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38話 星間戦争

 王太孫と公爵に対する国家反逆罪の告発は、生中継の戦勝記念式典で発生した事もあって、瞬く間に王国中へと伝播した。

 あらゆるメディアが連日に渡って報道を繰り返し、かつて王太子が地球制圧宣言でやらかした時とは比較にならない怒りを国民に撒き散らした。

 放置すれば、ディーテ王国の貴族制度が崩壊する引き金にすらなりかねない。

 多次元魔素変換通信波によって、連合星域で軍務中のヴァルフレートと相談した国王は、息子から苛烈な処断を提示された。


 アステリア王家に対する処分

 1.レアンドル・アステリアは、国家反逆罪により公開斬首刑。

 2.レアンドルの保護者であったラングロワ公爵家出身の元王太子妃は、王族籍と全ての公的な地位を剥奪して永久追放。

 3.国王私有財産の9割を没収し、戦災者の補償金と遺族年金に充てる。

 4.第一王位継承権者から国賊を出した国王は、当主の監督責任を問い、年内に引責退位。上皇を含めた公的な地位への就任は、これら一切を認めない。


 ラングロワ公爵家に対する処分

 1.マクシム・ラングロワは、国家反逆罪により公開斬首刑。

 2.命令者が第一王位継承権者であった点、後継者の告発で国賊が暴かれた点、取り潰しは未来の内部告発者を無くす点に鑑み、公爵家は子爵家へ3段階降爵。

 3.公爵家所有財産の8割を没収し、戦災者の補償金と遺族年金に充てる。

 4.新子爵を、新国王を委員長とする貴族特権縮小委員会の書記とする。


 斬首の方法はギロチンで、戦勝記念式典が行われた広場で執り行われる。

 ギロチンの刃を落とさせる執行者は、マクリール星系で戦死した戦闘艇搭乗者遺族の希望者から選考される。

 貴族特権の縮小は、非課税特権の廃止、利益率の高い国有企業の株式優先購入権の廃止、領地政府の裁量権拡大、騎士階級の廃止など多岐に渡る。

 廃止する非課税特権の代わりに、保有戦力の制限による貴族の負担軽減や、継続される場合の徴用制度と引き替えの減税措置など、委員会では匙加減が検討される。

 国王は貴族特権縮小の発案者として、ラングロワ子爵ステファンは実行事務局員として、恨まれ役になりながら国民に貢献する事で、今回の責任をそれぞれ果たす。

 処断の内容を説明された国王は、息子に翻意を促した。


「レアンドルは、未だ19歳だ」

「であればこそ、育てた元王太子妃にも責任を問い、身分と地位を剥奪して放逐致します」


 ヴァルフレートは、レアンドルとラングロワ元公爵の公開斬首刑や、元王太子妃の追放を断固として譲らなかった。


「なぜそこまで苛烈な処断を求める」


 理由を質す国王に、ヴァルフレートは処刑や追放の意義を説明した。


「王侯貴族の処断を甘くすれば、国民の怒りが王侯貴族に向かいます。正しく処断すれば、貴賎を問わず罰せられると知り、国民の怒りは罪人に向かいます。父上は国民目線を知りませんな」

「国民目線とは、お前は一体何を言っている」

「戦争が終結し、連合と戦う者を優遇する貴族制度は、必然性が無くなった。貴族は今後も必要か否か、国民から審判を受ける時代が来たのです。温い事をすれば、不要と断ぜられましょう」


 ヴァルフレートは士官学校に通い、艦長科卒業生の最初の階級である中尉から任官した。周囲は殆ど一般人で、交流する中で彼らの考え方を学んだ。

 彼らは決して、貴族の出自を偉いと思っているわけでは無い。貴族が身を犠牲にして王国民を守るため、その行為を偉いと認められるのだ。

 敵が襲ってきたら、国民の盾になって守ってくれる。

 国民が逃げている間に、敵に特攻して脅威を取り除いてくれる。

 それ相応の対価があればこそ、自分たちが出来ない事をやってくれる貴族が偉ぶっても、国民は貴族を偉いと認められるのだ。

 従って、有害なだけの王侯貴族は、王国民にとっては単なる排除対象である。


「ギロチンはやり過ぎだ。と言ったならば」

「国王が国賊を庇ったとして、革命が起きましょう。王国の敵を処刑できぬならば、もはや父上には、王国の旗印たる資格はありませぬ。判断を間違えた場合は、お覚悟なさいませ」

「…………考える時間をもらおう」

「危機感が、致命的に足りませんな。父上が国賊を庇った場合、私は貴族制度の崩壊や内乱を防ぐために、革命を起こすしか無くなるのです。この場で判断できぬならば、すぐに革命の準備に入らせて頂くが、如何なされる」


 ここで今生の別れになる。

 そう言外に告げるヴァルフレートに、国王は先の展開を想像した。

 現在のヴァルフレートは、手元に連合を併呑した戦力を丸ごと有している。そしてこの通信を公開すると共に、国王が国賊を庇い立てすると呼び掛ければ、王国中の戦力がヴァルフレート側に付く。

