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始まり、始まり

某、携帯コミュニティサイトでも同じようなものを書いていますので、そちらをもしも知っている方がいましたら設定パクってるんじゃないか、とか言われそうですが、そうならない事を願っております。お目汚しではなければ、目を通してみてください。この小説には一部、グロ表現があるかも知れません。どの程度からグロか分からないので、一応グロ表現があるかもしれないと、この場で伝えさせていただきます。

 「おいおい……何だよ、これは?」

その少年は自分の家に堂々とに置いてあった見知らぬ黒い箱を半目になりながら眺め、呟いた。少年はこの春に高校二年生に進級したばかりの高校生だ。黒髪は長髪にはならないが、決して短くはない長さ。額にかかり、鼻先まで前髪は伸び、全体的な長さもそれに揃っていた。痩せ型の体格で、百七十センチ中頃くらいの身長だ。濃紺の制服のブレザーを脱いでハンガーにかけた。

 少年の家は六畳一間のアパートだ。とある事情から、高校入学時から一人暮らしをしている。狭いお飾り程度の台所に、窮屈な浴室、小さなトイレと、少年に不満は多くあったが、都内で家賃月に一万円という安さから、我慢出来ていた。そんな彼の住むアパートに夕方帰って来ると、散らかった部屋のど真ん中に不審な黒い箱があったのだ。雑誌や脱いだままの服、趣味のエレキギターのスコアなどが乱雑になっている中、その黒い箱は物をどけられて放置――というには聊か語弊があるかも知れないが――されていた。

 「宅配便とか? ……ある訳ねえか」

自分で出した仮定を否定し、少年は箱の前にどっかと座った。黒い箱は少年には見覚えがない。一辺が四十センチくらいの立方体で、漆黒に染まっていた。取っ手もなければ、飾りもない。完全な真四角で、それが少年にはどうも不気味に思えてならなかった。

「……」

このまま見つめていても埒が明かないとして、少年は恐る恐る手を伸ばした。黒い箱に手の平が触れる。冷たくて、硬かった。金属とは違う感じもするが、木でもなければプラスチックでもなさそうだった。扉を叩くように、軽くノックしてみる。数秒したが、何の反応もない。手に持ってみると、見た目の割りには重かった。ノックした感じの音だと、中に何かが入っている感じもした。だが、蓋はない。

 「何なんだ?」

不審に思いながら少年が黒い箱を置いて、むぅ、と唸りながら腕を組んでみた。渋い顔をしながら黒い箱を睨みつけ、どうすべきかを考える。無視して放置しておくか、どこかに捨てにいくか、警察に届けてしまうか、保管しておくか。とりあえず四つの選択肢が少年の頭に浮かんだ。だが、どれも気乗りしない。無視するのも気になりそうな気がするし、捨てにいくのだってこんな物を持ってごみ捨て場まで行くのはどうも面倒だ。警察に届けるのは余計に面倒だし、保管するにしても得体の知れないものを持っておくのは気が引けた。

「……何か気になるから、駄目なんだな。よし、いっそ壊そう」

何を思ったのか、少年はそんな結論にたどり着いた。黒い箱をそのままにし、押入れから工具箱を出した。一人暮らしする時に何故か家から持ってきた物だ。そこから金鎚と鑿、ペンチやスパナなどを取り出して、黒い箱を卓袱台の上に置いた。ごくりと生唾を飲み込み、まずは金鎚を振りかぶった。ガンッと大きめの音がして少年は黒い箱を見た。傷一つついていなかった。

「硬いな、こりゃ……」

呟いて、少年は畜生め、と黒い箱に言ってまた金鎚を振り上げる。今度は遠慮の欠片もなく、金鎚を振り下ろした。より大きな音がして、でも少年は止めなかった。ガンッ、ガンッ、と大きな音を立てながら少年は諦めずに金鎚を振るう。

 「これで、ちったぁ傷くらい――」

言葉は驚きによって途中で飲み込まれた。少年は力の限りに叩いていたはずなのに、黒い箱には少しも傷がついていなかった。それどころか、少年の手が僅かに痺れ、畳に卓袱台の足がめり込んでいた。流石にこうなっては少年も安易な考えを捨てる事にした。

「きっと、これは……俺に対する挑戦だな?」

訳の分からない事を呟き、少年はふっと得意げに笑った。少々、楽天的でお馬鹿な所がある少年なのだ。学力的な馬鹿ではなく、何事も安易に――と、いうか独特のオリジナリティに溢れる解釈をしてしまうので、性質が悪い。

「壊してみろ、ってか? この箱野郎。おう、上等だぜ。お前なんか絶対に壊してやる。その中身、今から覚悟しやがれ」

何とも勝手な独り言を言い、少年は工具箱から鋸を取り出した。黒い箱に片足をかけ、鋸のギザギザの刃を箱に当てる。一息ついて呼吸を整えてから、鋸の刃を引いた。――途端、鋸の刃がぐにゃりと曲がって、そのまま折れてしまった。折れた刃が少年の頬を浅く掠めて、赤い血をたらりと流した。冷やりとした感覚を覚えつつ、折れた鋸の柄と箱を交互に見た。文字通りに『刃』が立たなかったのだ。

「何だ、こりゃ――?」

硬くて、重くて、不気味な存在感を醸し出している黒い箱を見つめたまま、少年は呟いた。傷の一つもつかないそれは、少年に得体の知れない恐怖を醸し出した。黒い箱を持ち上げて、顔を近づけて凝視する。細かな傷すらもなく、指紋もつかない。持った感覚としてはただそこに在る形も持っているような、材質も僅かな熱も感じられない、何とも不思議な感じだ。

 『――なかなか、面白い性格をしているじゃあないか』

「そりゃあどうも――って、あれ?」

どこからかした声に返事をしたところで、少年は声の出所に戸惑った。黒い箱を持ったまま、周囲を見る。部屋には窓から夕陽が差し込み、柔らかなオレンジ色に染まっている。物静かなアパートで、少年の他に住人といえば大家しかない――はずだ。それなのに、どこからか声は確かに聞こえてきたのだ。

『お前の持っている箱だ』

声は少年の戸惑いに、そんな答えを出した。声の感じとしては若い男性のものだ。どこか偉そうで、口調は静かだが威圧感を感じられないでもない。低すぎず、決して高い声でもない。

「箱? ……こん中にあんたが入ってんのか? 出て来い、つか、どうやって入ったんだ? 何で俺の部屋に居るんだよ?」

矢継ぎ早に少年は質問をした。驚く所は他にもあるかも知れないが、そこは少年の独特の性格だ。彼にとっては些細な事でしかなかったらしい。

『初めに断っておくが、これは封印だ。これを解いたら、お前はとんでもない事に巻き込まれていく事になる。それでもいいなら、右手を開いて箱に押し当てて念じてみろ。開け、と強くな。よく考えてから――」

声は続いていたのに、少年は右手を黒い箱に押し付けた。そのまま聞く耳も持たずに目を閉じて、ただ一心だけ頭に浮かべ、それを口に出した。

「開け」

すると、黒い箱から強烈な光が漏れだした。六畳一間の小さな部屋を強い光が埋め尽くして、少年は反射的にきつく目を閉じた。すると、足が畳から離れていく感覚をした。さらに上下、左右の感覚が分からなくなり、目を開けると混沌とした黒と紫の混じり合った空間を真っ逆さまに――いや、もしかしたら真上に向かっているのかも知れないくらいにあやふやな感覚をしたまま、引っ張られていた。そして、ふと気付くと少年は黒一色の不思議な空間に、ただ一人で立ち尽くしていた――。

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