71話 第三次マクリール星域会戦
前年の11月、天華連邦はマクリール星系を制圧した。
マクリール星系で最後の砦となっていた衛星フラガに数多の天体を突入させて、6万隻の犠牲と引き替えにフラガを粉砕したのだ。
天体突入作戦が行われた際、フラガは惑星ウイスパに被害が及ぶ事を避けるために、自ら衛星軌道上を離れた。結果として作戦に投入された天体や、破壊されたフラガの破片が惑星に降り注ぐ事態は避けられた。
フラガを破壊した時点で謎の出力異常現象も消えたために、天華側は魔素機関の出力異常現象の発生源が、フラガだったのだろうと願望に基づいた推論を出していた。
フラガの破壊に要した天華の6万隻は、王国の93個艦隊に相当する。
それでも天華5国の上層部は、「損害に見合う王国の魔力者を殺して、有人星系を奪い取ったのだ」と誤認して、手痛い損害を受け入れた。
星系の制圧後、天華は軍属と家族の数千万人を星系に移住させた。
天華の目的は、第3惑星トゥーラの天然資源を用いた軍事兵器を量産して、王国や将来のフロージ共和国との戦いに大量投入するためだ。
マクリール星系に配備した防衛艦隊は2万隻で、王国軍の31個艦隊に相当する。ケルビエル要塞が攻めてこない限り守り切れる戦力であり、防衛艦隊は天華の数千万人を守りながら、旧連合領で技術の収集を行い、資源を活用し、前線に兵器を送り出していた。
これら天華の行動について、極小の転移門を介してセラフィーナから直接教えてもらったハルトは、敵が少ないことを残念に思った。
「50万隻くらい配備されていれば、アテナ星系の蹂躙劇を繰り返してやったのに」
今会戦において、王国軍はアテナ星域会戦を上回る戦力を動員した。
戦略衛星サンダルフォン、1基。
衛星フラガの半分程度の大きさでありながら、ディーテ星系で建造したために魔素機関と兵装はフラガより遥かに多く、戦力評価は控えめに見積もっても敵艦隊3万隻相当。これだけでも、敵の防衛戦力を上回っている。
正規軍、10個艦隊。
星系の効果によって、敵よりも射程が長くてシールドも強くなるため、敵の射程外から一方的に攻撃を行える。艦隊だけでも、敵との戦力評価は100対62となる。
大型戦闘艇イスラフェル、400万艇。
初投入となる操縦者は、技量が高い順に選んだ。戦力評価の2倍以上という戦果と、星系効果を合わせた評価は4で、天華巡洋艦の6に比肩する。400万艇の戦力は、精霊王の領域内において敵艦266万隻に相当する。
貴族軍、15個艦隊相当。
貴族達はアテナ星系での大勝によって、天華の侵攻戦力が各星系の防衛力を上回る事は無くなったと判断した。そして諸侯会議で侵攻予定を聞いていた彼らは、貴族として星系奪還戦に参戦すべく、自発的に集まってきたのだ。
ケルビエル要塞と、ユーナが動かす王国総旗艦レミエルも投入される。
宙域戦の後、ハルトは時間のかかる地上制圧戦は他の将官に任せて、新たな転移門を作るべく深城星系に向かう予定だ。ハルトが不在の間、巨大すぎる軍勢を統括出来るのは女王しかおらず、乗艦を分けた次第だ。
王子2人と婚約者達は、武勲章を獲得したためにケルビエル要塞には乗せていない。
従軍を希望したジョスランとリシンには、移動要塞2基が預けられた。王子と王妃候補が女王に命じられて、移動要塞で戦場に向かう行為は、ディーテ王国にとって大きな意味を持つ。
ベルナールとベアトリスに対しても、ユーナはジョスラン達に劣らない重要な任務を与えた。魔法学院の生徒達を全員徴用してベルナールに指揮させ、接続型の宇宙港のパーツを転移門から通過させる任務を与えたのだ。
また今会戦では、従軍記者の存在も認めている。各艦隊の戦艦には、大勢の記者も乗っていた。
「どうして従軍記者なんて入れましたの。一度入れると、次の会戦でも従軍を希望されますわよ」
今回新たに加えた従軍記者について、ケルビエル要塞の運行補助者では最も階級の高いフィリーネが、率先してハルトに質問した。
他ならぬフィリーネからの質問であり、ハルトは正直に意図を説明した。
