6話
お腹が満たされて眠くなってきた。
寝たく無いのに、安全の為には起きていたいのに目蓋が重い。
学生時代お昼後の授業とか睡魔との闘いだったなぁとどうでも良い事を思い出す。
ウトウトと船を漕ぎ出した私に気づくと青年は胡座の上で私をヒョイと横抱きにしてトントンしてくれる。そんな事されると本当に自分がお兄さんに寝かしつけられる子どもみたいな気分になってくるから不思議だ。でも不思議と嫌じゃなくて人肌の体温を直接感じる安心感があって、、私は簡単に眠りに入ってしまった、
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お父さんが死んだ。
家を建てて引っ越してまだ3年と経ってなかったと思う。働いていた工場の事故に巻き込まれての事だった。
私はその時小学校五年生。お母さんはお父さんの入った棺に抱きついて悲鳴の様な泣き声を上げていた。
そんなお母さんに私は何もしてあげられなかった。
お父さんは私達に家と多額の保険金を残してくれた。会社からも沢山お金が入った、、らしい。
けれどお母さんは暫くしてからパートを辞めて正社員で沢山働く様になった。きっと時間があると色々思い出してしまったり、考えたりで辛かったのだろう。
それでもお母さんは優しかった。ちゃんと私という子どもを見て話しを聞いてたまには美味しいもの食べにいったり、旅行行ったり私との時間も惜しげなく作ってくれた。私が塾から帰ってくる時間には必ず帰ってきててくれたし、朝練で朝早く学校に私が向かってから仕事に行ってくれていた。専門学校にも行かせてくれた。
お父さんの分も私が働いたらお母さんを沢山幸せにしよう。そう思っていたのに、、私が二十歳の時、新入社員として入社してすぐ、梅雨に入る前に母は倒れてそのまま亡くなった。
末期癌だったらしい。癌だと分かった時に治療すれば良かったのにお母さんは誰にも言わずに黙っていた。病院にも行かず治療も受けず、ずっと1人で癌と生きていた。私はやれ部活だ!やれ塾だ!やれ友達とカラオケだとお母さんの異変に全然気付かなかった。最近ダイエットに成功したのよ!なんて無邪気に笑っていた。この先もずっとお母さんは生きていると思っていたし甘えていた。自分のことばかり優先して大馬鹿野郎だった。倒れた時にはすでに手遅れでそのまま意識が戻る事もなく亡くなった。
成人式の時、振袖姿の私を見て
「あなたが立派に育ってくれて嬉しい。もう思い残すことはない。」
と涙ながらに喜んでくれたお母さん。
あの時私は幸せでいっぱいだったのに、これから起こるもっと幸せな将来を夢見ていたのに、お母さんは死ぬ事を考えていたのだろうか。親孝行させてよ。私お母さんの事大好きだったんだよ。今までごめんね、、
ねぇ1人にしないで。お母さん、、。
会いたいよ、、。
「見て、スキル無しの穀潰しよ。」
「臭いったらありゃしない。」
「早く死なないかしら。」
「ガリガリで干物みたい。」
「これでも食べたら?」
お城のメイド達がクスクス笑いながらぐしゃぐしゃの何かをトイレにばら撒いてくる。
私も早く死にたい。そしたらお父さんとお母さんの所に行けるもの。
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涙を誰かが拭ってくれる。頭をよしよしされてその手が大きくて暖かいので
ふふふ
と口元がにやけてしまう。現実に在るこの手に安心を覚えてもう少し微睡みたい気持ちになる。
久しぶりにこの夢を見た。酷い夢だ。私の後悔が懺悔が悲しみが寂しさが全部詰まってる夢。あの世界で生きている時、小さくても楽しい事は沢山あった。お母さんが生きている時の何気ない会話だってそう。
「えー!6年生の時に〇〇君が好きってお母さんに教えてくれたじゃない?内緒ねって。お母さん楽しみにしてたのに、、、お父さんにも報告しちゃったわよ?」
「いつの話をしてるのよ?やめてよね!」
「女心は秋の空ねぇ、、ねぇお父さん?」
「そんな話されても仏壇でお父さんきっと困ってるから!今日やっぱりランチ行かない!」
「わー待って待って!ごめんねお母さん反省!さあ行きましょう!お父さん行ってきます!」
お母さんは太陽みたいな人だった。だから私はグレることもなかったのだと思う。
友達にも恵まれて仕事も定職に付けた。
「もう聞いてよー!彼氏と付き合って初デートどこだと思う?ラーメン屋よ?ら・あ・め・ん・や!!
現地集合現地解散。30分でサヨウナラだったわ。いろんな意味で。」
「わぁお気の毒ー。」
「棒読みやめい!」
「あら、今回業績で勝てなかったわ。運が良い方は羨ましいわ。でもちゃんとここ押さえとかないと後で後悔するわよ?」
「運も実力のうちですよ?先輩?そもそも日頃の行いが誰かさんと違ってとても良いですから。」
「ほんっと可愛げがない!」
「私は先輩のこと可愛いと思いますよ?ここ、もう一度勉強し直しておきます。」
「な!な!?
分かれば良いのよ!」
「たらいまぁ!お父さん、お母さん聞いてぇ!今日の歓送迎会でエリアマネージャーったらねぇ、、あれ仏壇のお菓子無くなってる?もしかして食べに出た?、、、やだぁ私が昨日酔って此処で食べた気がするー!?疑ってごめんなさい。」
楽しい事もあったのだ。友達も居て定職に就けて、衣食住揃ってて、、、
あの世界で私はそこそこ幸せな部類だったと思う。
でも、あの夢には明るい事は一つも出てこない。私が蓋をした心の中を時折開けて忠告するのだ。
自分の罪を忘れるな。私には赦されるその資格がないと。今回は人を信用するな。警戒を怠るな。疑えと忠告も入ってる気がする。
分かってる、大丈夫。怖かったけどもう大丈夫。裏切られるのは怖いけど最初から信じてなければ問題ない。私は今度はしっかり目を開ける。
予想した通りの人物が私の顔を覗き込みながら眉を下げている。息が上がっている様に感じるのは気のせいかな?心配かけて焦らせちゃったのかもしれない。けれども私が寝てる間に私にとって良くない事をしていたかもしれない。洞窟の入り口から光が差し込んでいる。
え?もう夕方?
いやあのまま朝までぐっすり寝てたんだが、、、
一晩無事に過ごせたらしい。
ほうっと小さな息を一つ。
「もう大丈夫です。」にっこり笑ってみると彼は眉間にシワを寄せて、
「魚と木の実と靴の材料を採ってきた。
木の実をすり潰して煮込んだのが出来てるからまずはそれを食ってその後精のつく飯の準備をしよう。」
と目の前にビタンと大きな魚を置いてくれた。
・・・・・・・・。
エラがひくひく、口をパクパクした
魚の目と近距離で目が合って見つめ合う。大きな魚だから目もでかい。
「・・・・・・・・・・。」魚
「、、、、、、、、、、。」私
「・・・・・・・・・・。」魚
「、、、、、、、、、、。」私
反応に困る。
ビチビチビチビチ!!
と目の前で突然跳ねたイキが良いお魚に
「んぎゃ!」
驚いてつぶれたカエルの様な悲鳴を上げてしまったのはご愛敬だ。
ーーーーーお父さん、お母さん、私はこの世界でも今はなんとか元気です。