 王国最大の戦力であるケルビエル要塞とアマカワ子爵は、ヴァルフレートの娘婿であり、確実にヴァルフレート側に付くだろう。ヴァルフレートが司令長官を務める王国軍も、感状を発行して味方に付けた貴族達も、そしてレアンドルとラングロワ元公爵に怒る国民たちも。

 選択の余地が無いと悟った国王は、ヴァルフレートが出した条件を全て受け入れた。

 要求を通したヴァルフレートは、王家と公爵家に対する処断に合わせて、連合を降伏させた遠征軍に対する昇進と武勲章、従軍記章、特別功労金を発表させた。戦功者たちの発表は、国民の視線を逸らす事が目的である。

 ヴァルフレートは上級大将から元帥となった。三長官の上に最高司令官という名誉職も作られ、ヴァルフレートに与えられた。

 ケルビエル要塞司令官のハルトは、中将から大将になった。武功卓越の武勲章は勲3等シリウス章となり、貴族・将官では最高評価を得た。

 運行補助者であったユーナ・ストラーニ・アステリア王女、フィリーネ・カルネウス侯爵家令嬢、コレット・リスナール子爵令嬢も、それぞれ准将から少将に上がり、勲3等シリウス章を得ている。

 元王太孫と元公爵に対するギロチン、元王太子妃の永久追放、王家と公爵家への厳しい処断、国王とステファンへの罰などと共に、貴族特権が今後は縮小されると発表された事で、激怒していた国民は次第に怒りを収めていった。

 戦争終結の功労者は素直に讃えられ、ユーナたち19歳の美少女が、本物の功績によって少将の階級と勲章を得たと発表されて、国民の視線はそれなりに逸らされた。




 帰国したハルト達を待っていたのは、士官学校の卒業通知だった。

 成績はハルトが進言した通り、次席コレット、三席フィリーネ、四席ユーナだった。しかもユーナには、席次に関する校長の釈明が添えられていた。


「私が4席だったのって、ハルト君が校長先生に言ったからなんだよね」


 そう笑顔で告げるユーナに、ハルトは諦めの表情で恨み言を呟いた。


「校長め、売り飛ばしやがって」


 ろくでもない校長にあたるのは、魔法学院中等部に続いて2度目である。

 もっとも、少将まで昇進したユーナ達にとって、士官学校の最終席次など今さらの話であろう。

 本来、佐官から将官に上がるためのハードルは、とても高い。

 そのハードルに向かって加速し、高く跳躍するために必要な材料の一つが士官学校の席次だが、成績を得た段階でハードルを超えているのが現状だ。席次以上の価値を持つ武勲を積み重ねており、士官学校の成績は今更なのだ。

 社会人として成功した後、学校の成績は関係ないのに近いかもしれない。

 そのように弁明を試みるハルトに、ユーナは無言の笑顔という最近の特技を返した。


「それはともかく、戦争は終わったけど、ハルト君は王国軍を続けるのかな」


 ユーナの問いに、ハルトは今後の去就を考えた。

 連合の脅威から逃れるために軍を志願したハルトであったが、戦争が終わって脅威は無くなった。そして自身は、大将閣下である。

 現在の王国軍では、三長官とマクリール星系方面軍司令官の4職が上級大将とされている。遠征軍に参加して昇進したイェーリングが司令長官、リーネルトはマクリール星系方面軍の司令官に任じられた。

 それに続くのが大将で、終戦前からの7星系司令官と2艦隊司令官、終戦後に遠征軍の総参謀長と5艦隊司令官、それにハルトが昇進して16名が任じられている。これ以上の大将は不要であるため、王国軍の大将枠は締め切ったと見なして良い。

 その上級大将と大将の中で、最も若いのがハルトだ。二番目に若いレンダーノとの年齢差が30年もある。しかもハルトは、士官学校を首席卒業し、連合との戦争で比類無い戦功を打ち立て、勲3等シリウス章を持っている。

 今後は戦争による昇進がなくなるため、どのような選定基準であろうとも、退官しない限り将来の三長官は確実視されている。


「とりあえず肩書きも立派だし、このまま継続かな」

「うん。分かったよ」


 ハルトの答えを聞いたユーナは、婚約者として受け入れるといった風に微笑みながら頷いた。

 ヴァルフレートと共にケルビエル要塞で首星へ戻ってきたハルトは、新王即位から暫くの間、要塞と共に首星ディロスに在れと指示されている。

 役職は三長官の下で、ケルビエル要塞司令官を兼ねたまま、副長官を歴任させられることになった。副軍政長官、副参謀長官、副司令長官を歴任しながら、軍の組織運営を学ばされるそうだ。士官学校を卒業したと思ったら、またお勉強である。

 少将となったユーナたちも、ケルビエル要塞の運行補助者と兼務で、それぞれ新しい肩書きを示されている。

 ユーナは、軍政庁技術局で、精霊結晶部長の内示があった。

 フィリーネは、参謀庁教導局で、第三教導部長の内示があった。

 コレットは、副長官補佐というハルトの補佐役の内示があった。

 精霊結晶はアマカワ家が全株を独占する資産であり、婚約者のユーナはハルトのお財布を握る管理者として受けるだろう。と、ハルトは思っている。

 フィリーネは、魔法学院高等部の貴族子女たちを、少しでもマシにする仕事だ。ヘラクレス星域会戦が酷すぎたため、王国軍は改善の必要性を痛感した。そして実績と身分があり、年齢も近いフィリーネに白羽の矢を立てた。

