108 新たな事実
馬に乗り、王家の別荘を出発して、セーラン王国の王宮に着いたのは、午後一時頃だった。
王宮に到着すると直ぐに、謁見の間へ向かった。
謁見の間は人払いがされて、国王であるお父様と、王妃であるお母様しかいない。
お兄様と共に全員で玉座の前へ行き、跪いた。
「レミリオ只今、戻りました。ノーネリア嬢を保護し、無事連れ帰りました。また、テナール王国の賓客が暗殺の危機にありましたので、馬車は危険と判断し、一緒に私達と行動して貰いました。最後に、リーリスの癒し手は、テナール王国に知られたそうです。」
「レミリオご苦労だった。……リーリス、あれ程気をつけろと言ったではないか。」
お父様が、こめかみを押さえて、溜め息をついた。
「申し訳ございません。でも、後悔はしておりません。」
「……そのようだな。知られたのなら仕方がない。皆、楽にしてくれ。はるばるテナール王国からよく来てくれた。我が名はレイモンド。セーラン王国の国王だ。」
「お初にお目にかかります。第一王子、王太子のティミラーです。」
「第二王子、次期宰相のフレイルです。」
「第三王子、騎士でリーリスの夫、グレーシスです。」
グレーシス様達はスッと立ち上がって、野蛮とは程遠い、気品のある美しい礼をした。
「黙っておくつもりだったが、貴殿等にも話す。王家以外、決して口外は許さない。良いな。」
お父様もやはり、一国の王。
ただならぬ覇気に、全員頷いた。
「我が王家は女神の子孫とされ、リーリスは、女神が持っていた癒しの力が現れた者で、覚醒者。と代々呼ばれている。」
覚醒者、なんて初耳だった。
「覚醒者は代々生まれるのですか?もしかしたら将来、我が子にも?」
お兄様が口を開いた。私の生活を知っているから、きっと心配しているのだろう。
「可能性はある。が、代々ではない。近年は生まれていない。ただ、覚醒者が生まれた場合、王家は秘匿するよう、王位継承者に代々伝えて来た。レミリオの結婚が決まり、リーリスが力を知る者と帰国した今が、その時だと判断した。秘匿理由は色々あるが、一番は王家の子が、教会に担ぎ上げられ、利用されて命を落とさない為だ。」
ピクッ、とグレーシス様の獣耳が、微かに動いた気がした。
「そのような事例が過去に?」
お兄様の言葉にお父様が頷いて続ける。
「王家の歴史書によれば、利用された覚醒者は二十歳を迎えられず全員、死亡している。覚醒者は女神ほど万能では無い。自らを癒せず、消耗すると体調不良になる。消耗が激しければ、命を落とす危険がある。分かるな、リーリス。」
思い当たる事に、ドキリとして頷いた。
「確かにその通りです。でも、自然エネルギーを吸収すれば、回復します。」
「それは今まで知り得なかった大きな発見だった。だが、運が良かっただけだ。今まで何度か命の危機があっただろう。力が知られれば、その可能性は高まる。テナール王国では、リーリスの命を保証出来ないのではないか?」
お父様が厳しい視線をグレーシス様達に向けた。
スッとグレーシス様が、一歩前に出た。
「畏れながら国王陛下、我が国では、リーリスを決して危険にさらさず、守り抜き、生涯幸せにすると騎士の、いえ、夫の名にかけて誓います。」
当然のように、堂々と言い切ってくれた。
今すぐ抱き付いて、喜びを伝えたい位、嬉しい。
ティミラーお義兄様も一歩前に出た。
「私も王太子、いえ、次期国王として、リーリスを守るとお約束します。」
フレイルお義兄様も一歩前に出る。
「私もあらゆる権力を駆使し、次期宰相としてリーリスを守る手腕を発揮致します。」
私も続いて、一歩前に出た。
「お父様、私はグレーシス様と結婚して、お義兄様達と家族になれて、テナール王国の皆も優しくて、幸せです。私は私のやりたいようにして、利用なんてされていませんし、きっと、これからも無いと信じています。」
だからどうかお父様、新しく出来た家族を、獣人を信じて欲しい。
「気に入らない。」
お父様が顔をしかめた。
「お父様、どうして―――」
言い掛けた時、お父様に手で制されて、グッと口を噤んだ。
「我が国に貴殿等のような気概のある男が、一人でもいれば、リーリスを直ぐにでも婚約させたものを。しかし、居なかったのだ。それが気に入らない。」
