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4. 問題:サーペントの胃酸に溶けないで生存できる理由を推測しなさい

 最後の最後に加入した魔法使いおかげで、第二回アサシンだけのエリアボス特攻大会「アサシンク〇ード」を自主開催する悲劇はなんとか回避できた。


 密室に閉じ込めたら勝手に合成されるんじゃないかってくらいアサシンしかいないこのパーティは、意外とまともに機能していた。


 考えてみたら5人もいるのだから当たり前だった。


 全員ソロ生活が長すぎたのか、ポーションは常備していたので被ダメは気にならなかった。足りなくなればその場でしょーたろーが合成するので、潤沢な魔剤を社畜のように消費しながらなんとかぶっちぎれていた。

 問題があるとしたら、STR(きんにく)に振りまくってしまってまともな装備が身に着けられない――あの腰巻と上半身はだかなのはそういう好みではなく選択結果でした――哲也の恐ろしいほどの紙装甲くらいだったが、STRとVIT(たいりょく)を倍増するハルの補助魔法ライズのおかげで死なないどころか頭のおかしいダメージをぶち込めるようになっていた。



 *


「死! あるのみ!(小声)」


 意味不明なモブ子の闇の処刑(パニッシュメント)が階層ボスに炸裂したと同時に、ダンジョンフロアのど真ん中に「ガゴン!」と音を立てて下へ降りる階段ができた。


「この先がエリアボスだ(小声)」


 何もない空間から、速攻でハイドで消えたモブ子の声がした。


 先導するように(?)名前とHPバーだけが表示されている「モブ子らしい何か」が、真っ暗な階段の中をするすると下りていく。


 俺たちはうなずきあって「哲也です↑」いや言わなくてよくて、階段――おおよそここにいる人間にとっては初のフロアへ進んでいった。






 先に降りた名前とHPバーだけのモブ子が、ダンジョンフロアの入り口で俺たちが来るのを待っていた。


「このフロアから敵が一気に強くなる(小声)」


 何もない空間で青いバーだけが何かしゃべっている。


 俺は無言で、青いバーの下の何もない空間に「SOUND ONLY」というクソでかいタグをつけた。さっき乱戦になったときマジでこいつがどこにいるのかわからなくなったので、事前に対策をすることにした。


 こいつの生態はわかった。


 とにかくハイドして、ハイド中にだけ打ち込める一撃必殺レベルの火力を誇る闇の処刑(パニッシュメント)を延々と打つ「ガチ」のアサシンスタイルだ。PT中であっても、自分が敵からタゲとってても関係なしにハイドして打つ。マジでキックしたいんだが、キックするとこいつは暗闇に溶け込んだ挙句俺相手に「忍殺」してくる可能性が否定できないのでこうした。


 降りた先は、暗く、じめっとしていた。


「むちゃくちゃジメジメしてますね!」

「そうだな……」


 なぜかうれしそうなしょーたろーが、クソでかいバックパックからランタンを取り出して火をつけた。そんなスキルまで取ったの? アサシンなのに。


 ぼんやりと、じめ~っとした岩肌が見えてきた。


「わ~☆」


 一番後ろの魔法使いから声がした。


「なあハル、お前はこのフロア――」


「わああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 しょーたろーが大絶叫を上げていた。


 振り向いた俺の視線の先、最後尾にいたはずの魔法使いが食われていた。


 正確に言うと、ヒグマをさらにクソでかくした「ダークベア」にあたまを丸かじりされていた。


「&%$#~☆」


「ハル!!!!!????」

「#$%&、‘*~☆」

 

 生きてる!? なぜ!?


「哲也↑です↑」


 哲也がいきおいよく踏み込んだ。

 手に握られた斬馬刀が、いきおいよくダークベアの真上から振り下ろされた。

 強烈なSTRに特化したアサシン(笑)の一撃が、ダークベアの頭を軽々と一刀両断し味方の魔法使いごと――


「いやちょっと!」


 強烈な、鉄にぶち当たったような音を出して剣先が止まった。


「え?」


 ぱっくりと、ダークベアの頭が二つに割れた


 頭があった場所から、だるだるによだれまみれになったピンク色の髪の少女がぱっか~んと飛び出してきた。斬馬刀をのせて。


「ふぅ~☆ あぶなかったよ~☆」

「バックアタックには注意が必要だな(小声)」

「哲也です↓」


 いやそうじゃなくて。


 なぜ? ダークベアがぶった切れる一撃を受けて無傷なんだ? というか丸かじりされていたのでは?


