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75話 在位7ヵ月の成果【&本日刊行。告知漫画・公開】

本作のイラストレーター、芝石ひらめ先生が、

ご自身のTwitterに、告知漫画を載せて下さいました!


https://twitter.com/hirame_sa/status/1415808093925961729


…………フルカラーで、4ページほどあるのでしょうか??

書籍版のイメージと完全一致な、ハートフル漫画です☆彡

 ディーテ王国歴444年10月。

 女王ユーナの戴冠から7ヵ月が経過した人類の勢力図は、劇的に変化していた。


  挿絵(By みてみん)


 総人口は、352億人対975億人から、640億人対600億人。100対277が、100対94になった。居住可能星系の領有数も、6対7から8対5に逆転している。

 王国の最前線である4星系420億人については、精霊王の領域化と転移門によって、天華連邦が総戦力を以て侵攻しても突破できない鉄壁の守りとなった。

 逆に天華連邦は、新京と九山の2国が消滅して天華3国となった。これまでに出した損害は甚大であり、3国の首星以外はケルビエル要塞の侵攻に耐えられる戦力が残されていない。

 第二次ディーテ星域会戦で前王が戦死してから、僅か1年。王国は、総人口、居住可能星系、総戦力の全てで天華連邦を逆転しており、時間経過ごとに差を広げつつあった。

 王国の各星系では、あと1年ほどで防衛艦艇が、サラマンダーから大型戦闘艇イスラフェル4000万艇に切り替わる予定だ。

 これは天華艦艇160万隻に匹敵する戦力であり、50万隻で攻め込まれたアテナ星系の規模であれば、精霊王の領域が無くとも星系を守り切れるようになる。

 各星系の操縦者は4000万人を超えており、余剰人員はD級結晶で、サラマンダーや制圧機を用いて、資源採掘や輸送を行わせる余裕すらあった。


 強固な防衛体制を構築したハルトは、ケルビエル要塞の人事にも手を加えた。

 戦闘艇部長の打診を受けたアロイス・カーン准将は、王国歴441年初頭、戦死した元王太子グラシアンが太陽系を制圧していた頃にヴァルフレートが本国で集めていた戦闘艇操縦者の一期生だ。

 志願時に19歳という若さで、ハルトよりも1歳年上でしかないアロイスは、第一次ディーテ会戦の戦災者だ。

 戦争で家族も財産も失って自暴自棄になった志願兵は大勢居て、それらが死ぬか大戦果を挙げるかの二択になるのは有り触れた話だが、その中でも際だって異常な戦果を挙げていたのがアロイスだった。


「士官学校どころか、戦闘艇の専門学校出身者ですらない短期養成所出身の貴官に要塞の戦闘艇部長を任せたいのは、それが要塞の安全性を高めるために最善だと考えたからだ」

「…………はあ」


 様々なものを失って短期養成所に入ったアロイスは、半年後に伍長となって任官した後に旧連合の4星系戦に従軍して、少尉として正式に王国軍人となった。

 第二次ディーテ星域会戦によって発生した深刻な人材不足と、功績を挙げた時期が重なった彼は、昨年のケルビエル要塞の3星系戦で少佐まで上がり、アテナから深城までの3星系戦で准将まで上がっている。

 アロイスは従軍した10度の会戦で、いずれも武勲章を受章できる基準を最低でも6倍は上回る功績を打ち立てている。

 そして特筆すべき功績として、新京の統治者リキョウの乗艦であった総旗艦をイスラフェルで単独撃破した。


 アロイスの戦果は、アロイスに付いている精霊が大いに関係しているのだと、ハルトは確信している。

 人間如き低次元の存在に、本気で入れ込んでくれる希有な精霊が、アロイスの傍に居るのだ。

 アロイスをケルビエル要塞に乗せておけば、精霊がアロイスを守ろうとして周囲の精霊を動かす結果として、要塞の安全性も高まるとハルトは考えた。


「ケルビエル要塞の戦闘艇副部長を兼ねながら、半年間の佐官教育と、1年間の指揮幕僚課程を受けてくれ。その後で少将に推薦する。スカウトするのだから、支度金は期待してくれて良い」

「養成所出身者が少将だと、反感がありそうですが」

「推薦者の欄に、王国軍司令長官アマカワ元帥と載せておく。それではよろしく頼む」


 現在の王国軍には、派閥争いが存在しない。

 かつての王国軍には、前王太子グラシアン派と、第三王子ヴァルフレート派の2大派閥が存在した。

 だがグラシアンの息子レアンドルが国賊となり、グラシアン派がハルトへの不当人事を行って、ヘラクレス星域会戦で無用な犠牲を出して王国を敗北させていた事まで公表された結果、王国の敵となったグラシアン派は完全に消滅した。

