70話 3つの宋家
【※前回投稿から、24時間を置かずの連投です】
というか、本日は20分ほどでの追加投稿です。
←先に、前話をお読み下さい。
ありがとうございました。
心臓の動悸と手の震えが収まりましたw
今夜はちゃんと眠れそうです…… 続き、頑張って書こう……
王国の全星系が、アテナ星域会戦の圧勝による歓喜と熱狂の激流に飲み込まれていた。
王国軍が惜しみなく提供した、会戦の詳細な戦闘記録が、全メディアを通じて人々の視覚と聴覚を覆い尽くしていたのだ。
王国軍が情報を公開した目的は、女王ユーナに代替わりしてから初の大会戦であり、王国民に新体制を信頼させる事にあった。そのため総司令官として戦場に立ったユーナは、当然のように前王ヴァルフレートと比較された。
前会戦と比べて、侵攻軍の数は35万隻から50万隻に増えていた。一方で防衛の戦闘艇は、8000万艇から7000万艇に減っていた。
そして結果は、王国軍の圧勝だった。
サラマンダーの損害は、前会戦の10分の1以下。
王国側の撃沈艦は、前会戦の2万8000隻から、今会戦では僅か14隻。
将官と貴族の戦死者は、参戦者の96%が、今会戦では0名。
民間船は1隻も沈まず、民間人の犠牲者は37億5000万人から、今会戦では0人となって、居住惑星アイギスも無傷だった。
それでいて敵艦の破壊数は、前会戦の34万9000隻から、今会戦で35万6000隻に増えている。
戦果を知らされた王国民は、圧勝に歓喜しつつも、実際には報告された数値が過剰ではないかと疑ったほどだった。
各メディアは専門家を招いて、会戦の結果について様々な解説を行わせた。
それら専門家の中でも、王国軍退役中将であり、元艦隊司令官でもあったゼッキンゲン侯爵アルテュールが行った説明は独特だった。
「サラマンダーと天華巡洋艦は、75艇と1隻で戦力評価が釣り合う。但し操縦者の大半が未熟、かつサラマンダー自体も核融合弾に弱いため、修正後の戦力評価は3分の1とされており、225艇で1隻と互角と見なされているが……」
第二次ディーテ星域会戦では、220艇で1隻を倒す戦果だった。これは修正後の戦力評価よりも、僅かに優れた活躍だったと評価できる。
アテナ星域会戦では、領域による5倍効果を考慮すれば、45艇で1隻と釣り合う計算となる。そして実際には、20艇で1隻を撃沈する戦果が挙がっており、前会戦より2倍以上も効率良く敵を倒せている。
操縦者の質は、同程度だった。第二次ディーテ星域会戦では、操縦者8000万人のうち3000万人が、初めてD級結晶を持たされて戦闘艇に乗り込んだ者達だった。そしてアテナ星域会戦でも、前会戦で大半の操縦者が戦死して新人の比率が高かった。
サラマンダー以外の戦力も、大差は無かった。ユーナには3個艦隊相当のケルビエル要塞があったが、ヴァルフレートには15個艦隊と貴族艦隊、民間船もあった。
敵の総司令官は、両会戦で同一人物だった。
アテナ星域会戦の作戦立案や指揮をハルトが担っていた件については、女王に求められるのは自身で作戦を立てることでは無くて、司令長官を上手く使う能力だ。司令長官を上手く使えたユーナは、それによって女王としての力量が低いことにはならない。
「両会戦の違いは、両軍の戦力差だ。ディーテでは100対109で、アテナでは100対32。互角の人間が1対1で殴り合えば相打ちになるが、3人掛かりで1人を殴れば圧勝する。国家の指導者に求められるのは、有利な状況を作ることだ。女王陛下は、それが得意であらせられるようだ」
2つの会戦に関するゼッキンゲンの総括は、王国民に広く共有された。
ヴァルフレートが機を見るに敏な攻撃型の指導者だとすれば、ユーナは堅実な防御型の指導者になるだろうか。
