85話 第二次太陽系侵攻作戦
年が明けた王国軍は、太陽系への侵攻作戦を開始した。
陣容はケルビエル要塞とイスラフェル112万5000艇、王国軍10個艦隊、貴族軍15個艦隊。自重を求められた貴族艦隊は、艦艇数こそ規定の枠内に収まったが、戦艦や要塞艦の比率は異様に高くなっている。
戦力評価では、イスラフェルが天華15万隻分、王国艦隊が天華7000隻分、貴族艦隊が天華1万4000隻分、合計17万1000隻に匹敵する。
対する天華は、アテナ星系から離脱した艦隊が14万4000隻、太陽系とヘラクレス星系の防衛艦隊に2万隻ずつ配備されている。そのため太陽系には、最小で2万隻、最大で16万4000隻が駐留していると考えられた。
「想定で最大の艦艇が駐留していた場合は、撤退も有り得る」
艦の魔素機関を停止されれば、偵察艦の多次元魔素変換観測波でも調べられないために、太陽系の駐留戦力は不明瞭だ。
最大規模の艦隊が駐留していれば激戦となるが、ハルトは戦力評価が100対70よりも自軍に不利な場合には、太陽系での戦闘を避ける方針だった。
育成が大変な艦隊の将兵を擂り潰して、貴重な高魔力者の貴族を死なせて、ケルビエル要塞を破壊されかねない危険まで冒すなど、正気の沙汰では無い。
太陽系の戦力が多かった場合、精霊と契約している艦隊の速度でヘラクレス星系に移動して、ヘラクレス星系の駐留艦隊だけを各個撃破して国民に納得して貰う。
作戦を事前に伝えられており、勝てると分かっている戦いに挑む将兵は、非常に士気旺盛であった。
「必勝の戦いで、昇進と武勲章を得るチャンスだ」
「戦果を挙げれば昇進できるから、昇進試験を受けるよりも楽で良いよな」
将兵は意気揚々と進撃していたが、彼らを統率するハルト自身は、攻略目標である太陽系侵攻に必然性は見出しておらず、あまり乗り気では無かった。
人類発祥の地は、紛れもなく地球である。
人類自体の定義は、時代によって異なる見解があるものの、人類と猿人類を区分する最大の特徴の1つとして、直立二足歩行が挙げられる。
直立歩行の開始は、少なくとも約440万年前のアフリカに存在したアルディピテクス・ラミドゥスなる種までは遡れる。
二足歩行に至った人類の祖先は、走って獲物を追いかける生活を続けた事で、体温が上がりすぎないように体毛が薄くなり、栄養価の高い肉食生活によって脳も大きく発達していき、次第に現代の姿へと近づいていった。
それから長大な時が流れて、約40万年前にはヨーロッパに進出した一部がネアンデルタール人に進化した。そしてアフリカに残った一部が、約20万年前にホモ・サピエンスに進化した。
人類の直接的な祖先はホモ・サピエンスとされるが、現代人の遺伝子にネアンデルタール人の遺伝子が混ざっていた事も確認されており、今では両方が人類の祖先だと見なされる。
それら学説の全てに共通する人類発祥の地は、地球のアフリカである。
だが、ハルトのルーツである日本人は、アフリカに住まずとも子孫を繋いで来られた。日本人が江戸時代に鎖国しても、支障なく命を繋いで来られた歴史に鑑みるに、人類発祥の地は、現在の人類にとって、生存に不可欠な存在では無い。
「人類発祥の地は地球のアフリカだが、日本人は鎖国しても生活を営めた。惑星では地球が発祥の星となるが、ディーテ王国民は地球が無くても生活できた。現代の人類にとって、太陽系や地球は、生存に必要不可欠な存在では無い」
ハルトは太陽系に対して、代替不可能な価値は見出していない。
居住星系としての価値で考えれば、それなりに高いとは思っている。
ディーテ王国が有する星系で、星間文明人が住む惑星環境として太陽系を上回ると考えて良いのは、深城とディーテだけで、他は同等以下となる。
