34話 矢の向かう先
王国暦441年10月。
勅命が下された王国軍は、再び大規模な出征を行った。
『ヘラクレスの敗北により、王太子が戦死した。国民の不安を払拭せねばならぬ。司令長官ヴァルフレート・ストラーニ・アステリア上級大将に命じる。王国軍を率いて人類連合国家群と戦い、敗北を上塗りする大勝利をもたらせ』
『御意。必ずや王国に勝利を齎しましょう』
王族籍復活によって第三王子に戻ったヴァルフレートの出撃は、レアンドル王太孫たっての希望であった。
公には、父親の仇討ちを、祖父を介して叔父に依頼した形だ。
王太孫は、3月に魔法学院の高等部を卒業した10代の子供。
第三王子は、軍の司令長官で、大会戦に勝利した実績も持つ。
高齢の国王の代理として、両者の内どちらが軍を指揮するのに相応しいかと問えば、どのような層に調査を行っても、圧倒的大多数がヴァルフレートを支持するだろう。
もちろん国民は、王位継承問題も理解している。第三王子が戦死すれば、王太孫派が喜ぶ事も知っている。従って、王太孫が仇討ちを依頼した動機に、継承問題が含まれている事も推察していた。
だがヴァルフレートが連合との戦いで再び勝利すれば、それを理由として王位継承順位が入れ替わる可能性も高まる。故に様々な立場の人々が、それぞれの思惑から遠征を支持した。
遠征にあたってヴァルフレートは、最初に旗艦を変えた。
「今回の遠征では、私の旗艦サリエルは首星に残す。遠征軍の総司令部は、アマカワ中将のケルビエル要塞に移す」
それはケルビエル要塞の艦隊収容能力と移動速度、そして戦闘力を理由とした変更だった。
ケルビエル要塞に全軍を駐留させて移動すれば、移動速度が倍加する上に、遠征による将兵の疲労も発生しない。だがケルビエル要塞でも、移動要塞サリエルまでは収容できない。
諸将は本来の旗艦を残す大胆な案に驚きつつも、理由を聞いて納得した。
だがヴァルフレートが動員する艦隊数を説明した時には、流石に耳を疑った。
「現在の王国軍は、28個艦隊だ。このうち本国防衛を18個として、残る10個で太陽系防衛と遠征を行う。侵攻に使うのは5個艦隊。駐留区画と輸送区画を合わせれば、これくらいは入る」
ケルビエル要塞は全長90キロメートルで、8キロメートルの厚さを持つ複合流体金属層の内側に、全長74キロメートルの内部空間を有している。
艦隊だけを詰め込めば、戦艦を含む150個艦隊が収容出来る。
但し内部には様々な施設を入れなければならず、艦艇の駐留に使える空間は全体の10分の1だ。しかも余剰空間がなければ出し入れが困難であるため、さらに4分の1に減らした3.7個艦隊が妥当な収容数となる。
これだけでは5個艦隊は入らないが、駐留区画と同規模の輸送区画も用いれば7.4艦隊となる。
但し進撃速度は上がっても、戦力が少なくなりすぎる。
ヘラクレス星域会戦では23個艦隊と4つの移動要塞が進撃し、5個艦隊が太陽系防衛を担当していたにも拘わらず敗北した。
それを今回は、3分の1に近い10個で行うと言ったのだ。
ヴァルフレートの総参謀長は、ヘラクレス星域会戦で失われた11個艦隊や、前線に戦力を集中しすぎて発生したディーテ星域会戦を思い浮かべつつも、流石に反対した。
「殿下、あまりに少なすぎます」
「その代わり、戦闘艇を600万艇ほど連れて行く」
「戦闘艇でありますか」
公募に応じた王国民の数は非公表だったが、凄まじい数に上った。
王国は首星防衛戦で10億人が殺され、30億人が一時的に難民化した。職場や生活基盤を失って、家族を養うために収入を求める者、殺された家族の復讐を望む者、恐怖や危機感を抱いた者は膨大な数に上る。
そして王国民の0.8%にあたる3億1200万人が志願を申し出た。
志願した時点で、年齢や性別、健康状態や意志を本人達が考えて申し込んでいる。
