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2. アサシン(笑)とか選んじゃう人って大体そういう人だから~(苦笑)

 平原のど真ん中、無心でやっていたソロ狩り(3時間経過)の途中で、通知が来てることに俺は気がついた。


 一瞬気が遠くなりそうになった。

 画面を見た俺の胸が、死にそうになるくらいにバクバクたたいていた。


 PT申請が来ている!


 なぜ!? 全く理解できないが、全く見知らぬプレイヤーから突然のPT申請が来ている。スパムか?


 速攻でモンスターが沸いていないゾーンへ走り、詳細を開いた。


 一気に血の気が引いた。

 喜びで過呼吸にでもなりそうだったのが、一瞬で収まった。


 ―― 俺の近くにいるッ……!! 半径5メートル以内にッ……!!


 よく晴れた、牧歌的な平原のど真ん中で俺は何度もあたりを見回した。

 どう見ても俺しかいない。


 頭がおかしくなりそうだったが、冷静に、アサシンとしてこの状況で考えられるただ一つの結論に俺はたどり着いた。

 やはり頭がおかしくなりそうになった。


 ―― こいつハイドで姿を消したままこの平原ど真ん中で無言PT申請してきてやがる……!!


「また会ったな(小声)」


 怪異の前に半泣きになっている俺の目の前で、ゆっくりとハイドを解いたプレイヤーの姿が現れた。


 見覚えが、なかった。

 高身長で、真っ黒な長髪ポニーテールのキャラデザに、全身を覆う鎖かたびらのような黒装束のちょっと理解できない(あたまのおかしい)センスをした「アサシン」だった。


 震える声で俺は聞いてみた。


「前……どっかで会いましたっけ」

「ああ。アサシンだけのエリアボス特攻大会「アサシンク〇ード」で、だ(小声)」


 絶対違う。俺はそんな頭のおかしいイベントに参加した覚えはない。


 明らかにヤバイ高次元の地雷に、俺は震えながらウインドウに手を伸ばした。


 当然のように、俺はPT申請を断ろうとして




 承認を押していた。




 自分の頭の上に青色の「!」が飛び出してきて俺は泣いた。


「よろしく頼む(小声)」


 顔を覆いながら俺は無言でうなずいた。

 だってもう、ここ一週間誰ともPT組んでないんだもの。もう本当に、誰だってよかったのかもしれない。こんな「典型的な地雷型アサシン」でも。


「拙者は、忍者の末裔なので小声でしか話せないという設定になっているので、そこのところよろしく頼む(小声)」

「あ、はい」


 そういって、黒装束の女はまたハイドして消えた。え? 消えた?


 なぜ?


 何もない空間に「モブ子」という青文字の名前だけが出たまま、俺の5メートル後ろを確かに、確実に追跡するように奴がついてきていた。





 その後、モブ子は、確実に俺のあとをつけまわしながら要所要所でハイドから繰り出す闇の処刑(パニッシュメント)を繰り出してはまたハイドをするというキック推奨レベルの奇行を繰り返していた。


 ので、俺はあきらめた。


 わかってた。アサシンこんなんばっかりだってのは知ってた。


 そう、つまりそう。まあ、こうだから、アサシンはPTに呼ばれないのです。


 でも皆さん考えてみてください。キャラクター選択画面で戦士~とか魔法使い~とか出てくる中で「アサシン」とか出てきたら、大体の人は選択すると思いませんか? 


 だってアサシンですよ? 私は選択しました。戦士が剣闘士(グラディエイター)とかだったらよかったんだよ。そうだったらそっち選んでたわなんなんだよ戦士って。


 そんな闇の処刑(パニッシュメント)を受けて沈んでいくモンスターの向こうで、ソロ狩りをしていた戦士と目が合った。


 お?


 おっさんだった。完全に見た目が渋めのおっさんが、哀愁漂う目で俺を見つめていた。虎の皮のような腰巻をつけて、上半身にはよくわからない肩当だけが、裸の上に装備されていた。


 異様なのはその剣だった。身長を超えるほどもあるバカでかい鉄の塊のような剣を持っていた。


 ゆっくりと、半裸のおっさんがたちに近寄ってきて口を開いた。


「哲也です↓」

「あ、どうも」


 誰だよ。


 ちょうどのタイミングで、俺のウインドウに通知が来た。


 ―― こいつ……!!


 心臓が強く脈を打った。

 俺の中でWARNINGが炸裂していた。


 ―― こいつも無言でPT申請してきてやがるッ……!!


 正気なのか? この、俺の後ろでハイドしたまま5メートルの距離を保つのがいるのを確実に見てるのに? そういうとんでも案件が好きなタイプなのか?


 だが、俺は考えていた。

 これ以上動物園になるのは避けたいが、まだ最初に名乗るだけこの戦士のほうが常識があるのではないだろうか。それに渋いし、別に無言PT申請も慣れてないだけかもしれないし(これを正常性バイアスといいます)。


 俺はおそるおそる承認を押した。


 目の前の戦士の上に、青文字で「ワタリ」という名前が表示された。


「哲也です↓」


 哲也じゃねえじゃねえかよ誰だよお前。


「モブ子だ(小声)」


 5メートル後ろの何もない空間から声がした。ハイド中だが、この忍者がコミュニケーションを取る気があることに俺は衝撃を受けていた。


「ヒロです。よろしくお願いします」

「哲也です↑」





 だが俺は本当の恐怖をそのあとすぐに知った。


 哲也は戦士ではなかった。


 STR(きんにく)に特化した、ただのステータスの振り方を間違えて大剣持ってるだけの、まぎれもなくこいつも「アサシン」だったのだ――

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノリが明るく読みやすいです [気になる点] まだ最序盤なのに、「このくらいわかってて当然」という感じのちょっと専門的な要素が多いのが気にかかります 「要所要所でハイドから繰り出す闇の処刑を…
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