一方で政治的な視点で考えれば、王国民を怨敵認定する旧連合民10億人と、ディーテに保障を要求して止まない連合非加盟国40億人が住む地球は、王国民の居住環境としては価値が最悪になる。
従って王国民にとって太陽系は、建国の経緯から考えれば征服には価値があり、生物学など学問上の価値も認められるが、居住星系としては「別にいらない」の結論となる。
対する天華側は、太陽系や地球に対して、どれほどの価値を見出すのか。
3国となった天華連邦は、天都に303億人、大泉に125億人、本陽に112億人が暮らしている。居住星系として、太陽系に匹敵する価値を有するのは天都だけで、残り2惑星は太陽系に比べて確実に劣る。
そのため天華が王国を排除できるのであれば、太陽系への移民は確実に行うだろう。だが九山からの情報では、天華が太陽系に配備できる戦力は2万隻で、王国が存在する以上、移民どころでは無い。
太陽系の恒星系外縁部に達した後、徹底的な索敵によって調べられた天華艦隊は、九山からの情報どおりであり、王国軍が予想した最小だった。
『太陽系内の索敵結果が出ました。敵艦隊数、約2万隻です』
ベルトランから報告を受けたハルトは、軽く頷き返した。
王国軍10個艦隊と貴族軍15個艦隊だけの侵攻であれば、互角の戦いとなる防衛戦力だ。そしてケルビエル要塞と戦闘艇を用いれば、圧勝となる。
ハルトは念のために、リュウホから送られてきた九山軍の元大将で、王国軍中将の階級を与えた郭芳に確認した。
「グゥォ中将、私見で構わないから述べよ。深城奪還で王国側に情報を奪われた敵の太陽系方面軍の戦力が、以前と全く変わっていない。あれは伏兵を周囲に隠しているのか。それとも太陽系に配備できる戦力に余裕が無いのか」
問われたファンは、即答した。
「申し上げます。あれが現状で無理なく配備できる限界です。マクリールと深城を奪われた3国は、直接侵攻されかねない本国を守らなければなりません。太陽系に、本国よりも多くの防衛戦力を割り振る事は出来ません」
新京や九山が破壊された光景を目の当たりにした天華は、ケルビエル要塞で直接に乗り込んでくるハルトを相手に、自国の守りを疎かには出来ない。
自分が天華陣営であった場合を想像したハルトは納得して、敵が2万隻だと判断した上で、参謀達に戦力差を評価させた。すると戦力差は8倍で、戦力評価は100対12と出た。
戦力評価が100対70よりも有利であれば戦う予定だった王国軍は、圧勝できるという分析結果に歓喜した。
戦艦や要塞艦を多数持ち込んだ貴族艦隊は、敵を射程外から蹂躙できる。
艦隊戦では長距離砲撃によって損害を出さずに、大型戦闘艇イスラフェルを送り込んだ後は、数の暴力で近接戦闘を行い蹂躙する。
ハルトは奇を衒わずに、兵力差を最大限に活かした進撃を命じた。
『全軍に告ぐ。敵艦隊は2万隻。我々との兵力差は8倍で、戦力評価は100対12だ。全軍で壁となって進み、砲撃戦の後にイスラフェルが突入して、敵を殲滅する。つまり集団で殴り殺せ。以上である。進撃せよ』
誰にでも伝わる端的な命令が発せられた後、太陽系侵攻軍は魔素機関の出力を上げて、中央と左右の3軍に分かれながら進撃を開始した。
中央軍は、ケルビエル要塞を中心として、周囲に4個艦隊が配されている。中央軍に付き従うのはディーテ系とアテナ系の貴族達で、過去の会戦で受けた損害が最も大きいために、中央に振り分けられた。
右翼3個艦隊は、深城星域会戦後に昇進したアドルフ・マイヤー大将が指揮しており、アルテミスとポダレイの貴族軍が配されている。
左翼3個艦隊は、同じく昇進したばかりのフォンゼル・ヴァーグナー大将が指揮しており、アポロンとマカオンの貴族軍が配されている。
ケルビエル要塞から発進したイスラフェルが3軍の厚みを増して、恒星系の外側から内部へと突き進んでいく。