「新領土である両星系の制圧作戦をメディアで流すと、王国民が両星系を王国領だと認識してくれるだろう。王国民の理解を得ておく事は大事だ」
マクリールや深城は、天華5国やヘラクレス星系から最短の位置にある。
今後、太陽系を除いた敵星系に攻め込む際には、両星系を通る事になるだろう。そのため両星系は、王国の各星系に対する防波堤にもなる。
それらを認識してもらえば、王国民が両星系の防衛に納得して、積極的に協力してくれるようになる。
「それに王国が両星系を開発する時にも、予め王国民の理解を得ておくと楽だ。将来の領主としては、色々と都合が良い」
「士官学校生の頃までは、もっと隙がありましたのに。クラウディアに引っ掛けられた時とか」
3年前、「避難船に住んでいますので」と断っていたら、クラウディアの差し金で天空の城を建造されてしまった事を思い浮かべたハルトは、渋い表情を浮かべた。
「フィリーネには、負けた事が無いけどな」
「猫耳、付けましょうか?」
猫耳を付けたフィリーネの姿を妄想したハルトは、猫耳に似合う服装へと想像の翼を広げ始めて、反論に使う思考のリソースを喪失した。
なぜ猫耳とメイド服は合うのだろうか……などと、1700年前から諸説紛々の議題に思い耽る。
「猫耳を付ける時は、語尾が『にゃ』であれば良いかも知れない」
「ええと…………にゃん」
司令長官と艦隊司令官が明後日の方向に突き進む中、真っ当な軍人達が進路を定めるケルビエル要塞だけは真っ当に、ディーテ星系内に青く輝く、深い渦巻き状の転移門へと向かっていった。
前回のアテナ星域会戦では、サラマンダーの操縦者743万人が死んだ。
戦死者の数を少しでも減らすべく、今回のハルトは切り札となる戦略衛星サンダルフォンを投入している。
無人衛星であるサンダルフォンは、時速2億キロメートルの高速で転移門に突入して、魔素を波立たせず静かに消えていった。
それに続いてハルトのケルビエル要塞が、同様に転移門に触れて、高次元空間へと飲み込まれていく。
通過の瞬間、ハルトの周囲だけ時間が停止したかのように遅延して、ディーテ星系を領域化しているジャネットが姿を現わした。
『合い言葉は?』
『紫のトルコキキョウから、白百合へ』
精霊界を経由する転移門は、1つの入り口から複数の出口を任意で選ぶことも、予め複数の門を開いておくことも可能だ。
マクリール星系を制圧した後は、旧連合民を威圧するためにディーテとアテナに繋がる門を2つ同時に展開しておこうか等と考えながら、ハルトは消えるジャネットと、現われるマクリール星系の姿を順に視界に捉えた。
ケルビエル要塞の前方では、惑星ウイスパに向かってサンダルフォンが高速で突撃している。
後方からは、渦巻く転移門から泡が噴き出すように、正規軍10個艦隊と15個艦隊相当の貴族艦隊、さらには400万艇のイスラフェルが続々と湧き出してくる。
マクリール星系内部に突然現われた大艦隊は、各艦艇が一斉に魔素機関を最大稼働させて、宙域に数百万の輝く軌跡を伸ばしながら、多くは攻略目標である惑星ウイスパに向かって突撃を始めた。
対する敵艦隊2万隻は、惑星の衛星軌道上に1個艦隊ごとが簡易宇宙港を浮かべて駐留していた。敵までの距離は3億キロメートルで、既にハルトやクラウディアの魔力では、敵を射程内に捉えている。
『セラフィーナ、その衛星はプレゼントだ。壊れたら何度でも作るから、好きに使ってくれ』
ハルトが魔力の繋がるセラフィーナに思念を送ると、全長430キロメートルのサンダルフォンが取り付けている大量の魔素機関を次々と白く輝かせながら、大量のレーザー砲を敵艦隊に向け始めた。
続いてハルトは、要塞内に命令を出す。
「当要塞は、友軍と射線が重ならないように、銀河基準面の上側に移動する。魔素機関の反応が集まっている敵の駐留施設を狙い撃って、初動が遅いノロマな奴等から全て潰す。フィリーネが防御と推進で、クラウディアとシャリーは攻撃しろ」
ハルトが銀河基準面の上側に移動すると宣言した後、セラフィーナが動かすサンダルフォンは下側に移動を始めた。
