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獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


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36 リボン

九日目の朝六時。


今日から介助の手伝いに復帰しよう。

気合いで起きて、マイに手伝って貰いながら準備を整える。


目覚めの紅茶を飲みながら、ソファーで寛いでいると、グレーシス殿下が朝の鍛練を終えて、部屋に戻って来た。


私の座っているソファーの隣に、グレーシス殿下が腰掛けて言った。


「先ほどクレインから、獣化した騎士達が全員、ヒト型に回復した、と報告を受けた。」

「まあ、それは良かったですね。」


嬉しくて思わず顔が綻んだ時、グレーシス殿下の腕が私の肩に回って、肩ごと引き寄せられた。


「良く頑張った。もう介助は必要ない。早速帰って父上に報告しなくてはな。」

グレーシス殿下の優しい声が心地好い。


「リロイ国王陛下もきっとお喜びになるでしょうね。帰還のご予定は、もうお決まりですか?」


「準備して遅くても、明日の正午には立つ予定だ。リーリスも帰還の準備をしながら、今日は好きに過ごすと良い。」


「それでしたら、騎士の皆さんにリボンを作ったので、お渡ししたいのですが、いかがでしょう?」

「リボン?」


ソファーから立ち上がって、仕舞ってあった場所から、出来上がった黄色いリボンを、取り出して見せた。


「祖国では安全祈願を兼ねて、手縫いのリボンを騎士に渡す風習が有ります。必ず無事に帰ってきて、リボンを返して下さい、と伝えるのです。皆さんの為に作ったので、是非渡したいのですが、受け取って貰えるでしょうか?」


「そのような風習があるのか。団長に話してみるから、少し待ってくれ。」


朝食後、早速グレーシス殿下が、ギルバート団長に話をしてくれた。


「直接会って話を聞きたいそうだ。今から大丈夫か?」

「はい。」


城塞内には辺境伯家居住区域と、騎士団区域に分かれている。

午前十時頃、グレーシス殿下に連れられて、辺境伯家の居住区域へ向かうと、応接間に通された。


ギルバート団長の横には騎士服を纏った女性が立っている。

肩まである白銀の髪を、後ろで一つに結んでいる凛とした女性は、艶のある黒い瞳をしていた。


「ユキヒョウの獣人、妻のメリッサだ。辺境伯家は妻の実家で、彼女も騎士として育てられたんだ。現在も騎士として討伐任務にあたっている。」


「お初にお目にかかります、リーリス妃殿下。普段着で失礼かと思いましたが、これが普段の私なのです。」


ギルバート団長に紹介されたメリッサ婦人は、背が高く、スタイルも良い。

騎士服が似合う凛々しい大人の女性だった。


「メリッサ婦人、お会い出来て光栄です。遅くなりましたが、結婚祝いの薔薇をありがとうございます。騎士服姿、とても素敵です。女性でも惚れ惚れしてしまいます。」


「そんな事、初めて言われたわ。」

ピコピコと獣耳が動いて可愛らしい。


挨拶もそこそこに席に着いた。

早速、祖国にある、リボンを騎士に渡す文化について説明すると、ギルバート団長は驚いたようだった。


「そんな見返りの無い気持ちがあるとは。基本的に獣人女性は男性に贈り物をしない。女性から贈り物を貰った場合、男性は、倍以上の価値がある物を返さなければならない文化なんだ。」


男性は大変そうだ。


「こんな上等なリボンを騎士全員分作ったの?普通に女性への贈り物として渡しても、喜ばれる品質よ。」

それは褒めすぎな気がした。


「黄色は幸運の意味があります。是非、お守りとして、お二人にも受け取って頂きたいのですが、如何でしょう。」


「勿論、頂くわ。」

「私も。」


只のリボンに二人とも、とても喜んでくれた。

作った甲斐があった。

気を取り直して、本題に入る。


「このリボンを皆様に渡して頂きたいのですが……。」


「こんなに心のこもった物を、私達からは渡せません。是非、妃殿下から渡してあげてください。その方が皆喜ぶしょう。」


ギルバート団長に言われたけれど、いつ渡すべきか……。


「そうだわギル、明日の出立式の最後に、リボンを渡す為の時間を作りましょうよ。」

「メリッサ、それは良い考えだ。グレーシス、どうだ?」


「問題ありません。」

あっさりとリボンを渡す目処はたった。


「それともう一つ、リボンを騎士達のお墓に供えさせて頂けませんか?祖国の安全が、多くの騎士達によって守られていた、と知りました。犠牲になった彼らに、祖国を代表して、感謝の祈りを捧げたいのです。」


リロイ国王陛下から事実を聞かされた時や、癒し手をした初日、騎士が亡くなってしまった時に、機会があればと思っていた。


「メリッサの兄弟や長男も魔物で犠牲になったんだ。是非、祈りを捧げてやって欲しい。」

ギルバート団長が、メリッサ婦人の肩を抱いて話してくれた。


「そのお気持ち、とても嬉しく思います。ありがとうございます。」

メリッサ婦人は少し掠れた声で、了承してくれた。



見晴らしの良い、小高い場所にある霊園に案内して貰う。

辺境伯家のお墓と墓碑があり、騎士の名前が彫られていた。

それぞれ手向ける花に、縫った黄色いリボンを結び、祈りを捧げる。


祖国を守ってくださったご恩を決して忘れず、獣人が幸せになれるよう尽す事を誓った。


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