118 囚われのリーリス(グレーシス視点)
グレーシス視点です。
新人の討伐研修の為、森へ行き、王宮に戻って来たのは昼の三時頃だった。
騎士棟の入り口にサンセの姿が見えた。
確か、今日はサンセがリーリスの専属護衛当番だったな。ということは、リーリスが会いに来ているのか。
私は内心ご機嫌で、部下と新人を連れて騎士棟へ向かった。
「グレーシス殿下、妃殿下が!」
サンセの報告に耳を疑った。
リーリスが父上や兄上達に毒花を贈り、殺そうとした?
それを言いに邸に来たのが、父上の近衛騎士だと?で、騎士棟に連行?
「そして、少し前、地下部屋に勾留されたようです。」
「何だって!?」
地下部屋は高位貴族等で犯罪を犯した者や、犯罪容疑のある者を、一時的に捕らえておく部屋だ。
そこへリーリスが入れられただと?一体、父上はどういうつもりだ。
取り敢えず、新人をエイガーに任せる為、一旦執務室へ向かうと、エイガーが慌てた様子でやって来た。
「グレーシス、妃殿下が地下部屋に―――」
「サンセから聞いた。新人は任せる。国王陛下の所へ行ってくる。」
急いで父上の執務室へ向かった。
「緊急の用とは何事だ。」
私が緊急なんて言う時は、悪い報せが多いので、父上、そして、その場に居た兄上達も警戒した表情になった。
「リーリスを地下部屋に捕らえた理由を伺いたい。」
「リーリスが何だって?」
父上は全く身に覚えが無いらしい。
「父上の近衛騎士がリーリスを騎士棟に連行し、尋問した挙げ句、今は地下部屋に勾留。その理由が、父上と兄上達に毒花を贈って殺そうとしたから。だそうです。」
サンセから聞いた話を報告した。
「シュテルムが、花についてパウロから報告を受けたから、念の為、リーリス本人に話を聞きたい。と言って来たので許可したが、尋問するとは聞いていないぞ。」
父上の尻尾が激しく床を打っているのを見ると、父上の指示ではなかったようだ。
リーリスは我が国の為に尽くし、父上からも認められた証として、勲章を授かっている。
我が部隊は任務でリーリスと関わり、信頼関係を築いた。
しかし、父上や兄上直属の近衛騎士達はリーリスとの関わりが薄い。
父上から認められたリーリスに対して、仕事上、表向きは紳士的態度を取っていても、人間であるリーリスを心から信用できないのは仕方がない。
近衛騎士とは、国王や王太子を最優先に守る立場にあるし、何か少しでも不審な動きがあれば、父上や兄上を守ろうと動く。
問題は、リーリスが贈った花が毒花だ、と言える確かな証拠も揃えないまま、憶測だけで疑い、尋問の形を取って、地下部屋に勾留した事だ。
おそらく同じ容疑でも、リーリスが人間でなければ、邸で話を聞き、邸から出ないよう見張りをつける位に留めた筈だ。
リーリスの無実は明らかで、直ぐにでも解放してやりたい。
だが、いくら王族でも私は別部署の騎士団所属なので、父上や兄上直属の近衛騎士がする決定には口を出せず、父上に直談判するしかない。
「父上、直ちにリーリスを解放する許可をお願いします。」
「勿論だ。それとイーサン、直ちにシュテルムを呼べ。」
「畏まりました。」
父上が許可証を書いている間に、シュテルムはやって来た。
「誠に申し訳ございません!」
執務室に入室するなり、シュテルムは頭を深く下げた。
「何についての謝りだ。」
父上の口調は冷静だが、尻尾は相変わらず激しく床を打っている。
「リーリス妃殿下が無実にも関わらず犯罪者と思い込み、勾留してしまった事です。」
「無実だと何故分かった。」
「毒花と思われた花には、葉の裏に特徴があるそうで、妃殿下から贈られた花には、その特徴が無い。とクレイン殿に花を直に見せられ、指摘されました。」
「花について疑っていたのは、パウロだったな。」
「はい、しかし、私が全て鵜呑みにしてしまった事がいけなかったのです。申し訳ございません。どんな罰でも受け入れます。」
父上はシュテルムを一瞥すると、威厳のある声を出した。
「では、近衛騎士を初め、全ての王国騎士団に命じる。毎日一人ずつ、一週間交代でリーリスの専属護衛をしろ。専属護衛の意味は理解しているな、シュテルム。リーリスは解放するから、お前が今から就け。」
「畏まりました。」
シュテルムが敬礼した。
