105 王家の別荘
再び馬車に乗り、三十分かけて目的地の別荘に向かう。
「ノーネリアお義姉様の結婚式は三日後です。明日の午前中に出発すれば、夕方には王宮へ着くと思います。」
私がテナール王国へ向かった時、確か王宮から一日でこの別荘に着いた。
「それでも、なるべく早く王宮に着いた方が良いな。明日も早朝に出発しよう。」
グレーシス様が提案した。
「それが良いね。また奇襲に合うかもしれない。」
ティミラーお義兄様の言う事も一理ある。
用心に越したことはない。
「私の為に申し訳ございません。」
誘拐されて、大変な思いをしたノーネリアお義姉様が、謝る必要なんてないのに。
「私達はお義姉様とお兄様の結婚式に参列する為に来たのです。主役が居なくては、来た意味がありません。目的は一緒なのですから、気にしないで下さいね。」
「有り難う。」
お義姉様の手を取って微笑むと、美しい笑みを返してくれた。
話し合いが落ち着いた頃、馬車が王家の別荘に到着した。
入り口のエントランスには、王家の別荘を取り仕切る、執事のサイモンと侍従達が一斉に出迎えてくれた。
「リーリス殿下、お帰りなさいませ。テナール王国の殿下方、よくお越しくださいました。ノーネリアお嬢様もご無事で何よりでございます。」
久し振りに見た顔ぶれに安堵した。
「レミリオ殿下には早馬を向かわせました。怪我人も安静にさせています。襲撃犯は今から牢へ連れて行きます。」
「有り難う、サイモン。後は宜しくね。」
「お任せくださいませ。」
サイモンは癒し手について知っているので、怪我人も任せられ、頼りになる。
「では、明日、朝六時に出発しよう。」
集合時間を確認し合って、客室へ向かったのは、確か夜十時頃だった。
客室に入って直ぐ、グレーシス様が、背後から抱きついてきた。
「はぁ――――っ……。やっとか。」
長い溜め息が聞こえてきた。
「グレーシス様?どうしましたか?お加減でも悪いのですか?」
昨日はノーネリアお義姉様の救出、今日は奇襲され、護衛騎士の助太刀。それに、明日も早い。
流石のグレーシス様も疲れたのかも知れない。
「いや、体調は何も問題無い。ただ、暫くこうさせてくれ。」
目を閉じて俯いているグレーシス様の顔が、私の首筋辺りにある。
馬車に乗っていただけだし、騎士に癒し手をしたくらいで、そんなに汗はかいていない筈。
でも、気にはなる。
「私、きっと汚れています。せめてお風呂に入ってからにしませんか?」
ハッと我に返ったように、グレーシス様が手を離した。
「すまない。汚さで言えば、私の方が汚いな。」
そんなつもりで言った訳じゃないのに、誤解させるような言い方をしてしまった。
「私が気になっただけで、グレーシス様は汚くなんてありません。」
振り向いて、グレーシス様に抱き付いた。
「いや、私は戦ったし、絶対汚い。リーリスが汚れるから、離してくれ。」
「気にしませんし、離れません。」
少し意地になって、グレーシス様の腰に腕を回して、外れないように手を組んだ。
「私が気にする。リーリスが言った通り、風呂に入ってからにしよう。」
「私、グレーシス様を、汚いなんて思っていませんよ?」
顔を見上げると、クスリと笑われた。
「分かったから、手を離してくれ。これでは抱えて、一緒に風呂へ連れて行かなければならなくなる。」
「え?」
一緒にお風呂!?無理無理、それは恥ずかし過ぎる。
慌てて腕を解いた。
先にお風呂に入ったグレーシス様は、きっとベッドで横になって、私を待っていたのだろう。
私がお風呂から出ると、グレーシス様は眠りに落ちていた。
きっとお疲れなのね。
侍女を下がらせて、そっと隣に転がると、気配を察したのか、腕枕するように腕が伸びて来た。
頭を乗せると、肘が曲がってグレーシス様の胸に引き寄せられる。
あまりにも毎日の事なので、もう無意識なのだろう。
「お休みなさい。」
頬を胸元に寄せて目を閉じた。
翌朝、鍛練から客室に戻って来たグレーシス様が、少し、ふて腐れていた。
「気付いたら朝になっていた。邪魔者ばかりで、あまり触れ合えないから、もう少しリーリスを堪能したかったのに。」
不意に抱き締められて、耳をハムッと食べられた。
「ひゃっ!」
突然の出来事に、ビクッとして、思わず変な声をあげてしまった。
「あっ、あの、グレーシス様……、その、そろそろ、待ち合わせの時間が……。」
「分かっている。まだ、もう少し平気だ。」
部屋を出る直前まで、グレーシス様は私の耳を唇で捕まえたまま、抱き締める腕を離してくれなかった。
どうしよう、顔の火照りが暫く取れそうにない。




