124 ガーデンパーティー
「リーリス妃殿下、誕生日おめでとうございます。」
「え!?」
忘れていたけれど、言われてみれば確かに、今日は四月二十日で、私の誕生日だった。
でも、聞いていた話と違う。
「え?あの……誕生日?お世話になった方々を労う為のガーデンパーティーなのでは?」
事態が飲み込めなくて、エスコートしてくれたグレーシス様の顔を見上げた。
「ガーデンパーティーは本当だが、リーリスの誕生日を祝うガーデンパーティーだ。」
「妃殿下、サプライズですよ。」
エイガーがにっこりと笑った。
王魔討専部隊の騎士達が居る。
「我が国では、妻の誕生日は夫が主催するんだよ。そして、家族や友人を呼ぶんだ。」
ティミラーお義兄様が教えてくれた。
リロイ国王陛下、デニス王妃殿下、フレイルお義兄様、の隣は名前だけしか聞いていないけれど、きっとビアンカお義姉様ね。シェリーお義姉様も居る。
「私の友人は限られているがな。」
グレーシス様が周りに目をやったので、私も周囲を見回した。
クレインも居る。サンセやシュナイザー、シャルルも!
「私の為に?ありがとうございます。とても嬉しいです。」
テーブルには沢山の美味しそうな料理が並んでいる。
ベインが頑張って作ってくれたのだわ。
テーブルの飾りつけには、美しい花が飾られている。
庭師のフェルメスが、選りすぐってくれたのね。
「さあ、妃殿下、乾杯しましょう。」
ドルフが食前酒のグラスを配ってくれる。
いつだったか、グレーシス様と飲んだ、ドルフお勧めのお酒の香りがした。
お酒では何かと失敗しているから、今日は口を付ける程度にしよう。
「リーリス、誕生日おめでとう。」
「「「おめでとう。」」」
グレーシス様が言うと、続いて皆が祝ってくれた。
今まで家族に祝って貰った事はあったけれど、友人なんて一人も居なかった。それがこんなにも沢山。
「グレーシス様と結婚して、私は幸せばかり頂いています。ありがとうございます。」
「それは私の方だ。」
グレーシス様が私の腰を引き寄せようとした時、ティミラーお義兄様に手を引かれた。
「さて、主役は皆に祝って貰うんだよ。おいで、リーリス。」
リロイ国王陛下やデニス王妃殿下の元に連れて行かれると、二人からハグされた。
「おめでとう、リーリス。家族になってくれてありがとう。」
「お義父様、お義母様ありがとうございます。」
「リーリス妃殿下、やっとお会い出来ました。ゆっくりお話するのは初めてですね。フレイルの妻、ビアンカです。お誕生日おめでとうございます。」
ビアンカ妃殿下は、フレイル殿下の右腕として、政務の仕事をしていると聞いていた。
建国祭で姿は見かけていたものの、ご挨拶は出来ていなかったので、会えて嬉しい。
「有り難うございます。私の事はリーリスと。ビアンカお義姉様、とお呼びしてもよろしいですか?」
「勿論です。私だけお会い出来ないのを残念に思っていたのです。ハグしても?」
「はい、嬉しいです。」
手を広げると、ギュッとハグされた。
「ビアンカ、力の加減を間違えてリーリスを潰すなよ。」
「フレイル殿下、ビアンカ妃はそんなに怪力ではなくてよ。ちょっと不器用なだけですわ。」
「シェリー、何気に失礼だよ。」
私を心配するフレイルお義兄様に、シェリーお義姉様が突っ込みを入れている。
ティミラーお義兄様がシェリーお義姉様の肩に手を乗せて笑っている。
皆、仲良しで会話を聞いているだけでも楽しい。
「リーリス、誕生日おめでとう。」
ティミラーお義兄様、フレイルお義兄様、シェリーお義姉様、皆がハグしてくれる。
どうやら獣人はハグ文化らしい。
祖国には無い文化なので、少し恥ずかしいけれど、嬉しい。
「さあ、リーリス、友人の所へも行ってあげて。」
シェリーお義姉様に見送られて、シャルルの元へ行った。
「来てくれてありがとう。」
文化に倣ってハグした。
「ひゃっ!お、おめでとうございます。ちょっと妃殿下、ハグは、家族だけですのよ。」
真っ赤になったシャルルが教えてくれた。
「そうなの?」
「そうですわっ、だから、他の男性にしてはいけませんよ。男性陣がグレーシス殿下に殺されますわ。」
どうして皆、グレーシス様をそんなに誤解しているのかしら。
「シャルルったら、また冗談を。」
「そう言うのは妃殿下くらいでしてよ。私、結婚しますの。だから、グレーシス殿下にお願いして、お別れを言いに来たのですわ。」
