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獣人王子と癒し手王女の政略婚  作者: アシコシツヨシ


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107 レミリオの呼び出し(グレーシス視点)

グレーシス視点です。

「グレーシス様、お兄様が二人で話したいそうですよ。男同士の話だそうです。何を話したか、後で教えてくださいね。」


リーリスに可愛らしくお願いされるのは嬉しいが、嫌な予感しかしない。


ノーネリア嬢を救出して、多少恩は売っておいたし、結婚式後の晩餐会で使う魔物肉も送ったから、百パーセントの拒絶は無いと思いたい。


客間へ行き、先程座っていた席に座った。


「グレーシス殿下、いや、グレーシス殿、腹を割って話そうじゃないか。」


レミリオ殿下は、明らかに物申したい様子だ。


「はい、レミリオ……義兄上(あにうえ)。」

私の方が二歳程上だが、呼び方は間違っていない筈だ。


「……歳上に義兄上と呼ばれるのは複雑だが、それは良いとして、テナール王国の結婚式は、か――な――り、質素だったようだな。」


明らかな嫌味を感じる。

確かに私達の結婚式は効率重視で、ティミラーに比べて質素と言える。


「あの時は人間に罹らない伝染病が流行っていて、リーリスが国を乗っ取る為に来た、と噂が流れていた。人間に対する拒否感も強く、私達だけでするしかなかった。今は違うが、正直言うと当時、私自身、結婚に乗り気ではなかった。」


レミリオ義兄上が、ギリッと奥歯を噛むような表情になった。

正直に言ったが、やはり怒らせてしまったか。


「……今は違うんだな。」

「ああ、リーリスを愛している。」


フッと敵意が少しだけ、和らいだ。


「……終わった事を言うつもりはないが、我が国には結婚式に指輪を贈り合い、互いの左手薬指にはめて、生涯の愛を誓う儀式がある。これは女性の憧れで、夢だと言われている。式は終わってしまったが、リーリスを愛しているなら、我が国の文化も取り入れてやって欲しい。私の我儘だから、指輪はサイズさえ教えてくれれば、私が用意する。せめてもの結婚祝いだ。」


レミリオ義兄上の言葉に驚いた。


「この国の女性は、結婚式に夢を持っているのか?」

リーリスは何も言わなかった。いや、言えなかったのか?


「テナール王国は違うのか?」

逆に驚かれた。

質問したのはこちらだが、まあ良い。


「我々は婚約した時点で浮気は罪となり、許されない。神に誓わずとも、一夫一妻制度で、死ぬまで一人だけを愛する法律だ。」


「浮気で罪か。跡取りが生まれなければ、側室を求められる我が国とは大違いだ。」


ヒト族は一度に一人産むのが一般的だから、男児の跡取が生まれなければ、好きでもない女性と関係を持たねばならないらしい。

セーラン王国の王太子もなかなか大変だな。


リーリスに何も与えていない。と思われるのは癪なので、聖獣祭の時、お守りにするアイテムを贈り合って、常に身に付けている話をしておいた。


「リーリスが着けていた、あの髪飾りがそうか。成る程。それはそれで良い文化だな。」


互いの文化に触れて、若干和んだ気がした。

レミリオ義兄上が真面目な顔になって言った。


「私は子どもの頃、病弱で長くない、と言われていた。元気なリーリスに八つ当たりして、お前が死ねば良い、と言った事がある。」


仲が良いと思っていただけに意外だ。

私は兄達と毛色は違っていたし、落ちこぼれだったが、そんなキツイ事、言われた記憶はない。


「で、そのリーリスに癒し手で助けられ、リーリスは力の使い過ぎで、本当に死にそうになった。私は元気になり学園にも通え、婚約者や友人も出来、王都へ遊びにも行けた。だが、リーリスは回復したら、力を隠す為に、王宮の別邸で引きこもり生活が始まった。結婚するまでずっと。」


話を聞いて胸が傷んだ。

今すぐリーリスを抱き締めてやりたい。


「リーリスは狭い世界で過ごしていたせいか、私が普通だと思える事でも、幸せを感じられる。良いことではあるが、(ないがし)ろにされても、気付かずに、幸せを見出だして仕舞うのではないか、と心配でもある。」


確かにその通りだ。流石、実の兄。リーリスを溺愛しているだけはある。


「言っている意味は理解出来るが、リーリスは自分で幸せを掴む力があるから、心配無い。既に我が国で多大な功績を上げ、勲章も二つ、いや、三つ授与されている。」


「未だ結婚して一年も経っていないのに、リーリスは何をしたんだ?」


癒し手で、我が国や他国で、獣人助けまくっていた。なんて言える筈がない。

利用している、と絶対に文句を言われる。


「我が国の秘匿事項に関わるから言えないが、リーリスを蔑ろにする者は居ないだろうし、居たとしても騎士達が許さない。私を初め、多くの騎士達がリーリスに忠誠を誓っているからな。」


「騎士が我が妹に忠誠!?私より王の資質があるのではないか?」


レミリオ義兄上が、驚きで頭を抱える気持ちも分かる。

リーリスは邸の者達を初め、私の知らない間に信者を増やしていたのだから。


「いや、王には向いていない。リーリスは優しすぎて、直ぐに自分を犠牲にしかねない。」

「そんな事、私が一番分かっている。グレーシス殿は、リーリスをよく見ているんだな。」


妹を持つ兄とは、面倒な生き物だな。大事にしないと許さない。と言いながら、兄より仲良くなるのは気に入らないらしい。

こちらの知った事ではないが。


「上手く行っていないなら、これを機に返さないつもりでいたが、心配が杞憂で何よりだよ。」


返さない事も考えていたのか。危なかった。

リーリスを大事にするのは当たり前だとして、面倒だが、文句を言われないように、これからもレミリオ義兄上には、定期的に恩を売っておく必要がありそうだ。

それより、大事な事を思い出した。


「ああ、そうだ、指輪の代金は私が支払うから、注文を任せたい。残念だが、装飾品に関しては、セーラン王国の方が、技術は高い。リーリスには良い物を渡してやりたい。」


「同感だ。良い店を知っているから、リーリスの誕生日には、間に合うように送ってやる。渡すには丁度良いだろう。」


確かにその通りだ。が、間に合うように、と言ったな。


「リーリス、誕生日、近いのか?」

「そう言うことは早く聞いておくものだろう。本当に大事にする気あるのか?」


おっと、また質問を質問で返された。しかも、若干怒らせた。これは不味い。


「済まない。失念していた。」

私の落ち度だから、謝るしかない。


「はぁ―――っ、四月二十日。絶対、忘れるなよ。」


盛大な溜め息を吐かれたが、教えてはくれた。

リーリスが関わっていると、レミリオ義兄上は思ったより寛大なようだ。


「ああ、四月二十日だな。感謝する。」


しまった。恩を売るつもりが、借りを作ってしまった。まあ、仕方がない。リーリスの為なら、背に腹は代えられないしな。


ようやく話が終わって、待っていたリーリスに、話の内容を聞かれた。

リーリスの事だけに言える訳がない。


「済まない、男同士の秘密だ。」

嘘は付いていない。


私が話すと思っていたのだろう。リーリスは意外そうな顔をしつつも、嬉しそうにして、ありがたい事に、深くは追究してこなかった。


私とレミリオ義兄上が仲良くなった、とでも思っているに違いない。


別に仲良くは……まあ、悪くはないか。


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