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27話 白ヤギさんったら、退路を断った

 巨大な戦闘艦が放つ強烈なエネルギーの波が、ディーテ星系内を流れる魔素の渦を掻き乱していた。

 かつて10億人を新天地へ運んだ巨大移民船フューチャーアロー号の隣を、それと比肩し得る全長1万3000メートル級の三等要塞艦が3隻、巨大な魔素機関を稼働させながら力強く横切っていく。

 伯爵級以上の高魔力者しか動かせず、巨体の全てを戦闘力に特化させた要塞艦。

 絶大な破壊力を内に秘めた艦体の背後からは、さらに巨大な1万7000メートル級の二等要塞艦2隻、2万1000メートル級の一等要塞艦1隻が、次々と姿を現わした。

 そして一等要塞艦の後ろからは、巨大移民船フューチャーアロー号を丸ごと包み込める、2万7000メートル級の巨大な移動要塞が、変換魔素の光で艦体を白く輝かせながら、静かに浮かび上がった。

 巨艦の周囲では、通常の艦隊では見られない男爵級や子爵級の魔力者が稼働させる大型戦艦が列を成している。それらは戦艦、空母、巡洋艦など2000隻に及ぶ軍艦を従えて、1つの集団を形成していた。

 首星ディロスの衛星軌道上を堂々と周回した集団は、惑星から30万キロメートルほど離れた宙域に向い、既に11枚の光の壁を形成していた軍勢の隣で、12枚目となる光の壁を生み出した。

 そして遙か彼方の連合領域に向かって、一斉に艦砲を並べる。


「ベーデガー大将閣下。モーリアック公爵軍、並びに移動要塞オファニエルが着陣しました。要塞運行者は、モーリアック公爵令息ローラント卿」


 報告を受けた参集艦隊の取り纏め役であるベーデガー大将は、副官に問い質した。


「ローラント卿は、次期公爵だったか」

「はっ。首星防衛戦において、婚約者が連合軍に殺されております。モーリアック公爵家からの増援は、戦艦比率が高い1個艦隊2000隻、加えて上級貴族家当主級の要塞艦6隻、令息ご自身が動かされる王級の移動要塞1基」

「そうか」


 ベーデガーは眉間に皺を寄せながら短く呟いた後、押し黙った。

 王太子グラシアンは前線の戦力不足を補うべく、最前線で戦う国王代理として、上級貴族89家に増援を指示した。

 伯爵70家は、各1個分艦隊200隻。

 侯爵14家は、各3個分艦隊600隻。

 公爵5家には、各6個分艦隊1200隻。

 1個分艦隊は、士爵級魔力者200名、騎士級魔力者2500名を集めなければならない。

 一般貴族1410名に対しては、上級貴族家に協力せよと指示があり、上級貴族達は派閥の貴族家や領地軍から軍艦と人員を集めて増援艦隊を結成した。

 王太子の指示通りであれば、7個艦隊が集まる予定だった。

 それが蓋を開けてみれば、殺意に満ちた貴族たちが、戦艦比率の高い12個艦隊に、参集要請を出していない多数の要塞艦、果ては移動要塞まで送り込んできたのだ。

 貴族軍1個艦隊の平均戦力は、王国軍1個艦隊の2割増しになっている。

 暫くの間、厚い光の壁を眺めていたベーデガーは、やがて副官に告げた。


「まるで478年前の独立戦争を見ているかのようだ。ローラント卿は、貴族徴用では准将待遇であるが、艦隊司令官に準じる扱いで丁重に遇するように」

「了解しました」


 副官が姿勢を正すと、ベーデガーは命令を出した。


「進撃命令を出せ」

「はっ。総司令部より、参集艦隊の全軍に命じる。『我らの敵に向けて、怒りの矢を放て』」


 ベーデガー大将の命令が通達されると、12枚の厚い光の壁は、12本の巨大な光の矢に姿を変えていき、連合領に向かって次々と放たれていった。

 王国貴族軍の進撃は、王国領内でも中継されている。

 貴族達が生み出した12本の光の矢は、ディーテ王国次期国王グラシアンが行う大遠征の一翼となって、人類国家連合群の全身に突き立てられるのだ。

 ディーテ王国が独立を宣言してから441年。

 未だにディーテ王国を植民地の反乱勢力と勘違いして攻撃を仕掛けてきた人類国家連合群に対して、王国は独立戦争に次ぐ新たな怒りの矢を放つ。そして憎き連合を倒し、ディーテは独立と自由と平和を勝ち取る。