そこから適性試験などでさらに10分の1まで絞られて、王国では6つの星系に3120万人という膨大な戦闘艇の操縦者が生み出された。しかも人口と被害が最大のディーテ星系からの志願者が最も多く、1000万艇が首星に誕生している。
戦闘艇の欠点は星間航行を行えない事だが、ケルビエル要塞に収容すれば解決する。
ケルビエル要塞内部の体積を、運用上の輸送区画である40分の1にして、さらに戦闘艇の体積で割ると、1841万艇が収容できる。
戦闘艇600万艇は、輸送区画の3分の1以下しか占めず、同区画には3.7個艦隊が入るところを1.3個艦隊分しか入れない事から、収容は実現する。さらに余った1.4個艦隊分の輸送区画には、相応の物資も詰め込める。
詰め込む戦闘艇は、20艇で駆逐艦1隻分の戦力評価だ。
600万艇を投入すれば、敵は駆逐艦30万隻の防衛戦力が必要になる。
1個艦隊の戦力評価は駆逐艦3693隻相当とされており、600万艇の戦力評価は、81個艦隊に匹敵する。
しかも王国軍の戦闘艇は、騎士階級の魔力者ではなく、平民に精霊結晶を使わせて稼働させている。数を増やそうと思えば、億単位で増やせるのだ。
数を理解したハルトが懸念するのは、操縦者の技量についてだった。
「6ヵ月未満の訓練で、操縦者として使い物になりますか」
ハルトの懸念は当然で、ヴァルフレートも対策を行っていた。
可能な限りのシミュレーションを行わせており、移動する要塞内でも、要塞の魔素機関が未使用の間は、教導隊が戦闘艇の魔素機関を稼働させて、宙域機動訓練を行わせる予定を組ませている。
そして向上させられる能力の限界に関しては、割り切っていた。
「半人前以下であろうと、従来の3倍の数で押して敵を倒せば良い」
81個艦隊相当の戦力が、3分の1の27個艦隊相当になっても、10個艦隊と合わせれば37個艦隊。ヘラクレス星域会戦時で敵が投入した28個艦隊を大幅に上回る。
「王国駆逐艦には、軍人150名が乗艦している。それと相打ちになる敵駆逐艦を、半年訓練しただけの半素人60名で倒せるのであれば、大戦果だろう」
「確かに。連合軍が実態を知れば、目眩がすると思います」
王国軍駆逐艦の艦長は、士官学校の戦闘艦科を卒業して、さらに数年の実務経験を積んだ士官が少佐に昇進して就任する役職だ。
艦長や副長以外の士官たちも、艦長科以外を卒業する10倍以上の士官学校卒業生たちが、適性などに応じて配属されている。下士官であっても、専門学校や訓練学校を卒業して様々な技能を持った専門家集団だ。
連合軍側も、王国軍と大差ない各国の優秀な者達が乗艦している。
そんなプロの軍人たちが、自分たちより数が少ないゲームのシミュレーションで練習した程度の半素人に撃沈されては、たまったものでは無いだろう。
連合による魔力改変者の量産という危機を呆気なく覆し、余裕の笑みを浮かべてみせた婚約者の父親に、ハルトは呆れ顔の半笑いで応じた。
それから1ヵ月後。
太陽系に到達したヴァルフレートは、直ちに揮下を遠征と防衛に振り分けた。
・遠征軍 5個艦隊 戦闘艇600万艇 攻撃要塞1基
総司令官 ストラーニ上級大将
副司令官 イェーリング大将 リーネルト大将
要塞司令官 アマカワ中将
・太陽系方面軍 5個艦隊
方面軍司令官 ラウテンバッハ大将
ヘラクレス星域会戦で両翼軍を指揮した大将2名は、今度こそ勝つぞとヴァルフレートに激励されて、必勝の決意で臨んでいる。
一方でラウテンバッハ大将に対しては、ヴァルフレートは強く念を押した。
「ラウテンバッハ大将、遠征軍の進撃中に優勢な敵が太陽系へ侵攻した場合、本国への撤退を命じる。本国の18個艦隊と太陽系方面軍5個艦隊、そして戦闘艇を合わせて、敵がどの星系を攻めようとも、我々の星を守るのだ」
