35 お見舞いの花
グレーシス殿下の休日二日目。
部屋で昼食を済ませて、マイが淹れてくれた紅茶を飲みながら、グレーシス殿下とソファーでまったりと過ごしていると、部屋をノックする音がした。
「リーリス妃殿下に来客なのですが……。」
エイガーの言葉に、何かを察したのか、グレーシス殿下は部屋を出て行った。
誰かしら?何だか外が騒がしい気がする。
暫くしてグレーシス殿下が部屋に戻って来た。
「騎士達が、花を持って見舞いに来た。面会は断ったがな。」
グレーシス殿下に指示されて、一度部屋を出ていったマイが、大量の花を生けた花瓶を持って、部屋に戻って来た。
そして、花瓶をベッド近くのサイドテーブルに置いてくれた。
きっと、森から摘んで来てくれたのね。
「わざわざ来て頂いたのに、お断りしなくても良かったのでは?」
今なら人に会っても、恥ずかしくない格好のはず。
「一人一輪持って、部屋に入りきらないほど来たんだ。全く非常識な。せっかくのリーリスとの時間を、奴らにやるつもりはない。」
ドカリと隣に座ってきて、コロンと横になると、私の膝に頭を乗せてきた。
勿論拒んだりしない。
獣耳に優しく触れると、スリスリと膝に顔を擦り付けてくる。
もしかして甘えてる?こんな可愛い所があるなんて……。
思わず、じっと観察してしまった。
何だか様子がおかしい?
獣耳を触っていた方の手を両手で掴まれ、腕にスリスリと顔を擦り付けてきた。
「あっ、ちょっと殿下、くすぐったいです。」
ハッとしたようにグレーシス殿下が、ムクリと起き上がり、私の両肩を掴んだ。
「あの中に、獣人を酔わせる花があるようだ。部屋に匂いが充満している。窓を―――」
「直ぐに窓を開けますね。」
立ち上がろうとした。が、肩を掴まれて動けない。
「あの手を……」
退けて貰おうとしたら、グイッとソファに押し倒された。
「え?」
首筋の辺りから胸に始まり、体のあらゆる所をグレーシス殿下が、スリスリと顔を擦り付けてくる。
「ひゃあっ、くすぐったい、だめっ、ちょっと待って、くすぐったい、きゃあっ!」
くすぐったいやら恥ずかしいやら、兎に角、体をよじっても、ガッチリと押さえられて、逃れられずに、されるがままになってしまった。
「誰かっ!」
「失礼、どうされましたか?」
異変に気付いたエイガーが駆けつけてくれた。
「これは……。」
エイガーは状況を察して、直ぐに窓を開けてくれた。
「では、失礼致します。」
素早く部屋を去って行った。
もしかしてエイガーも、スリスリしたくなったのかもしれない。
花の匂いが弱まったのか、やっと理性を取り戻したグレーシス殿下が、ハアハア肩で息をしている私に気付いた。
「すまない、本当にすまない。大丈夫か?」
「だ、い、丈夫です。」
お互い、恥ずかし死にそうな気持ちに、なっていたと思う。
グレーシス殿下曰く、森には、マタタビを強力にしたような成分の、獣人から「酔い花」と呼ばれる植物が、自生しているらしい。
少量で効果が高いため、獣人用のお酒に使われたり、花が綺麗で酔える楽しみがあるので、プレゼントにも重宝されているのだとか。
ただ人間には効果が無い、とのこと。
外や、換気がされている部屋であれば、成分が弱まり問題無いが、密室だと、数分で獣人は酔って、無性にスリスリしたくなると言う。
「ストレス発散効果があり、定期的に使うと良い。とされているが、今ではないな。」
眉間を指でつまみながら、自己嫌悪している。
これは事故みたいなもので、グレーシス殿下は悪くない。
それに、始めは可愛い、と思っていたし。
「そうかもしれませんが、知らない殿下を知れたのは、良かったです。」
「……あんな姿は知られたくなかったがな。」
またスリスリが始まるのは、お互いに困るので、窓から見えるバルコニーに、花瓶を出して置く事になった。




