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9話

また寝てしまったらしい。いい香りで目が覚める。食欲を誘う香りにぐうとお腹が空腹を訴えた。


宝物の肉のネックレスを何となく口に運んで


「こらこらこらこら。」


口に入れる前に何かが間に入って邪魔をする。

ーーーお腹空いたのです。食べさせてください。


「はむ!」


邪魔してきたものに抗議のかぶりつき攻撃。


「うわだぁ!」


お邪魔虫が消える時に凄い音も聞こえた。

おかげですっかり目が覚めた。


「おはようございます、、、。」

「お、おお、、おはよう!」


動揺した声と手をさするその姿に、察した。


「ごめんなさい。」


素直にペコリと謝る。今のは私が明らかに悪い。手を噛まれるとは思っていなかったのだろう。


「お、おう、、。」


眉を8の字にして私が初めて見る顔をしている。


あー、悪いことしちゃったな。攻撃されたと傷ついているのだろうか?


寝ぼけていたの。お腹空いてたの。邪魔されたと思ったの。


どれも頭の中で言い訳をする。でもそれを口から出すのはちょっと違うような、、、そもそもこの人が傷付こうが怒って去って行こうが私は全然構わないそんな関係だ。なんで彼に配慮する必要がある?


その一方で

私のせいで、しかも勘違いで傷ついて欲しく無いとも思う自分もいて、、、


心の中で葛藤する目の前にコトリと美味しそうなスープが置かれた。


「あー、さっきは悪かったな。だからそんな怒んなって。このスープ飲めそうか?」


どうやら彼はさっきのジェットコースターの事で私がまだ怒ってると思っているらしい。そして彼は私に齧られた事を怒っていない様子だ。私はそれに安堵してスープの入った器を手に取る。


敷物の上に正座して


「いただきます。」


と彼にお礼を言ってからスープを口に運ぶ。香りでほぼ確信していた通り、口の中にスープの旨味が広がる。薬草も沢山入っていて、その薬草がトロトロに煮込んだ?煮た?お肉の臭み取ってくれているのか動物由来の脂肪の臭みを感じる事はない。スープの暖かさに身体の力もホッと抜ける。


感想。

大変美味しゅう御座います。


心配そうに見つめる彼に


「美味しいです。」


と伝えると嬉しそうに笑ってくれた。


「吐き気を抑える薬草も沢山入れたから、時間が経てばもっと身体が楽になるはずだ。肉も出来るだけ柔らかくしたから腹に負担はかけない。」


このスープについて説明してくれる。見ると一緒に洞窟でお留守番していたウサギちゃんが2羽居なくなっていた。


ーーーウサギちゃん、私のお腹にようこそ。


おかわりをお願いすると彼の前にある大きな鍋からよそって入れてくれて沢山食えと頭をポンポンされる。お言葉に甘えてその後3回もお代わりしてしまった。その間に彼が1羽丸々焼いたウサギちゃんをどれくらい食べたのかはノーコメントで。


焼いたお魚と同じような運命だった。


改めて実感。

彼の食べ方はおかしい。


その後はまた身体をあぐらをかいた彼に上に横抱きにされたけれど、さっきまで寝ていたせいかあまり眠くならない。


寝てばかりで時間が勿体ない気もする。って事で

折角だから、今向かってる国について聞いてみた。


「そうだな、、」

彼は無精髭の生えてきた顎をさすると


「良いところだぞー。」

と私の頭を撫で撫でする。


「人間と亜人と獣人が混住する多種族国家なんだ。この国は3年毎にそれぞれの種族の王が交代で1番上の王様をやるんだけど、それが上手く機能しててな。大国って訳じゃないが、情勢は1番安定している。ただ国民が多種族だから怒らせると色んな意味で怖くてな?眠れる獅子なんて揶揄われてる。あー、ちびのお前にはちょっと難しかったかな?」


そう言って私の目を覗き込んでくる。怒ってやろうと思ったけど、彼の表情は柔らかくて思いとどまる。そしてふっと眉を下げた。


「ま、それなんでお前の容姿も気にする奴はいない。」


青年に容姿について触れられたのは初めてでピクリと反応してしまう。


その反応に苦笑してまた青年はトントンと背中を優しく叩いてきて続けた。


「お前のいた国はアザール国だろう?」


実は名前すら覚えていない国だが言われて見ればそんな様な名前だった気もしてきた。曖昧に頷くと


「あそこは人間至上主義だからなぁ。お前の着てた奴隷服もあそこの物だ。」


うんうんと納得してくれた。


「お前、おそらく亜人との混血だろ?目の特徴が人魚族っぽいよな。あの国出身って事とお前の特徴から血は薄いようだが恐らく先祖返りでもしたんだろう。目の当たりに特徴が出ちまったのは不運だったが、、良く今まで頑張ったな。」