ディーテの各星系は、配備されている正規艦隊や小艦隊の他、400万の戦闘艇も合わせて昨年の首星防衛戦と同程度だ。そこへディーテ星系会戦のような敵の16個艦隊が押し寄せてくれば、首星防衛戦の二の舞となる。
そこへ王太子が動かしてしまった太陽系侵攻軍19個を上回る21個艦隊を加える事で、敵を防ぐのが目的だった。
「はっ。ですが何故、後方戦力を太陽系に移動させないのでしょうか。前線を押し上げれば、本国の安全性を高められます。太陽系には連合非加盟国家の労働力40億人があり、有用な天然資源も豊富、撤退するには惜しいと考えます」
ラウテンバッハの主張に、ヴァルフレートは毅然と答えた。
「敵が太陽系を無視して、直接本国に攻めて来たらどうする。太陽系は敵地であり、死守する必要は無い。一度手放しても、また取り返せば良いのだ。ラウテンバッハ大将の責任にならぬよう、私が王国軍司令長官として命令書を発行する。従い給え」
「了解しました」
ヴァルフレートは、石頭で融通が利かないと評価するラウテンバッハ大将に命令書を発行して、太陽系方面軍の行動を制御下に収めた。
続いて遠征に用いる5個艦隊をケルビエル要塞に残らず収容すると、要件は伝え終わったとばかりに、早々と太陽系を飛び立った。
「アマカワ中将、ケルビエル要塞の魔素変換防護膜を発生させよ」
「はっ、シールドを展開します」
ヴァルフレートの命令によって、ケルビエル要塞は魔素変換防護膜を発生させ、その内側にある全ての魔素機関の稼働を阻害させた。
魔素機関には、複数名の魔力を同期させる事が出来ない。
そのためシールドの発生と同時に、ケルビエル要塞の内部から多次元魔素変換通信波を放つには、ハルトを介するしか無くなった。
「これから24時間体制で、中将と運行補助者たち、さらに私が選んだ総司令部の高魔力者たちでシールドを常時維持し、全ての通信を阻害しろ。要塞内外の誰が如何なる理由で通信を求めても、総司令官の命令で絶対に禁止だと断れ。軍事機密の漏えいを防ぐ」
ヴァルフレートは厳命と実力行使によって、遠征軍の魔素変換通信を完全に遮断した。そして遠征軍の諸将を集めた将官会議の場で、誰も想像しなかった目的地を口にする。
「今回の我が軍は、ヘラクレス星系には侵攻しない」
「はっ、では何処へ」
イェーリングの問いに対する回答は、立体映像で行われた。
映像に映されたのは、太陽よりも小さいK型主系列星だった。
その星系は恒星系内に沢山の惑星を有しており、ハビタブルゾーンにも2つの地球型惑星が周回している。
そのうち恒星系に近い側の惑星は、人類がフィネガスと命名している。
フィネガスは大海洋に島が点在する惑星で、陸地面積が小さかったため、酸素濃度が低かった。
地球と同じ進化を辿った地球型惑星では、一般的にシアノバクテリアが光合成によって酸素を大量発生させ、死滅したシアノバクテリアの酸化によって消費されながら、僅かに酸素を増やす。
陸地面積が広ければ、死滅したシアノバクテリアが風化浸食作用によって地中に閉じ込められて酸化が起こらず、酸素量が一気に増大する。
フィネガスは陸地面積が小さかった事で、移民できるほどの酸素濃度には達していなかった。そのため人類は、もう1つの惑星へ移住した。
恒星系に遠い側の惑星は、フィンと呼ばれている。
命名の由来は、ケルト神話におけるフィアナ騎士団の首領、フィン・マックール。
フィンは「白い、美しい」という意味を持ち、惑星フィンで高頻度に発生する雲が、恒星光を反射して白く、美しく輝く光景から名付けられた。独立戦争で地球を破壊された連合側が、次の首星に選んだ豊かな惑星だ。
すなわち目的地として映された惑星は、連合の首星だった。
「…………マーナ星系」
「目的地は、連合の首星ですか!?」
居並ぶ諸将は、いきなり敵首星を直撃する作戦に、度肝を抜かれた。