勝ったな……等と、わざわざ口に出して宣言したりはしないが、ハルトは勝利を確信していた。広大な宇宙空間において、8対1という圧倒的な戦力差で正面から戦えば、相手がどれほどの名将であろうとも敗北は有り得ない。
敵は損害を避けて、離脱するだろう。
そんなハルトの予想は、完全に裏切られた。
予想外の行動を採ったのは、ウンランと共にヘラクレス星系で邪霊を目にした後、太陽系に派遣された王伟大将であった。彼は太陽系で王国軍の足止めを行い、ウンランが活動する時間を稼ぐ事だけを目的としていた。
そのためにウェイが選択した手段が、地球の衛星軌道上に分かり易く天体を並べ、各地には地雷のように核融合弾を埋設して、王国軍が進撃すれば地球を攻撃すると脅す事であった。
『ディーテ王国軍に告ぐ。進撃すれば、遠隔操作で地球を壊滅させる。地球と火星の大規模食料生産施設群にも、核融合弾を埋設した。貴様等は地球を手に入れられない。地球人を無為に殺したくなければ、侵攻を断念して撤退しろ』
このような脅迫で王国軍が引き下がるとは、ウェイも思っていなかった。
彼の企図は、食料生産力を失った太陽系の数十億人を王国に押し付けて、復旧と事後処理に忙殺させて時間を稼ぐ事にあった。
天華の太陽系駐留軍は、主力をハルト達が侵攻してくる方向とは真逆に逃がしながら、一部の艦艇と遠隔操作とで、地球と火星への攻撃態勢を整えている。
さらに地球や火星からは、天華に妨害されていない通信で旧連合民と非加盟国民の両方から、王国に対する抗議がリアルタイムで送り付けられてきた。
非常識な脅迫と、理不尽な抗議を同時に浴びせ掛けられたハルトは、無力な後者の通信を遮断した上で、呆れながら前者に答えた。
『王国のアマカワ元帥だ。同様の脅迫を深城でも聞かされたが、王国に対して人質は無意味だ。我々は自国の星系を破壊されても、生き残った王国民で報復するなり、逃げて捲土重来を図るなりする。まして太陽系には、王国民が居ない。人質にすら、なっていない』
ハルトの結論を聞かされた太陽系の人々は、一斉にがなり立てて抗議した。ハルトの下までは届けられていないが、情報を選別する通信士官達は、罵声の嵐に顔を顰めていた。
太陽系民の抗議に対してハルトは、攻撃を宣言する天華側に言うべきだろうと、心の中で反論した。
王国民が地球に足を踏み入れたら襲い掛かってくる旧連合民や、一方的な権利主張ばかりしてきた旧非加盟国民に対する王国側の心証は最悪だ。常識的に考えれば、王国民が無理にでも彼らを助けたいと思う訳がない。
もっとも、天華が彼らを攻撃する事には意味がある。
埋設された核融合弾が月単位の時間差で爆発を続ければ、地球占領後の王国は、終わる事のない救助活動や復旧作業に労力を費やされる。
そして大規模食料生産施設群を破壊されれば、数十億人の食糧危機にも対応しなければならず、半永久的な解決には、本国から相応の設備を持ち込まなければならなくなる。
太陽系に駐留している天華の目的が、天華本国へ侵攻されるまでの時間稼ぎであるならば、現地司令官であるウェイの行動は最適解だ。
「よくもここまで、節操がない手段を選んだものだ」
天華5国は、『王国が戦争で旧連合民200億人を殺した事』を非人道的だと非難して、旧連合領と旧連合民の引き渡しを求めて開戦した。それが今や、地球に天体と核融合弾を落とすと宣っている。
天華の戦争目的が、当初の居住星系確保から、王国からの自衛に変遷したからである事は明白だったが、大義名分を忘れた彼らにハルトは呆れざるを得なかった。
天華が脅迫した事情を概ね察したハルトは、一度ウェイとの通信を切った後、念のために天華側の元大将であった九山出身のファン中将に訊ねた。
「太陽系には王国民が住んでおらず、深城で九山に行ったような、国家ごと引き入れる手は使わない。ウェイ大将に攻撃を止めさせる事は不可能か」
