126 結婚記念日
今日は結婚してちょうど一年目になる。
「マイ、今日こそリベンジをするわ。」
「成功をお祈りしております。」
入浴後、マイは初夜の夜着を着せてくれた。
グレーシス様の誕生日、私は初夜の夜着を着て、グレーシス様の全てを受け入れる覚悟をした。
けれど、お酒に酔って大失敗。愛を伝える事すら出来ずに眠ってしまった。
今夜はお酒も飲まない。なるべく早くガウンを脱ぐ。いえ、もう脱いで待つべき?
部屋は誕生日の時と同じ。明かりはベッド周りとソファー近くの蝋燭だけで、ほの暗い。けれど、落ち着く空間にして貰った。
「では殿下を呼んで参ります。」
「お願いね。」
互いにしっかりと頷き合う。
マイがグレーシス様を呼びに、廊下側の扉から退室するのを、ドキドキしながら見送った。
ソファーに座って待つべき?それともベッド?
ベッドとソファーの間を右往左往しながら悩んでいると、続き扉からノックがした。
「ひゃっ!」
ビクッとして思わず声をあげてしまった。
「どうした、大丈夫か?」
扉が開いてグレーシス様が部屋に入室してきた。
「っ!」
グレーシス様が目を目開いてから、素早く片手で目元を覆って顔を反らした。
「すまない。出直そう。」
グレーシス様が部屋に戻ろうとしたので、慌てて袖を摘まんで引き止めた。
「あの、初夜の夜着には意味があると教えて頂きました。一年前の今日は何も知らなくて、勇気もありませんでした。だから、今日、やり直したくて、ちゃんとお迎えするつもりだったのですが、どこで待つか迷ってしまったのです。」
「もしかしてそれは、初夜の夜着か?下着ではなく?」
「はい。」
じっと見つめられて恥ずかしいけれど、頷いた。
「そうか、そうだったのか、初夜の……。」
グレーシス様が口元を押さえて黙ったので、どうしたのかと顔を覗き込んだ。
「グレーシス様?」
「ああ、すまない。実は私もやり直したいと思っていた。一年前の結婚式は、あまりにも事務的で、誠意がなかったからな。」
グレーシス様は、私の正面に向き直ると、騎士が忠誠を誓うように跪いて、私の左手を取った。
「リーリス、私と結婚してくれてありがとう。一生、リーリスの笑顔を守ると誓う。」
ポケットから指輪を出して、左手の薬指に嵌めてくれた。
「これは……。」
セーラン王国王家御用達の宝石店が扱っている、女性に人気と噂の、結婚指輪。
「遅くなってしまったが、結婚指輪だ。セーラン王国では指輪を贈り合う文化があると教わった。私と義兄上からだ。」
「グレーシス様の指輪もあるのですか?」
「ああ、義兄上が贈ってくれた。」
グレーシス様がもう一つ、指輪をポケットから出した。
「私に嵌めさせて貰えますか?」
「勿論だ。そうしてくれると嬉しい。」
グレーシス様用の指輪を受け取って、グレーシス様の左手薬指に嵌めた。
「グレーシス様、私と結婚してくださって有り難うございます。これからもずっと、グレーシス様と共に生きて行く事を誓います。」
グレーシス様の目を見て伝えると、とても優しい笑みを返してくれた。
「では、誓いのキスを。」
グレーシス様はそう言うと、私の頬に手を添えた。
答えるように目を閉じると、ふわりと互いの唇が触れて、ゆっくり離れた。
唇が離れたのは束の間で、更に唇にチュッチュッと何度も啄むようにキスされて、段々深いキスに変わって行く。
頬に添えられていたグレーシス様の手が首筋に触れて、思わず、ピクンと肩が跳ねてしまう。
グレーシス様が気遣うような表情で、囁いた。
「リーリス、この先を求めても?」
「はい。」
ドキドキしながらも頷いて、キュッとグレーシス様の首筋に腕を回して抱きつくと、グレーシス様の逞しい腕にふわりと抱き抱えられて、ベッドに運ばれた。
こちらを見つめるシャンパンの様な黄色い瞳は、何時もとは違う、情熱的な色気を放っている。
「愛してる。」
目を細めて甘く囁かれ、大切な物を扱うように優しく触れるグレーシスの熱を感じると、幸せで蕩けてしまいそうだった。




