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召喚されてからのプロローグ

異世界に召喚された。私はどこにでもいるショップ店員で23歳。業績アップの為客の取り合いというか同じ店員同士でも仲はお世辞にも良くはなく、上からの圧力も厳しく苦しい毎日。それでも日々小さな楽しみを見つけて気の合う友人にも恵まれてそれなりに充実してたと思う。それが変わったのは本当に突然。何の前触れもなかった。勤務帰り家に帰るためマイカーが停めてある駐車場目指して歩いている時、途中で突然目の前がぐらりとし、『あ、貧血で倒れる?』と思ったらもうそこは別の世界だった。


周りの歓声もその時は頭にただの雑音としか入ってこなくて混乱極まる私の頭では現状の処理も仕切れず一杯一杯だった。あの時幸運だったのは


「ここ、どこ?」


とはらはらと涙を流す制服を着た女の子が隣にいてどちらともなく手を握り身を寄せ合えた事だろうか。

今となってはもうどうでも良い彼女だが。


そんな私達は2人で丁重にもてなされ、まるで高級ホテルのスイートルームかといやそれ以上?よく分からないが凄く良い部屋に2人で滞在させて貰えた。お風呂もトイレも付いていてあまりの広さと調度品の高級感に度肝を抜かれて2人で笑ってしまったんだっけ。そうそう、最初は別々に部屋を案内されそうになったけれど、私も彼女もお互いに離れたがらなかったので同じ部屋にして貰ったのだ。


「言葉は大丈夫そうですね。」


部屋を案内してくれた外国人風の年配のおじさんはとても優しそうに見えた。暫く2人でこの部屋でお世話になると決まった時、右も左も分からない私たちだから部屋から出なくても良いようにご飯も手配して貰えたし着るものも全部向こうもち、洗濯掃除もメイドさんが時間になると来てくれるという高待遇を用意してくれた。それが1週間ぐらい続いたと思う。その間に説明された事にはこの世界は危機が迫っていて国を挙げて危機を退けられる聖女の召喚を行ったとの事。まさか2人が召喚されるとは思わずどちらが聖女か、はたまた両方聖女なのかいま真偽、確認しているとの事だった。私達は召喚されて間もないので今検査しても正しい結果が出るか分からない。なので

「落ち着いた一週間後に検査しましょう。」と言われた。高校生の彼女は家族が心配するからと早く帰して欲しいと泣き続け年長の私がしっかりしなきゃと思いながらも結局涙腺が決壊してしまい2人で一つのベットで手を取り合って泣き続けた。


「夢なら覚めて。さめてよぉ!!」


あの時の彼女の言葉は私にとっては今もずっと当てはまる言葉になった。


不安だらけの日々だったが年配のおじさんの配慮のおかげで部屋から出る事なく過ごせたのでその間彼女と沢山話す事が出来た。召喚されて沢山泣いた翌日はあまりの顔の酷さにお互い笑って、ご飯の美味しさに感動し、これはパン?はちみつ?この果物は桃っぽいとあーだこーだ言い合って少し元気が出たのを覚えている。


メイド風の女性達も決められた時間になると来てくれて朝の着替えや午後の入浴の準備をしてくれた。自分達の事は自分で出来るのでベッドメイキングとか洗濯物とかを渡して終わる関係で結局終わってしまったけれど。自分たちなりにコミュケーションを取ろうとお思ってお礼を言っても穏やかだけど、仕事ですからお気なさらず。としか帰ってこなかったんだもの。


後で分かったが顔も身なりも笑顔も綺麗だけど心は真っ黒だったな。


3日目に私達は2人で相談してこの世界の事を教えて欲しいと1日一回顔を出す優しげな年配のおじさんにお願いした。


4日目に初老のお婆さんが訪ねてきて大まかなこの世界の事を教えてくれた。

魔法使いというお婆さんに私たちは最初随分興奮したものだ。


「ちゃんと聞かないと、、怖い魔法を使っちゃいますよ?」


この一言で考えるよりも先に身静かになった私達の本能は正しかったと思う。


授業のまとめはこうだ。

この世界は魔法がある世界で大気中にある魔力から全ての生物が恩恵を受けている。人間は魔法、動植物も魔力を使ったりする。ただ動物は魔力の影響か一定数魔物に変化してしまうものもあるとか。今その魔物が何故か増えていて私達が呼ばれたのもそのためだと。

