表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/128

18 リロイ国王

六月下旬、春の終わりを告げる激しい雨が、窓を叩くように降っている。


今日は一日中、私室のソファーに座って、リボンを縫って過ごしていた。

グレーシス殿下の所属する騎士全員分を作るには、丁度良い暇潰しになる。


「少し休憩されては如何ですか?」

侍女のマイが紅茶を淹れてくれたので、手を止めた。


時間はもう夜七時を回っている。

今日はお忙しいのかしら?

何時もよりも帰りが遅い。


「あと三十分待って戻らなかったら、先に食事を頂くわ。」

「かしこまりました。料理長に伝えて来ますね。」


侍女のマイが私室を出て直ぐ、扉を閉め切る前に、声が聞こえてきた。


「殿下、お帰りなさいませ。」

どうやら、グレーシス殿下と鉢合わせしたらしい。


最近、グレーシス殿下が戻る五分前にはドルフが教えてくれるので、(ドルフによると音で分かるのだとか)それを聞いてから、エントランスでお出迎えするのが、日常になっていた。


何故か今日は、ドルフからの連絡が来る前に、グレーシス殿下は帰って来たようだ。


「暫くリーリスと二人で話がしたい。人払いを頼む。」

「畏まりました。」


マイが去り、入れ違いでグレーシス殿下が私室へと入室して来た。

人払いするなんて、ただ事ではない。


「リーリス、突然ですまない。話がある。」

「お帰りなさいませ。どうされました?」

ソファーから立ち上がって、グレーシス殿下の傍へ駆け寄った。


「……まだ公にされていないが父、リロイ国王陛下が危篤だ。と宰相から報告を受けた。先ほど面会して来たのだが、父上の専属医師が言うには、もう助かる見込みは無いと……。」


「そんな……。」

あまりにも突然の事だった。


「伝染病に感染しても、休まずベッドで公務を続けていたせいで、病状が悪化したらしい。無理に、とは言わないが、癒し手の力を借りられないだろうか?」


家族を失うかもしれない不安で辛い筈なのに、グレーシス殿下はそれでも命令せず、私の意思を尊重しようとしている。


「お役に立てるなら、惜しむつもりはありません。ただ、回復する力が残っていなければ、癒し手を使えない場合もあるのです。それでも良いですか?」


癒し手は、あくまでも回復する力を助けるだけで、万能ではない。


「それでも良い。医師には、もう出来ることが無い。と言われたんだ。ただ、父上が回復した場合、癒し手を隠す事は出来ない。知られても良いか?」


グレーシス殿下は、私の秘密を守れない事を心配して、何度も確認してくれる。

本当に優しい方。


「大丈夫です。私にとってグレーシス殿下の家族は、私の家族同然ですから。それに、癒し手の事を話した時に、いずれリロイ国王陛下や王妃殿下、お兄様方には、いつか話すべき時が来る。と覚悟していましたから。」

大丈夫、と笑顔で答える。


「そうか、ありがとう。では直ぐに面会の許可を取る。準備をしておいてくれ。」

グレーシス殿下はそっと私の肩に触れて、私室を出て行った。


夜九時頃、許可をもらったグレーシス殿下に連れられて、リロイ国王陛下の私室に入室すると、デニス王妃殿下が悲愴な表情で、弱々しくベッド脇の椅子に座っていた。


「……最後の挨拶に来てくれたのね。私は席を外すわ。何かあれば隣の私室に居るから、呼びに来て頂戴。」

デニス王妃殿下は、ゆっくりと椅子から立ち上がった。


「母上、大事なお話があります。」

癒し手について、デニス王妃殿下には先に話す方が良い。と事前に話し合って決めていた。


グレーシス殿下の真面目な表情を見たデニス王妃殿下は、再び椅子に座り直した。


「わざわざこんな時間に、リーリスの入室許可を取って人払いさせたのは、その為なのね。」

「はい、緊急でしたので。この話は他言無用でお願いいたします。」

「良いでしょう。話しなさい。」


グレーシス殿下は癒し手について、自身の体験を踏まえながら、デニス王妃殿下に話した。


「セーラン王国国王が秘密にしたがる力ね……でも、グレーシスは実際に見ていないのでしょう?」


「はい、私は眠っていましたから。しかし、私を含めて邸の者達も約三日~五日で完治しましたので、実感はしています。もしかしたら父上も、私のように助かるかもしれません。助からないかも知れませんが。」


