102 国境を越えて
三日後、国境へ到着すると、セーラン王国の騎士と侍従が、ずらりと並んでいた。
私が国境を越える時に、送ってくれた顔ぶれが見えて、懐かしくなる。
一人の騎士が、私達の前にやって来た。
彼の事もよく知っている。
「私は王国騎士団、第一騎士団団長のロベルタと申します。殿下方が再び国境にお戻りになるまで、護衛の責任者となっておりますので、宜しくお願いいたします。彼ら六名は、これから殿下付きの専属侍従になります。何なりとお申し付け下さいませ。」
侍従達は王宮の中でも責任者を勤める程の顔ぶれだった。
お兄様が失礼の無いように、気を配っているのが窺える。
でも皆、歓迎。と言うよりは、どこかよそよそしい緊張した雰囲気があった。
私がテナール王国へ来た時と同様、国境は私達参列者しか越えられず、馬車もセーラン王国の馬車に乗り換え、荷物も移動する。
護衛も侍従も連れて行けない。
獣人の騎士ならば、十分で終わる荷物の積み替えが、人間だと一時間はかかる。
その間、セーラン王国の侍従達が、テキパキとテーブルと椅子を設置して、お茶や軽食を用意してくれた。
「待ち時間は長いけれど、お茶出来るのは良いね。セーラン王国の紅茶と軽食は、なかなか美味しいね。」
ティミラーお義兄様が優雅に紅茶を楽しんでいる横で、フレイルお義兄様は、難しい顔をしている。
「護衛を一人も連れて行けないのは痛いな。セーラン王国の騎士を信用して良いものか。」
「フレイル、護衛なら私がいる。それに護衛なんて我々には、そもそも必要無いだろう。」
「護衛が必要無いなんて、お義兄様達も強いのですか?」
王族はそもそも守られる立場なので、そんなに強い必要は無い筈だけど。
「多分私が一番弱い。」
「ええ!?グレーシス様が!?」
驚く私に、ティミラーお義兄様が、笑いながら首を横に振った。
「いやいや、今はグレーシスが断トツで一番強いよ。私とフレイルは同じ位かな?」
「いや、多分私が一番弱い。ティミラーと違って私は万能型ではない。」
「そんな事を言っているが、兄上達は強い。私は兄上達の数倍鍛練して、やっと同等なんだ。同じようにされたら太刀打ち出来ない。」
「いや、グレーシスみたいな鍛練なんて無理だよ。」
「だな。」
お義兄様達が剣を振っている姿は、想像出来ないけれど、グレーシス様が言う位だから、強いのは確かみたい。
護衛が必要無い、と言うのも納得出来る。
兄弟の意外な力関係に驚いた。
話をしていると、一時間は直ぐに過ぎて、出発の準備が整った。
馬車に乗り込む前に、ロベルタからフード付きのローブが渡された。
「今回、殿下方の結婚式参列は、当日まで内密となっております。当日まで正体が知られないよう、念のため、我々と同じ、こちらのローブを常にご着用をお願いいたします。」
「獣人だと騒がれても面倒だし、仕方ないね。」
ティミラーお義兄を初め、私達はローブを着用して、一緒に馬車へ乗り込んだ。
馬車は六名乗りで一台の用意なので、私とグレーシス様が隣同士に座り、お義兄様達が向いに座った。
馬車が出発して、国境を越えた頃、雨が降って来た。
次第に雨足は強くなる。
三月になったばかりの雨はまだ冷たく、ここはまだ山なので気温も低い。
「国境を越える前は晴れていたのに。国境を越えた途端に雨とはね。何か良くない事が起きなければ良いね。」
「全くだ。幸先が悪い。」
ティミラーお義兄様とフレイルお義兄様の会話を聞いて、ブンブンと首を振った。
「そんな、偶然ですよ。山の天気は変わりやすいと聞いた事がありますもの。」
「そうだな。例え何があっても我々がいれば問題無い。」
私の不安な空気を察したのか、グレーシス様がローブごと私の肩を抱き寄せて、ふわりと包んでくれた。
心地好いグレーシス様の低い声と、暖かさを感じながら、膝にポスンと乗って来た、尻尾のふわふわに触れると、心が安らいでいく。
きっと大丈夫。あんな噂……。
グレーシス様の胸元に頬を寄せて、不安感を押しやった。




