115 セーラン王国からテナール王国へ 113
結婚式の翌日、春の風が心地好い午前十一時頃、帰国の為、馬車に向かった。
帰国日も公けにしていないので、私達は再びお忍びでセーラン王国を出発して、護衛騎士もローブを被る。
馬車に乗る前、レミリオお兄様がノーネリアお義姉様と共に、わざわざ見送りに来てくれた。
「皆様が助けてくださったお陰で無事、結婚式を終えられました。有り難うございます。」
ノーネリアお義姉様が、深々と頭を下げた。
「私からも礼を言う。道中、気を付けて。あと、羽根布団は最高だな。」
「お兄様にもあの良さが解って頂けて嬉しいです。特別に作って頂いた品なのですよ。」
ハイヤー王国の事は言えないけれど、レミリオお兄様も、ふわふわの虜になったのは間違いない。
いつか、獣人と人間が真に信頼関係を築けたなら、セーラン王国の皆に、彼らのもふもふや、ふわふわとした感触の幸せを、知って貰える時が来るかもしれない。
友好の架け橋になれるよう、出来る事を頑張ろう。
「お兄様、お義姉様、末長くお幸せに。また来年、お会いしましょう。」
新たな決意を持って別れの挨拶をした。
その日は王家の別荘、翌日はボナペ辺境伯の邸に宿泊した。
何かと悪い噂が絶えないボナペ辺境伯。
実は、仕事熱心で、徹夜続きも多いので、疲れが溜まっているのか、爽やかではない所が、誤解されやすいのだとか。
「ああ見えて、ボナペ辺境伯は、とっても優しい良い方なんですよ。噂が流れても、火消しをしないから、あらゆる悪い噂が流れていますが、ここに居る者は当然、信じていません。」
調査の結果、騎士や領民は口を揃えて言っていたのだとか。
ノーネリアお義姉様の時は、顔色も悪く、元気もなかったので、ボナペ辺境伯は、本当に伝染病だと思って隔離していただけだったと判明した。
事前に届いた手紙は、妹のホミーナ嬢によって公爵家の印が押されていたので、その手紙を疑う方が難しく、支払われたお金はノーネリアお義姉様のお世話にかかる費用に当てられて、回復したら、余ったお金は返すつもりだったらしく、ボナペ辺境伯は無罪となった。
「お義姉様の誘拐や、奇襲を疑って、申し訳ありません。あと、雨の日は、お化けが出ると思っていました。」
ボナペ辺境伯の邸に到着した時、ボナール閣下に謝ると、笑われた。
「そんな噂もありましたね。疑われるのは仕方がありません。情報が何も無かったのですから。それにしても、ノーネリア嬢が消えた時は、神隠しにでもあったのかと驚きました。ご無事で本当に良かった。」
私達が出発して暫くしてから、ノーネリアお義姉様の姿が無いと気が付いて、領地総出の大捜索をしていたのだとか。
夜、王家の別荘から連絡が入り、全員で安堵したそう。
翌朝、心配事が解決した事もあって、清々しい気持ちで辺境を出発した。
そして、約一週間ぶりに国境へ戻って来た。
護衛騎士のロベルタが、外から馬車の扉を開けて、降りるのを補助してくれた。
「殿下方、お疲れ様でした。」
ロベルタを始め、護衛騎士や侍従達が、勢揃いで礼をして、見送ってくれた。
「今迄有り難う。初めて楽しく旅が出来たよ。」
ティミラーお義兄様は本当に楽しそうに見える。
「世話になった。」
フレイルお義兄様もフッと笑った。
「ご苦労。皆、元気で。」
グレーシス様の言葉に護衛騎士が、バッと敬礼した。
「毎朝、ご指導頂き感謝致します。勉強になりました。今後も続けて参ります。」
ロベルタが騎士を代表して感謝の意を示し、グレーシス様が頷いた。
どうやら、早朝、王家の別荘で、グレーシス様の鍛練を目撃したロベルタが、剣の指導を願ったのが切っ掛けで、その日から今日迄、毎朝の鍛練を護衛騎士達としていたのだとか。
新たな絆が生まれたようで嬉しい。
「皆さん、また来年もお願いしますね。」
嫁ぐ時は、不憫そうな目を向けられ、涙を堪えて見送っていた皆が、今日は、笑顔で見送ってくれた。
彼らに、殿下方との時間も幸せなのだと、伝わったからだと思う。
向いには、テナール王国の騎士達と侍従がズラリと並んでいた。
私達の楽しそうな雰囲気に少し、驚いているようにも見える。
「お帰りなさいませ。荷物を積み替えますので、馬車に乗ってお待ち下さい。」
ティミラーお義兄様の近衛騎士と、エイガーが代表でやって来た。
ティミラーお義兄様とフレイルお義兄様は、近衛騎士に、私とグレーシス様は、エイガーに案内されて馬車へ向かう。
国境を越えて、テナール王国に入国すると、グレーシス様が部隊長の表情になった。
「エイガー、何か変わりは?」
「ありませんね。確認書類が溜まっているくらいです。」
「……だろうな。」
エイガーが、やんわりと微笑んで、馬車の扉を開けてくれたので、笑顔を返して馬車に乗り込む。
馬車が出発するまで窓から外を眺めて、騎士達の様子を眺めた。
やはりテナール王国の騎士は仕事が早い。
ものの十分で荷物を乗せかえて、直ぐに馬車は動き始めた。
「帰ったら、書類に生誕祭準備にと忙しくなるな。」
私と一緒に窓を眺めていたグレーシス様が、気だるげに呟いた。
国境を越えてから、グレーシス様はもう、部隊長へと気持ちを切り替えているように見える。
「王宮に着く迄が旅行ですよ。もう少し、楽しみましょう。」
グレーシス様の顔を見上げて微笑むと、フッと表情が和らいだ。
「そうだな。面倒な事は帰ってから考えるとしよう。折角、馬車で二人っきりだし、楽しまないとな。」
隣に座ったままのグレーシス様が、私の背中と膝裏に腕を回すと、軽々持ち上げて、滑らせるように膝に乗せた。
椅子があるのに何故グレーシス様の膝の上に?しかもお姫様抱っこの状態で。
「あの、重いですよ。支えていると疲れますし。」
背中と膝裏はしっかり支えられているので、身動きが取れない。
あと、顔がとても近くて、恥ずかしさから、目のやり場に困る。
「全く重くないし、疲れないから、問題無い。あと、恥ずかしがるリーリスを見るのは、非常に楽しい。」
とっても素敵な笑顔をされた。
「……っ!グレーシス様の意地悪。」
ポスンとグレーシス様の首もとに顔を埋めて、視線を反らした。
「そうだな。私は意地悪らしい。」
何時もは済まなかった。と言ってくれるのに、今日はクスクスと笑うだけで、謝る気配すらない。
「もう、認めないで下さい。」
顔を上げてむぅっ、と少し唇を尖らせると、空かさずキスされた。
「そんな可愛い顔されたら、するに決まっている。」
やっぱり顔が近い。キスの時だけならまだしも、ずっと顔が近いのは恥ずかしい。
だから、目が泳いでしまう。
「怒って……いえ、拗ねているのですが?」
「知ってる。可愛いな。」
「……っ!」
恥ずかしくて、再びグレーシス様の首もとに顔を、埋めてしまった。
「もうっ。」
嬉しいけれども!
全然敵わない。
抱き抱えられたまま耳元で囁かれた。
「王宮まで二泊三日だったな。楽しい旅になりそうだ。」
グレーシス様の甘い意地悪は続いたのだった。
ボナペ辺境伯は目次103に登場しています。




