本当の鬼は誰なのか?
桃○郎ってあるじゃないですか。そう昔話のアレ。子供の時から「おばあさん、その桃をそのまま切ったら中にいる赤ん坊も真っ二つやんけ。」と思ってました。そこから着想し、主人公が桃から生まれない世界線でバトルモノになるよう書き始めました。あと原作だと桃という可愛らしい果物から生まれてくる主人公が男っていうのが解せん。だからこの話では女主人公にしてみました。何はともあれ、どうぞ本編をお読み下さい。
昔々あるところに
おじいさんと おばあさんが
ひっそりと住んでいました
ある日おじいさんは山へ芝刈りに おばあさんは川へ洗濯しに行きました
すると川上からどんぶらこどんぶらこ、と大きな桃が流れてきました。
おばあさんは桃を持ち帰り、食べやすいよう切り分けました
ゴリッ
桃を切り分けている途中、何か異質な手応えを感じた途端、中から大量の赤い液体が噴き出して来ました。
おばあさんは初めての出来事に恐れ慄きながらも、その「何か」を確認してみることにしました。
──ズルッ ズルルッ…
赤い液体に塗れて、桃の中から出てきたのは赤ん坊の頭部。
おばあさんはこの瞬間、大量の冷や汗をかき、桃を切り分けた時の違和感を思い出しました。
食用の鶏を屠殺する時の…首を切る瞬間の…あの感触と酷似していました。
するとそこへ、おじいさんが帰宅
おばあさんは慌てて状況を説明し、おじいさんにも確認してもらいました。
「信じられない事じゃが…どうやらこの桃の中に、赤ん坊が入ってたんじゃ」
「おじいさん…!わたし…わたし」
「ばあさんは何も心配せんでええ」
そう言うとおじいさんは芝刈り入れを持ち出し、桃と赤ん坊の遺体をそのカゴに詰め、どこかへ行きました。
しばらくすると、おじいさんは帰ってきました。
「おじいさん…」
「あの赤ん坊はバラしてうさぎ肉として売った。今晩はその売上金でとびっきりのご馳走を食べようじゃないか」
おばあさんは、おじいさんの心の中に鬼が住んでいる。と恐怖しました。
──この時からおじいさんは、壊れていたのです。
そして、2日後の日の出前。
──ドンドンドンッッ!!
「ん〜…なんじゃこの夜明け前に誰じゃ、姦しいのう」
ドンドンドンッ!!
「おい!ここに変な肉を売りつけてきたジジイが居るのは分かってんだ!早く板戸を開けい!!」
「なんじゃ、一昨晩あの肉を買った若造か…」
おじいさんは、おばあさんを起こし「代わりに出ておけ」と小声で告げる。おじいさんのばつの悪そうな顔と板戸を叩く青年の荒げた声を聞いて、おばあさんは悟った。
おばあさんが板戸に近寄るのを見届けたおじいさんは、裏口へと回る。
「あらあら、どうなさいました若いの。おじいさんはもう、山へ芝刈りへ出かけましたよ」
「ふざけろ!こんな日の光も出てない刻に山へ出かけただぁ!?てか芝刈りってなんだ!?雑草を刈って何がしたいんだ!?戯言はいい!ジジイを差し出せ!!」
「それじゃあ若いの。後でおじいさんへ言伝しときますので何用で参られたかお教えくだせぇ」
「2日前の夕刻に、ここのジジイからうさぎの肉と言われ、俺はその肉を買った!だがその肉を食べたらうさぎの肉ではないじゃあないか!あれは何だ!?一緒に食べた妹は体調を崩し倒れた!!一体…一体なんの肉だったのだ!?」
「芝じゃ」
「あぁ!?ふざk──
───シュンッ!
