114 晩餐会
結婚式後、午後六時から王宮の大広間で晩餐会が開かれる。
王家とノービナブ公爵家、そして参列に招待された多くの貴族が参加する。
本日は食事のみで、明日は舞踏会が開かれる。
私達は明日には帰国しなければならないので、晩餐会のみの参加になっていた。
食事だけとは言っても、お祝いの席なので、女性は着飾って参加する。
私も侍女に磨かれて、春を思わせるパステルグリーンのドレスを纏い、食事の邪魔にならないよう、髪の毛をアップにして、飾りをあしらわれた。
勿論、グレーシス様に貰ったイエローダイヤモンドのネックレスも忘れない。
「まるで花の妖精のようだな。」
グレーシス様は、目を細めて褒めてくれた。
「我が義妹が可愛らしくて鼻が高いね。」
「全くだ。」
ティミラーお義兄様とフレイルお義兄様も褒めてくれる。
本当に殿下方は私に甘い。
グレーシス様がスマートにエスコートしてくれて、お義兄様達と一緒に大広間へ向かった。
王家は最後に入場する。
大広間に入場すると、既に着席している女性達の、甘い溜め息が聞こえた気がした。
女性達は持参していた扇で顔を隠し、男性の目を盗みながら、うっとりするような視線を、グレーシス様やお義兄様達に向けている。
ティミラーお義兄様は穏やかで甘く、フレイルお義兄様はクールで知的、グレーシス様はミステリアスで妖艶。
テナール王国が誇る王子達の、所作の美しさや、私に対する紳士的な対応を目の当たりにしてしまえば、男性貴族がいくら悪い噂を流しても、噂が嘘なのは一目瞭然。
招待客に、その真実を伝えられた事は大きい。
レミリオお兄様とノーネリアお義姉様含む私達王家は、貴族とは別のテーブルに着席した。
「結婚を祝ってくれる皆に晩餐を用意した。今後も我が息子夫婦を支えてやって欲しい。今夜は存分に楽しんでくれ。」
お父様の挨拶で晩餐会が始まった。
料理はコースで、メインの肉料理は、レミリオお兄様が指定した魔物肉だった。
ついに、メインの肉料理が運ばれて来た。
ベインお勧めのレシピにあった料理だった。
思わず貴族達の様子を観察してしまう。
「おお、この肉料理は、王家主催の夜会でしか食べられない貴重なお肉ではないですか。」
「本当に美味で皆、王家主催の夜会を毎回楽しみにしていると専らの噂ですよ。」
「ああ、こんなに美味しいお肉を食べたら、他が食べられませんわ。」
皆、魔物肉料理を大絶賛している。
「クッ……。」
フレイルお義兄様がニヤリと嗤っている。
グレーシス様は何時もと変わらず澄まして、ティミラーお義兄様も何時もと変わらず楽しそうにコース料理を食べている。誰よりも上品に。
魔物肉料理は、貴族達の口に合ったみたいで良かった。
食後の紅茶が用意された頃、レミリオお兄様から、ネタばらしをするよう目配せされた。
世間話でもするように、大きすぎず、かといって小さくもない声で、レミリオお兄様に話掛けた。
「それにしても、魔物肉が皆様に受け入れられたようで良かったですね。」
「そうだな。リーリスに勧められた時は驚いたが、我が国でも出したら、美味だと評判になってしまった。今日も、皆に喜んで貰えたのは何よりだ。」
「「「!?」」」
貴族全員の驚愕するような表情と視線が、一斉に私達に集まって、元々静かだった広間は更に静まり返った。
口元を押さえて青い顔をする人達もチラホラ。
あんなに喜んで食べていたのに、吐き出すつもりかしら?
でも、王家の晩餐会でそんな事、出来ないわよね。
「魔物肉、ですと?」
誰かの声が広間に響いた。
「ええ、レミリオ王太子殿下にお勧めして、提供した甲斐がありました。テナール王国へ嫁いで、獣人が野蛮と言われる事に、心を痛めておりましたの。その理由が、一つ消えて、何よりですわ。」
これで皆、お仲間ですね。
そんな気持ちで、にっこり微笑むと、貴族達は気まずそうにしながらも、愛想笑いを返してくれた。
晩餐会が終わり、王家専用の通路を使って別邸に戻った。
「ヒト族との晩餐会が楽しかったなんて、初めてだよ。」
「皆の驚愕する顔と言ったら傑作だった。」
ティミラーお義兄様とフレイルお義兄様がご機嫌そうで安堵した。
グレーシス様は楽しめたかしら?
心配になって顔を窺うと、目が合った。
「リーリスの笑顔は、相変わらず素敵だったな。」
そう言うグレーシス様の笑顔の方が、何倍も素敵だった。