 これは王国民にとっての聖戦であり、王国中に知らしめなければならない。そして戦いに勝利すれば、王位継承問題にも決着が付いて、王国は明るい未来へと歩んでいけるだろう。と、ベーデガーは考えている。

 遠征軍の中には、ベーデガーとは考えを異にする司令官もいるが。


「ケルビエル要塞、艦隊とは距離を取って発進せよ」

「了解。ケルビエル要塞、発進します」


 王太子の活躍を政治宣伝するために、目立たないようにしろと指示されているケルビエル要塞の司令官は、要塞を光の矢から離しながら移動を開始した。

 そして進発式での役割を終えたハルトは、重い溜息を吐き出した。

 ハルトの右隣では、完全に目が据わったユーナが、心ここにあらず。と言った雰囲気で座っている。


「首星から離れられて、良かったわね」


 コレットの言葉が耳に入ったユーナが、小さく頷いて、再び放心状態に戻った。

 ハルトは頭を抱えながら、二人の悩みの種となっている問題に逃げ道が無いかと、記録映像を再生しようとした。


「無駄よ」


 コレットが忠告してきたが、諦めきれないハルトは、自分だけに聞こえるように端末を操作して映像の再生を始めた。

 映像に映し出されたのは、王都の中心部。

 一度は連合軍に吹き飛ばされたが、復旧が終わって威厳溢れる姿を取り戻した、王国爵貴院(上院)の議会場だった。

 議場では、髭を生やした中年貴族のドライヴァー議員が立ち上がり、声高らかに演説を始めた。


『首都防衛戦から半年が経ちました。スタンリー首相は、防衛戦から4ヵ月経過した時点で、戦災で破壊された生存する王国民の自宅は、特殊建造物も含めて、全て再建、あるいは代替を終えた。と、宣言されました』


 ドライヴァーは一度発言を中断して、議会内を見渡した。

 そして大きく息を吸い込むと、議会所全体に轟かせるような大声で高らかに宣言する。


『ところが、首星防衛戦で敵16個艦隊と移動要塞を真横から突き破り、7個艦隊以上と敵移動要塞を単独撃破し、110億人を救命して首星自体も救われたアマカワ子爵の邸宅は、半年前に損壊判定が出されていたにも拘わらず、未だに復旧されておらず、代替も用意されておらず、自費で地中海に仮設避難船を浮かべて暮らしておられるそうです』


 ドライヴァーが言い切った直後、王国爵貴院の議会場内に、大きな人工浮島の群れの中に浮かぶ、小さな船の立体映像が投影された。

 地中海の一画、2平方キロメートルに近い超高級住宅浮島が美しく並び立つ中に、1ヵ所だけ僅か全長200メートルしかない小船が浮かんでいる。

  周囲に比べて数十分の1の大きさであり、マンションが建ち並ぶ中に中古のキャンピングカーが1台ポツンと置かれているような痛ましい光景に、議員達は唖然とした。


『その小船が、現在のアマカワ子爵邸です。元の邸宅は、周囲の浮島と同じでした。現在は、戦闘艇より少し大きい程度の200メートルほどの仮設避難船で、訪問客に対応できる人間を1人も置けず、客の飛行車輌を停める空間すらも無い』


 ドライヴァーは拳を握り締め、演台をドンと叩いた。


『そこで首相にお伺いします。政府はアマカワ子爵の邸宅に、損壊判定を出されましたか。この場で政府のデータにアクセスし、損壊判定、地中海、ハルト・アマカワと音声入力して、検索結果を報告して下さい』