おばあさんは気付いていた。青年の背後へ忍び寄るおじいさんを。おばあさんは見てしまった。おじいさんの持つ鎌が、青年の喉元へ深く、深く刺さるのを。
そして、刺さった鎌を青年の喉を裂き切るように引き抜き、家屋の前は迸る真っ赤な血で染まる。
「終わりじゃ」
「て……め…ジジ…ィ ……」
裂かれた喉から空気が漏れ出て、声にならない声でおじいさんに叫ぼうとする青年はそこで事切れる。
「お…おじいさ──
「どうじゃ、ばあさんや。これが半年間毎日続けてきた芝刈りの技術じゃ。凄いじゃろう?」
おばあさんは絶句した。赤ん坊の肉を売ってきたおじいさん。目の前で人を殺めたおじいさん。その時のその顔は、長らく共に過ごしてきたが、初めて目にする顔であった。
まさに鬼の顔。いや、鬼が嗤ったような顔。
「鬼じゃ…おじいさんは鬼に成ったんじゃ」
おばあさんは思わず口にしてしまった。
するとギロリとおばあさんを睨め付ける。
「…儂が鬼じゃと?」
「あぁ…ああああ…」
蛇に睨まれた蛙のようにおばあさんは怯えたが、おじいさんは告げる。
「人を殺めた儂を鬼じゃと言うであれば、ばあさんも鬼じゃ。まだ目も開かない赤ん坊をその手で殺めたのじゃからな」
「そんな…わたしゃ…ただわたしゃあ、桃を切っただけじゃ!楽しんで人を殺めたおじいさんと違うわ──」
「───儂は!!ばあさんの為に殺ったんじゃ!」
おじいさんは叫ぶ。
「ばあさん一人を人を殺めた罪人にする訳にはいかんじゃろう!!余生は全てばあさんと過ごすと決めておった!ばあさんが罪人ならば儂も罪人に成らねばなるまい!」
「おじいさん…」
「産まれた地も産まれた刻も違うが、死ぬ刻は共に逝きたいんじゃ……!いつか…いつか奉行所の者が儂らを捕らえ、斬首の刑にされようとも!その刻まで…」
おばあさんは涙を零した。
おじいさんの言ってることが…本当に訳が分からない。
別の選択肢もあっただろう。
どうせ死ぬのであれば、人を殺め罪を重ねるようなことはせず、二人揃って腹を切れば良かったのだ。
罪もない若人をその手にかけずとも良かったのだ。
おじいさんは優しい人だった。若かった頃のおじいさんは虫も殺せぬ臆病者だったが卑怯者でも鬼でもなかった。弱き者を助け強き悪者に抗う。そんな人だった。そんな人であったから嫁いだのだ。その優しさ温もりが心地良くて、共に最期を添い遂げるつもりだった。
その時おばあさんは理解した。優しい人だったからこそ、赤ん坊の血と死体を見て、おじいさんの中で何かが切れて、土砂崩れのように壊れたのだろう。
全ては、赤ん坊に手をかけたおばあさんの所為なのだ。
川上から流れてきたとはいえ、何処から出てきたかも分からない桃を拾い食いしようとしなければ…卑しいことをしなければ良かったのだ。
おばあさんの中で様々な後悔が渦巻いた。
「……ばあさんや、もう心配することはないんじゃ。すでに犯してしまったことは、どうしようもない。それに──」
落ち着いた声でおじいさんはおばあさんに語る。
「──死んでしまった動物は、それはもうただの肉の塊じゃ。ばあさんが切ったのは赤ん坊の形をした肉。儂が殺したのは人の形をした肉じゃ。じゃから、心配することはないんじゃて。」
「……そうじゃな、おじいさんや。」
後悔で身が裂かれそうになっていたおばあさんは、おじいさんの言葉を受け入れることにした。
そうしなければ、もうどうしようも無い。やりきれない。
おばあさんも鬼になった。
くふふゅ…あっひゃっひゃっひゃっ!
あははは…あーはっぁあはっぁあっ!
おじいさんとおばあさんの嗤い声が響く。
それは二人の間で倒れている青年を咲うかの如く。
二人は鬼となった。もう此処には壊れたように嗤う鬼しかいない。
「……ひゃっひゃっ…どうじゃばあさん。気は澄んだかえ?」
「えぇ、おじいさん。」
「なぁに、奉行所の者もすぐには来ないじゃろ。ひょっとすると、捕まるより先に寿命が来るじゃろうて」
「えぇ……えぇ、おじいさんの言う通りじゃ───」
「───それはない。」
突如、林から声が聞こえた。
おじいさんは振り向き、声のした方を探す。
すると、林の陰から一人の目を腫らした女の子がそっと出てきた。時々鼻をすするところを見るに、ほんのついさっきまで泣いていたことが分かる。
突然の事に二匹の老鬼は驚く。
「お前さんは…誰じゃ。それはない、とはどういうことじゃ。」
「肉を売ってきたというジジイの所へ行くと言い残し、飛び出した兄上を追ってきた。そこに横たわる者の…妹だ。」
「…ほう?」
「貴様ら…貴様らよくも兄上を殺したな…!」
「ほう……その様子じゃと、お前さんは全て見ていたんじゃな?」
「…なぁ、おじいさんや。この娘も殺りましょうよ」
「そうじゃな。全て見られたからには生かしておけん。」
おじいさんは再び鎌を強く握り、女の子へ歩み寄る。
殺気に満ちたその目は真っ直ぐと女の子を見据えている。
鎌の切っ先が届く間合いに入る。すると、躊躇なく女の子へその凶刃が降りかかる。
───だが、その凶刃が届く前におじいさんの腕が突如折れる。
一瞬の間に女の子はおじいさんへ間合いを詰め、女の子の力とは思えないその握力をもって、おじいさんの腕を掴み、枯れ葉を握り潰すかの如く骨もろとも砕いた。
本当に一瞬の出来事であった。
そして痛みがドッとやってくる。
「うぎゃぁぁぁあああああぁあぁぁ!!!」
「おじいさんッ!!」
おじいさんの断末魔のような悲鳴がおばあさんの声を遮り、聞く者にもその痛さが分かるくらい響き渡る。
「随分痛そうだなじじい。でも兄上の死に際の痛みはそんなものではないぞ。」
女の子がそう言った瞬間、今度はおじいさんの両膝を掴み、関節を砕く。
「ああああああああぁぁぁぁあ!!い、痛いッッ!!やめ…やめとくれぇええええ!!」
「言ったであろう。『それはない。』と…てめぇらの寿命や岡っ引きが来る前に、ここでアタシが、お前らを殺すからな。」
そう言うと女の子はおじいさんの頭を掴み、これもまた握り潰す。
───ゴシャアァッ!!