グレーシス様と連絡を取れるようになったなんて、わだかまりが和らいだようで嬉しい。
「ご結婚、おめでとうございます。嫁ぎ先は遠いのですか?」
「ええ、辺境伯のご子息と結婚するの。」
つまり、ギルバート団長のご子息よね。
「もしかして、キャリオン?」
「いえ、その弟よ。私と浮気して、今は辺境で下級騎士として見張り任務をしているの。」
「ああ!」
城塞の屋上で声をかけてきた騎士を思い出した。
「ご存知なの?」
「辺境へ行ったから、見当はつくわ。そう、彼……。」
心当たりはある。
グレーシス様にやたらと忠誠心があった、あの騎士。
王族の婚約者と浮気なんて、普通なら不敬罪で、処罰も厳しい筈。
きっとグレーシス様が処罰を望まなかったから、彼は王国騎士から下級騎士に降格された位で済んでいる。
きっと、彼はグレーシス様に負い目を感じていたのね。
辺境に飛ばされても、シャルルを思い続けていたのは好感が持てる。
「辺境へは討伐支援でグレーシス様も行くかもしれないから、その時は、私も行くつもりよ。だから、また会えるかも知れないわね。」
「討伐支援に付いて行く気?妃殿下が?」
シャルルが信じられないと肩を上げた。
「足手まといよね。分かってはいるのだけど。」
「そうだけど、そういうことでは無いのよ。誰が好き好んで、辺境に行きたがるかと言っているのよ。」
「私とシャルル?」
首を傾げると、呆れた顔をされた。
「……もう。楽しみにお待ちしておりますから、絶対、会いに来て下さいませ。」
家族だけと言ったのに、シャルル嬢からハグしてくれた。
「ええ、必ず。」
私もハグを返した。
「シャルル、いつまで妃殿下を独り占めしている。そろそろ解放しろ。」
シャルルの兄、シュナイザーだった。
「もう、ケチね。」
「妃殿下、おめでとうございます。妹が失礼をしました。」
シュナイザーが声を掛けてくれた。
「ありがとう。ここに来て、初めて出来た友人だと思っているわ。」
「良かったなシャルル、一人も友人居なかったもんな。」
「うるさいわね、サンセ。」
サンセはシャルルに言うだけ言って、私に向き直った。
「妃殿下、お誕生日おめでとうございます。」
態度の豹変が凄い。しかもわざとだと分かる。
「ありがとう。サンセの意外な一面を発見してしまったわ。」
「私はからかい甲斐のあるオモチャには目が無いのです。さあ、お次の方々がお待ちですよ。」
今度はサンセに案内されてクレインの元へ行く。
「妃殿下、おめでとうございます。」
クレインの後はエイガー、カールセン、ベクターと王魔討専部隊の騎士達にお祝いして貰った。
皆でベイン自慢の料理も頂いて、楽しいガーデンパーティーを過ごした。
「リーリスをなかなか戻して貰えないのは、予想していなかったな。」
夜、寝る前、何時ものように私の私室に来たグレーシス様が、少し拗ねたように、私の座っているソファーの隣に腰掛けた。
「今日の為にドレスも準備してくださっていたのですね。ありがとうございます。」
「喜んで貰えたなら贈った甲斐があった。今日は特別な日だ。私にして欲しい事は無いのか?抱っこでも、あーんでも、何でも、全て叶えよう。」
グレーシス様が私の腰に手を回して、耳元で囁いた。
グレーシス様なら、誕生日関係なく全て叶えてくれそうな気がする。
「えっと……グレーシス様のもふもふ部分を感じたいです。」
ピタリとグレーシス様が止まって、ふーっと息を吐かれた。
「……仕方ない。リーリスが望むなら叶えなければな。」
グレーシス様の尻尾が顔に、こしょこしょと触れて来る。
「グレーシス様くすぐったいです。」
尻尾を優しく掴んでから抱き締めて、頬擦りした。
「もっと本体を求めて欲しいのだがな。」
そう言いながらも私の膝に頭を乗せて、獣耳も触らせてくれる。
「今日、幸せな誕生日を過ごせたのは、グレーシス様のお陰です。有り難うございます。」
「どういたしまして。」
獣耳と一緒に頭を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じている姿が、可愛らしい。
「大好きです。」
グレーシス様の耳元で囁いて、獣耳に口づけした。
シャルルって誰?と思われた場合は目次13、14へ。
シャルルの婚約者は名前が出ていませんが、目次29、30に。
フレイルの妻ビアンカは初登場ですが、存在はしていました。