大して期待していない様子のハルトに向かって、ファンも気負わずに答えた。
「天華人民は、一族単位で利益を考えます。一族全体が得をする交渉材料が無ければ、翻意を促しても相手にしません。ウェイ大将の場合は、大泉全体の利益にならなければ応じないでしょう」
説明を受けたハルトは、ウェイに翻意を促すのは不可能だと断じた。
「大泉は無理だな」
地球を破壊しなければ、戦後に大泉にだけは自治権を与える……という提案であれば、ウェイも交渉に応じるかもしれない。
そうして中途半端に残した大泉は、戦後に国家魔力者を増やし続けて、いつか再び王国の脅威となるだろう。
それに第二次ディーテ星域会戦において、前王ヴァルフレートら30億人を殺したのが、大泉のウンランだ。
父親を殺された女王ユーナが、大泉の脅迫に屈する事は出来ない。大多数の王国民も、太陽系民を助けるためにウンランと大泉を見逃すなど納得しない。
ハルトは遮断していた通信を繋いで、ウェイに告げた。
『結論を告げる。交渉の余地は無い。貴様等を排除して、太陽系を奪還する』
『結構だ。それでは王国が見殺しにする決断を下した、地球人達の末路を、進撃しながら眺めたまえ』
自分達が攻撃する事を差し置いて、まるでハルトの責任で殺されるかのような一方的な言い掛かりに、ハルトは当然の反論を行った。
『おかしな事を言うな。地球人を殺そうとしているのは、お前達天華3国だ。死なせたくなければ、お前達が地球を攻撃しなければ良いだけだろう』
『ならば王国が進撃を止めたまえ』
『大泉とは、話にならないようだ。通信を切れ。以降は、繋がなくて良い』
ウェイの人を馬鹿にした発言に不快感を示したハルトは、不快感をあらわにしながら、通信士官に命じた。そして全軍に対して、新たな命令を出した。
『司令長官アマカワ元帥より、全艦隊に命ず。天華が地球に対して、天体突入と核融合弾で攻撃する可能性が極めて高い。地球人を火星に避難させるために、輸送用コンテナを取り付けた戦闘艇の準備を行え』
ここまで愚かしい事態は、ハルトも想定外だった。それでもケルビエル要塞には多数の輸送用コンテナがあり、貴族が持ち込んだ多数の大型艦もある。
速度を落とさずに進撃が続けられる中、各艦隊の参謀部が慌ただしく動き出して、様々な問題を矢継ぎ早に挙げては、他の艦隊と連携して自己解決していった。
地球攻撃への対応準備が進められていく中、総参謀長のベルトランを介して、侵攻軍で解決できない問題だけがハルトに報告された。
「元帥閣下。火星は居住惑星としての適性を欠き、長期的な避難には向きません。また火星は、自給自足する程度の食料生産力しか持たず、地球の人口を支えきれません」
そうだろうな……と、ハルトは内心で賛同した。
ベルトランが指摘したとおり、人類が最初期にテラフォーミングした火星は、重力が地球の3分の1程度しかない欠陥惑星だ。
低重力の惑星下では、心臓から全身に血液を送り出す力が少なくて済むために、人間の心機能が低下していく。筋肉も次第に衰え、カルシウムも失われていく。
生体調整すれば解決できるのだが、他の人類と同じ重力下で活動できないために、人類社会から切り離されてしまう。
火星に住む人間も存在するが、火星は食料生産から経済まで自己完結しており、地球に食料輸出も行っていないために、余剰人口を支える力は無い。
天華が、火星の大規模食料生産施設群も、核融合弾の目標だと明言した以上、火星人の食料も危うい。
「我が軍が持ち込んだ食料は、どれくらいあるか」
ハルトが渋面で不本意を表わしたのは、王国軍が大量の食料を抱え込んでいない事を知っているためだ。
星間移動に時間を要した歴史から、王国軍は艦内に、食料プラントを有する。食糧供給能力は乗員数の2倍程度で、半永久的に生産し続けられる。