頭が潰れる音と共に、おじいさんの脳漿が飛び散る。
「あ………あぁ…」
一瞬の出来事に、おばあさんは腰を抜かし座り込む。
「次はお前だ」
返り血に染まった女の子は、座り込むおばあさんの元へ歩み寄る。
「……わ、わたしゃあ何もやっとらん!何も──」
弁明しようとしたおばあさんへ、とんでもない速さで一気に間合いを詰める女の子。そして、座り込むおばあさんの首を掴み、言う。
「何もやってない?じゃあ何故兄上は、お前らの足元に…血を流して倒れているんだ?」
「わたしゃなn───」
ブッチッパっ!
女の子の握力により首が握り潰され、何か言いかけたおばあさんの頭が奇妙な音を立てながら胴体から切り離される。
───ドサッ!
首のないおばあさんの体が、地面へ崩れるように倒れる。
「……こいつらは、鬼だ。本物の。」
女の子は空を仰ぎ見る。空は綺麗な朝の日の光が広がり、眠っていた鳥が餌を求め飛び立つ。
「そしてアタシも…鬼…だ…」
俯き、女の子は言う。
兄の死を認めたくないのか、おばあさんの死体の横に転がる兄の亡骸を見つめても涙が出ることはなかった。いや、涙はとうに枯れ果てたのだろう。兄の死をその目で見てしまったのだから。
──しばらくして、女の子は思う。
自然な身のこなしで二匹の鬼を葬った女の子は今更ながら気付く。
この力はなんだ?と
兄が買ってきたうさぎの肉を食べて体調を崩し、そして快復したら体の調子が良かった。
いや、体の調子が良かった…というのは控えめな表現かもしれない。
身体能力が飛躍的に上がっていた、と言うべきか。
まず鬼を屠ったその握力。そして瞬時に間合いを詰められる脚力。振り下ろされた鎌を見切る反応速度。
単純だが、どれも人間を超越している。
「……フフ、そうか。」
女の子は再び空を仰ぎ見る。
「この世はどこに悪意が潜んで居るのか分からない。だからこの力でその悪意に立ち向かえ、というのだな…兄上。」
兄は人格者だった。当たりは強いが曲がったことが嫌いだった人だ。そんな兄が近場に住むこの鬼たちを良い人だと影で誉めていたのを思い出す。
「人は…いつ何処で過ちを犯すかわからない。白だった物が簡単に黒く染まる。この鬼達のように。そして、このアタシも。」
女の子は決意する。
「それならば、黒に染まった者らしく───鬼退治をしよう」
───その女の子の名は千寿菊桃
これは、後に語られる昔話の実話。そして戦いの物語。
第一話を読んでいただき、ありがとうございました。
女主人公の名前の由来は割と安直です。
千寿菊には「悪を挫く」「勇者」「友情」という意味と「嫉妬」「悲哀」「別れの悲しみ」という意味の花言葉を持つ花です。英語名はマリーゴールド。はいそこ!マリーゴールドと聞いてダサいと感じたそこのキミ!そうね、確かに英語名はダサい。というか小学生の時に育てたことがある。だから余計にダサいと感じる。それなら和名の千寿菊の方が良い。と俺は思う。だから桃○郎をベースにしたの。異世界転生とかしちゃうと逆に和名がダサくなるからね。
雑談はここまでにして…
誤字脱字があればご容赦ください。僕自身そんなに賢い人間ではないです。はい。
でも小さいオツムを振り絞って伏線とか張っていますので、よろしければ今後も読んでいただきたいと思います。