 過去のヴァルフレート派は、前王ヴァルフレートの戦死によって、娘婿であるアマカワ司令長官に派閥が継承されている。軍政長官と参謀長官の上級大将2人も、共同でハルトを全面的に支援する立場を公言している。

 ハルトが直接行う人事に異を唱えられる将官は、現在の王国軍には存在しない。


 このような存在は、国家にとって危険と成り得る。だが幸いな事に、国民の目から見てハルトは、女王の脅威に成り得るとは見られていない。

 王国民が知る司令長官ハルトと女王ユーナは、中等部の幼馴染で、一緒に士官学校に入り、子爵のハルトから男爵家令嬢ユーナに告白した微笑ましい関係だ。

 戦時中は要塞任務で同じ配属先となり、正式に婚約もしており、今も2人はアマカワ侯爵領を王都にして一緒に居る。まるで、乙女ゲームに出てきそうな甘い関係であり、ハルトがユーナの脅威だとは到底思われない。

 そもそもハルトが地位に対して野心を抱いているのであれば、ユーナに女王を続けさせるだけで済む。それを国民に納得させるのは、とても簡単だ。


『戦時中で、国家の存亡が掛かっている。戦後も旧連合や天華民を組み込むために、2人の王子達では力量不足だ』


 このように説明すれば、それだけで王国民の大半は納得する。

 王国民が貴族制度を作ったのは、現在ユーナが行っている事をさせるためだ。

 王国滅亡の危機から、短期間で逆転したユーナの実績は、すでに前王の遺言に左右されないほど巨大になっている。

 ユーナが王国のために女王を続けると言えば、王国議会で通らないはずがない。女王を交代させて犠牲が増えれば、それを行わせた者が王国の敵となってしまうのだから、一体誰が交代を要求できようか。

 だがユーナは、次王の候補者としてベルナールとジョスランを育てており、ジョスランの前言撤回も許した。またハルトも、アテナ星域会戦で2人の王子を引率して武勲章を与えている。

 客観的事実からは、ハルトが女王の王配という立場を欲していないと見なすしかない。


 そんな国家にとって安全で安心な司令長官は、マクリール星系と深城星系の獲得を以って、一度進撃を停止した。

 勢力差の逆転は、戴冠したユーナの立場を早々に確立するために必要だった。また深城星系の奪還は、王国に従属した深城民を天華側に組み込まれないために急ぐ必要があった。

 だが今となっては、作戦行動を急ぐ必要は無くなった。

 太陽系やヘラクレス星系は、元々は王国の領地では無く、王国民も住んでいない。マクリールと深城を獲得した今となっては、敵の本拠地までの橋頭堡としての価値すら無い。

 天華側にとって王国侵攻の橋頭堡には成り得るが、既に防衛体制は整っている。各星系の戦闘艇が天華の侵攻を防いでいる間に、ケルビエル要塞で逆侵攻が出来るので、敵が迂闊に侵攻してくれれば好都合なのだ。

 時間が経てば経つほどに、イスラフェルの配備率と操縦者の練度が上がり、天華との戦力差が広がるのだから、急ぐ必要は無くなったとハルトは判断した。

 その間に、獲得したマクリールと深城の両星系を王国に組み込んでいく予定だ。


「天華はアテナ星系で機動戦力の大半を失ったし、こちらも戦力を拡充したい。少しだけインターバルを挟む」


 行軍を停止したハルトは、アテナ星系から続いた3会戦の功績を合わせて、ユーナ達3人や参謀長らを大将に昇進させた。

 またコレットには、副司令長官の役職も与えた。ユーナとコレットが総旗艦レミエルで活動する際に、コレットが周囲に命令を出し易いようにするためだ。

 クラウディアは1会戦ごとに1階級ずつ上げる形で、要塞司令官の階級である少将まで昇進させており、これで軍の人事に関するハルトの計画は概ね達成された。

 このように好き放題が出来るのも、ユーナが女王でいる間だけだ。

 今であれば、ユーナとハルトにタクラーム公爵も加えた連名で、引き込んだリュウホとタクラーム公爵家令嬢ジギタリスのペアを伯爵家として、九山民の管理を行わせる事も容易い。

 これがベルナールやジョスランに代替わりすれば、色々な事にハードルが生じてくる。

 今回の昇進に関してすら、勲1等双星グリーゼ章を得たフィリーネは兎も角として、情勢次第ではユーナとコレットの階級を据え置くなどの政治的な配慮も必要になったかもしれない。

 それらを面倒に考えて、早々に階級を上げておいたハルトは、国王の代替わりによって発生する不都合への備えを始めていた。


 ユーナの後継者指名は、いつになるのか。

 現在のベルナールは魔法学院3年生で、ジョスランは士官学校1年生だ。

 最短でも半年後、ベルナールが高等部を卒業するまでは待たなければならない。国王が高校中退など、流石に洒落にならない。そして弟達への公平を期すのであれば、ジョスランが士官学校を卒業する3年半後となるだろう。