 コレットは、そのままハルトの補佐役だ。コレットは「これで借りを返すと言う事で」と、しれっと言っていた。

 その他にも、マーナ星系で救出されたフロージ星系戦の捕虜502名のうち、下士官を除いた士官学校の元同期たち221名も、それぞれの選択を行っている。

 彼らは士官学校2年だった王国歴439年8月から442年1月まで、約2年5ヵ月を捕虜として過ごした。士官学校に復帰する場合は、2年生の航宙実習後となる442年9月から士官学校に復帰が可能だ。

 ハルトの同期ではなくなってしまうが、捕まっていた間も軍歴に加算され、特別慰労金も支給される。

 復学すれば、任官後に軍歴の分だけ出世が早められて、10年以内には辻褄が合わされる。さらに連合による奇襲作戦の生き証人として、退官まで軍の広報官という安定した、比較的軽めの仕事が与えられる。

 軍に残って広報役を担って貰いたいために、慰労金の額を絞っていたのだが、復帰したのは167名で、残る54名は軍から去っていった。


「退学する元同期の連中は、軍関係の工場とか、何か斡旋できないのかな」

「真っ先に思い浮かぶのは、精霊結晶の生産工場かな」


 ハルトが呟くと、ユーナが自身の新しい役職で提案した。


「いや、それは無理だろう」


 マクリール星域会戦におけるセラフィーナが起こした現象は、カーマン博士がハルトに渡した精霊結晶に、精霊結晶が壊れて大量の精霊結晶も失われる事と引き替えで起動する試験的な仕掛けがあったという事になった。

 仕掛けた本人が死んでいるので、詳細はよく分からない。

 という、全責任を博士に押し付ける強引な手法で権力者が押し切ったのだが、精霊結晶の重要性はさらに高まり、戦争が終わっても軍の接収が続く事になった。

 そのような重要施設には、連合に洗脳されたかもしれず、士官学校を退学してしまう元捕虜は流石に雇えない。


「王国軍で駄目なら、アマカワ侯爵領で何か斡旋するとか。ハルトも侯爵閣下になっちゃうし」

「本当に、なんで俺が侯爵になるんだか」

「首星防衛戦の功績で伯爵、ケルビエル要塞による連合併呑の功績で侯爵、だったよね」


 ユーナが説明したとおり、ハルトは侯爵まで上げられる事になった。

 年内に国王となるヴァルフレートは、自らの正当性を高めるため、元王太子側が行ってきた不当行為を表に出させた。

 国賊レアンドルの父親である元王太子にも問題行動があった事を公表し、元王太子派の力を失わせる事で、ヴァルフレートの王権強化を図るのが狙いだ。

 その一環として、首星防衛によって110億人救命という絶大な功績を挙げながら、軍で1階級上がるだけに留められたハルトは、『元王太子が、王位継承問題で第三王子の娘婿を不当に貶めていた』という事で、陞爵される事になった。

 ヘラクレス星域会戦における総司令部からの戦闘参加禁止命令も公開される運びとなり、既に無いに等しい王太子派は壊滅である。

 王国の新体制において、ヴァルフレート派の筆頭のようになってしまった侯爵で大将のハルトには、各所から連絡が引っ切りなしに入ってくる。


「ハルト君。お見合いの打診は、侯爵と大将の兼務で、物凄く忙しいから絶対に無理ですって断っておいてね。戦争が終わったから、もう増やさなくても良いよね」

「あ、はい」


 にこやかに微笑むユーナに、ハルトはゆっくりと頷いた。


 かくして人類初の星間戦争は、終わりを告げた。

 だが2度目の星間戦争は、王国民の誰が想像するよりも早く訪れる。

 王国と連合の勢力争いを虎視眈々と窺っていた天華連邦。

 連合敗北という事態に直面した彼らは、速やかに動き出した。

 かつて連合では断念した魔力者の量産方式を、強引に押し通して完全に形にしていた彼らの総戦力は、王国の戦闘艇を全て足したよりも圧倒的に高かった。

 彼らの宣戦布告により、王国は瞬く間に様々なものを失っていったのである。

これにて物語は完結となります。

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

今後もなろうに投稿しますので、次作以降もよろしくお願いします。

(2020年11月3日)


…………継続する事になりました。ご説明は次話にて(^_^;

(2021年2月21日)

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うほー 最後のブロックは追記されたのかな 続きが読める幸せ 皆の受難はまだまだ続くか〜 顕現した精霊王(神?)さまの動向も気になるね 章乙!
 やったー、続いた!
[一言] >「ハルト君。お見合いの打診は、侯爵と大将の兼務で、物凄く忙しいから絶対に無理ですって断っておいてね。戦争が終わったから、もう増やさなくても良いよね」 ユーナが全く懲りてない… 自宅を理由に…
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