余命
2022年2月12日
「この場所に来るのももう何回目だろ」
病院のホームを歩きながら、考える。
「柊君、今日もお見舞いに来たの?」
「こんにちは、弥生さん今日もお仕事お疲れ様です」
「毎日毎日、偉いわね、春ちゃんもうれしいでしょうね」
「はい、あいつには俺しか友達がいないから」
「ちょっと!あんた以外にも友達くらいいるわよ」
「春ちゃん!ちゃんとベッドで寝てないとだめじゃない!」
「だって、ずっとベッドにいるの退屈なんだもの」
「その為に、俺が毎日来てやってるんだろ」
「あんたも毎日毎日来てるんじゃないわよ。暇人なの?あんた、高校にちゃんと行けるの?」
「俺を甘く見るなよ!ここから一番近い高校を受けるつもりでいるんだよ」
「ここから一番近い高校?もしかして、藤高校!県で1番難しい高校に行こうとしてるってこと」
「その通り、先生からは無謀だとか、受かったら全裸になって校庭で愛を叫んでやるとか言われてるけど、毎日少しずつ勉強してるんだぞ」
「あんたが勉強なんて信じられない!」
「はいはい、おしゃべりはその辺にして、春ちゃんは今すぐベッドに戻る」
「は~い」
「柊君もお喋りをするなら、春ちゃんの病室で」
「すみません、春がいきなり突っかかってきたもので」
「何ですって!」
「はいはい」
俺の名前は柊一真、ピッチピチの中学3年生、普通の中学生は今、受験勉強の真っただ中、俺は県で1番大きい病院の中にいる。
どうして俺がここに居るかというと、俺の知り合いが、この病院に入院しているんだ。
昔から体調を崩しやすい奴だったけど、ここ1年間はずっと病院のベッドの中の生活になってしまっている。
気分がいいと、ベッドを飛び出して俺に絡んでくる余裕があるが、体調が悪い日だと、ほとんど口もきけないような日もある。
なんで俺が毎日毎日、病院にお見舞いに来るかというと、実は俺の知り合いには時間が残されていないらしい。
初めて聞かされたのは数ヶ月前。
(数ヶ月前)
「あんたまた馬鹿なことしてんじゃないの?」
「最近は控えるようにしてるんだよ」
「それで、そろそろ好きな人でもできたんじゃないの、あんた性格はあれだけど、顔は良いから結構女子受けいいんじゃない」
「そりゃあもう、学校ではもてまくりよ、今日も何十人の女子から告白されたけど、全部断ってきた」
「ふふ、噓苦さ」
「あ~、信じてないな!」
こんな他愛もない話をしている中。
「柊君ちょっと」
「弥生さん、どうしたんですか?」
「ちょっと運んでほしいものがあって」
「行ってきなさいよ」
「分かった。弥生さんどれを運べばいいんですか」
「ちょっと、こっちに来てくれる」
「?」
付いていった先には堂島先生がいた。
「先生、どうしてここに?」
「柊君落ち着いて聞いてほしい」
「?」
「春ちゃんの余命はあと半年しかないんだ」
「え…」
衝撃だった、さっきまで普通に話している相手が後半年の命だと言われた。
「う、嘘ですよね」
「まぎれもない事実だ、今回で2回目の手術を行ったが、新に腫瘍の転移が発見された、ステージは4、回復する可能性は極めて難しい」
「このことを春は知っているんですか!」
「まだ知らせていない、ご両親からの要望で出来るだけ話さないようにしている。しかし、自分自身の体だ、きっと気づいていると思う。自分には時間が残されていないって」
「ど、どうにかできないんですか、もう一度手術するとか、なんか」
「もう一度手術するにしても、転移した場所が手術するのが困難な場所にあり、それにもし成功したとしても、さらに転移する可能性が高い、万が一の場合、そのまま亡くなり残りの時間を縮めてしまう可能性もある」
「だ、だってさっきはあんなに元気だったじゃないですか」
「君の前では、元気でいようとしているんだ、いつもはもっと苦しそうな顔をしている」
「そ、そんな」
受け入れられなかった、先生と話して頭がぐるぐる回転している、志向が整理できない。
「どうして俺に教えたんですか」
「君にお願いしたいことがあるんだ」
「何ですか!俺にできることなら何でもします」
「あの子の傍にいてあげてくれないか?」
「どういうことですか?」
「春ちゃんのご両親から君のことを聞いたんだ、春ちゃんの一番の友達で昔からいつも一緒にいたそうじゃないか」
「そ、それはそうですけど、でも、それは、あいつが病気がちでよく虐められていたから、それをかばっていただけで」
「経緯は関係ないんだ、ただ、今の春ちゃんに必要なのは、病気と闘う気持ちなんだ、病気と闘うとき、1人では到底太刀打ちできない、でも自分の信頼できる人、大好きな人、大切な人がそばにいれば生きたいって強く思うことが出来るんだ」
「お、俺がそんな存在になれるんですか」
「なれる、いや、ならなければならない、あの子を助けたいのであれば。でも、この選択は君の人生で大きな傷になってしまうかもしれない。だから、君の意志で決めてほしい、最悪、君は最愛の人を失うことになる、それでも彼女の傍にいてあげられるのか」
「お、俺は」
「ねえ、柊君」
「何だよ」
「どうしていつも守ってくれるの?」
「別に、守ってるわけじゃねえよ。俺がいたい場所にいつもお前が突っ立ってるだけだ」
「じゃあ、私がいるところに、柊君は来てくれるってこと?」
「お前が俺のいたい場所にいるならな、俺のいたい場所を荒らそうとするやつがいたら、その時は守ってやるよ」
「うん!」
「は、はは、あいつのいる場所はいつも俺のいたい場所なんです。だから、やります、やらせてください、たとえ、俺の心に大きな傷が残ったとしても、ここでやらなかったらきっと俺、生きてく中でそれ以上の傷になってしまうと思うんです。だから、やります」
「そうか、よろしく頼む」
「でも、そばにいるってどういう事をするんですか」
「特に何もしない、まして、特別なことはあまりしないんだ。ただ、いつも通り、お見舞いに来て、他愛のない話をして盛り上がって、時間が来たら帰る。こんな感じで、いつもの日常のような空気を作り出すんだ」
「それは、先生や春の両親にはできないことなんですか」
「できない、こればっかりは、心の問題になってくる」
「分かりました、時間が空いたら、毎日来ます」
「でも、君の人生のことも考えなきゃいけないから、勉強はしっかりとするんだよ」
「は、はい、最善を尽くします…」