また王国の各星系では、惑星を破壊された時に備えて、恒星系外縁部の天体群に、大規模な保存食料や生産プラントを隠し持っている。
王国は艦隊が自給自足できて、各星系にも食糧危機が訪れない耐性が出来ている。そのため王国軍は、艦隊が大量の食料を持ち運んだりはしない。
「殆どありません。本国から食料と生産プラントを積載した大規模な艦隊を派遣させなければ、いずれ確実に数十億人の餓死者が出ます」
数十億人分の食糧輸送を想像したハルトは、思わず溜息を溢した。
輸送艦1隻は、400万人が1年間に消費する穀物を運べる。従って輸送艦で10億人分の食料を運ぶのであれば、250隻で可能だ。
だが人間は、1年間も水と穀物だけで生きていけるだろうか。同程度の副菜、6割ほどの主菜、4割程度の乳製品などと栄養学で必要量を考えれば、輸送艦は3倍に増やさなければならない。
1個艦隊に配備される輸送艦は100隻であるため、食料を運ばせるのであれば8個艦隊分の輸送艦が必要になる。
さらに人間が生きていくためには、食料だけでは足りない。火星に増設する住居や生活必需品は、どの程度必要になるだろうか。
王国が移民用にしている大型コンテナは、1個で4万人を収容できる。
10億人であれば2万5000個が必要で、輸送艦で2万5000隻、250個艦隊分が必要になる。そして王国軍には、それほど多くの輸送艦は存在しない。
しかも10億人は、旧連合民だけの数であって、非加盟国の40億人や、非正規人口とされる総数不明な地球人、同じく総数不明な火星人を合わせれば、最低でも6倍から、最大で10倍くらい必要になる。
王国が対応せざるを得ない手間の数々を理解したハルトは、座席の肘掛けに拳を打ち付けて怒りを発露した。
「本国に連絡して、食糧と生産プラントの輸送を要請しろ。輸送艦では、輸送力が全く足りない。付いてきた諸侯に声を掛けて、後方星系から大型艦で運んで貰うように依頼しろ」
これが王国民を助けるためであれば、ハルトは貸し借りだとは考えないし、むしろ貴族の仕事だから率先してやれとすら思う。
だが王国民のためではない事態で、星系の防衛力や備蓄食料を減らしてまで大型艦の派遣を依頼するのは、舌打ちに堪える程度には不本意だった。
「マイヤー大将とヴァーグナー大将の両翼軍は、イスラフェル100万艇と共に、太陽系の天華艦隊を殲滅しろ。カルネウス大将は、中央軍と残りのイスラフェルを使って地球と火星を制圧しろ」
怒れるハルト率いる王国軍が、太陽系の中心に突き進むのに合わせて、天華側も地球と火星への攻撃を開始した。
いずれ自分達が使えるように、あるいは難民が増えるように手加減された核融合弾の爆発が、地球の各大陸で荒れ狂った。
『天華艦隊、地球を攻撃しています。惑星表面に多数の爆発が発生中』
進撃する王国軍のスクリーンには、地表の各所に輝く閃光と共に、大気を吹き飛ばしながら吹き上がる粉塵が、地球を覆っていく姿が映し出されていた。
火星の表面にも多数の閃光が輝いており、大規模食料生産施設群が消し飛ばされているのだと推測された。
50億人を半永久的に支える事は、王国でも負担だ。
王国の世論が沸き上がった結果として行った太陽系侵攻だが、このような結果は、王国民の誰も望まなかっただろう。
「地球人を火星に避難させろ。本国に対しては、私が事態を報告する」
太陽系と同じ作戦を使われる事を考えれば、このままヘラクレス星系には進めない。そして太陽系を奪い返されれば、安易に再奪還すべきではない。本国からの物資輸送は必要だが、今後の方針については再検討の必要があった。
ハルトが説明のために本国への通信を繋がせた時、本国からはフロージ星系において、太陽系を上回る凄惨な事態が発生したとの情報がもたらされた。