2つの巨大な人工物が上下に分かれた背後からは、先を争うように後続の大艦隊が追い縋ってくる。
精霊に誘導されて陣形が殆ど乱れなかった王国艦隊が、整然と光の壁を造りながら突き進んでいく。
その周辺宙域では、多数の要塞艦が、それぞれ数百隻の艦艇を引き連れながら、正規軍が生み出す光の壁の大きさと厚みを増すように進撃している。
光の壁を補強するのは、補助艦並の巨体を持つ大型戦闘艇イスラフェル400万艇だ。巨大な光の壁は、濁流となって惑星に流れ込み始めた。
大量の記者が居る手前、貴族艦隊や、新型となる大型戦闘艇に活躍の機会を与えた方が政治効果は有るかも知れないが、そのために無用な犠牲を増やすのはハルトの流儀にはそぐわない。
ハルトはフロージ星系で、駆逐艦の艦長として戦闘した経験を持つ。
たった1隻の駆逐艦を動かすために必要な人員、それを育成する期間と労力、建造・維持・運用費などは熟知しており、元士爵家の次男という庶民的な感覚を持つハルトは、それらを無駄に失わせる考えを到底持てなかった。
「ケルビエル要塞で、1隻でも多くの敵を撃沈して、味方の損害を減らす。ケルビエル要塞の射線上からサンダルフォンが逸れたら、直ぐに攻撃を始めろ」
それから僅か数十秒後、まだ早いのでは無いかというタイミングで、クラウディアが砲撃を行った。
巨大な光の柱が伸びていき、その結果が出る前にハルトの魔力が3分割された3つの砲門からも、巨大な3本の光柱が宙域を輝かせながら前方に伸びていった。
4つの砲門は命中の結果を待たず、次々と目標を変えながら、惑星ウイスパの衛星軌道上にある天華侵攻軍の駐留施設に光を飛ばしていった。
程なくシャリーの魔力でも敵が射程内に入ると、5つ目の光が追加され、ハルトの魔力も4分割、5分割と増やされながら敵に向かっていく。
同時にサンダルフォンとケルビエル要塞からは、惑星ウイスパに命中しないように射線と自動追尾設定の入力を調整した膨大な数のミサイル群が放たれた。
対する天華側は、艦隊が続々と駐留施設から発進して、艦砲をサンダルフォンとケルビエル要塞に向けながら、ミサイル攻撃を開始した。
アテナ星系では転移門を使用しておらず、天華が転移門を見たのは今回が初めてだ。それでも星系内に転移門が開いた時点で異常事態であり、一部の艦隊が危機を感じて発進準備を整えていたのだと推定された。
ハルトが投げ付けた光の柱が天華の宇宙港に届き、総参謀長のベルトランが着弾報告を発声した瞬間、マクリール星系全体が白い光で塗り潰された。
衛星軌道上を周回していた宇宙港が、惑星を囲むように次々と連鎖して爆発を起こしていく。それら爆発の光の中から浮かび上がった天華艦隊が、砲撃による反撃を開始して宙域を光の応射で照らし出した。
「敵艦隊との交戦、開始しまし……」
ベルトランが報告し掛けた瞬間、マクリール星系に薄い霧のような何かが発生して、恒星マクリールの光を掻き消した。
マクリール星系全体が、薄暗い夜明け前のような仄かな光で覆われていく。また恒星系の外側は、湖の中を見るかのように景色が歪んでいた。
「これは一体!?」
人類の常識からは有り得ない不可思議な世界が広がる中、矮小な人類を見下ろすかのように、1つの大きな惑星が薄らと浮かび上がった。
天華側の魔素機関が急速に魔素変換能力を落としていったのは、その惑星が見えた直後だった。
混乱するベルトランに対して、ハルトは命令を下した。
「慌てるな。ここは俺と契約している精霊の領域だ。全ての現象は、俺の精霊の制御下にある。このまま戦闘を継続させろ」
「……はっ、『全軍、このまま戦闘を継続せよ。全ての現象は、元帥閣下の制御下にある』」
両軍の艦隊は、既に至近まで迫っていた。
従軍記者達が目撃したのは、前方で花火のように次々と炸裂する、核融合弾が引き起こす爆発の連鎖だった。
閃光の上下に映る宇宙空間では、戦略衛星サンダルフォンと攻撃要塞ケルビエルが、敵の大艦隊と激しい撃ち合いを行っている。