 未成年の弟達のために、少しだけ家業を手伝う姉……という常識の枠内に収めて、止むを得ず受け入れているユーナは、弟達が学校を卒業するまでは我慢できるだろう。

 ユーナは在位中に、敵国家との勢力差を逆転させ、星系間の転移門を生み出すなど、歴代国王の功績一覧でも記載内容に困らない成果は出した。あと3年半くらい女王として保てば、それで充分だろうとハルトは考えている。


「…………我が軍は3星系で圧勝しましたが、全てが特別な星系での事。領域外には転移門を開けず、敵の魔素機関の出力が落ちません。その点にはご留意ください。今後は、マクリールと深城を王国に組み込みつつ、機を見て太陽系とヘラクレス星系を攻略して、王国の安全性を高めます。王国軍の方針、並びにマクリール民と深城民の統治の概要に関しては、以上です」


 第3回目となる諸侯会議の場において、ハルトが説明した軍の行動や、統治の概要は、事前に諸侯へ通達済みのものだった。

 ハルトが説明を終えると、第2回目の会議に比べて相当機嫌が良くなっているユーナが、2人の王子に下問した。


「王国と天華の勢力が逆転しました。ここで、今すぐに王位を譲ったならば、2人は天華5国との戦争を、どのように差配しますか。まずは、第一王子であるベルナールから答えなさい」


 ユーナの下問は、あらかじめ2人へ伝えられており、ユーナとハルト以外の誰に聞いても良いとされていた。回答は、一方の答えを聞いてからもう一方が答えを変えないように、事前提出させている。

 ベルナールは諸侯会議の場で、姉に事前提出していた所見を述べた。


「私の場合は、司令長官のアマカワ元帥に方針を委ねます。専門家が居て、任せれば勝てると分かっているのですから、国王が逐一指図する必要はありません。中途半端に口を出す方が足を引っ張るでしょう」


 ベルナールが答え終わると、次に指名されたジョスランが所見を述べた。


「有利な今は徹底的に攻めて、敵軍を削り続けて、防衛戦力を失わせて敵星系を陥落させます。具体案は、事前に提出したとおりです」


 ジョスランは、士官学校の教官達も交えて検討したであろう案を持ち込んだ。

 九山のリュウホから提供された情報では、天華の各首星には、ケルビエル要塞の侵攻に1度から2度ほど耐えられる程度の防衛戦力しか残されていない。

 ハルトが、攻め手を自分に当て嵌めて検討したところ、天華3国の首星に対しては攻め切れずに何度か撤退する必要はあるが、おそらく3年ほどで、敵を完全に敗滅させられるという計算が出た。

 ジョスランが省略した具体案について、ハルトは司令長官の立場から評価を述べた。


「ジョスラン殿下の提出案は、侵攻した王国軍が何度か犠牲を出して撤退する必要はありますが、3度目には敵本星を攻略できる内容でした。これは今後、敵の首星を攻める王国軍が、実際に行わなければならない作戦でもあります。司令長官としましては、ジョスラン殿下の提案内容は極めて現実的であると、高く評価致します」


 ハルトが高評価を口にすると、ジョスランは得意気な笑みを浮かべて喜びを露わにした。

 もっともハルトからすれば、『敵を削るために侵攻と敗北を繰り返す行為』を諸侯に受け入れさせるために、ジョスランの提言を出汁にした面もあったが。

 ユーナは両王子への公平性を期すために、ベルナールの評価について述べた。


「ベルナールの場合は、アマカワ司令長官に任せているわたくしと同じ結果になります。わたくしはアテナ、マクリール、深城の3星系で大勝利を収めましたが、ベルナールでも同じ結果になりましたね。2人とも、戦時に国王へ求められる事は、大まかには出来ると評価します。細かい部分は、時間と経験が解決するでしょう」


 2人の王子へ同時に高評価を与えたユーナは、諸侯の前では初めて柔和な微笑みを浮かべた。


「わたくしが王位を退く日も近そうです。諸侯が王国に果たす貢献は、わたくしの名で感状を出して、末代まで残るように讃えます。それでは何か、意見や提案などがあれば、自由な発言を認めます」


・あとがき



………………あっ、本日が、本作の、発売日ですっ!

ぜひぜひ、お買い上げよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ユーナが笑顔が出てくるようになった所。 [気になる点] ジキタリスのいじめで自殺したというのはどこから入ってきた情報なんだろう。証拠とかはあったんだろうか。噂? 王子二人が不安だな。まだ…
[一言] Kindle版購入しました。 どうかいつの日か、アルテナの更新再開と書籍化も叶いますように。
[一言] アサシン悪役令嬢とか、それってジギタリス? いやでも絵面が如何見てもフィリーネですがw女王になるのがユーナなんだよねーw しかしハルトが居なければジギタリスがラスボスか……じゃあやっばりジギ…
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