112 兄の結婚式
朝十時、王宮内にある大聖堂にレミリオお兄様とノーネリアお義姉様が入場する。
私達王家とノービナブ公爵家(ノーネリアお義姉様の親族)は二階席に、それ以外の貴族参列者は一階の席に着席して、式を見守る。
大聖堂に入場する前、大広間に集まってから入場する。
その時、テナール王国が参列する事実を貴族達は初めて知る事となる。
「あれは獣人?」
「確か、王女が獣人と結婚したのだったな。」
「野蛮とは言っても、王族は違うのかしらね。」
ひそひそと声が聞こえるけれど、王子三兄弟の見目麗しさは、私が今まで王家の夜会等で見た男性の中で断トツだった。
身のこなしや所作も美しい。
私の見た所、獣人は男女共に容姿も体型も整っている。その中でもグレーシス様達王家は別格だと思う。
勿論、お兄様も負けてはいないけれど。
女性陣を見ると皆、ぽわんと頬を染めて、グレーシス様達を見ている。
けれど、男性陣は女性陣の反応が気に入らないらしい。
「コホン!」
強面の貴族男性が咳払いすると、女性陣は慌ててグレーシス様達から視線を反らして、ツンと澄ました表情になった。
セーラン王国は男性社会だから、女性の立場は弱い。
もしかして、嫉妬心や、自分達よりも高い能力を持つ獣人に負ける恐怖心から、男性達が、故意に悪い噂を流し、情報操作していたのでは?
貴族男性を見て、そう感じてしまった。
国王であるお父様が、グレーシス様達と一緒に参列している所を見れば、王家の一員としての扱いだと一目瞭然なので、貴族達も流石に愚かな発言をする者は一人もいなかった。
結婚式で、お兄様達が愛を誓い合い、指輪を交換して、口付けをする姿は、絵画のように美しかった。
身内びいきではなく、お兄様とお義姉様も獣人に劣らず、間違いなく美男美女だから。
式が終わると、お兄様達は大聖堂の中央から、出入口まで伸びるバージンロードを歩いて退場する。
参列者は花びらが入った小さなカゴを事前に渡されているので、二人の祝福を願いながら、花びらを高く投げる。
女神様は光る花が好きだった、との言い伝えから、花びらを撒くようになったとか。
私もお兄様達の祝福を願って、花びらを二階席から撒いた。
はらはらと落ちる花びらが途中から、キラキラと光り始めた。
「なんと、女神様の祝福だ。」
一階にいる誰かが呟いて、光る花びらを全員が見つめている。
「誰も、誰が投げたか分からないだろうが、リーリスが投げた花びらじゃないか?」
グレーシス様が耳元でこっそりと囁いた。
「かもしれません。こんな事、初めてです。」
花びらは空中で光ったけれど、床に落ちると、光は消えた。
「王太子殿下の結婚は、女神様に祝福され、未来は明るいに違いない。」
参列者の誰もが、良いように解釈してくれている。
同じ二階席にいたノービナブ公爵家の皆さんも、落ちて行く花びらに目を奪われて、私なんて見ていなかった。
良かった。私だとバレていない。
今までは、自然からエネルギーを貰える。としか思ってなかった。
どうやら、植物に思いを込めると、特に何か効果があるようには思えないけれど、光って答えてくれるみたい。
覚醒者の力は、まだまだ分からない事がありそうな気がした。
お兄様達が退場した後、階下の参列者を見て、グレーシス様が呟いた。
「何故皆、花びらを拾っているんだ?」
「私もそれは思っていたよ。」
「何の儀式だ?」
お義兄様達も気になっていたらしい。
「結婚式に撒く花びらは、女神様の加護があって、幸福を分けて貰える、と言われています。結婚式に使われる花びらは、お茶に出来る食用の花びらなので、皆、沢山拾いたいのです。教会側も花びらを掃除しなくて良いので助かります。」
「なるほど。しかし皆、必死だな。」
フレイルお義兄様が参列者の花びら争奪戦に若干引いている。
「大変そうだけど、帰ってからも楽しめるのは良いね。」
ティミラーお義兄様は少し楽しそうに、階下を眺めている。
「私は既に最高の花を手にしたから、もう拾う必要は無いな。」
グレーシス様は私の腰に手を回すと、私にしか聞こえない小さな声で囁いた。
最高の花って私の事!?
グレーシス様ったら、当然。みたいに恥ずかしい事を言う。
それが嬉しいのだから困る。
「結婚式の花びらより沢山、幸せにしますね。」
グレーシス様にしか聞こえないように、なるべく小さな声を心掛けた。
言った直後、我に返った。
私ったらお兄様の結婚式で何を言っているのかしら。
ちょっと、いえ、かなり浮かれてしまったのかもしれない。