「そう、分かったわ。もう見守るしか出来ないのだから、何でもやれるなら、やるべきよね。」


デニス王妃殿下の許可を貰い、グレーシス殿下の後に続いて、リロイ国王陛下の傍まで行った。


美しい豹柄をした豹姿のリロイ国王陛下は、大きなベッドに人形のように、力無く横たわっていた。

呼吸は僅かにしている気がする程度で、生きているのか不安になるほどだった。


リロイ国王陛下の背中にそっと触れて、掌に集中する。

ああ、良かった、本当にほんの僅かだけれど、回復する力がまだ残っている。


「どうだ?」

心配そうなグレーシス殿下に向かって、しっかりと頷いた。


「これなら大丈夫です。暫く時間を頂けますか?」

「いつまでも待つから頼む。」


グレーシス殿下の言葉に頷いて、リロイ国王陛下の背中に置いた手を、ゆっくりと動かす。


「大丈夫、大丈夫。」

いつものように優しく声を掛けながら、しばらく撫で続けた。


グレーシス殿下とデニス王妃はその間、少し後ろにある椅子に腰掛けて、待ち続けてくれた。


十五分位経った頃、僅かにしているか分からない程の呼吸は、次第に正常な呼吸に変わり始めた。

更に五分後には顔色も良くなって、明らかに穏やかな表情になってきた。


これならもう大丈夫。そろそろ医師を呼んで診断して貰おう。

癒し手の後、医師に診断して貰うのは、ちゃんと回復しているかを確認する為に必要だった。


振り返って、後ろの席を見るとグレーシス殿下が居ない。

「!?」


デニス王妃殿下が直ぐ傍に立っていたので、少し驚いた。

癒し手に集中していたせいで、二人が動いた事に全く気が付かなかった。


デニス王妃殿下は口元を手で覆ったまま目を見開いて、じっとリロイ国王陛下を見詰めて、少し震えているように見えた。


大丈夫かしら?

デニス王妃殿下に声をかけようとした時、扉が開いた。

グレーシス殿下だった。


「リーリス、父の専属医師を連れてきた。今の状況なら良い結果になると思ったのだが。」

「ありがとうございます。そろそろ来て頂こうと思っていました。」


医師に席を譲って、リロイ国王陛下を診てもらう。


「まさかこんなことが……奇跡としか言いようがありません。とても良い状態です。これでしたら、もう大丈夫です。」


太鼓判を押した医師が退室するのを全員で見送り、扉を閉めた。直後、キュッと右からグレーシス殿下、更に左からデニス王妃殿下に抱きつかれた。


「え!?」

「ありがとうリーリスのお陰だ。」

耳元で感極まったような、グレーシス殿下の掠れた声が聞こえた。


「こんな事……本当に奇跡だわ。ありがとう、リーリス。」

デニス王妃は嬉し涙を流していた。


突然の事に戸惑いながら、二人の背中に手を回して、遠慮がちにポンポンと撫でた。


「お役に立てたのなら、こんなに嬉しい事はありません。治る力があって本当に良かったです。」

「ええ、そうね、本当に良かった。」

暫く三人で抱き合って、喜びを分かち合っていた。


「……何事だ?」

リロイ国王陛下が突如目覚めた。


「あら、リロイが元気になるまで、ベッドに縛り付けて、暫く動かさないようにしましょう。と話していたのです。」


デニス王妃殿下が、それはそれは楽しそうに悪戯っぽく、少女のように笑った。

意識不明の重体で、死も覚悟していただけに、余程嬉しかったのだろう。


「母上、くれぐれもお願いいたします。」

対称的にグレーシス殿下は真面目な表情だった。きちんと休ませないと、今度こそ助からない。と知っているからだろう。


「何故だ?私はもう元気だぞ。」

「「……。」」


デニス王妃殿下とグレーシス殿下が、顔を見合わせて、信じられないモノを見るように、リロイ国王陛下を見た。かと思うと、私に視線が向けられた。


「リーリス、少しは辛さも残すべきだ。」

「そうね、何も無かった。みたいな顔をされるのは、何だか癪ね。」


こっそりと、難しい要求をされてしまった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