聖女とは戦闘能力が高く治癒の力も持っていて謂わばボコって治せる人の事らしい。職業が剣士、スキル癒しや職業が治癒士、スキル土身体強化なんかが今も残る文献には多い。仲間と戦える聖女は周囲の士気にも多大に影響して世界の脅威に打ち勝つ事が出来た超重要な人物なのだ。


剣士、槍士、弓士、拳で戦う武術士の他に治癒士、召喚士、魔道士、などが有名どころで他にも道具を作る魔道具士や服飾士、調理士、建築士などなど職業も沢山有り更に、スキルも土、火、水、風、闇、癒、etc、、、と無限に有って。みんな複数持ってるらしくてその中から更に自分に会うのを選んで極めて仕事に活かしたりして生活を送る。

ちなみにその魔法は使い方は教えて貰えなかった。


「まだ貴方達の状態が分からないから結果が出たら教えましょう。」


とウインク1つお茶目なせんせいは寄越してくれた。どうしても見たいと私達が駄々をこねると


「じゃあ内緒よ?」


と人差し指を口に当てて小さな猫を召喚してくれた。私達も


「可愛いー!」


と小さな声で歓声を上げて沢山撫でさせて貰った。お婆ちゃん先生はこの他にも沢山魔法を使えて召喚もその一つ何だとか。スキルは2〜3個は大体の人が持っていて先生の様に多い人も居るんだとその時に教わった。ちなみに先生がいくつ持ってるかは内緒にされた。


「秘密が多い女性はミステリアスでモテるのよ?」


とは先生談。


何故召喚魔法を選択したかと云うと、説明が分かり易いから。召喚する時にも自分の中にある魔力を使いそれだけじゃなく召喚した者にも働いてくれるその対価に魔力をあげなくてはならないからだと教えてくれた。


「この子も今は私の魔力を餌にしてるのよ?そう考えると維持するだけでも難しいのが分かるでしょう?」


私達は分かりやすい説明に肯く。


「うっかりここで火魔法を使えば火事だし、水魔法を使えば部屋中がびっしょり。風魔法は窓ガラスが割れるわね。」


うふふ。

明日は晴れね。


みたいなたわいも無い話の様で内容は中々怖い。


「召喚魔法は自分のスキルに合う魔獣を呼ぶの。知っている動物をイメージして呼ぶと自分のスキルに合った動物が出て来るわ。イメージ!イメージが大事よ!魔法はその人が思った事、考えた事を実現させる手段なのだから。そうそう!食いしん坊の以前の生徒がね。美味しいケーキをイメージして召喚魔法を使った事が合ったわ!」


「どうなったんですか?」


「スキルに水があったからか、水でぐっしょりしたケーキが出てきて悲しくて泣いたら消えてしまったわ。消えたのはケーキを維持する魔力や対価がすぐに思いつかなかったらね。ケーキは人の魔力を食べないもの。維持する別の何かを用意しなければならなかったのよ。」


そして先生は続けたっけ。


「そしてこの世界は職業よりもスキルを重視する。職業は自分でこれだと決めたり周りからの評価で変わってしまうけれどスキルは生まれ持った才能。コロコロ変える事は出来ないわ。」


ケーキがずぶ濡れでも悲しいし、消えてしまうのも悲しい。何というか食いしん坊さん、、ドンマイでした。そしてその光景を想像して、、マッチ売りの少女みたいだなと思った。もしかしてマッチ売りの少女も召喚士だったのでは?


召喚は出来るけれど魔力が少なくて維持できなかったとか。そう考えると面白い。


「ちなみにこの子の食べる魔力は木のスキルよ。」


おお!

私達はソワソワしてしまう。


「貴方達はまだ魔力が少ないからダメよ?魔法についてのこれは基礎の基礎。まだ実技は気が早いけど興味は持てたかしら?

