時間
俺が高校に入ると同時にあいつは死ぬ。
あいつと俺の時間の流れる速さは同じなはずなのに、時間の長さは俺の方が長い。
ただこんなふうにベッドに横になっているだけでもあいつは残りの時間を消費してしまっている。
俺はただこうしてベッドに横になっているだけでも時間は進むだけ、まだまだ時間は残されている。
きっとみんなもそうだ、時間の流れは絶対なのにどうしてこんなにも長さが違うのだろう。
皆のだらだらした時間をあいつに分けてあげてほしい、そうすればあいつの時間も増えるのに、どうして自分の時間を大切にしないんだ。
頭が悪いのに難しいことを考えていたら頭が痛くなってきた。
コンコン
ドアを叩く音がする。
「一真、少しいいかい」
その声は父さんだった。
「何だよ…」
「一真が何を悩んでいるのか教えてほしいんだ。父さんも少しは役に立てるかもしれないし」
「いっつも母さんの尻にひかれている父さんに何ができるんだよ」
「はは、それもそうなんだけど、まあ、息子の話くらいは聞いてあげられるかと思って」
何故か分からないけど、俺は今までのことを父さんに話した。
どうして話したかは分からない、でもきっと誰かに聞いてほしかったんだと思う。
「そうか、そうだったんだ。大変だったんだな、一真」
「そうだよ、大変だったんだ」
「一真、僕がいえることじゃないかもしれないけど、1人で抱え込んでいてはだめだよ。一真1人ではできることが限られてくる、そんな時にこそ周りの人に助けを求めるんだ。きっと一真の助けになってくれる、一真1人の時間ではものすごい時間がかかってしまう事でも、多くの人の時間を合わせれば、一真1人でやる時の何倍も速く大きなことが出来る。もう一度思い出して、一真1人ではここまで生きてこれなかったんだから。父さん、久しぶりに父さんっぽく話せてるんじゃないかな」
「うるせえよ…でも、言っていることはなんとなく分かる」
「時間がないんだろ、すぐに行動に移さないと、一生後悔することになるよ」
その時の父さんの顔は何を思い出しているような顔だった。
俺は吹っ切れた。
「巻き込んでやる。大勢の時間を奪って必ず実現させてやるんだ」
俺はベッドから飛び上がり、階段を下りて食卓テーブルに座った。
「母さん、飯、いつもの2倍で頼む。俺にはやらなきゃならないことが出来た。だから高校の話をするのはまた今度」
「は~、お父さん、いったい何を言ったの」
母さんはあきれたように夕食を盛ってくれた。
「特に何も言っていないよ、「一真!がんばれ!」って願を飛ばしてやったのさ」
「あなた、そういうタイプじゃないでしょ」
父さんは「はは、」と笑いながら薄くなってきた頭を搔く。
「これ食って、早く寝て、明日早く起きて、俺のできること全部やる。ご馳走様」
「ちょっと、ちゃんと噛んで食べなさいよ!」
夕食を食べ、風呂に入り、歯を磨き、ちょっとの勉強をして、すぐに寝た。