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3. どんだけAGIに振ってもアサシンからのPT要請が回避できない

 モブ子は狂っていた。哲也も狂っていた。


 もしかすると俺も狂っているのかもしれないが、俺はいたって正常だ。ただ自分がおかしいということに自覚がないことを病気だというのを前心理士が言っていたのを思い出して、俺は遠くの空を少しだけ眺めた。


 だがPTが組めるだけでも一歩前進してると思わないか? 俺は自分を納得させる作業に入っていた。酒場でPT募集してるヒーラーに「ア、アサシンなんです(キモイ笑顔)」とかいった後、凍った作り笑いのまま後ずさりされるのに比べればこんな



「拙者の闇の処刑(パニッシュメント)からは逃れられない(小声)」

「哲也↑です↓」



 俺は、無心でダガーを投げていた。

 何も、考えない。考えたくない。


「ああああああああああああああああああああ」


 突然、森の中から叫び声がした。


 すぐわきにある小高い丘のようになっていた森の中から、やけに大きなバックパックを背負った少年が、クソでかいヘビに襲われながらこっちへ逃げてきていた。


「助けてえええええええええええええええええ!!!!!」


 俺はダガーを構えた。

 俺のLVは31だ。このクソでかいヘビ――サーペントは、俺一人だと死ぬかギリで倒せるかくらいだ。だが今、俺たちは、なんと3人もいるPTなのだ。モブ子も哲也もちょっとアレだが、地味にLVは俺よりも高い。


 モブ子がクナイを取り出していた。流れるようなモーションで、少年を追いかけるサーペントに全力で投げつけた。さっくりと小気味いい音が出た後、サーペントの矛先がモブ子に変わった。ヘイトをうまく取れたようだ。


「やるじゃねえかモブ子!」

「任せろ(小声)」


 俺の中で何かが少したぎるような気がした。


「なあ! 俺たちアサシンPTの力を見せてやろうぜ!」

「ハッ!(小声)」


 頼もしい声とともに、モブ子が即座にハイドした。


 え? ハイド?


 全力で突っ込んできていたサーペントが、ハイドしたモブ子をすり抜けた勢いで俺に突撃してきた。


 あっさりと、吹っ飛ばされながら俺は思った。


 なんでこの状況でハイド? タゲとってんのに?


 盛大に宙を舞って地面に落ちた俺は見た。

 哲也が大剣でサーペントの首を真一文字にぶった切った後、モブ子がどういう理屈か全くわからないが口から火炎を吹きサーペントを丸焼きにしていた。できるならはよやれや。





「いやぁ、ほんと助かりました」


 満面の笑みで礼をいう少年が、あおむけに倒れたままの俺へ大量のポーションを浴びせるように流し込んでいた。


 死ぬ。息ができない。


 全力で飲み込みながら俺は聞いた。


「こんな大量のポーション、使っちゃって大丈夫なの?」


 少年が得意げに笑いながら答えた。


「僕、スキルが生産型なんです。ポーションならいくらでも作れるので」


「生産職!!!!!」


 ―― アサシンじゃない!!!!


 俺は思わず飛び起きた。


 目の前にいる、アサシン以外の存在の肩を、全力でつかんでいた。

 自分でもわかるくらいに俺の顔が笑っていた。


「おいお前、助けてやったんだからちょっと頼みを聞いてくれ」

「なんですか」

「俺のPTにはアサシンしかいない! 頼むからPTに入って回復薬を作ってくれ!」

「はぁ」


 通知が来た。

 飛び跳ねるような気持ちで通知を見た。


 PT申請がきている!

 即! 承認!


 少年の頭の上に「しょーたろー」という名の青いアイコンが飛び出してきた。


「地獄へようこそ!!!!!!」

「でも僕、ポーションとか店で売ってるようなものしか作れませんよ」

「いいんだよ!! アサシンじゃないならなんだって!!!」

「アサシンですよ?」

「は?」

「アサシンです。スキルが生産型なだけで」




「また!!!! アサシンじゃないですか!!!!!」


 絶叫した。

 噛みしめすぎた俺のしたくちびるが、耐久限界を迎えてズタズタになっていた。


「あの~☆」


 間延びした声がした。


 丸焦げになったサーペントの死骸の中からだった。


「誰かいます~?☆ 助けてほしいな~☆」


 確実に、サーペントの腹から声がしていた。






「助かったよ~☆」


 粘液まみれになったピンク色の髪をした少女が、満面の笑みで顔をぬぐっていた。


「飲み込まれたら何もできないって初めて知ったよ~☆」


 丸焼きになったサーペントの腹をかっさばいたら、中からこれが出てきた。それはもう、なんだかよくわからない粘液に包まれて、でろんと。消化液まで再現するVRMMOって地味にエグいなと思った。


「私はハル!魔法使いだよ~☆」

「魔法使い!!!!!」


 俺はもう飢えていた。完全に見境がなかった。バックパッカーだと思ったらアサシンだったというよくわからないひっかけみたいなものを食らって俺はもう正気ではいられない(笑)のだ(笑)


 一瞬だけ冷静になった。


「本当に、魔法使いなんですか?」

「魔法使いだよ~☆」


 ピンク色の髪の少女が杖をくるりと回して呪文を唱えた。


「ライズ~☆」


 俺の周りに光が集まってきた。


「おお……」


 泣いた。感動で泣いた。


 ステータスのSTRとVITが倍になっている……!! こんな高スキル補助魔法が使えるなんて確実に魔法使いだ……!! しかもレベル高めの!!


「なああんた! 名前なんだか忘れたけど!」

「ハルだよ~☆」

「頼む!! 助けてやったんだから聞いてくれ!! 俺たち4人のアサシンPTに入ってくれ!!!」

「いいよ~☆」


 あっさりだった。あっさりした回答に俺はもう感動で倒れた。


「モブ子だ。よろしく頼む(小声)」

「哲也です↓」

「しょーたろーです。エーテルも作れます!」

「ハルだよ~☆ マジックバリアもできるよ~☆」

「ヒロです――」


 俺の意識はそこで途切れていた。


 だがそれが間違いだった。


 俺は何も気が付いていなかったのだ。

 サーペントに丸呑みされて生きてる魔法使いがまともなわけがないことに――

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