マーナ星系は太陽系から270光年の彼方に位置する。ヘラクレス星系が120光年先であり、マーナ星系は2.25倍もの彼方にある。
驚く諸将に、ヴァルフレートは平然と答えた。
「馬鹿な、遠すぎる、首星防衛戦を経験したのに突出するのは有り得ない。ヘラクレス星系で戦力を減らしたはずだ。それら全ての常識的な思考が、我が軍の侵攻情報を知った連合軍をヘラクレス星系に集結させ、連合本国をがら空きにさせる要因となる。我々の防衛戦力は充分で、カウンター攻撃も防げる。この機に、一撃で敵の息の根を止めるのだ」
投影されるマーナ星系には、重要攻撃目標が次々と表示されていった。
惑星防衛衛星群、軍事宇宙港、警備艦隊駐留所、防衛ミサイル発射施設群、天然資源集積宙域、大規模加工施設、軍用艦艇造船施設群、軍需品生産工場……。
敵艦隊と施設を破壊しながら進撃し、惑星フィンと惑星フィネガスを共に壊滅させる。
マーナ星系には、連合民250億のうち90億人が住んでおり、破壊すれば連合全体の生産力が36%減少する。さらに441年間で溜め込んだ国力も、相当量を吹き飛ばせる。
「総司令官のお考えに反対ではありませんが、マーナ星人は如何致しますか」
リーネルト大将が指摘したマーナ星人とは、地球に植民支配されていた恒星系マーナ移民者の子孫たちだ。
ディーテ政府が起こした独立戦争によって、地球を追い出された連合は、マーナ星系を乗っ取る形で移住している。その時に住処を乗っ取られたマーナ星人たちは、植民支配から直接支配へと立場を落とされた。
ディーテ側は「恨むなら地球人を恨むべきだ」と思っているが、マーナ側は「余計な事をしやがって」と異なる見解を持っている。
連合に支配されて、与えられる情報を統制され続けた結果、怒りの矛先が自分たちを支配している連合では無く、ディーテに向けさせられたのだ。人類史を知れば俯瞰的に物事を考えられるが、その機会を得られるマーナ星人は少ない。
「マーナ星系には連合首星があり、マーナ星人は連合の労働力に組み込まれている。すなわちマーナ星人は、我々王国民を殺しに来る敵勢力の一部だ。特別な配慮は必要無い。そもそも選別する余裕すら無い」
「はっ」
ヴァルフレートの方針に、王国軍の諸将は同意した。
王国軍とは、王国と王国民を守る組織であり、それを殺しに来る敵を守る集団では無いのだ。
「マーナに侵攻すれば、敵軍はヘラクレス星系から慌てて呼び戻されるだろう」
ヴァルフレートの発言に、諸将はディーテ本国への敵のカウンター攻撃は無いだろうと説明したいのかと思った。
だがヴァルフレートは、諸将の予想とは別の言葉を発した。
「だが、呼び戻された敵がマーナ星系に辿り着くよりも、ケルビエル要塞が次の目的地であるトール星系に辿り着く方が早い」
「目的地は、マーナ星系だけでは無いのですか!?」
驚く諸将に、ヴァルフレートは不敵な笑みを浮かべた。
「そうだ。そしてマーナに呼び戻された敵軍が他の星系に辿り着くよりも、我々が3番目の目的地であるフレイヤ星系に辿り着く方が早い。最後のマクリール星系では、敵の指揮官がフレイヤ星系を見捨てれば追い着けるだろうが、そこで決着を付ければ500年近く続いた戦争は終わらせられる」
「…………なんという」
ヴァルフレートが示した戦争終結までの道筋に、諸将は打ち震えた。
そんな彼らの中でイェーリングは、大将としての責任感から、想定外の事態に対する懸念を述べた。
「敵本国の戦力が、我々より優勢だった場合は如何致しますか。主に魔力改変者による移動要塞が多数配置されていた場合ですが」
「戦力が同等であれば、首星フィンに天体を落として切り上げる。我々が劣勢であれば、マーナ星系への突入は避けて、トール星系を壊滅させて可とする。現時点で半素人の戦闘艇は3分の1の戦力評価だが、数年で通常の評価値となろう。奇襲が上手くいかずとも、いずれ勝てる」
