30 リーリス判断ミス
午後十時四十分頃、最後のグループも無事癒し手を施し終えた。
これでヒト型に戻るまで、休めば良いだけとなった。
医師のクレインと別れて、グレーシス殿下と部屋まで戻っていると、何だか体が熱くて息苦しい……。
急に視界がボヤけてふらついた。
「リーリス、どうした!」
異変に気付いたグレーシス殿下が、咄嗟に抱き止めてくれたお陰で、倒れて怪我をせずに済んだ。
グレーシス殿下に抱き抱えられて、部屋のベッドに運ばれ、護衛に呼び戻されたクレインが、直ぐに来てくれた。
「熱が高い。解熱効果のある薬草茶を処方いたしましょう。」
クレインが処方してくれた薬草茶を、グレーシス殿下が、私の体を支えて、飲ませてくれた。
「すみません、ご迷惑を、お掛けして。自己管理が、出来て、いなかった、です。」
グレーシス殿下とクレインに謝った。
「妃殿下、それは誰にでもある事でございます。気にされる必要はございません。」
クレインの言葉に、フルフルと首を振った。
癒し手は自然エネルギーを吸収しなければならない。
エネルギーの吸収を怠った為に、体調を崩してしまった。
自分の不調は薬では治せず、癒し手は自分に向けて使えない。
それらをゆっくりと息継ぎしながら話した。
「自然から元気を貰える、と言っていたのは、そのような意味があったのか。そんな重要な事、何故、今まで言わなかった。」
グレーシス殿下に手をギュッと握られた。
「すみません。話したら、心配される、と、思ったので。」
「当たり前だ。心配するに決まっている。」
「自然エネルギーが不足して、体調不良になるならば、自然エネルギーで補えば、楽になるかもしれません。ちなみに同じ症状になった場合、今までは、どう対処されていたのですか?」
クレインが聞いてきた。
「動けなかったので、ただ、眠って、回復を、待つ、だけ、でした。」
今回もそうやって休むつもりでいた。
「回復する可能性があるのならば、屋上へ運んでみてはどうだろう。」
「ええ、やってみましょう。」
グレーシス殿下に指示されて、クレインが寒くないように毛布で包んでくれると、グレーシス殿下に抱き上げられて、屋上へと運ばれた。
クレインも後に続いて、付いて来てくれた。
今まで体調不良になった時、勿論皆、優しくしてくれた。
でも、こんなふうに連れ出してくれる人はいなかった。
それがとても嬉しかった。
屋上に着くと、雨が上がったばかりなのか、山から少し冷たい、湿った風が吹いていた。
空には、雲間から見える星が、瞬いている。
自然エネルギーが満ちて、とても癒される。
暫く屋上に居ると、不思議と視界もハッキリして、息苦しさが和らいでくる。
「楽に、なって来ました。」
様子を見たクレインが頷く。
「先程に比べて、随分と顔色が良くなりました。癒し手も終わりましたし、明日から数日、手伝いをお休みしましょう。妃殿下は少し頑張り過ぎです。」
「同感だ。しばらく休んだ方が良い。いいな?」
グレーシス殿下が懇願するように見つめてくる。
「はい、では、そうさせて頂きます。」
グレーシス殿下に抱えられたまま、暫く三人で星を眺めていると、今日会った見張りの騎士が再びやって来た。
「部隊長、何事でしょうか。」
「ああ、リーリスが倒れてしまったんだ。どうやら自然に触れないと体調を崩してしまう体質のようでね。」
「そんな体質、聞いたことがありません。」
騎士は信じられないのだろう。じっと品定めするように私を見ている。
「私もだ。今初めて聞いた。大分良くなったが、数日は休ませるつもりだ。」
「私のせいです。妃殿下、申し訳ございませんでした。」
騎士はグレーシス殿下の言葉ならば、受け入れられて、素直に反省も出来るらしい。
この忠誠心はどこから来るのかしら?
不思議に思って見ていると、片膝を付いて謝られてしまった。
「私の自己管理が甘かっただけですから、お気になさらず。」
何とか微笑むことが出来た。
再び部屋に戻ると、ベッドに横たえられ、グレーシス殿下に添い寝されて、ずっと頭をナデナデと撫でられた。
「もっと我儘言っても良いんだ。弱音だって言って欲しい。」
「私はテナール王国に来てからずっと、やりたいようにしていますし、弱音を言う前に、殿下が元気づけてくれるので、言わずに済んでいるのですよ。」
ふふっと微笑む。
「本当に君って人は……。」
前髪をかき上げられた、かと思うと、おでこにチュッとキスをされた。
「お休み。」
頭の上でグレーシス殿下の声が響く。
辛い時に傍に居てくれることが、とても嬉しくて安心した。
「お休みなさい。」
グレーシス殿下の胸元辺りの服を、きゅっと握って、眠りについた。