お父様は、ふーっ……と呼吸を整えると、威厳のある声で言った。
「グレーシス殿下、ティミラー殿下、フレイル殿下、リーリスを頼む。私では閉じ込める事でしか、リーリスを守れなかった。貴殿等なら、新しい人生をリーリスに見せてやれるのだろう。」
「「「はい。お任せ下さい。」」」
グレーシス様達がお父様の目を見て力強く返事をすると、お父様が穏やかな表情になった。
「リーリス、よく帰って来てくれた。今日は疲れたであろう。別邸の客室は用意してある。皆でゆっくりと休んでくれ。明日は女神祭だ。済まないが、こればかりは宜しく頼む。」
「畏まりました。」
「貴殿等には申し訳無いが、結婚式当日までは身を隠して貰う。暫し我慢をしてくれ。だが、明日、リーリスには、癒し手を頼まねばならない。その同行なら許そう。長旅で疲れているだろうから、どうするかは自由に判断してくれ。」
「「「はい。」」」
謁見が終了して、お兄様達と別れ、グレーシス様達を私の別邸に案内する。
王宮には幾つもの隠し扉がある。
その扉は王家専用の通路に繋がっていて、その通路を使えば、誰にも会わずに私の別邸へ行ける。
謁見の間にも隠し扉があるので、そこから別邸へと向かった。
「私が過ごしていた別邸に客室を用意して貰いました。グレーシス様やお義兄様達には少し狭いと思いますが、我慢してくださいませ。」
「随分と静かだな。」
グレーシス様が呟いた。
「この通路は王家しか使えない通路なのです。誰にも会わずに私の別邸に着けるので、身を隠すには便利なのです。私の別邸には知っている方しか近付けない位、奥まった場所にあるのですよ。」
通路の行き着いた先の扉を開けると、庭園に出る。
緑の迷路のような道を、さらに奥へ歩いて行く。
「こちらです。」
アーチをくぐると、緑ばかりだった庭園から、ガラリと変わって、様々な花が咲き誇る、美しい庭園が現れる。
「これは、随分と素敵な場所だね。妖精が住んでいるみたいだ。」
「ここだけ別世界のようだな。」
ティミラーお義兄様とフレイルお義兄様が、周りを見回し、驚く姿を見て、嬉しくなる。
「でしょう?私が庭師と一緒に作った自慢の庭園なのです。」
「リーリスは、ずっとここで一人、暮らしていたのか?」
グレーシス様は、王宮から出られなかった私が、どんな生活をしていたのか気になるようだった。
「一人ではありませんよ。優しい侍従達が沢山いますし、家族や教育係も訪ねてくれましたから。さあ、邸に入りましょう。」
グレーシス様の手を引いて扉の前に行くと、勝手に扉が開いた。
「お帰りなさいませ、リーリス様、殿下方。」
侍従達が一斉に出迎えてくれた。
獣人について誤解しているせいか、皆、顔が強張って、緊張しているのが分かる。
「ただいま。こちらは私の夫、グレーシス様。こちらは王太子のティミラーお義兄様、こちらは次期宰相のフレイルお義兄様よ。見て、見目も麗しくて、素敵でしょう?こんな事しても怒らないわ。」
私はグレーシス様の尻尾を優しく手に持って、頬に寄せて、スリスリして見せた。
獣人は野蛮、獰猛で危険。そう噂されて、多くの人は、その噂を信じている。
だから、それは間違っていると伝えたかった。
私の言動に、侍従達が驚いた顔をして、固まっている。
「リーリス、皆驚いているぞ。逆効果じゃないのか?」
「私達の反応より、リーリスが尻尾を触った事に驚いているんじゃないかな。」
「それはあるな。リーリス、残念だが伝わらなかったようだぞ。」
フレイルお義兄様が、肩をポンポンして慰めてくれた。
おかしいわね。こんなに優しいのに。
「伝わらないかもしれないけれど、とっても優しい私の家族だから、怖がらないで欲しいの。」
一生懸命侍従に訴えると、クスリと笑い声が聞こえた。
幼い頃から世話をしてくれた侍女のミアだった。
「リーリス様が、こんなに生き生きとしているのですから、間違いありませんね。」
侍従達の緊張が、いつの間にか解けて、穏やかな表情になっていた。
「ええ、間違いなく素敵な旦那様とお義兄様よ。皆に自慢しに来たのだから。」
皆に受け入れて貰えた事が嬉しくて、笑みがこぼれた。