 要求されたスタンリーは眉間に皺を寄せ、口元を歪めて、10秒ほど黙った。

 爵貴院議員400名と、中継を見ている数十億の王国民が注目する中、やがて彼は声を出して政府の記録を確認した。


『…………損壊判定を確認しました』


 スタンリーが返答すると、ドライヴァーは力強く頷き、再び大声で語り掛ける。


『首相が検索で見つけた損壊判定を受けているアマカワ子爵邸は、再建ないし代替、あるいは何かしらの補償が行われた。と、登録されておりますか』


 スタンリーは眉間に皺を寄せたまま、苦渋に満ちた表情で言葉を紡ぎ出す。


『…………されておりません』


 爵貴院に出席している議員達から、響めきが沸き上がった。

 地中海に頼りなく浮かぶ仮設避難船を見上げた議員達は、口々に『何と酷い』『なぜ復旧していないのだ』『半年も放置していたのか』『復興予算は余っているはずだ』と叫び出す。

 そして演台に立つドライヴァーは、小船を指差しながら、再びスタンリーを問い質した。


『首相は、戦災で破壊された生存する王国民の自宅は、特殊建造物も含めて、全て再建、あるいは代替を終えた。と、宣言されました。それではアマカワ子爵は、王国民には含まれないのですか。あるいは戦死されたのですか。それともスタンリー政権とは、損壊判定を出した家から、復旧した家の数を引いて、残りを計算する引き算すら出来ない集団なのですか』


 スタンリーを一睨みしたドライヴァーは、出席している議員達と、中継を聞いている王国民に向かって、この問題の根幹を話し始めた。


『首相は、たかが家1軒と思われるかもしれない。だがアマカワ子爵の魔力は王国史上最高で、相手が伯爵級魔力者で継承率が平均値であろうと、子供は王級の要塞運行者になるのです。子爵は避難船暮らしだから。と、事情を明確に説明して、既に王級や侯爵級、伯爵級の相手からの話を何件も断っておられる!』


 避難船が浮かぶ立体映像の隣に、全長90キロメートルのケルビエル要塞と、それを動かしているハルトの魔力9万以上。安全基準上9万1000以上という数値が表示される。

 次いで王級、侯爵級、伯爵級の魔力者との間に生まれる子供達の魔力値が示されていった。


 ・アマカワ子爵と王級魔力者との間に産まれる子供の魔力値。

 第一子 0.9倍=3万9818。 2倍=8万8486。

 第二子 0.9倍=3万7884。 2倍=8万4187。

 第三子 0.9倍=3万6143。 2倍=8万0318。

 第四子 0.9倍=3万4576。 2倍=7万6836。


 ・アマカワ子爵と侯爵級魔力者との間に産まれる子供の魔力値。

 第一子 0.9倍=3万3017。 2倍=7万3370。

 第二子 0.9倍=3万1762。 2倍=7万0583。

 第三子 0.9倍=3万0634。 2倍=6万8075。

 第四子 0.9倍=2万9618。 2倍=6万5817。


 ・アマカワ子爵と伯爵級魔力者との間に産まれる子供の魔力値。

 第一子 0.9倍=3万1657。 2倍=7万0349。

 第二子 0.9倍=3万0539。 2倍=6万7864。

 第三子 0.9倍=2万9532。 2倍=6万5628。

 第四子 0.9倍=2万8627。 2倍=6万3615。


 数値を凝視する議員達と数十億の王国民に対して、ドライヴァーは念を押した。


『これはアマカワ子爵の魔力を予想最低値の9万1000と仮定した上で、実際にアマカワ子爵から家が壊れたままだからと理由を明確に告げられた相手女性3名から、わたくしが直接お預かりした本物の魔力値で計算したものです』