ユーナはアテナ星系に領域を作ったが、前王であれば攻めることに使ったかも知れない。そうなれば敵星系を1つ破壊出来た引き替えに、アテナ星系は壊滅していた。
敵に敗北すれば、「不足する魔力を精霊結晶で補った女王は、能力も足りていなかった」などと批判されて、ユーナの立場は揺らいでいた。
逆にヴァルフレートが守り切れなかった星系防衛戦で圧勝したことによって、ユーナは「連合を滅ぼした前王ヴァルフレートよりも戦争に強い指導者」という評価まで得た。
居住星系を襲われる王国民が求めるのは、星系を守り切るという結果だ。領域や転移門、ケルビエル要塞など、何を使っても良いから、とにかく勝てば良い。
アテナ星系を守る7000万艇もの戦闘艇の光が、侵入してきた50万隻の敵艦隊に襲い掛かり、膨大な光線で蹂躙し、焼き払って駆逐し、星系全域を塗り潰していく圧巻の映像によって、ユーナは王国にとって勝利の女神となった。
圧勝の事実を以て、ユーナは前王による権威付けを必要としなくなったのである。
「アマカワ上級大将、アテナ星域会戦における圧勝を以て、汝を元帥に任じます。わたくしの代で元帥に任じるのは、汝だけです。これからも、わたくしを支えるように」
「御意。この身を必殺の矢と化し、王国と女王陛下の敵を、遍く貫いてご覧に入れます」
元帥を締め切る宣言には、将来に有能な将官に制約を掛ける。それでもユーナは、自身の代での元帥をハルトだけに限定した。
ハルトは昇進と併せて、勲1等オリオン章も受章している。
武勲章は、『1会戦において、自分より戦力評価が高い敵を、単独で撃破した』事を評価するものであって、それを何度行ったかを分かり易く示すものだ。ハルトが最高位を獲得したため、新たな勲章が創設される事となった。
創設されたのは、勲1等オリオン章の隣に、伴星が付く形の双星章だ。その次は、三連星章、四連星章と増えていく。
8回目の受章=勲1等双星グリーゼ章。
9回目の受章=勲1等双星エリダヌス章。
15回目の受章=勲1等三連星グリーゼ章。
なおアテナ星域会戦に参加したユーナ、コレット、フィリーネの3人は昇進しておらず、武勲章も獲得していない。
総旗艦レミエルで住民の避難を受け入れた事は功績として評価されるが、中将に与えられる役割の範囲内だったためだ。
これまでのハルト達の昇進は、高速ではあっても明確な功績に基づいていた。それを損なって昇進させても、周囲に反感が生まれて弊害となるために見送った形だ。
その一方で、ケルビエル要塞に配属されていた者達は昇進している。
クラウディアは大佐に昇進して、勲6等エリダヌス章を得た。
ジョスランとリシンは大尉に昇進して、勲7等グリーゼ章を得た。
ベルナール、ベアトリス、シャリーも勲7等グリーゼ章を得ており、王侯貴族の義務を果たした証拠を獲得している。武勲章を受け取ったシャリーは、引き攣った表情と上目遣いで、恐る恐るハルトに尋ねた。
「あたし、義務を果たしたのよね」
「勿論だ。それ1つ有れば、ソン公爵夫人シャリーに文句を付けられる者は居なくなる。よくやった」
ハルトはシャリーの不安を解消すべく、何度も肯定しながら褒め続けた。
残念ながらシャリーは、今後も引き籠もることは出来ない。
元々年内に予定していた深城制圧は、予定外のアテナ星域会戦が勃発した後も、スケジュールに遅れを出さずに実行される予定だ。
深城の奪還作戦でシャリーが参加しないわけにはいかず、統治する際にもシャリーが健在であるアピールをする必要がある。
シャリーの父であるハオランが後継者を指名して王国に従属したのであって、ハルトや王国が主体として作った流れでは無いが、逃げられない立場になっている。
シャリーは性格や行動が残念なだけであって、知的水準は高いために己の立場を理解しており、次第に迫ってくる深城星域会戦に怯える日々を送っている。
