~争い~
~前話あらすじ~
腹ごしらえをしてようやく火ノ国を出発。道中、村に寄るもなぜか捕えられて?
「ねぇユズ、遠すぎない?」これで本日59回目の文句だった。
だが無理はない。もう歩き続けて3日経つ。もちろんミカンがゴネて休み休みには違いないが。
「まだ半分も行ってな…いややめておこう。」ユズが言葉を濁す。
「半分も・・・半分も何よ!?」親犬に見捨てられた子犬ですらこんな絶望した顔は見せないだろう。
「まぁ長旅になるからな。確かこの道沿いにそこそこ大きい村があったはずなんだ、そこで休ませて貰おう。」ユズはやれやれといった感じに首を降った。
それから2時間後。
「ねぇまだ着かないの?」
「・・・。」ユズは聞こえないふりをする。
「ねぇ!まだ!着かないの!?」これで本日61回目の文句だった。
「わかった、わかった。目を凝らしてよく見てみてよ、もう村は見えてるじゃないか。」
「やっと・・・。着いた・・・。」ミカンは疲労のせいだろうか。力の入らない様子はデロデロに溶けたスライムそのものだった。
おい、お前ら。何者だ!
不意に腕を掴まれ拘束される。ミカンとユズ。
「ま、待て待て!俺の顔がわからないか?何ヶ月か前に一緒に狩りをしたユズだよ!長老に会わせてくれ!」
それは出来ねぇな。最近、山賊が暴れているからこの村に侵入したよそ者は全て引っ捕えるように長老から直々に命令されているからな。
「あのぅ。私たちってこれからどうなるんでしょうか?」おずおずとミカンが尋ねる。
ひとまず牢屋にぶち込んで山賊がどうか調べなくっちゃな。拠点の場所も吐いて貰うから覚悟しておけ!
「ミカン、ここは素直に従っておこう。俺らはどうせ何もやっちゃいない。無実が証明されればじきに解放してもらえるはずだ。」
「う、うん。わかった。言う通りにするよ。」大人しく頷くミカン。
やがて夜になった。
「もしかしてご飯って貰えないのかな・・・。」親猫に見捨てられた子猫でもこんな絶望した顔は見せないだろう。
「何言ってんだ、さっき果物を頂いたばかりだろ?」
「えっ。あんなのが今日の晩ごはんなの・・・。」
ドーーーーーンッ
村の南側から大きい音が轟いた。
「何かあったのかなぁ?」ミカンはユズに問いかける。
「静かに。」人差し指をピンと顔の前に立てるユズ。
「恐らくだが、山賊が攻めてきてるのだろう。剣と剣がぶつかる音。それに今の音は爆発魔法だと思う。これは・・・戦いが始まったんだ。」
次第に喧騒は勢いを増していく。焦げた臭いと悲鳴で辺りは満ちていた。
「戦いって・・・。なんで戦わなきゃいけないの!なんでみんな傷つけあうの?」ミカンが叫ぶ。それは無常にも牢屋の中で響くだけで、誰の心にも響かなかった。
檻から見える大広場で村一番の剣士と山賊の親分が1対1で闘っていた。実力は同じほどに見えたが決着は思いのほか早く着いた。、親分は手負いだったのだろう。親分が地面に膝をつき剣士がトドメを刺した。直剣で胸を一突き。
「ユズ・・・。檻を壊して。お願い早く!みんな死んじゃうよ!」
「ミカン。でも俺らはここにいれば安全だ…
「うるさい!はやくしなさいよ!」ミカンは涙を流していた。何が悲しかったのか明確にはわからかったが名状し難い何かがミカンを突き動かした。
「わかった。」
ユズの炎で檻の端が少し燃え失せた。
ミカンは隙間から出て瀕死の親分に走り寄る。
「大丈夫ですか!?私がわかりますか!?」
・・・誰だ・・・お前。
血を吐きながらも山賊はしっかりミカンを見据える。
「私、私は・・・。」
お前!やはり山賊の手先だったか!
村の剣士が直剣を大きく振りかぶる。
斬られる!と目をつむったその時。
「大癒術師様だ。」
ユズが短剣で剣撃を防いでいた。
では!なぜその蛮人を守る!そいつは山賊ではないか!
「怪我人に村人も山賊も敵も味方もありません!私は傷ついている人を癒したいだけなんです!」
「だからもう争いはやめてくださぁぁぁいっ!」
祈りは・・・届いた。喧騒は止み、静寂が訪れた。
瀕死の親分は完治していてた。だけではなかった。
山賊も村の人たちも全てひとり残らず回復していた。
カランッ。
1つ剣が地面に落ちる音が聞こえた。それが引金になったようだった。次々と手に持つ武器を投げ棄てた。
そうして、村と山賊の争いは終結した。
Thank you for reading!!
投稿遅くなって申し訳ありません。