それにモフモフは2人とも喜ぶと思って♫ふふふ、、。」

「ええ沢山癒されましたとも!ありがとうございます!」


貰ったら返す、ギブアンドテイク、働いてくれる者に何かを渡すのはこの世界の常識で。


「それでも制御が出来なかったり行き過ぎてしまうと体の一部や寿命、行使した者の命にまで及ぶから魔法はとても怖い一面もあるのよ。」


と真剣な顔で声で静かに解いてくれたお婆ちゃん先生の事は忘れない。それでも魔法は想像の力がとても大事で頭にイメージが出来れば出来るほどより確かにより魔力を少なく使えるとコツもしっかり教えてくれた。治癒魔法も一緒で相手を治す為に魔力を足りなければ自分の命までに及ぶからねと最後に私達に心配そうに言って頭を撫でてくれた。

そして


「また会いましょう。」


と言った先生とは二度と会う事はなかった。

その日の夜、私は高校生の彼女に提案してみた。


「ねぇ、私の視力治してみない?」


正直4日間もずっと同じ部屋でうずうずしてたのだ。


「え!失敗したらどうするの?怖いよやだよ!」


彼女は最初渋った。でも私は続けたのだ。


「イメージが大事って言ったじゃない?ほら私達アニメたくさん見てて魔法のイメージって他の人より詳しいと思うのよね!でも怪我とかするのも怖いし失敗したらやだし!

それなら視力回復してみたいなって!コンタクトしないと私目が見えないど近眼で今は眼鏡だけどこれしないと見えないって言ったら他の人たちみんな変な顔するじゃない?眼鏡なくなったらと思うとこの世界で不安なんだよね、、ね!やってみよ!」


そして私は自分に魔法を掛けてみた。先生がやってたように直立して目を閉じて集中して、見様見真似だけどここに来て感じるようになった体の中にあるトゲトゲした流れを目に集めて、、、


結果は失敗。

私はそのままその場にぶっ倒れた。


目を覚ました時、ボロボロ涙を流す彼女が私の手を握って身体に温かい流れを送ってくれていて、、


「馬鹿!ばかばかばか!」


とめっちゃ罵声をくらった。でもその時眼鏡しなくても彼女の顔が良く見えて


「凄い!聖女決定じゃん!」


と喜んだら更に


「ばかー!」


と怒鳴られた。あはは結果オーライ!と私はポカポカ叩かれながら笑ったっけ。

あの時が1番楽しい時だった。今でも思い出すと涙が出そうになる美しい記憶。今私が無一文でもなんとか生きてられるのも彼女のおかげ。目が見えなかったらとっくに死んでた。メガネも地球から持ってきたスーツも仕事用鞄ももう手元にないから。すっかり変わってしまった彼女だがあの時のことは忘れない。


まぁ彼女が現在私の事を覚えているかっていったら、、ま、ね?

そこまで考えると胸が痛むけど。


その日の夜は魔法について沢山話した。魔法使いといえばセーラームー○?プ○キュア?何気にお互いジブ○ファンだと知ったのもこの時で


「傘持ってコマに乗って飛べるイメージもバッチリなんだけど!」

「あはは!!そこホウキにしようよ!それかメーヴェ!」

と沢山話して笑ったっけ。


6日目、メイドさん達にこれでもかって体を揉まれ否エステされ、なんか結婚式の主役ですか?ってぐらいのドレスをきてきらびやかにされて私たちの検査を受けた。


「緊張するねぇ。じゃぁ先に行ってくるね。」


なんて言葉が2人で話した最後になるとはその時は思わなかった。


部屋にある丸い水晶に手を当てて、はいおしまい。検査自体は一瞬で終わったのに暫く周りの魔道士さん達のヒソヒソが終わらなかった。この時に私は召喚初日と同じ不安に襲われた。あの時の不安は間違ってなかったと今なら言い切れる。

別の部屋に徐に促されて入り、暫くすると「おおー!」とか「素晴らしい!」とかの歓声がこちらにも届いてきた。ああ、やっぱり聖女だったか。と何となく納得する自分とじゃぁ聖女じゃない私はどうなるの?まさか殺されたりしないよね?との不安がごちゃごちゃとやってきて結構な時間放置されたけどあまり気にしてる余裕は無かった。

部屋の窓がすっかり暗くなった頃、いつも顔を出してくれた優しいおじさんが怖い顔して突然入ってきた。入ってくるなりため息ひとつ。無意識に体に力が入って肩が跳ねてしまったけど、おじさんはそんな私を気遣うこともなく淡々と言ったのだ。


「お前は聖女じゃなかった。これからどうしたい?」


聖女じゃないのは薄々気付いてたからそこは驚かないけどこれからどうしたい?とは?