 しょーたろーが頭を抱えてうずくまったままガタガタ震えていた。

 視線の先が、ピンク色の魔法使いだった。


 こいつは何が起こっているのかを理解しているらしい。


 



 それからも異常は続いた。


 クソでかいカマキリのキラーマンティス(なぜダンジョンにこんなのがいるのかはわかりません)がバックアタックをかましてきた時も、その大鎌が後列のしょーたろーをぶっ飛ばした後そのままハルの体にあたると《《なぜか大鎌が砕けたりした》》。


 もっとひどいのはベビードラゴンだった。

 最後尾から範囲攻撃のファイアブレスをかましてきた時には、PT全員が焼け死ぬんではないかと思うくらい強烈な炎が飛んできたにもかかわらず《《なぜかハルをさかいにモーゼのように炎の海が割れて終わった》》。


 当然のようにハルは無傷でした。


 いつのまにか、4人(ハイドバカを除く)の隊列の中で魔法使いと一緒に後ろにいたはずのしょーたろーは、哲也のそばから離れなくなっていた。


「あの……」

「なにかな~?☆」

「ハルさんって、なんでダメージを受けないんですか?」


 俺はいつの間にか敬語になっていた。


「それは――☆」

「テンタクルだ!(小声)」


 SOUND ONLYから警戒の声が出た。


 イソギンチャクのような形をした変な物体が、真っ赤な触手をすんごい気持ち悪い動きでうねらせながら一匹だけこっちへ突っ込んできた。


「こいつは物理攻撃が効きにくい! ハル殿、魔法攻撃を頼む!(小声)」

「やってみるよ~☆」


 会話をぶった切って、ハルが突撃してくるテンタクルの前に突っ込んでいった。


「え~い☆」


 ハルの杖から出てきた小さな白球が、ふわふわとテンタクルに向けて飛んで行った。


 白球が、あっさりと触手ではじかれてしゃぼん玉のようにはじけて消えた。


「わぁ~☆」


 テンタクルにからめとられたハルが、恐ろしい勢いで絡まった触手にがんじがらめにされて宙に浮いた。


「同人誌みたいな展開になっちゃうよ~☆」

「やめろ!」


 魂から叫んだ俺がテンタクルに向けてダガーを飛ばした。

 ぷにゅ、とかいうなんか絶対ダメージ通ってないなって音を出してダガーがはじかれた。


 テンタクルの触手が反応した。

 一本だけ飛んできた触手が、AGIにもそれなりに振ってる回避主体であるはずの俺の手をしっかりとつかんだ。


 俺の腕に「状態異常:毒」とかいう表示が現れたかと思うと


 一瞬で腕が腐り落ちた。


「はぁああああぁぁぁ????!!!!」

「ヤバイ敵だよ~☆」


 死ぬ! これは絶対死ぬ!!


「……可能性に賭けます!」


 真後ろから決意した声がした。


 ポーションを浴びるように飲んでいる俺の前に、しょーたろーが何かをもって歩みを進めていた


「死ねやおらあああああああああああ!!!!!!」


 絶叫とともにしょーたろーが投擲スキルで「オイル」をテンタクルに投げつけた。


「モブ子さん! 火遁かとんの術で焼いてください!」

「任せろ(小声)」


 あれ火遁の術っていうのか。


 っていうか、今火をつけたらハルごと――――


「いでよ! 拙者の闇より出でる混沌の炎よ! 今その光をもって(以下クソ長いので省略します)」


 モブ子が、やはりどういう仕組みかわからないが口から火を噴いた。

 炎がテンタクルに塗りたくられたオイルに着火し、薄暗いダンジョンの中で端々まで全部見渡せるほどの盛大なキャンプファイヤーとなって天井を焼き焦がした。よくわからないが爆発もした。


 ハルごと。


 俺は目の前で繰り広げられている惨劇に涙した。





 イカの丸焼きのようなにおいが、ダンジョン中に広がった。


 消し炭になったテンタクルから、ピンク色の髪をした悪魔が、服についたすすを払いながら出てきた。


 目の前の悪魔がピースサインを目に当てて変なポーズをとった。


「火あぶりの刑って、魔法使いにはいいオマージュしてるぅ☆」


 無傷だった。

 頭がおかしくなりそうだった。


 いや、よくみたらHPゲージに微妙に、ミリほど赤くなっている部分がある。


 俺はおそるおそるそのHPゲージを長押ししてみた。


 俺は吐いた。



 ■ ハル 

 ■ HP: 9997/9999

 ■ MP: 15/61


 なんだこいつッ…………!! HPがカンストしてやがるッ…………!! しかもダメージ2しか受けてないッ…………!!



「ハルさん……」

「なにかな~?☆」

「なんで……ダメージうけてないんすか」

「VITがオーバーフローしてるからね!☆」




 俺は毒が回って死んだ。

 リスポーンされてダンジョンに再度戻った時にもハルは盛大に燃えていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] だんだん気づいてきましたが… もしかしてマトモぶってる主人公が一番何もしてないパターン??
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