天華艦隊は、転移門に向かって核融合弾の弾幕を張りながら、上下から襲ってくる巨大な2つの人工物に向かって、光の束を浴びせ掛けていた。
「元帥閣下、敵は惑星ウイスパを背に展開しております。我が軍の攻撃力が高すぎて、敵を突き破って惑星にも被害を出しています」
「全艦に対して、射線上に惑星を入れないように伝達しろ。大型戦闘艇イスラフェルに、敵艦隊との近接格闘戦を命じる。軍艦はイスラフェルの盾となって、敵の懐にイスラフェルを送り込ませろ」
ミサイルには人工知能が搭載されており、敵に向かって進路を変える。
だが宙域には爆発のエネルギーが吹き荒れており、ミサイルが押し流されて精密には飛んでいかない。
惑星への誤射を警戒したハルトは安全性を選択して、ケルビエル要塞と敵前衛艦隊との距離を取って、射線上に惑星が入らない敵を狙い撃ち始めた。
セラフィーナが動かすサンダルフォンもハルトに同調して、2つの人工物が上下から敵艦隊を圧迫する間、後続の大艦隊が敵に迫っていく。
核融合弾対策が施されているイスラフェルは、盾役となる正規艦隊の背中から次々と飛び出して、核融合弾の暴風を駆け抜けながら、密集する敵艦隊の中に雪崩れ込んでいった。
「イスラフェル各艇、敵艦隊との近接格闘戦に突入します」
ベルトランが報告した瞬間には、既にイスラフェルの一部が、炸裂する核融合弾の中に飛び込んでいた。
激しい閃光が光学観測を不可能にする中、敵の位置情報と攻撃を観測するのは多次元魔素変換観測波だ。さらに情報統合システムとも連動して、自艇が観測出来ない宙域のあらゆる物体の位置を割り出して回避する。
光の中でイスラフェルが艇体を急旋回させた直後、半ば破壊された天華巡洋艦の巨大な黒い艦体が、艇体の真横で縦回転しながら飛ばされていった。
周囲からは、強烈な閃光を僅かに上回る光の槍が黒い艦体に投げ付けられて、艦体を四方八方から引き裂き、新たな閃光を生み出した。
爆発の中で乱戦となったイスラフェルの大群は、大多数で敵を食い破っていたサラマンダーの戦いから一変して、1艇から数艇で戦って敵艦を撃破する新しい戦い方で戦果を挙げ始めた。
そんな戦闘艇の操縦者の1人であり、これまでの会戦で必ず武勲章を獲得して昇進してきたアロイス・カーン中佐は、サラマンダーよりも格段に性能が増したイスラフェルで、瞬く間に4隻の敵艦を撃破していった。
「4隻目の敵巡洋艦を単独撃破。隷下の第0285―073大隊も、戦果が100隻に達しました。アロイス中佐の撃破は、戦力評価の6倍。大隊全体でも、1.5倍の敵艦を撃破しています」
同乗するアンドロイド兵から戦果報告を受けたアロイスは、これまでと異なり昇進予想までは告げなかったアンドロイドに対して、戦闘艇の操縦者として限界まで階級が上がった事を実感した。
サラマンダーの8倍の体積と、補助艦並の強い魔素機関を持つイスラフェルは、1艇の操縦者が中尉で、5艇の小隊長が大尉、25艇の中隊長が少佐、100艇の大隊長が中佐となる。
今のところ空母に搭載できる設計にはなっていないが、仮に設計し直して100艇を搭載出来るようになったとしても、空母艦長に従うべき戦闘艇の操縦者が、空母艦長の階級である大佐を超えることは出来ない。
そもそもアロイスは、中佐でありながら佐官教育すら受けていない。平時であれば、このような昇進は有り得なかった。
指揮を学んでいないアロイスの大隊が、集団として損害を出さずに大戦果を挙げているのは、大隊長であるアロイスの能力では無く、契約精霊ミリーのおかげだとアロイスは自覚している。
(俺の精霊は……おかしい……)
アロイスが他のイスラフェル操縦者達に聞いた話によれば、20年という期間限定で憑いている精霊達は、大半が薄い青髪で紫のドレスを纏った、画一的な姿をしているらしい。
一方でアロイスが受け取って、ミリーに要求されて一度預けてから出した精霊は、茶髪のツインテールで、小柄で色白で、性格は陽気な明らかに量産型では無い精霊だった。
