は、ギルバート団長の挨拶から始まり、それを受けてグレーシス殿下が挨拶。その後、リボンを進呈してから退場、と流れが決まった。
会場となったホールの壇上には椅子があり、私とグレーシス殿下が座っている。
一応王族なので、騎士と整列させるわけにはいかないらしい。
壇上から見て左手に王魔討専部隊、王宮医師のクレイン、侍女のマイ。右手に辺境騎士団が整列している。
ギルバート団長が、グレーシス殿下に向かって敬礼して壇上に上がり、中央まで歩く。
「グレーシス殿下、リーリス妃殿下、王国騎士団魔物討伐専門部隊の皆様、王宮医師殿、侍女殿、辺境の危機の為に駆け付けて下さり、感謝申し上げます。お陰様で伝染病患者はいなくなり、辺境の守護機能も回復いたしました。無事、王宮へ帰還できるよう、お祈り申し上げます。」
ギルバート団長が敬礼して壇上から降りると、グレーシス殿下が立ち上がり、壇上の中央まで歩いた。
「辺境騎士団の諸君、回復して何よりだ。これから魔物の発生率が高まる時期に入る。国民の安全は辺境騎士団にかかっている。辺境騎士団は、実力者ばかりなので期待している。辺境の守護を頼む。危機があれば、我が王魔討専部隊が駆け付けると誓おう。皆、決して死ぬな。」
グレーシス殿下の言葉に辺境騎士団が、一斉に敬礼した。
「セーラン王国では、騎士の無事を祈り、リボンを渡し、必ず帰還の約束をする文化があるそうだ。妻が皆の無事を祈り、リボンを縫ったそうだ。良かったら受け取ってやってくれ。ギルバート団長とメリッサ婦人には既に渡してある。」
グレーシス殿下の言葉に、騎士達が一斉に、ギルバート団長とメリッサ婦人を見た。
ギルバート団長とメリッサ婦人は、剣の束に早速リボンを結んでくれていた。
「欲しい者は順番に壇上へ上がり、妃殿下から直接貰いなさい。貰った者は持ち場へ戻る。時間は限られているのよ。さっさとなさい。」
「女性から、しかも王族から贈り物なんて幸運、もう来ないかもしれないぞ。」
メリッサ婦人とギルバート団長に急かされて、騎士達は我先にと壇上へ並んだ。
一番はユキヒョウ姿だった辺境騎士団団長補佐のキャリオン。
流石に皆、上司よりも先に並ぶのは躊躇ったらしい。
グレーシス殿下の従兄弟で、母親であるメリッサ婦人似のキャリオンは、一番最初に介助を受けてくれて、いつも声を掛けてくれた。
「ご無事をお祈り致します。」
リボンを渡すと微笑んで受け取ってくれた。
「必ずお返しします。ですからまたここに来てください。お待ちしております」
そう言って跪くと、私の手の甲に口づけをして、ニッコリと微笑んだ。
「はい。」
グレーシス殿下以外の独身男性に口づけをされてしまった。
内心動揺していた。が、淑女らしく微笑む。
その後も、一人ひとり声を掛けてリボンを渡した。
感謝されたり、酷いことをしてすまなかった、と謝られたりと言葉を交わした後、皆、跪いて私の手の甲に口づけをしていった。
グレーシス殿下は何も言わないし、全員するので、此は騎士流の挨拶なのね。そう思っていた。
何故か辺境騎士だけではなく、王魔討専部隊や、一番最後にはグレーシス殿下までリボンを受け取る為に並んでいた。
足りなかったらどうしよう。
かなりヒヤヒヤした。
幸いにも多めに作っておいたので、事なきを得た。
リボンを受け取った騎士達は、各々持ち場へ戻って行ったので、会場からは、どんどん人が減っていった。
一番最後に並んだグレーシス殿下にリボンを渡す頃には、リボンを箱から出して私に渡してくれる侍女のマイ、そしてギルバート団長とメリッサ婦人しか会場には残っていなかった。
他の騎士達と同じように、私の前に畏まって立つ騎士服姿のグレーシス殿下は凛々しくて、見惚れて仕舞いそうになる。
「忠誠は、騎士が心から信頼する者にしかしない礼だ。良かったな。」
グレーシス殿下はリボンを受け取って微笑むと、跪き、私の手の甲に、少し長いキスをした。
他の方と同じ事をしている筈なのに、恥ずかしくて顔が紅潮してきた。
グレーシス殿下は、私の手を取ったまま立ち上がると、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、私にだけ聞こえる声で呟いた。
「そうやって、私の事だけを考えていればいい。」
「……っ!」
殿下ばっかりズルい。
私だって殿下をドキドキさせたいのに。
女性としての魅力が、足りないのかしら?




