120 誕生日プレゼント
「グレーシス様の誕生祭に用意するプレゼントが決まらない。」
三月二十五日は、グレーシス様やお義兄様達王子の誕生祭が開かれる。
きっと誕生祭では、各地の領主から色々と素晴らしいお祝いの品々が贈られる筈。
もう一週間も無いのに、それらを上回るコレ。と言える良いプレゼントが浮かばなかった。
「マイ、誕生日に何をプレゼントすればいいかしら。」
侍女のマイは、ふふっと笑って、当たり前のように言う。
「妃殿下、王子の妻は、物を贈ったりはしません。初夜の夜着を着て、王子が生まれた事を二人きりで祝うのです。」
何故、初夜の夜着?
「悩まれているのでしたら、シェリー妃殿下に相談されてはいかがでしょう。何か良いアドバイスをいただけるかもしれません。」
確かに、シェリーお義姉様なら、何度もティミラーお義兄様の誕生日を祝っているし、何か参考になるかもしれない。
「そうね、マイの言うように、シェリーお義姉様に相談してみるわ。」
早速、シェリーお義姉様にお手紙を書いて、執事のドルフに渡した。
ドルフの部下である使者が、手紙を届けてくれる仕組みになっている。
返事は直ぐに来て、翌日、シェリーお義姉様の住む本邸へと向かった。
「待っていたわ、リーリス。先日は、素敵な花束をありがとう。とっても嬉しかったわ。」
出会って早々にハグされた。
まだちょっと慣れないけれど、嬉しい。
「喜んで頂けたなら私も嬉しいです。それで、相談なのですが……。」
「そうだったわね、私に答えられるかしら?」
シェリーお義姉様は相変わらず美しい。首を傾げる姿も、何もかもが絵になる。
女性の私でも、ポワンと見惚れてしまう。
ああ、いけない。大事な事を聞かなければ。
私は先ず、侍女のマイが言っていた夜着の件が本当かをシェリーお義姉様に訪ねた。
「あら本当よ。」
本当だった。
「初夜の夜着を着て、夫を迎えてお祝いするのよ。」
「初夜の夜着って、薄くて白いあの?」
「そうよ。ちょっとレイ。初夜の夜着を持ってきて頂戴。」
「畏まりました。」
お義姉様はレイと呼ぶ侍女に命じて、一枚の布を持って来させた。
「ちなみに私の夜着はこれよ。」
広げて見せてくれた夜着は、私のより生地が薄く透けていて、首回りは胸の谷間が見えるほど大きく開いて、丈も膝よりかなり短かく、兎に角、露出度が高い。
「これはもう、ほぼ裸では?」
目をパチパチさせている私を見たシェリーお義姉様が、クスリと微笑んで教えてくれた。
「獣人の王族にとって、初夜と、その夜着には意味があるの。危害を加えません、貴方の全てを受け入れて愛しますって。王子が心から信用出来る者は多くないわ。だから無条件に愛されることは、何よりのプレゼントになるの。だから誕生祭に夜着を着て、今もちゃんと愛していますよ。って態度で示してあげるのよ。」
話を聞くに、初夜の儀式とは、夜着を着て迎える事で、信頼関係を築く意味があったのだ、と初めて理解した。
ハーレンス殿下が、私とグレーシス様を見て、上辺。と言ったり、マーチス殿下が、初夜に拘っていたのは、そういう事だったのね。
「そんな意味があったなんて、知りませんでした。初夜はただ、子を成す為の行為だと思っていました。侍女からも、殿下に任せれば良い、としか言われませんでしたし。」
「おそらく、王族の獣人にとって、初夜の意味は当たり前過ぎて、きっと侍女は、リーリスが知らない事を知らなかったのでしょう。」
もし、夜着の意味を知っていたら、初夜の時、布団から出る勇気を持てたかしら……いや、やっぱり無理な気がする。
「実は、私達はその……、初夜をしていないのです。グレーシス様は、今も初夜の儀式について避けている気がして、その……、私が夜着を着たとして、それがお祝いになるのか、疑問に思ってしまうのです。」
気持ちを打ち明けて俯く私に、お義姉様がそっと紅茶を勧めてくれた。
「それは杞憂よ。確かに以前のグレーシス殿下は、色々と拗らせていたけれど、今は、待てを我慢している犬みたいな状態ね。見ていて笑ってしまう位だわ。だから、ね、後はリーリス、貴女の勇気だけよ。」
シェリーお義姉様は微笑むと、優雅に紅茶を飲んだ。
私も決意するように紅茶を一口飲む。
ここは経験者に教わるのが良い筈。
「私、グレーシス様が生まれてくれた事をお祝いしたいです。お義姉様、色々と教えて頂けないでしょうか?」
グレーシス様が喜んでくれるなら、何でもしたい。
シェリーお義姉様の獣耳が、ピクリと動いた。
「宜しくてよ。色々、お教え致しますわ。」
妖艶に微笑むシェリーお義姉様が、生き生きしているように見えた。
私室に戻った私は、初夜に用意された夜着をマイに出して貰った。
シェリーお義姉様の物に比べれば、私の夜着は布も厚いし露出も少ない。
「勿論、毎日着ても良いのよ。でも特別感があった方が、ありがたみが増すでしょう?どうせなら、色々準備して、相手をドキドキさせたいじゃない。」
乙女のように可愛らしく微笑むお義姉様を思い出した。
私も、たまにはグレーシス様をドキドキさせられるかしら?
少しはしてくれると良いな。




