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4話


ひゅっ!

と喉が鳴った。頭に数時間前の光景が蘇る。だいぶ傾いてしまっているけどまだ日は出てる。大丈夫。あそこからここまで距離がある。もし襲って来る様な危険な奴ならすぐにまた飛ぼう。自然と身体を低くして動いている物をよく見る。高台のここからはちょっと離れた下の方の高原。あれ?人っぽい?

私は今裸眼だけど聖女の治癒魔法のおかげでとても視力が良くなっている。人っぽいけど動きが変。フラフラ?ゆらゆらしながら歩いてる。洋服も着ているけれどこれは本当に人だろうか?この世界に人っぽいモンスターとかもいたらどうしよう。様子からして怪我とか病気とかしてる人間に見えるけれど、もし助けに行ってゾンビとかだったら笑えない。むしろ怖い。

どうしよう、、。

迷っていると人らしき者がこちらを向いた。

ーーー!!?

遠くて表情とかよく分からないれど目があった気がする。その人は体の向きをこちらに向けて少し歩いてグシャリと倒れた。


やっぱり無理だ!

私はこのまま見なかった事になんか出来ない!


だって私は元日本人!平和な所で何不自由なく過ごしてきて道端で出会った誰にでも挨拶して、困っている人がいたら助け合って生きてきた。スーパーで迷子の子を店員さん所に連れて行って放送掛けて貰ったり、妊婦さんにバスの席譲ったり、近所のお婆ちゃんの荷物を運んだり、落とし物を交番に届けたりしてここに来る前は幸せに生きてきた。これで本当に人だったら、後で後悔して人としての良心の呵責に耐えられない。


「いでよ!ソーヴェ!」


私は思い切り地面を蹴る。もう迷わない!

滑空しながら対策を練る。

もしゾンビとか怖い物ならすぐに飛び立とう。だからソーヴェは消さない様にしてまずはもう少し近くにだけ。

よく目を凝らして、落ち着いて落ち着いて、、、


人だ!取り敢えず牙があったりどこか腐ったりしてる風はない。迷わなければ良かった!ごめんなさい!倒れてる人の近くに降りて、でも念のためソーヴェは手にしたまま横向きに倒れている人に近寄る。

青白い横顔からこひゅーこひゅーと変な音が聞こえて、それが呼吸音だと分かって私にはどうしようも出来ない事が何となく分かった。


この人はもう間もなく死ぬんだろう。よく見ると右膝あたりから布がぐるぐるまきにされていて赤黒く染まっている。その先が無くなっているのが見て取れて涙が出てきた。着ている洋服にもあちこちに赤い染みが付いている。

この人に何が有ったのだろう。あの森から逃げてきたのだろうか?それとも御者達の様に悪い人間で私みたいに刑罰を与えられたのだろうか?


うっすらと目が開いて


「、、み、ず、、、、」


とかすれた声でこの人が言う物だから咄嗟に手を握ってわぁぁぁと泣いてしまった。

過去に何があってこうなってしまったのか分からないけれどそれでも今はただの1人の人で、、、


ーーー痛いよね?怖かったよね?

助けてあげたいのに私には治癒魔法どころか水を出す事すら出来ない。


「ごめんなさい!ごめんなさい!私には水を出せないの!治癒魔法も使えない!あなたを助けられない!」

こひゅーこひゅーと音を出しながらその人の目が少し大きく開いて


「お、ま、、えも、、け、が、、し、て、、る、」


握っていない方の腕から先がない方を私の方にゆっくり上げて虚な瞳をゆっくり細めるから、その人の目があまりに優しい色を宿した気がしたから私はそのまま固まってしまった。その瞬間白い光に包まれた。



**********


白い光はパァっと私達を包み込んでそしてすぐに引ける。え?と驚いて声が出て顔の痛みが引けているのに気が付いた。え?え?恐る恐る手を頬に添える。さっきまで鈍い痛さがあったそこはツルツルで舌で口の中をなぞると殴られて抜けた筈の歯が生えていた。


