128 穏やかな朝
「おはようございます。」
朝目覚めると、グレーシス様が隣にいる。
それがとても嬉しい。
「おはよう、リーリス。」
グレーシス様は毎朝五時に起きて、鍛練をしている。
六時頃着替えると、再びベッドへ戻って来て、私が起きるまで、暫く添い寝をしてくれている。
穏やかで静かな朝だった。
ドタドタと足音が聞こえて、扉がバーンと勢い良く開いた。
「「おはようございます!お父さま、お母さま!」」
「二人とも、扉を開ける時はノックをしろと言っているだろう。それと扉は静かに開けろ、と何度言わせるんだ?」
グレーシス様が優しくたしなめる。
「三だっけ?」
黒い獣耳と尻尾、ピンクの髪に黄色い瞳をした、息子のグレッグが首を傾げた。
「四よ。」
同じく黒い獣耳と尻尾、黒髪でピンクの瞳をした、娘のリリアが胸を張って答えている。
ハアーッ。とグレーシス様が溜め息を吐いて、眉間を指で揉んでいる。
二人がノックを忘れる時は、とても伝えたい事があって、興奮している時なのよね。今回は何かしら?
「何かあったの?教えて欲しいな。」
そう言うと、二人の瞳が輝いた。
「あのね、あのね、僕、お外に元気貰えてね、リリアの怪我治してあげた。」
息子のグレッグが、グレーシス様似の黄色い瞳を輝かせて教えてくれた。
「そうなの。凄いわね。」
グレーシス様と顔を見合わせた。
代々女神の力は女性にのみ現れる。とセーラン王国では言われていたのに、息子が女神の力を受け継いでいるかもしれない。
「グレッグのナデナデ凄いの!」
娘のリリアも興奮して、私と同じピンクの瞳を輝かせている。
「そう、リリアはどうして怪我したの?」
「お父様みたいに剣のお稽古してたら、転んじゃった。でも、治ったから平気。」
「なっ!……」
グレーシス様が何か言おうとしたので、手を握ると、何も言わないでいてくれた。
「リリアは剣を習いたいの?」
「うん、お父様みたいにカッコいい騎士になるの!」
「僕はクレインみたいなお医者さん。リリアを治してあげるんだ。」
「そう、グレーシス様はカッコいいから憧れるのは分かるわ。グレッグは、とっても優しいのね。」
二人の頭を撫でてあげると、満足した表情で、目を閉じると、獣耳を寝かせ、尻尾を垂らして、大人しくしている。
我が子ながら、とっても可愛らしい。
グレーシス様のもふもふ要素を受け継いでくれて有り難う。
二人が生まれた時、心の中で歓喜したのを思い出した。
「お腹空いたから、ご飯食べてくる。」
「リリアも。」
一通り甘えると、二人は元気良く部屋を出て行った。
「何故息子ではなく、娘が騎士になりたがるんだ。それに、息子が覚醒者とは、予想外だ。」
グレーシス様が中指と親指で、こめかみを押さえながら上を見上げた。
「そうですね。グレッグには私も驚きました。リリアは多分、私の影響です。グレーシス様が素敵だと、いつも惚気ていましたから。」
グレーシス様の獣耳がピクリと動いて、くいっと腰を引き寄せられた。
「リーリスに惚気て貰えるのは光栄だが、それが何故騎士を目指す方向になるんだ?そこは騎士と結婚したい。とか、父と結婚したい。ではないのか。」
子煩悩なグレーシス様が、目に見えてガッカリしている。
「勿論言っていましたよ。でも、グレーシス様は私だけの旦那様だから、結婚は出来ないのよ、と言ったのです。」
グレーシス様の肩口に頭を乗せると、おでこに口付けされた。
「その通りだ。私の一番はリーリスだけだからな。」
「そうしたら、お父様と一緒にいたいから騎士になる、って。可愛らしいでしょう?」
クスリと笑うと、グレーシス様が再び上を見上げて、顔を手で覆った。
「困った。反対したいのに出来ないじゃないか。いや、しかし、騎士はちょっと。それよりグレッグだ。」
グレーシス様が嬉しそうにしながらも、葛藤している姿が微笑ましい。
「覚醒者についてはキチンと話しましょう。二人は六歳ですが、彼らなりに理解出来る筈です。」
「そうだな、幸い王宮には味方が多い。」
今は力が必要になった場合、癒し手を使わずに、祈りを施した花で作ったシロップを使い、覚醒者の力を知られない対策がされている。
私のように閉じ込めて育てなくても、本人さえ気を付ければ、学園に通う生活も出来る筈。
「私達王族に連なる者は、政略結婚を避けられません。私がグレーシス様に出会ったように、素敵な出会いを用意してあげたいです。」
微笑む私に、グレーシス様がフッと笑って、私の頬を撫でた。
「素敵、か。あの時、リーリスは人質同然ではなかったのか?」
「グレーシス様こそ不本意だったのでしょう?」
互いに顔を見合わせて、クスリと笑った。
「何だか、どんな出会いでも大丈夫な気がしますね。」
「我々が良い例だな。唯一無二の存在を見つけられた。」
頬を包むグレーシス様の手に自分の手を重ねると、グレーシス様の美しい顔が近づいてくる。
鼻先が触れる瞬間に目を閉じた。
子ども達の笑い声が遠くで聞こえる。
そろそろ朝食を食べて、いつものように、グレーシス様をお見送りしなければ。
だけど、グレーシス様と二人きりの時間を大切にしたいから、もう少しだけ、このままで。
完結です。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
少しでも暇潰しになれたのなら幸いです。




