26 用意された部屋
辺境の城塞へ到着早々、直接患者が収容されているホールへ行き、その後は別室で話し合い。
それから夕食の準備や食事の介助。
薬草茶を飲ませた後は、食後の片付け。
終わったら癒し手……。
ずっと忙しくしていたので、部屋で落ち着く時間が無かった。
だから、グレーシス殿下と、二人の為に用意された客室に入室したのは、夜十一時を回っていた。
「これは……。」
部屋には大きなソファーがあり、二人でも食事が出来るように、テーブルセットが設置されている。
新婚だから気を遣われたのか、二人で寝るのに充分な広さのベッドが一台、しかない。
取り敢えずマイに世話されながら、順番に湯浴みをして、浴室の隣にある衣装部屋で、寝間着に着替える。
こんな緊張感は、初夜以来、かもしれない。あの時は、特に何も無かったけれど。
「殿下、妃殿下、お休みなさいませ。」
侍女のマイが退室して、私はソファーに座った。
「私はこのソファーで眠りますね。充分広いですし。」
「それでは疲れが取れないだろう。」
横になろうとしたら、グレーシス殿下に腕を引かれ、ベッドへ連れて行かれた。
「ベッドの共用なんて、今まで何度もあっただろう。今更気を遣う必要はない。」
ゴロン、とベッドに横になったグレーシス殿下が、ポンポン、と枕を叩いて横に来るよう促してくる。
黒豹の時はあった。
けれど、ヒト型に戻った日以降は、ベッドの共用なんて、していない。
頑なに断れば、優しいグレーシス殿下の事だ。
自分がソファーで寝る、と言い出しかねない。
諦めて、そろそろと隣に寝転がる。
いつもは身長差で遠い、グレーシス殿下の顔が、すぐ近くにあって、シャンパンの様な黄色い瞳が、じっと此方を見ている。
「おやすみなさい。」
恥ずかしくなって思わず背を向けると、後ろから片手で抱き抱えられた。
屋上でも同じような事をされた。が、今の方が布が薄いせいで、更に密着度が高い。
直接体温を感じる気がする。
恥ずかしくて固まってしまった。
「癒し手は仕方がない。が、やはり食事の介助を王族自らが、しなくて良いと思うが?」
私とは違って、グレーシス殿下は飽くまでも普通だった。
「あ、でも人手が足りませんので。」
「分かってる。」
抱き締める手が強くなった。と思った瞬間、パクっと首筋にグレーシス殿下が唇でかぶりついてきた。
「ひゃっ!」
ビクッ、となって変な声が出た。
今の何?訳が分からないやら恥ずかしいやら。
でも、振り向く度胸は無い。
「お休み、リーリス。」
何の意味があるのか、質問する隙も与えられず、低くて良い声が耳元に響いた。
更に顔の温度が上がる。
「お、お休みなさい……。」
とは言ったものの、全然眠れる気がしなかった。