『名前、ジェシカにしようかな。あ、限定契約だったら、伝えなくても良かったね。基本的にはミリーにお任せで、ジェシカさんは力だけ貸しますよ』
今会戦でジェシカは、宣言通りにアロイスと大隊に力を貸してきた。
『中央から突入せずに、宙域の下側を進んで数個大隊を先行させて、サンダルフォンの支援を受けながら戦うと良いですね。この世界で魔素の流れに乗りたければ、戦闘艇の機動は精霊達に任せた方が良いですよ』
笑顔のジェシカに従った結果が、アロイス大隊の現状だった。
両軍の膨大な艦艇が縦横無尽に宙域を駆けながら、炸裂する爆発の中で数百万の砲撃とミサイルを入り乱れさせていく。
爆発のエネルギー風が荒れ狂う中、砲撃を行う両軍の艦艇が瞬間ごとに位置を入れ替えていき、敵味方の位置情報と攻撃の予測は機械やアンドロイドでも不可能だった。
そんな激戦宙域で、まるでアロイス達を庇うようにサンダルフォンが支援砲撃を行ってくれた結果、アロイス達は思うが儘に敵艦隊の合間を縫って戦えたのだ。
アロイスが乗るイスラフェルは、ジェシカが稼働させる魔素機関で一見すると滅茶苦茶な軌道を取りながら、それでいて無傷で4隻もの天華艦を破壊している。大隊も同様に大きな戦果を上げた。
『はい、よく出来ました。でも部下の方々には、精霊の力を過信させないように注意してくださいね。実のところ、ジェシカさんは色々やっていました。他の方が単独で同じ事をしたら、わりと死んじゃいますからね』
ジェシカは、明らかにおかしい。他の同格とされる精霊と比べて、一段階上の力を持っているのではないか。そのようにアロイスは不審がりながらも、十二分の戦果を上げて、ミサイルと艦艇が爆発し続ける激戦宙域を抜け出した。
『ミリー、全体の戦況はどうだ』
『敵側の魔素反応は、100隻を切ったよ。今から他に行っても間に合わないね。沢山倒したから、もう良いんじゃないかな』
『それもそうだな。味方の損害は、どのくらいだ』
『全然。3000艇までは、落ちていないかな』
『…………巡洋艦5隻程度の戦死者で、2万隻もの敵を倒したのか』
アロイスは、開いた口が塞がらなかった。
400万艇のイスラフェルと、天華2万隻との戦力評価は、100対1より酷い戦力差だ。100人掛かりで1人を殴った結果、天華艦隊は王国軍の濁流に飲み込まれて、一瞬で消え失せてしまった。
戦略衛星サンダルフォンと、ケルビエル要塞から上下に挟まれて痛めつけられた僅かな獲物の奪い合いは激しく、出遅れた部隊は接敵すら出来ていない。
単にマクリール星系の旧連合民と天華人民に対して、25個艦隊と補助艦級の大型戦闘艇400万艇が、敵を光の洪水で飲み込む光景を見せつけただけだった。
こんなに簡単で良いのだろうかと訝しがるアロイスは、後方宙域を映し出すスクリーンを目にして、宙域戦闘の終わりを受け入れた。
「女王陛下の本隊が来たな」
アロイス達が行った宙域戦闘は、単なる露払いに過ぎない。
敵艦が一掃された宙域の後方からは、白い輝きを放つ女王の御座艦レミエルと、女王に付き従う惑星制圧部隊が迫っていた。
イスラフェルの巨体に匹敵する50万基もの軍事衛星群。
数百万機の戦闘用ドローンと、数百万機の大気圏内無人戦闘機。億単位の重武装アンドロイド兵軍団に、アンドロイド兵が用いる惑星への強襲降陸艇群。魔素機関を搭載した、全長40メートルで人型の制圧機2000万機。
そして、それらを乗せた中型コンテナを取り付けたサラマンダー3000万艇が、宇宙空間を高速で突き進んでいく。
さらに転移門からは、ベルナール第一王子が指揮する魔法学院の生徒達が動かす、接続型の艦隊宇宙港や大型戦闘艇イスラフェルの専用宇宙港が、星系を押し流す洪水のように、怒濤の勢いで転移門から溢れ出していた。
あとがき
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お礼でフィリーネに、「にゃん」と言わせてみました!
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