3日前①
#0 9月12日
冤罪。意味も過程も異なるが、私はこれに似ていると思う。なぜなら結果が同じだから。
罪のない者が自由と地位を奪われる。
生まれたときから別の何かとして扱われる。
途中で奪われた者と始めから持ち得なかったモノ。…違う、持ち得なかったわけじゃない。何かを持ってしまったがために捨てなければいけなくなったのだ。
ああ、今気づいた。ヒトっていうのは始めから容量が決まっていたんだ。いや、世の中はそう出来ている。例えば、本棚。本でいっぱいの棚に新たな本を加えたいとき、人はどうするのか。新しい本棚を買うのかもしれないし、いらない本を処分するのかもしれない。始めからあった棚が大きくなることなどあり得ない。
だから周囲に押し付ける。つまり、世界には二種類の存在しかない。押し付けられる者と押し付けられるモノ。本棚と本。どちらも押し付けられるもの。役割は異なっていても、見た目だけでは区別できない。なら…
「・・・脱線したなぁ」
冷たい空気と硬い壁に触れ我に帰る。私はいつの間にこんな詩人になったのだろう。我ながら少し恥ずかしい。でも、たまには退屈な日常から逃れて瞑想するのも悪くない。
前髪を軽く流して、ふと、格子窓から空を見上げる。地上三階から見る夜はどこか別の世界のようで不安だったが同時に心踊るものがあった。月も見えない寂しい夜だけれど―――――
私にとっては特別なものだったんだ。
#1 9月13日
「なぁなぁ、今朝の新聞読んだ?」
「ん?俺夕刊」
「今どき新聞て、じいさんかよ」
「いーや。俺は読んだぜ」
「どうせ番組表だろ?」
「ふっ。甘いな、4コマもだ」
……違う。
「ねぇまた夜にでかい虫出たんだけど!」
「ん?ああ、風呂上がりに鏡みたのね」
「ちょ、サイテーw」
……違う。
「次の時間なんだっけ?」
「えーと、たぶん現社」
「宿題ってないよね?」
「うん」
「しれっと嘘つくなよ」
「おい言うなよ」
……違う。いつもと変わらない休み時間に妙な違和感。
俺はこの違和感を知っている。知っているはずだがどうにも思い出せない……よし。モヤモヤして仕方がないが、これは絶対思い出せないタイプの忘却なので、考えるのを放棄しよう。
「おーい、ショー。ショー?ショー…!」
と、距離にして7M。
俺のあだ名を連呼し手を振る一人の男子生徒はどこかいつもより顔が曇っていた。
「…なんだよ司、教科書忘れたか?昼休み外に来るなんて珍しい」
「いやぁ、昼休みはちょっと用事があって。放課後相談したいことがあるんだけど、空いてる?」
「空いてるぞ。掃除後に昇降口でいいか?」
「うん、ありがとう。じゃ」
手を軽くあげて踵を返す友人は、やはりどこか覇気がない。寝不足か?
「おい司。ちゃんと寝てるか?」
「大丈夫。」
「・・・」
即答する友人をしばし眺めた後、自席に戻って現代社会の教科書を準備する。
「ん?」
地上三階の窓から見える青空には白く薄い半月。当たり前の風景はどこか美しく、そして、寂しく感じさせた。