101 いざセーラン王国へ
朝八時、三月五日に行われるレミリオお兄様の結婚式に参列する為、セーラン王国へ向けて出発する日がやって来た。
王宮の馬車を待機させている停車場には、馬車三台と荷馬車二台。
そして、王太子であるティミラー殿下が従える近衛騎士十名と、王魔討専部隊十名、侍従六名が整列して待っていた。
「皆さんおはよう、国境までよろしくね。」
「「「はい。」」」
挨拶すると、一斉に揃った返事が返ってきた。
グレーシス様に手を借りて馬車に乗り、私に続いて馬車に乗ったグレーシス様が、ジト目になった。
「何故、ティミラーとフレイルが私達と同じ馬車に乗っている。二人は別の馬車に乗るのではなかったか?」
「たまには良いじゃないか。兄弟で旅行なんて、滅多に無いしね。リーリスはグレーシスと、これからずっと隣だから、こんな時位、私達の隣においで。」
ティミラーお義兄様が隣を促し、フレイルお義兄様も端に寄った。
馬車内は三名が横並びに座れる広さで、向かいにも同じ席があり、計、六名が乗車出来る。
「ティミラーは仕事から暫し逃げたいだけだ。リフレッシュさせたら、あちらへ移るから、たまには許せ、グレーシス。」
フレイルお義兄様の言葉に、グレーシス様が溜め息をついて、私の背中に手を添えた。
「仕方ない。リーリス、付き合ってやってくれ。」
「はい。では、失礼しますね。」
ティミラーお義兄様とフレイルお義兄様の間に座った。
「こんな時にもお仕事なんて、大変ですね。」
ティミラーお義兄様の執務室に呼ばれた時、大量の書類が高く積まれていたのを思い出した。
「帰国したら直ぐに生誕祭だからね。色々確認して書類仕事は終わらせておかなければならないんだ。」
折角の旅行なのに仕事なんて勿体ない。
「何か私に、お手伝い出来る事はありますか?」
ティミラーお義兄様の獣耳がピコッと動いた。
「リーリスは優しいね。フレイル、リーリスにやれる事はある?」
「ある。手伝ってくれるなら助かる。」
「リーリスが手伝うなら、私も手伝おう。」
「「グレーシスが?」」
ティミラーお義兄様とフレイルお義兄様の声が揃った。
グレーシス様は優しいので、そんなに驚く事ではないと思うけれど。
不思議に思っている間に、馬車は動き出し、王宮を出発した。
私がテナール王国へ来る時は、王都にある外交官の邸に一泊したけれど、今回は王都を素通りして、宰相イーサンの領地にある邸と、辺境のギルバート団長の邸に宿泊する。
通常、領地に王太子が訪問するとなれば、お祭り騒ぎで歓迎会が開かれる。
けれど、今回はセーラン王国へ行くための中継地として宿泊するだけなので、領民には公に知らせず、歓迎会は不要と通達して、宿泊先の邸には夜遅く到着する予定になっている。
王宮を出発して、王都を通り過ぎ、田舎道が続く。
途中、馬の休憩と昼食を兼ねて、広く美しい草原に馬車が停まった。
昼食は、事前に作ってくれたお弁当を、外で食べるらしい。
侍従がテキパキと敷物を敷いたり、お弁当や紅茶を用意している。
「外で座って食べるなんて初めてです。」
「そうか、結構心地好いものだ。」
グレーシス様がエスコートしてくれる。
「リーリス、早く座りたまえ。」
フレイルお義兄様がに座るよう、促してくるので、グレーシス様と敷物の上に座った。
「リーリス、このサンドイッチは絶品だよ。」
ティミラーお義兄様が美味しそうに食べながら教えてくれた。
「そう言うならリーリスにやれよ。」
グレーシス様が呆れている。
「全員分あるから怒るなよ、グレーシス。」
「全員分だと?ティミラー、二つ目いってるだろう。」
「え?そうだった?」
「リーリス、早く食べないとティミラーに全部食べられるぞ。」
グレーシス様がサンドイッチを手にして、ティミラーお義兄様と言い合いをしているのが新鮮だった。
「そうだぞ、リーリス。早く食べないと無くなる。」
口をモグモグと動かしているフレイルお義兄様を見たグレーシス様が、眉をつり上げた。
「フレイル、お前も二つ目食ってるだろう。」
「そうだったか?」
グレーシス様とお義兄様達のやり取りを呆気に取られて見ていると、背後から声がした。
「妃殿下、ご安心を。別に取ってございます。」
同行してくれたマイが、そっとサンドイッチを盛った皿を渡してくれた。
そして、耳打ちして教えてくれた。
「殿下達は基本的に食いしん坊ですから、このような形で一緒に食事したら、先ず自分のペースでは食べられません。だから、対策は必須なのです。」
「グレーシス様、私は取って貰ったので大丈夫です。グレーシス様も負けずに食べて下さいね。」
「そうか、良かった。」
グレーシス様は私が手に持っているサンドイッチをパクリと食べた。
驚いていると、同じ種類のサンドイッチを私の皿に置いてくれた。
「リーリスが持っていると、旨そうに見えて困るな。食べた分は返すから安心しろ。」
グレーシス様の行動に、何だか笑ってしまった。
「他人の物が美味しそうだなんて、グレーシス様も思ったより食いしん坊なのですね。」
「リーリス限定だ。決して食いしん坊ではない。」
普段紳士なグレーシス様や、お義兄様達が、意外にも食いしん坊だったり、兄弟で遠慮なく言い合いをしている姿は、とても新鮮だった。
その輪の中に居ると、前よりも仲良くなれた感じがして、皆で同じ敷物の上に座って食べる昼食は、とても楽しかった。