だが深城奪還作戦の準備という名目は、シャリーにとって不可能な社交界からの、凄まじい数のお誘いを防ぐ盾としても機能していた。
将を射んと欲すればまず馬を射よ。
アテナ星域会戦の圧勝とディーテ星系の領域化、それらをハルトが任意に行っているという情報によって、王国貴族達は敗戦の可能性が殆ど無くなったと判断した。
負けないと考えた貴族にとって、次に考えるのは自家を保つことだ。
後継者が王国の要求する魔力を保ち、従軍義務を果たして貴族家を保つ。そして2つの侯爵家が降爵した末路に鑑みて、精霊結晶の全てを握るハルトとは対立しないようにする。
なるべくであれば、コースフェルト公爵家やカルネウス侯爵家のように、娘を送り込んで保険を掛けたい。それが難しいのであれば、先行投資に成功した女性達と親しくして、間接的に配慮させたい。
そんな彼らが標的に加えたのが、シャリーだった。
シャリーは武勲章を受章して、王国貴族の立場を確立している。転移門で首星と領地を往復できる公爵夫人で強い影響力を持つが、王国に所属したばかりで交友関係は浅く、頼る者が少ないために、今からでも深い交友関係を作れる。…………と、貴族達は誤解した。
夫から「ぜひお茶会に誘え」と背中を押された夫人達や、父から「ソン公爵夫人と懇意という関係で嫁ぎ先を良くしろ」と示唆された令嬢らが、シャリーを狙っていたのだ。
もちろん引き籠もりにそのような対応が出来るはずも無く、念のためにハルトが聞いてみたが、涙目となったシャリーは「我不能,请帮帮」と天華語で縋り付いてきた。
シャリーが初対面の相手に対応出来るのは、ハルトなど保護者付きで会った時で、しかもハルトの背中に隠れられる場合に限る。ハオランという保護者付きでハルトと会った時は、背中に隠れられなかったので吐いた。
そのためハルトは、ソン公爵家に来た各種の連絡に対しては、クラウディアやコレットのアドバイスを受けながら、深城奪還の準備を名目にハルトとシャリーの連名で辞退している。
断れなかった相手は、同じ婚姻外交でディーテ王国に来た2人の女性と夫達だけだ。
「公爵閣下、そしてシャリー様におかれましては、ご機嫌麗しゅうお過ごしでございますか。ソン・スーラ、夫マルゴワール子爵ドミニクと共に、罷り越しました」
舞台女優のように分かり易い笑顔で挨拶したのは、金髪にグレーの瞳でロシア系の特徴を持つシャリーの従姉妹、宋思乐だ。
彼女は既婚だが、天華連邦では結婚しても女性の苗字が変わらないため、天華側のコミュニティではソン・スーラであり、王国側で身分を表す場合はマルゴワール子爵夫人スーラと名乗っている。
結婚相手は、元第一王妃カサンドラの兄である次期オルネラス侯爵の次男ドミニクだ。
ドミニクは、次王やストラーニ公爵となるベルナール、ジョスランの従兄弟であり、次男で爵位は継げない立場であったが、婚姻外交を受けたことによって新たに子爵位を得た。
身長が高く、ガッシリとした体格で、性格は従順。前王ヴァルフレートにとって使い易かったために選ばれたのだろうとハルトは予想している。そして既婚男性の過半が陥る現象だが、彼は妻に手綱を握られていた。
王国子爵であるドミニクは、婚姻外交で深城から来た妻スーラにコントロールされている。本来であれば好ましいことでは無いのだが、幸か不幸か深城は滅びているため、深城の意向によって動かれる心配は無い。
スーラが目指しているのは、王国におけるマルゴワール家の立場向上であって、そんな事は貴族全家が行っているために、警戒すべき内容では無い。王国の利害で考えるならば、スーラは深城を統治出来るソン家の予備の血筋として、王国に残ってもらうべき存在である。