「私は何だったのですか?」


回らない頭で出てきたのはずっと思ってた疑問だけであまりのアホさに自分でも泣けてきた。


「職業は召喚士、スキルは自分、だ。」


おじさんはそれだけ言って黙る。まるで叱られてる気分だ。


「召喚士として此処で働いても良いですか?あとスキルが自分、、って?」


「召喚士など特に重要でもない。この宮殿にも充分いる。しかもスキルが自分とはスキルがない事を指す。つまりスキルが無いから召喚魔法も使えないお前はまだ何も出来ない赤子同然だ。正直がっかりだ。今この国は余裕は一切ないのに!今までの接待分を返せ!!」


無表情で淡々と話してたおじさんは最後には怒鳴ってた。

あの時の私は呆気に取られて、今までの優しいおじさんの豹変ぶりに恐怖を覚えて体を震わせて涙を流すことしか出来なかった。


「働かせて下さい。」


私が言えたのはこの一言だけだった。


それからは地獄だった。そのまま物置部屋に

「今日からは此処がお前の部屋だ」

と連れて行かれて後からきたメイドに身ぐるみ剥がされた。けらけらと笑いながら。その後

「今日の湯あみ分よ!」

と水を掛けられて彼女達は去っていった。今まで穏やかにお世話してくれた彼女達の豹変ぶりも本当に怖かった。


その後私は下働きとしてトイレ掃除を黙々とやる日々だった。ご飯はどうしてるのかと通りすがりの下働きの人に聞いたら怖い顔で睨まれながらこっちと案内されてゴミ箱から食べかけのパンを貰った。その日から私のご飯は食べ残しのゴミになった。


トイレ掃除をしながら自分のトイレもそこでし、着ている服もついでに自分もたまにそこで洗ってゴミを食べる。お世話になったメイドは時折来て私の事がいかに気に入らなかったかを声高らかに上げて笑って帰っていく。1番精神的に堪えたのは

今の聖女様の素晴らしさを私に説き、"今の聖女様がいかに私の事を嫌ってた"かを言われる事だった。

そんな事は無いと最初は思っていたけれど、


「じゃあ何で助けに来ないかしってる?

本当は嫌いだったんだって!」


と嬉しそうに言われ続けた私の彼女に対する自信と信頼はボロボロになって行った。

そして事件は起きた。ある時メイド達に引っ張られて外に連れ出されたのだ。汚いとか臭いとか言うならほっとけば良いのに文句を言いながら引っ張っていったそこは綺麗な庭園で温かな日差しに満ちていた。もう私はあの時綺麗とも温かいとも思えなかったけどその時彼女を見つけたのだ。彼女はまるでお姫様みたいに綺麗で元々可愛いかったけどそれが次元を超えて綺麗になっていた。私は本当にとっさに何も考えず


「〇〇ちゃん!」


と声を掛けてしまった。


彼女はこちらを見て驚いた顔をして、


「行きましょう。」


日傘を持って追従しているメイドに声を掛けて

背を向けて去っていった。


力なく座り込んだ私の周りでクスクスと上品に笑う意地悪達はああ、時と場所を選んで態度を変えてるんだなと上手だなと聖女の態度以外の事を考えるようにしていたと思う。これは小さな現実逃避。でもその時聖女やこの国に対する未練や後悔も私の中でやっと綺麗さっぱり無くなった。


その後、あの怖いおじさんが部屋に来てこのまま此処で暮らすか市井に出て平民として暮らすか聞かれた。「平民になるならそれなりに暮らしていけるように整えよう」と言われて私は市井に出ると即答した。

それも嘘だったけど。

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