122 誕生日(グレーシス視点)
誕生日のグレーシス視点です。
毎年、誕生祭が終わった夜。いや、誕生祭に関わらず、夜は一人で静かに過ごすのが当たり前になっていた。
誕生日を多くの者から祝われるのは有り難いが、気疲れもする。それに、普段は任務で考える事も多い。 だから、一人で静かに過ごす夜は、案外気楽で、結構好きだった。
だが、リーリスと結婚して暫くしてから、私はリーリスの私室に、自ら進んで通うようになり、共寝をするまでになった。
それは一人で夜を過ごすよりも、思いの外、心地好いものだった。
「殿下、妃殿下の準備が出来ましたので、いつでもお越しください。とのことです。」
誕生祭が終わった後も、何時ものように侍女のマイが呼びに来た。
心なしかニヤニヤして嬉しそうだな。何だ?
続き扉からリーリスの私室を訪ねる。
何時もと雰囲気が違う。
部屋は蝋燭の明かりのみで仄かに暗い。
テーブルには軽食や焼き菓子、紅茶やカクテル等が用意されて、何時もより豪華だった。
「今日は随分と雰囲気が違うな。ほの暗いのも良いな。」
「はい、お誕生日なので、少し趣向を変えてみました。」
どうやら私の為に、色々準備してくれたらしい。
何時ものようにリーリスの隣に腰かけると、軽食を勧めてくれた。
夜会では、ダンスや挨拶であまり食べられなかったから、助かる。
ただ、主役である我々よりも、女性はウエストを絞ったドレスを着るから、ほぼ食べられない。
きっと私よりもリーリスの方が、お腹は空いている筈なのに、サンドイッチを食べさせてくれようとしたり、お酒を勧めたりと、もてなしてくれる。
その気持ちはとても嬉しいが、どうせなら二人で楽しみたい。
だから、リーリスにも酒を勧めて、二人で乾杯した。
「グレーシス様、お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう。今迄で一番幸せな誕生日だ。」
リーリスに祝われて飲む酒は、格別に美味く感じられた。
心なしか、リーリスの飲むペースが早い気がしていたが、やっぱりだ。早いうちに止めてやるべきだったな。
コテンと私に体を預けて、ぽやぽやした顔をしている。
これはこれでは可愛らしいから好きだが、飲ませ過ぎてしまったようだ。
「リーリス、大丈夫か?飲ませ過ぎたな。」
声をかけると、ふにゃりと首を傾げている。
「大丈夫ですよ?」
これは駄目だ。
「それは大丈夫じゃない時だな。」
座っているのも辛そうなので、ベッドに運んで寝かせようと抱上げた時、気づいた。
リーリスがガウンを着ているなんて、珍しい………な、なんと!?ガウンがはだけている!!
ガウンのサイズは男女共に一種類しかない。小柄なリーリスにはサイズが大きすぎるのは分かる。
しかも、ウエストで結ぶだけの紐が緩んでしまうのもよくある事だ。それは良い。
しかし、問題はそこじゃない。
紐が緩んだせいで、前が開いたガウンから、胸が見えそうなほど、襟ぐりが開いている薄手の布地が、バッチリ見えた。
中に着ているのは夜着、ではなく、下着ではないのか?
女性の下着について詳しくはないが、布がかなり薄く、露出度が高い。到底服とは呼べない。
つまり、下着だろう。
よく考えれば、リーリスがガウンだった事は、一度も無い。
もしや、何かの手違いで、まだ着替え終わっていないのに、私が来てしまったから、慌ててガウンを羽織ったのではないだろうか。
もっと早くに気付くべきだった。
なるべく見ないようにと思いつつ、しっかり目に焼き付けてしまう。
ゆっくりとベッドに降ろして、隣に横たわった。
「もう休もう。」
目を閉じなければ、つい、見てしまう。
それなのにリーリスは、フルフルと首を振って体を起こすと、ベッドに横座りで座った。
待て待て!余計にガウンがはだける!
「グレーシス様のお祝いは、これからですっ!」
「リーリス、充分して貰った。」
慌てて起き上がって、宥めるように頭を撫でた。
まだ祝い足りない。と言いたげに、ブンブン首を振ったリーリスが、何を思ったのか、ガウンを脱いだ。
「!?」
肩が大きく開き、布が薄く、肌が透けて見えている。丈も今まで見たことが無い、膝よりも短いワンピース。
これ、絶対下着だろう。
リーリスは普段から、こんな色気のある下着を身に付けているのか!?
本来なら、直ぐにガウンを掛けてやるべきなのだが、その魅惑的な姿に釘付けになってしまった。
普通、寝る前にガウンは脱ぐものだ。
リーリスは明らかに酔っている。
下着姿なのを忘れて、普通の夜着を着ていると思い、無意識にガウンを脱いだのかもしれない。
ああ、いかん、風邪を引いてもいけない。
我に返って、ガウンを取ろうと手を伸ばした。
「グレーシス様、お誕生日おめでとうございます。愛してます。」
リーリスがギュッと抱き付いて来た。下着のまま!
思わずゴクリと喉が鳴る。
嬉しい、嬉しいが、これは駄目だ!
リーリスが私の理性を飛ばしにかかってくる。
なんて攻撃力だ。
魔物と対峙するよりも、強い意志が必要な時が訪れるとは思わなかった。
「愛してます。とっても。だから……」
リーリスが潤んだ瞳で見上げて、何か言おうとしている。
次の言葉次第では本当に理性が飛ぶ。いや、何を言われても飛ぶ気がする。何を言われても耐えろ。
ギリギリ理性を保って待っていたら……ふにゃんと寝た。
何だこの拷問は。嬉しいが辛い。
下着姿のリーリスに抱き付かれたまま、眠れる訳もなく、朝まで耐えた私は、本当に頑張ったと思う。
何時もの時間に起きて、リーリスを起こさないように自室へ戻り、マイを呼び出して命じた。
「マイ、リーリスを起こさないように、しっかりとガウンを着せておいてくれ。」
「え?はい、畏まりました。」
首を傾げるマイは気にせず、煩悩を払うように鍛練に打ち込み、汗を流して着替えると、再びリーリスが寝ているベッドに入った。
ガウンもしっかり着ている。安心して添い寝した。
程なくして、リーリスが目覚める気配がした。
「おはよう、リーリス。」
何時も通りを装う。
「おはよう、ございます?」
リーリスは寝ぼけているようだ。
「飲み過ぎたようで心配したが、よく眠れたようだな。」
「え?私、お誕生日のお祝いをしたくて……」
「充分祝って貰った。ありがとう。」
冷静さを保つ為、被せ気味に礼を伝えて、頬を撫でて誤魔化した。
リーリスが何かに気づいたような顔をして、ガウンを見ている。
もしかして、記憶があるのか?
「グレーシス様、あの、私……ガウン脱いだりしませんでしたか?」
どうやら記憶はあやふやらしい。詳しく説明すれば、リーリスは恥ずかしさで悶えてしまうだろう。
これは、なかった事にしておいた方が良さそうだ。
「いや、着たまま寝てたな。」
「そう、ですか。」
首を傾げるリーリス。
そうだ、マイにガウンを着させた事を口止めしておかなければ。
「まさか、妃殿下の頑張りを殿下が台無しにするなんて思いませんでした。」
何故かマイにドン引きされたが、頑張ったのは私の方ではないだろうか。
その時はそう思ったのだが、マイの言った意味に気付くのは、かなり後になってからだった。