マルゴワール子爵家の挨拶に続いて、同じく婚姻外交で王国に来た女性から挨拶があった。
「御機嫌よう、公爵閣下、シャリー様。ソン・リンファです。夫デュルケーム子爵フィルマンと共に参りました」
挨拶した凜風自身は、ご機嫌麗しくない様子だったが、リンファは元々大人しい性格だそうである。黒髪に青い瞳で、イギリス系に見られる特徴を多少引き継いでいる彼女もシャリーの従姉妹の1人だ。
結婚相手は、三男だった前王ヴァルフレートの次兄の嫡男。
前王ヴァルフレートの実兄という血統で爵位を得たデュルケーム家が、功績によって立場を確立しようとして、嫡男フィルマンに婚姻外交を受けさせて爵位も継承させた。
デュルケーム子爵フィルマンはヴァルフレートの甥であり、ベルナールやジョスランのみならず、ユーナにとっても従兄妹にあたる。
デュルケーム子爵家は籠絡されているわけでは無いが、王国貴族として家の安定や立場の向上を目指す意志を持っており、行動自体はスーラと何ら変わりない。
「マルゴワール子爵、デュルケーム子爵、両子爵夫人も、ご無沙汰しておりました。本日は、よくお越し下さいました。同じ国際結婚をした者同士、本来であればもう少し活発に交流すべきところ、中々お時間を取れずに申し訳ありません」
今回はスーラとリンファが、シャリーを訪ねてきた形であり、最初にシャリーが挨拶を行った。
その後にハルトと2人の子爵が挨拶を行って、2組の子爵家をアマカワ侯爵邸、兼王宮、兼ソン公爵邸という兼ね過ぎの邸宅に招き入れた。
最初の挨拶で気力のゲージを使い切ったシャリーが置物となる中、主にスーラが会話の主導権を握って、ハルトに対してアテナ星域会戦の勝利を祝した。
「深城の関係者として、年内に深城星系を奪還すると伺いました時、最初は耳を疑いました。ですが今は、実現を確信しておりますわ」
「それは結構。9月までにはマクリール星系の宙域を確保して、10月には深城星系の宙域を確保する予定だ。10月には、第二次ディーテ星域会戦から1年を迎える。早々にやり返して、王国の意思を示さなければならない」
「まるで雷神のように、戦場を駆け抜けて行かれますのね」
一頻り情報を擦り合わせたスーラは、ようやく本題を持ち出して来た。
「それで公爵閣下、本日わたくし共が罷り越しましたのは、深城星系の奪還後に閣下のお役に立ちたいからですわ」
そのような提案は、面会の申し込みがあった時点でハルトも予想していた。
ディーテ王国にとって、深城は未だに踏み入った事が無い星系だ。
シャリーが持ち込んだ天華製の情報端末機とデータのストレージによって、ディーテ王国は現地の高校生くらいの一般知識は有しているが、データに存在しない人間関係などの情報は一切持ち合わせていない。
統治の出だしで躓いて、深城民の第一印象を悪くした場合、「自分たちの事を解っていない他国の人間だ」という印象を払拭するのは相当困難になる。
誰を使えば現地の人間に支持されるのか。誰が忠実で信頼できる人間なのか。逆に誰を重用すると、民衆の反感を生むのか。宋家の要人として、幅広い人脈や情報を持つスーラやリンファが協力してくれるのであれば、王国の統治の助けとなる。
彼女達の面会申し込みがあった後、ユーナや政府と協議したハルトは、提案があった場合にどのような扱いにするのかを決めていた。
「王国政府は、諸般の事情に鑑みて、2家の4名に対して深城総督補佐の立場を与える。また買収防止も兼ねて、伯爵家の利益に劣らない潤沢な資金も与え続ける予定だ」
「公爵閣下のお引き立てに、一同感謝申し上げます。わたくし共は、必ずやお役に立って見せますわ」
来訪の目的を完全に達成したからか、スーラの笑顔には感情の色が乗った。他の3人も、王国から役に立つと認められたことに満足している様子だった。