「了解しました」
納得したイェーリングが質問を終えたのを見計らい、中将の階級を持つ将官が手を挙げた。
挙手したのは、作戦の要となるケルビエル要塞司令官のハルトだった。
会議室に居並ぶ将官たちが、一斉にハルトの方を向いた。
「アマカワ中将か。何か意見が有るのか」
ヴァルフレートが笑いながら問うと、ハルトは一礼してから口を開いた。
「惑星フィンのマックール大陸、ニューガイヤ州アレスマイヤー地区近郊第135軍収容所」
「なんだ、それは」
ハルトが口にした場所は、乙女ゲーム『銀河の王子様』で、ヒロインと恋仲だった男性キャラが戦争で捕まった際に送り込まれていた王国軍人用の捕虜収容所だった。
収容所では、当然ながら王国を憎む連合による無意味な拷問も行われている。
一例として、大地に突き立てた柱に回転するハンドルを取り付け、上半身裸の捕虜たちにグルグルと回させる拷問がある。
アンドロイド兵が作業を監視しており、捕虜たちが手を抜けば背中を鞭で叩く。すると叩かれた男たちは、セクシーな呻き声を上げていた。ちなみに、ハンドルを回す事に意味は無い。
ハルトは首を横に振り、かつて見たおぞましい光景を脳裏から振り払った。
「王国暦439年9月に行われたフロージ星系戦の未帰還者が、一部収容されています。ヘラクレス星域会戦で捕虜にされた者が居るのかは分かりませんが、フロージ星系戦で捕らえられたのは小官の同期たちでして、機会がありましたら、救出部隊を送らせて頂きたく存じます」
「情報の精度は」
「太陽系制圧時の敵捕虜からです。まさかマーナ星系に攻め込まれると思っていないでしょうから、全員を移し替えたりはしていないと考えます」
会議室のスクリーンに、敵捕虜から集めて統合された情報が映し出された。
極めて精度の高い情報として、同地区では士官学校生と下士官合わせて340名が捕虜として捕らわれている。
「軽巡洋艦1隻程度の人員か」
数字を見た艦隊司令官の席から、苦悩する声が上がった。
大気圏内への降下作戦は宇宙艦隊戦よりも困難で、実行には時間も掛かる。そもそも首星に横付け出来るならば、既に天体突入作戦を自由に行える状況だ。
本作戦は、戦争終結のためにトール星系やフレイヤ星系を転戦する時間との戦いだ。大目標を考えるのであれば、速やかにマーナ星系へ天体を落として次に向かった方が良い。
諸将が考える事は、ハルトも理解していた。
そのためハルトは、説得方法を政治効果に切り替えて提案を続けた。
「畏れながら救出対象は、奇襲攻撃によって捕らえられた、生き証人の学生たちです。これから殿下が戦争を早期終結させるべく、連合の各星系へ天体突入作戦を行うにあたり、誰のせいで戦争が再開したのか、敵がどれほど無体な事をしていたのか、なぜ倒さなければならなかったのか、王国民とフロージ共和国民、そして未来の歴史に示せましょう」
ハルトの説明を聞いた諸将は沈黙し、ヴァルフレートの判断を待った。
ヴァルフレートは鋭い眼光でハルトを睨み、やがて答えた。
「天体突入作戦の正当性を、現在と未来の人類に示す事が目的か。戦争終結までの道筋に寄り道を加える程度の価値は…………あるか。よろしい、認めよう」
最終決定権者であるヴァルフレートは、利害を計算の上で作戦に一部修正を加えた。
「アマカワ中将、卿の発案である。ケルビエル要塞で救出部隊を編制し、可能であれば救出を試みよ。卿が救出作戦に成功すれば、連合に襲われて生き別れとなった同期を救出したとして、政治宣伝の効果も増大しよう」
「ありがとうございます。直ちに編制を行います」
許可を得たハルトは、直ちにケルビエル要塞に存在する膨大な軍用アンドロイドと生産設備を用いて、惑星降下部隊の編制を始めた。
かくしてケルビエル要塞は、270光年先の彼方へと突き進んでいった。