109 まったり
「折角お天気も良いですから、庭園でお茶でもいかがですか?」
侍女のミアが提案してくれて、グレーシス様達とアフタヌーンティーを楽む事になった。
一人でのお茶も充分楽しかったけれど、グレーシス様やお義兄様達がいる方が、断然楽しい。
事前に、お義兄様達はお菓子には厳しい。と料理人には伝えていたので、テーブルには、渾身の菓子達が並んでいる。
紅茶も、テナール王国には無い茶葉が用意されていた。
「素晴らしい菓子だね。どれも絶品だよ。リーリスもほら。」
ティミラーお義兄様が私にクッキーを食べさせてくれようとして、グレーシス様が奪って食べた。
「全くグレーシスは心が狭い。我々が怖くないと周りに見せる為の、単なる仲良しアピールだよ。」
「何が仲良しアピールだ。」
グレーシス様は納得出来ないらしい。
なるほど、ティミラーお義兄様の行動には意味があったのね。
「あの、グレーシス様。」
人前でするのは恥ずかしいけれど、仲良しアピールの為に、一口サイズのタルトを摘まんで、グレーシス様の口に差し出した。
「……っ。」
グレーシス様が一瞬、目を見開いてから、ぱくりと食べた。
唇が指に触れて、ドキリとした。
「リーリス、次は私に食べさせてくれないかな。」
にっこりとティミラーお義兄様が言うけれど、躊躇った。
ティミラーお義兄様には、シェリーお義姉様という愛する妻がいる。
「いくら義妹でも、ティミラーお義兄様が他の女性の手から食べていたら、シェリーお義姉様は嫌だと思いますよ。」
ティミラーお義兄様がテーブルに頬杖をついて、柔らかく微笑んだ。
「リーリスは嫌なんだね。」
もしかして、誤解されてしまったかもしれない。
慌てて弁解する。
「いえ、ティミラーお義兄様が嫌な訳ではなくて……。」
「大丈夫、分かってるよ。良かったね、グレーシス。愛されてて。」
「わざわざ教えてくれなくても良い。」
グレーシス様がコホンと咳払いをして、一口紅茶を飲んだ。
何となく周りを見回していたティミラーお義兄様が、目を見開いた。
「それにしても、ここの庭園は花の種類が豊富だね。我が国に無い種類が多い。標高の違いかな。」
ティミラーお義兄様は、まじまじと花を見ている。
「ティミラーお義兄様は、お花にご興味が?」
「そうだね、獣人女性は珍しい花に目がなくてね。良い効能も沢山あるから、プレゼントに良いんだよ。特に獣人男性はプレゼントに苦労するから、花とか宝石は、いつの間にか、色々詳しくなってしまうんだよ。」
確か、お義父様もお義母様に、セーラン王国のお花をプレゼントしたいって言っていたものね。
「そうだわ。ミア、庭師を呼んで貰える?」
「畏まりました。」
そんなに待たないうちに、庭師がやって来た。
幼い頃から、私の土いじりに付き合ってくれた、男性庭師のガンザ。
「ガンザ、ここの花をテナール王国に持って帰りたいのだけど、可能かしら?」
王宮の花は、基本的にお父様の許可が必要になる。
でも、私の庭園に限っては、私の自由に出来る。
「どうぞどうぞ。リーリス様の為に育てたのです。リーリス様がテナール王国へ到着する時に、届くよう送りますよ?リーリス様の荷馬車と一緒では、花が持ちませんからね。」
「本当に?嬉しい。種もあればお願い。そうそう、あの咲かせられないと言われた花、覚えてる?三輪だけだけど、テナール王国の庭師が咲かせたのよ。」
私は何もしていないけれど、自慢気に報告した。
「あれを?ほう、獣人の庭師もなかなかやるな。」
庭師ガンザの目が輝いた。
庭師のフェルメスと、良いお友達になれそうな気がした。
「ティミラーお義兄様、お花、送って貰えますよ。皆で分けたら喜んで頂けますか?」
ティミラーお義兄様が、パアッと今までに見た事がない、満面の笑顔になった。
「私の為に頼んでくれたんだね。有り難う、妻も母も絶対喜ぶよ。ねぇフレイル、義妹が可愛いすぎるんだけど。」
「今更か。前から可愛いだろう。」
フレイルお義兄様が、マカロンを頬張りながら、サラリと恥ずかしい事を言った。
「リーリスにベタベタ触るな。義兄の領分を越えている。」
グレーシス様が、私を撫で続けるティミラーお義兄様の手を払いのけた。
「珍しい花なんて、また、王家の女性陣は社交界で羨望の的だな。」
「花輪にリボン、何かとリーリスが関わってるよね。」
ティミラーお義兄様とフレイルお義兄様が、社交界の話を始めた。
チラリと私の名前が出た気がした。
パーティーは建国祭の一度しか参加していない筈。
「私、建国祭のダンスパーティーで、何かしてしまいましたか?」
不安になって、グレーシス様に聞いてみた。
「とても美しかったくらいで、何も問題は無かった。」
「……っ!」
突然の褒め言葉に不意をつかれて赤面してしまう。
「リーリス、仲良しアピールは、もう終わりか?そこのクッキーを食べたいのだが。」
グレーシス様が、ナッツの入ったクッキーを指さして、訴える姿が、ちょっと可愛い。
「すっかり忘れていました。お茶会が終わるまでは、続けた方が良いですよね。」
急に止めたら、やっぱり演技だと思われるかも知れない。
クッキーを手にして、グレーシス様の口元へ運ぶ途中、ふと、さっき指に触れた唇の感触を思い出した。
「あの、指は、食べないで下さいね。」
「……なるべく気を付ける。」
言った後、フッと笑う顔を見て察した。
絶対、気を付ける気がない!