王国騎士団全員とは、父上は随分思いきった決断をしたようだ。
近衛騎士には、父上だけではなく、ティミラーの近衛騎士も含まれている。
専属護衛、それは護衛対象を一番に考える事。
期限つきだが、父上や兄上ではなく、リーリスを優先する事を意味する。
騎士団の中でも近衛騎士は最も地位が高いとされ、騎士のプライドも高い。
人間のリーリスを受け入れられない彼らからすれば、かなりの罰になるだろう。
それに、父上の右腕とも言える近衛騎士を纏める団長からリーリスに就けるとは。
相当父上は怒っているな。
「シュテルム一人で尋問した訳ではないよね。シュテルムが専属護衛を終了したら、次は、追従した騎士にしようか。」
口調はいつも通りだが、ティミラーも怒っている。
「それは当然として、どうせなら、上にいる立場の者からやらせよう。」
フレイルも絶対怒っている。
私も相当頭にきていたが、父上や兄上達の怒りもかなりのものだった。
ピリリとした空気の中で、各々の尻尾が激しく床を打つ音だけが響いている。
今までそんなに怒っている姿を見た記憶が無い。
リーリスが国の為に、どれだけ尽くしているかを知っているだけに、扱いの酷さに怒りを隠せないのは当然だ。
最初、第二騎士団からリーリスの護衛を決める時、騎士全員が嫌がっていた。
妹のシャルルが浮気して、騎士団内で肩身の狭い思いをしていたシュナイザーが立候補し、その友人のサンセが続いた形で、リーリスの専属護衛は決まった。
人間の護衛なんてハズレだ。と騎士団から言われていたが、リーリスに関わった騎士は軒並み楽しそうにしている。
リーリスに接すれば、その心根の優しさに、騎士達は驚く事だろう。
今回のような事態は二度と起こらない筈だ。
護衛の無駄遣いだ。とリーリスは嘆きそうだが、癒し手を持つリーリスなら、専属護衛を就けるに値する価値があるだろう。
ただ、信者が増えそうで心配だ。
私は父上の許可証を持って、シュテルムと騎士棟へ急いだ。
騎士棟の入り口にいたエイガーが、我々を目にして、駆け寄って来た。
「グレーシス、妃殿下を解放できそうか?急いだ方が良い。」
「リーリスがどうした。」
何か不測の事態かと、耳を澄ませた。
地下部屋は本音が出やすい事もあって、壁が薄く作られており、不測の事態が起きた時、誰もが対応出来るよう、騎士棟の何処にいても、声を聞けるようになっている。
「……た―――い、グレーシス様会いた―――い、グレーシス様会いた―――――い。」
リーリスが可愛い事を口走っている。
「さっきから、グレーシスの名前を連呼している。寂しさからか、おそらく妃殿下本人はグレーシスにだけ訴えているのかも知れないが、分かるだろう?」
「ああ、私への愛が騎士棟に広まってしまったわけだな。」
フッと思わず笑ってしまった。
「喜んでいる場合か。妃殿下はそれほど消耗していると言う事だろう。」
私への愛を消耗故と言うか。失礼な。だが、消耗しているのは確かだろう。
急いでシュテルムを連れて地下部屋へ行き、父上の許可証を見張りに見せ、鍵を開けさせた。
ベッドで横になっているリーリスを見て、思わず駆け寄る。
私の気配に気づいたリーリスが起き上がって、振り向いた所を抱き締めた。
「済まない。私が居ればこんな事にはならなかった。」
邸にシュテルムが来ても、証拠不十分だ。と言ってやれた。花は既に口にしたとも。
リーリスは嬉しそうに、私に抱きついて来た。
私はリーリスに無実が証明された事を説明し、ついでに、地下部屋の壁が薄い事を話した。
リーリスは私の名前を連呼していた事を、騎士棟にいた全ての騎士に聞かれたのだ。と気付き、恥ずかしさから、ベッドで悶え始めた。
それさえも筒抜けなのだが、可愛いから言わないでおこう。
扉前で待機していたシュテルムと、その他騎士二名を放置していたせいで、彼らは、私とリーリスがやり取りしている間、暫く待機する羽目になったが、リーリスへの見方は、かなり変わったようだった。
人間のリーリスが、私を好きな訳がない。そう思っていた騎士達は、この日を切っ掛けに、考えを改めたらしい。
リーリスが私にベタ惚れしている、と。
私の方が惚れていると思うが、まあまあ正しく認識してくれたようで何よりだ。