4人を見渡したハルトは頷いた後、事前協議で検討された話を付け加えた。
「期待させてもらおう。それと、引き受けてもらえるなら伯爵に陞爵させた上で、深城に領地と、領民として伯爵位相応の深城民も任せられる話があるのだが……」
「まあ、どのようなお話で御座いますか」
即座に反応したのは、頭の回転が速いスーラだった。
貴族の序列や体面に重みのある王国では、よほどの功績を挙げなければ陞爵させない。主星を守り、建国以来の悲願であった連合敗滅に尽力したコレットのリスナール子爵家が伯爵に陞爵したが、それが子爵から伯爵に上がる一つの目安だ。
はたしてハルトと王国が期待したのは、王国と天華民との緩衝材だった。
「深城には深城民の他に、新京と九山の避難民も居る。戦後に民間人を皆殺しには出来ない。実効支配は軍が行い、行政は王国政府が責任を持ち、総責任者はソン公爵とするが、避難民の扱いを定める管理担当者を任せられるのであれば、両家とも伯爵に上げると女王陛下は仰せだ」
「2国民が暴発しない程度に冷遇して、深城民を満足させれば、よろしゅうございますか」
王国が求めるところを、スーラは完全に理解した。
天華5国の侵攻によって、深城は相応の死者を出し、多くの財産を奪われ、領民達も蹂躙された。すると王国の深城奪還後には、加害者と被害者を入れ替えた1年前の再現が発生する。
だが、新京と九山が深城民を全員殺し尽くさなかったことから、立場が逆転しても、全員を殺し尽くす展開にはならない。
立場の逆転によって発生する諸々の事象は、基本的に因果応報なのだ。
深城民を優遇する戦後裁判で被害者達に、一通りの復讐をさせた後、生き残った新京と九山の避難民を深城に居住させる事になるだろう。
その際、深城民と同列に扱えば深城民は怒るであろうし、逆に天華民に対して酷すぎる扱いを行っても、他民族であるディーテ王国民に不信を抱かせてしまう。
それらを回避できるのが、深城出身で親を殺された宋家の娘達を管理担当者にする手法だ。
天華民であるスーラとリンファの復讐は、同じ天華民同士の問題となって、王国民が恨まれたり、不信感を抱かれたりする事には繋がらない。
統治者側の決定に多少の解釈不一致があっても、親を殺されたスーラとリンファの決定であれば、深城民は人それぞれの解釈違いだと納得できる。
かくして深城は、無秩序な復讐の連鎖にならず、法秩序が保たれる次第だ。
それを請け負ってくれるのであれば、後継者不足で定数に満たなくなった伯爵の枠に子爵2家を入れる程度は、一向に構わないとハルトは考える。ユーナと王国政府に対して行った事前協議でも、そのように結論が出ていた。
スーラの推察に、ハルトは軽く頷いて肯定した。
「その通りだ。深城民とそれ以外の民は、精霊が身体に入った星系の魔素で選別可能だ。深城民には王国籍と権利を与え、避難民には与えない。差を付けて、深城民に王国への帰属意識を持たせる。その実施と調整を任せたい」
「避難民は、どのように扱っても、よろしゅうございますか」
笑顔で尋ねるスーラに対して、ハルトは内心をざわつかせたものの、それを表出せずに即答した。
「目的は深城民を王国へ組み込むことであり、その目的に適うのであれば、新京と九山の避難民がどうなろうと構わない」
「それでしたら、マルゴワール家は、お引き受けしたく存じます。リンファ、あなたも受けなさいな。他ならぬ深城で、領地と領民を任せて頂けるのですよ」
ハルトは、スーラの瞳の奥に不穏な光が宿ったのを見た。
だが王国と天華5国との戦争は、天華側が仕掛けたものだ。深城星系も、新京民と九山民が一方的に侵略して、軍事占領しているに過ぎない。
やった事を利子付きで返されるのは因果応報であろう……と自分を納得させたハルトは、黙して目を閉じた。