治癒魔法。この人は死ぬ前に治癒魔法を掛けてくれたのだ。涙が次から次へと溢れてもう何にも見えない。手は握り続けているけれどもう、ぴくりとも動かないこの人は文字通り最後の魔力を使って私を治してくれたんだろう。


「ありがとう。ありがとう。助けられなくてごめんなさい。」


その人の手を額に充てて、私はこの魂がどうか天国へ行けるように祈った。


ふと言霊という概念が頭をよぎる。言の葉に乗せると本当になるという。

この世界の神様なんて知らないけれど願いが叶う様に言葉に出す。


「どうか神様。この人が安らかに天国へ行けますように。天国で幸せになれます様に。この人は私の怪我を死んでしまう最後の魔力で治してくれました。


どうかどうか、、、」


涙でもともと視界なんて無かったから目を閉じて一生懸命、言葉に出す。お経とか唱えてあげられたら良かったな。でも、この気持ちは本物だから。

涙と鼻水でまた更に顔はグチャグチャだけどそれを拭くのはまた後で。


最後にこの人に治してくれてありがとうございます。と、もう一度ちゃんとお礼を言って顔をあげて


死んだ人の目が開いてこちらを見ているのを近距離から知ってしまい、

ーーっ!!

私の意識の糸がプツリと切れた。


*****

とても寝心地が悪くて寝返りを打つ。うん、下が硬い。下に何か敷いてはあるのだがそもそもの場所がとても宜しくない。ゴツゴツしてて岩の上で寝ている様な


、、って岩ぁ!?


そう、さっき私は気を失ってしまったのだった!だって仕方ないでしょう!

生きていた時はコフューコフュー喉から変な音出ていたのにそれがパタリと無くなっと言う事は死んでしまったと言う事。そんなご遺体が口や鼻から血を流してピクリともしないのに目だけ開いてこちらを見ていたのだ!日本でもほとんどの人がダークブラウンと言われていて、そもそも他人の目をマジマジと見る機会が無いのよ?それなのに赤赤とした血が、半開きの口から鼻から模様を描いた白い肌に目の蓋が窪んで見える顔。ぽっかりと穴の様に見えて、その中に黒くて本当に真っ暗な闇色の瞳。ハイライトが無い目。しかも私は手を握っていた近距離でそれを見てしまったのだ。


恐怖!

ゾンビに喰われる某映画シーンとか思い出しましたとも!そして今まで飲まず食わず!ヒュっと今までの緊張の連続で精神に限界が来ていてですね!こうなってしまっても仕方ない!寧ろ良くここまで頑張った!


ーーふう、落ち着きましょう。こうして頭ではぐるぐる考えているけれど私は寝たふりを続けている。目は閉じたままだから周りが一切分からないけれど、

今私は取り敢えず生きている。


ただ問題はあのご遺体。死んですぐにゾンビになったのか?私は生かされているという事はこの後食べるつもりなのか?考えたくないけれどどこかのファンタジーはゴブリンは人間の女を攫って孕ませるなんてのを読んだ事がある。多分私が起きたと分かったらご遺体が何かアクションをしてくる筈だ。だから寝たまま何かを召喚して逃げる!


車とかどうだろう?取り敢えず車の中に入ってしまえば少し時間稼ぎが出来る。ただ私のいる場所が狭い場所の場合その後がない。それでもって太陽が無ければ私の車は動かない。マイカーのイメージは乗ってたのもあって簡単に出来るが召喚した事がない。多分出来ると思うけど、、、そもそも車が走れる様な場所なのか?太陽が無くても動くといえば自転車を召喚して我武者羅に漕ぎまくるのも手だけれど、相手がそれより足が早かったら?そもそも自転車が走れる様な以下同文です。



やっぱり今どんな所にいるかだけでも分からないと対策の立てようがない。起きてから今まで周りからは物音一つしない。という事はこの場所に居るのは私だけの可能性もある。けれどもしかしたら居るかもしれないので、そーっと薄めを開けて周りを確認しよう。


努めて冷静にそーうっとそーうっと、、、

薄目を開けて、、


目の前にあの真っ黒な目があった。


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