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悪意は襲い掛かる


《王島英梨香視点》


「フフフフフ、一ヶ月かかったけど、やっとあの女をドン底に落とすための準備が整ったわ。これで、あの女は終わりよ。見てなさい、女王気取りで踏んぞり返ってられるのも今のうちよ! ハハハハハハハハ!」


 周王春樹が自身を鍛えるのと同時に、迫る悪意もまた増幅し、もうそこまで来ていた。ひとしきり笑うと、王島英梨香は自身の腹心の中で最も優秀な男、神崎遥かんざきはるかを手招きして呼ぶ。


「何用でしょうか、お嬢様」


「神崎、手筈はすべて整えたわね?」


「はい、お嬢様の指示通りに整えさせていただきました」


「そう。それならいいわ」


 そう言って、彼女は豪奢に装飾された椅子から立ち上がる。そして、口を歪め、眼前に並んでいる執事達に宣言する。


「計画開始は明後日、金曜日。最も警戒が薄い下校時を狙いなさい!」


「はっ!」


 燻っていた悪意が今、激しく燃え出す。




ーーーーーーーーーー




「はっくしょんっ!」


「ふふっ、ハル君、風邪でも引いちゃいましたか?」


「うーん、誰かが俺のことを噂してるのかな?」


「ふふっ、かもしれませんね!」


 俺と宇佐美は学校が終わったので、2人で校門から少し離れたところに止めてあるリムジンに向かって歩いていた。


 しかし、1ヶ月も経つと、この生活にも慣れてくるもんだなぁ。最初は戸惑いの連続だったんだが、今では隣に宇佐美がいる生活が当たり前になってしまった。


 少し前の自分ならば、あり得ない生活だ。ちょっとだけ、この生活になる前の俺に言ってみたいもんだ。お前は将来、幸せになるから、くよくよすんなって。


「なぁ、宇佐ーー」


「静かに、ハル君」


「……!」


 宇佐美はいつになく真剣な顔で、俺にしーっと人差し指を口に当てる。そのただ事ではない様子に、俺も周囲を警戒する。


「妙だよ、ハル君。いつもなら、校門の外に近づけば、もう少し騒がしいはずだよ。でも、今日はあり得ないくらい静かだし、それに何故かさっきから、榊達と連絡が取れないよ」


「……!」


 宇佐美の言葉に俺も耳を澄ますと、確かに校門の外からは音がまったく《・・・・》聞こえなかった。音が聞こえるのは校舎の方角ばかりで、俺たちの前方からは物音一つしない。いくらなんでも妙である。


「ハル君、走る準備してて。校門を出る直前になったら一斉に走るよ」


「分かった」


 宇佐美の言葉に軽く頷き、俺たちはゆっくりと校門の外まで歩いていく。


 あと、5歩……4……3……2……1……。


「ハル君、今だよ」


 宇佐美の掛け声を合図に俺たちは一気に走り出す。そして、それに遅れるように校門の脇の方で待ち構えていた執事服の男たちが飛びかかってくる。しかし、突然走り出したことが功を奏したのか、男たちは俺たちの後ろでもつれあい、なんとか避けることに成功する。


「ハル君、こっち!」


 宇佐美に手を引かれるまま、俺たちは近くの狭い路地を入っていく。後ろからは何人もの人間が追いかけてくる足音が俺の耳に届く。


「次はこっち!」


 宇佐美に先導されるがまま、俺は全力で走る。二条さんの指導もあってか、しばらくは息が切れる心配が無いのが唯一の救いか。


 その後、俺と宇佐美はしばらくの間、男達から逃げ回り、なんとか、もう稼働していないであろう廃工場の中に隠れることができた。


「ハァ……ハァ……。なんとか、逃げ切れたな」


「うん。でも、いつここが見つかるかも分からないよ。だから、その前になんとか助けを呼ばなーー」


「その必要はありませんよ」


「「ッ!」」


 俺たちが今後の動きを話し合っていると、宇佐美の言葉を遮るように執事服を着た男が出てくる。短く切り揃えた黒髪に、切れ長の瞳でいかにも出来るやつといった雰囲気である。


「申し遅れました。私、あるお方の執事を務めさせてもらっています。神崎遥と申し上げます。以後、お見知りおきを……」


 そう言って、神崎と名乗った男は丁寧にお辞儀する。間違いなく、俺たちを追ってきた男の一人だろうが、その柔らかい物腰のせいか、目の前の男に強い敵意は向けられなかった。


「あなた、私たちを捕らえにきたんですね?」


「申し訳ないですけど、そういう事になってしまいますね。しかし、ご安心ください。少しだけ……眠ってもらうだけですから!」


 男が言い終わると、瞬間、宇佐美に勢いよく迫り、宇佐美が突き出した拳を軽々と避け、宇佐美の首をチョップし、気絶させる。


「お前……なんなんだよ?」


「それは……いずれ分かりますよ!」


 そう言うと、男は宇佐美にやった時と同じ要領で俺の背後に移動し、俺の首を強打する。首に強い衝撃を感じた俺は、意識を手放すまいと試みるが、努力空しく意識を手放すのだった。

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