28 出会い (エイガー視点)
エイガー視点です。
俺はテナール王国、王国騎士団魔物討伐専門部隊、略して王魔討専部隊、部隊長補佐のエイガーだ。
ちなみに、チーターの獣人だ。
他の獣人と同じく、ヒト族である人間が嫌いだった。
我が国と隣接するヒト族の国、セーラン王国。
彼ら人間の、獣人に対する差別的な言動は酷く、獣人を見下しているのは、明らかだった。
幼い獣人が奴隷として誘拐され、虐待の被害にあっている事を訴えても、対策する気さえない。
獣人の子どもが誘拐され、その親達がしびれを切らし、セーラン王国の王都で、奴隷解放を訴えた。
その時、人間が一方的に武力行使に及んだ為、獣人側は、自衛しただけらしい。が、それが切っ掛けで乱闘騒ぎになった。
セーラン王都襲撃事件(そうセーラン王国は名付けているが、我が国からすれば奴隷解放運動である)は起こるべくして起こった、と言わざるを得ない。
事件を切っ掛けに、人間は更に、獣人を野蛮だと位置付け、卑下し、我が国民も人間を忌避するのは当然で、隣国との関係は更に悪化した。
物資以外の国境越えが断絶したのは、互いに良かったのかもしれない。
そんな状況の中、士官学校時代の同級生で、同じ王魔討専部隊の部隊長でもある、第三王子グレーシスから報告を受けた。
「セーラン王国の王女と結婚しなければならない。」
本当に女運が無い奴だ。
俺は心底同情した。
今まで、グレーシスに寄ってくる女は権力欲の塊だった。
そんな女に嫌気が差していたグレーシスだったが、それでも王族の義務だ。と国王陛下に言われ、それなりに王家の信用がある伯爵家の令嬢と、しぶしぶ婚約した。
それが、まさかの婚約者に浮気される。と言う前代未聞の事態になるとは、誰が予想出来ただろうか。
我が国の法律で、婚約中の浮気は重罪だ。なので、早々に婚約破棄となった。
グレーシスにとって、女への苦手意識が加速してしまったのは仕方の無い事だろう。
それなのに国王命令で、人間の王女と結婚なんて、グレーシスにとって、ストレスしかない。
俺は心底気の毒に思った。
其がまさか、相思相愛になって、自分自身も忠誠を誓うとは。
この時、思っても見なかった。
初めてリーリス妃殿下に会ったのは、辺境へ行く任務の当日だった。
辺境へ行く目的は、伝染病が蔓延したせいで、辺境騎士団が機能しなくなり、魔物討伐が難航している。それを解決するためだった。
一刻も早く騎士達を治療する為、王宮医師を派遣し、国王陛下はその補助に妃殿下を任命した。
任命理由は、伝染病が人間には罹らないから。だそうだ。
我々王魔討専部隊は、主に妃殿下の護衛と、辺境騎士団の魔物討伐補助だった。
出発当日の晴れた朝、我々はグレーシスの邸で妃殿下を待っていた。
「皆さん、おはよう。グレーシス殿下の妻、リーリスです。暫く宜しくね。」
妃殿下は淑女の礼をしてニッコリと微笑んだ。
小柄で、ピンク色の髪と瞳をした女性は、想像した人間の王女と違った。
十八歳と聞いていたが、幼く不思議と無垢に見えた。
心なしか、グレーシスの瞳が優しい眼差しをしている?気がした。
まさか、な。
その時は、多分気のせいだろう、と思っていた。
辺境への長い道すがら、妃殿下には驚かされる事が多々あった。
付き添いのメイドや王宮医師とは親しげにしているし、此方にも笑顔で話かけてくる。
途中の宿で食事を取る時は同席し、魔物の肉も上品に美味しそうに食べていた。
人間は、魔物の肉を食べる獣人を野蛮だ。と言っている。それなのに妃殿下は、全く気にした様子が無い。
そもそもグレーシスが、食事の同席を許しているのも、以外だった。
何かが、おかしい。
「この後、任務の話がある」
それっぽい理由をつけて、グレーシスから、時間をもぎ取った。
食後、妃殿下が去った後、早速グレーシスに話を聞き出す。
仲間の中には、妃殿下を洗脳したのか。と言い出す奴もいた。
「リーリスは多分、初めから差別意識はない。結婚した次の日に、体調不良で獣になり、看病された。人間より獣が良かった。と言われてしまった。好奇心旺盛で食事も残さない。この国の民になろうと努力しているようだ。」
信じられなかった。そんな人間が存在する事もそうだが、グレーシスが、女性に優しい顔をする日が来るのも、衝撃だった。
こんなに心を許して、もし裏切られたなら、グレーシスは本当に立ち直れないのでは。
心配になり、妃殿下を観察するようになった。
幸い辺境での任務は交代で、妃殿下の専属護衛も勤めるので、観察するにはうってつけだった。
初めに驚いたのは、妃殿下自らが、獣人に対する差別的言動を、国を代表して詫びた事だった。
セーラン王国の王女だからこそ、効果のある発言だ。
それでも納得出来ない奴は多くいる。
妃殿下に冷たく当たる者も、多くいた。
王族に対して不敬だと判断し、護衛が出ようとしても、妃殿下に制止され、助けを求めない。
観察すればする程、弱くて小さな女性が、権力の助けも求めず、ただ、獣人の為に、笑顔で尽くしている姿が、浮き彫りになっていく。
妃殿下の優しさに、胸が苦しくなった。
手を差し伸べたくて、守ってやりたくて仕方がない気持ちになった。
しかし、妃殿下の命令を無視するのが許されるのは、夫と言う権力を持った、グレーシスだけだ。
俺がこんな思いになるくらいだ。グレーシスはもっと、どす黒い感情を、辺境の騎士達に向けているかもしれない。
その反動なのか、妃殿下と二人きりの時は一瞬目を疑った。
あれはグレーシスなのか?
妃殿下に対して、見たことが無い優しい顔で、甘い空気を醸し出している。
まあ、気持ちは解る。
私だって甘やかしたい……なんて口が裂けても言わないけれど、二人が何時までも笑っていられるように願う。
そして、グレーシスが幸せそうで、友人として嬉しく、未だ独り身の俺としては、少し羨ましくなってしまったのだった。