なんか勝手に私の生い立ちを勘違いしているがその優しい労いの言葉にふっと涙腺が緩む。この世界に来てこんな優しい言葉をかけてもらった事は今まで無かった。


やはり外人さん風の堀が深い、ボリュームまつ毛の皆さんからすると平たい顔族の私は異質に見えたのだろう。私は亜人(そもそも亜人とは人魚族とは何?)との混血では無いし、純日本人という生粋とした人間ではあるのだけど、、、。因みに多少は泳げます。因みに子どもでは無く成人女性です。色々勘違いさせてごめんなさい。


「ほら泣くな泣くな。折角綺麗なべべ着せて綺麗な顔してんのに、、ひっでーなぁ、、!」


指摘されて泣いていると初めて気付いた。

大変失礼な事を言われているが、、知らんのよ、、、。


決壊した涙腺は次から次へと涙を送ってきて、、ぶわぁ!!と目の外側に溢れる。


「うえ"え"ぇぇん!!」


と結局声に出して泣いてしまった。


ーーー洗って貰って綺麗な洋服と顔を涙と鼻水とでまた汚しちゃってごめんなさい、、


と思っても止まる物でも無く、、、。


ベーベー無く私から離れる事なく彼は落ち着くまで涙を袖でゴシゴシ拭ってくれた。もう、これ以上優しくしないで欲しい、、。


んもう、このお兄さんは何なんでしょう。優しいし、色々親切にしてくれるし、マッチョだし、お料理上手だし、、


信用、信頼、そんな物はこの世界の人達には当てはまらない可能性がある。少なくともこの世界で出逢った人達は誰一人当てはまらなかった。だから人は信じない。分かっているのに、この人は違うと思いたくなってしまう。


いやだー!もう裏切られたくない!私は一人で生きていきたいんだー!


心の中の叫びも全部泣き声に変えて子どもが泣きじゃくる様にあーん!あん!と泣いてやった。


だから横抱きにしないでって!ポカポカ胸を叩いてもびくともしないとか!ユラユラしないでって!


「うわーん!うわん!・・・・・・・!」


**********




「つまり流れ者の俺たちにも寛容で治安も落ち着いているまさに今の俺たちにぴったりの国だろう?」


講義が再開したのは私が落ち着いてからのためだいぶ時間が空いてしまった。


ズビズビ鼻を啜りながらコクンと頷く。

私にぴったり、、。確かにそうかもしれない。


「明後日、ここを出発してまず近くの街に出る。いくつかの国との境目にあって貿易都市として結構デカイ街だ。」


国との境目の街。でもどこの国に正式には所属してるんだろう?


「どの国とも比較的距離があり、どの城壁にも入れない所だがどの国にも行きやすい立地で国と国との横断ではこの街を通らないと行けないとも言われている。アザール国所有とされているが自治は独立している。」


おっと急に難しい。政治的な話ですね?私が頭で整理するのを見て


「ガキには難しいか。」


と失礼な事を言って頭をわしゃわしゃ撫でてくる。


ーー紙とペンを下さい。ちょっと図に書いて纏めれば一発で理解できますって。地図も欲しい。



「ま、通らなくても行けないこともないが旅の難易度が格段に下がる。つまり安全ルートで楽園目指すぞ!」


おお!安全第一それ大事!

パチパチと拍手を送る。


「という訳で明日はまた沢山食って沢山寝て体力付けろ。念のため変装の時間も作るぞ?そして明後日出発だ!」


「おお!」

今度は歓喜の相槌を私も入れた。初めての街!市井!生きて行く為のイロハをその街で色々学ぼう!お金の使い方とか、なんか色々。


明日、変装、明後日出発。

大変分かり易い説明をありがとうございます!




「ところでだ。その変装もそうなんだが、、、」


何故かここまで力説していた青年の勢いがヒュンと萎む。それはもう風船よりも早く萎んだ。そして視線を彷徨わせて呼吸一つ。

なんだろうと小首を傾けると


「お前名前有るのか?」


今更な質問が彼の口から出てきた。




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