31 療養中
朝?
ぼんやりと目を開ける
あれ?今何時?そうだ食事の介助…。
ベッドから体を起こす。が、やけに怠い。
「今日から数日は休む、と約束したのを忘れたのか?」
騎士服姿のグレーシス殿下が、サイドテーブルの上にある水差しから、コップに水を注いで、持って来てくれた。
ベッドの上で受け取って、一口飲んだ。
喉が渇いていたのか、いつもより、美味しい、と感じる。
「明日から数日休みを取った。体調が良ければ、たまには自然が多い森に行ってみるのも良いと思うが、どうだ?」
「それは楽しみですが、殿下は休まなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。でも、リーリスに心配をかけるのは良くないな。少し寝坊すれば充分だから、起き次第、出掛けるとしよう。だから、今日はゆっくり休むこと。」
子供をあやすように頭を撫でられて、グレーシス殿下は十時頃に部屋を出て行った。
辺境に来てからは、朝、八時に行われる食事介助の準備に備えて、毎日六時に起きていたから、こんなに寝坊したのは久しぶりに思えた。
昨夜、自然に触れたお陰もあって、もう動けそうな気がする。
けれど、グレーシス殿下に、これ以上心配をかけない為にも、今日は大人しく、ベッドで休んでおくと決めた。
グレーシス殿下と入れ替わるように、朝の食事介助が終わったクレインが様子を見に来てくれた。
「今日は介助に時間が掛かりました。半分はヒト型に戻っているのに、です。これから数日、皆は妃殿下のありがたさが身に染みることでしょう。」
クレインが、意味深な笑顔をしながら、薬草茶を処方してくれた。
手仕事位ならしても良い。と許可を貰ったので、以前から時間がある時に、コツコツと作っていたリボンと、グレーシス殿下に贈るハンカチを刺繍する。
リボンの色は、幸運、の意味がある黄色。グレーシス殿下の瞳と同じ色にした。
ハンカチには、グレーシス殿下のイニシャルと剣のモチーフを刺繍する。
喜んで貰えなくても良い。自己満足なのだから。
安全と無事を祈りながら、心を込めて作った。
四時頃、グレーシス殿下が戻ってきた。
仄かに石鹸の香りがする。
討伐部隊は魔物の返り血を浴びるので、戻ったら、すぐに城塞内にある騎士団専用の大浴場に入り、着替えるそうだ。
「一応まだゆっくりした方が良い。夕食は部屋で一緒に取ろう。」
グレーシス殿下に心配されて、食堂での食事は中止になった。
テーブルに向かい合って座ると、マイが食事や飲み物を運んでくれた。
「二人だけで食事なんて、久しぶりな気がします。」
「そうだな。休んでいる間くらいは、リーリスを独り占めさせて貰うつもりだ。任務の為、とは言え、他の騎士達と過ごす時間の方が長いのは面白くないからな。」
グレーシス殿下がそんなふうに思っていたなんて、意外だった。
だって、グレーシス殿下は私を家族として受け入れてくれたのであって、女性として受け入れてくれた訳ではない。
きっと妹とか、同士みたいな感覚なのだろう、と何となく思っていた。
でも、今の発言は、明らかに嫉妬が窺える。
もしかして、女性として見られているのかしら?
小さな期待が芽生えた。
でも、お兄様のように妹の私を溺愛するタイプかもしれない。
素早く期待の芽を摘む。
「すまない。心が狭いな。」
「いいえ。もっと殿下の事を知りたいと思っていましたから、一緒の時間が増えるのは嬉しいです。」
「では存分に、独り占めさせて貰うとしよう。私もリーリスの色んな一面を見たいしな。」
悪戯っぽく微笑まれた。
独り占め、なんて言われたら、勘違いしてしまいそうになる。
再び期待の芽が顔を出してしまった。