 衝撃の発言を耳にしたスタンリーが愕然とする中、ドライヴァーは追い打ちを掛ける。


『首相が失わせた未来の高魔力者は、わたくしが今すぐ証拠を提出できるだけで既に10人以上。その失われた高魔力者たちは、1度の会戦だけで1人につき数億人から10億人以上を救えたのです。そして次の会戦、次の世代でも王国を助けてくれたのです。しかも、アマカワ子爵に打診を検討したが邸宅損壊を理由に連絡を断念した貴族家は、20家以上もあったのです』


 静まり返った議場の中で、ドライヴァーは罵声を浴びせるようにスタンリーを叱り飛ばした。


『王国で未来に誕生した大型移動要塞の運行者たちを確実に10人以上は減らし、その子孫たちが誕生する可能性も王国から奪い去り、数十億の王国民を人類連合に殺させる機会を作り出し、連合から再び植民支配される危険すら生み出し、スタンリー首相と現政権は、一体何をやっておいでかっ!』


 お前の存在がディーテ王国の存立を脅かしている。と言わんばかりの内容で非難された首相のスタンリーは、血の気が引いた顔で身体を震わせながら、必死に謝罪の言葉を口にした。


『…………何らかの漏れがあったのだと考えます。直ちにアマカワ子爵に謝罪し、復旧の手配を致します。なぜ復旧対象から漏れたのかにつきましては、復興省と共に原因を究明し、二度とこのような事態を招かないように再発防止を徹底させます』


 顔面蒼白なスタンリーに対し、ドライヴァーは声量を僅かに落として念を押した。


『首相が仰られた漏れについて、確認させて頂く。アマカワ子爵は、首星防衛戦の直後から戦災者の救助に奔走され、その後は復興に消費した物資の回収に太陽系へ向かわれた。そして帰国してみれば、子爵の邸宅が破壊されたままに首相が復興完了を宣言済みだったのです。漏れに関して、子爵には何かしらの落ち度は有りますか』


 首星防戦後、ケルビエル要塞が避難者の救助や復興に明け暮れた事や、太陽系に赴いて復興で消費した資源を回収してきた事は、王国民が広く知るところだ。なぜなら太陽系からの帰還と成果が、国中で大々的に報道されている。

 それを指摘されて思い起こしたスタンリーは、ドライヴァーに回答した。


『…………子爵に落ち度はございません』


 落ち度が有ると言えば、それは何だと問われるだろう。言葉を濁しても追及を受ける。

 無いと答えたスタンリーに、頷いたドライヴァーは宣告した。


『それでは政府の失態によって、一人だけ復旧から取り残して晒し者にしていた補償を兼ねて、子爵邸をより良く再建されよ。より良く再建して、本来よりも多くの側室や、愛妾や、遺伝子提供の話を受けてもらわなければ、失われた最低10人以上の挽回にはなりません。もしも政府のせいで、再建された子爵邸で上手く話がまとまらなければ、わたくしは現政権に対して、王国に対する背任罪で弾劾訴追決議案を提出させて頂く』


 ドライヴァーは議会内の爵貴院議員たちを見渡しながら、力強い声で堂々と呼び掛けた。


『出席しておられる議員の方々。今わたくしが申し上げたように、スタンリー政権が爵貴院議会で説明したにも拘わらず、アマカワ子爵の自宅だけを復旧させなかった損害補填を行わず、未来の王国の超高魔力者たちを本来よりも減らした場合、これは王国に対する背任にあたるだろうか。王国への背任にあたると思われる方々は、参考までにご起立願いたい』


 ドライヴァーが呼び掛けると、400名居る爵貴院議員たちが、数百名単位で一斉に立ち上がった。そして周りの様子を見た座っている議員達も、慌てて席を立ち上がっていく。

 やがて議会に出席する議員達の約9割が立ち上がったところで、ドライヴァー議員は礼を述べた。


『王国のために、派閥を越えて正常な判断を行える議員諸氏に感謝申し上げる。どうか着席して頂きたい』


 ドライヴァーは着席していく議員達を見届けた後、真っ青なスタンリーに振り返った。


『首相閣下、お分かり頂けただろうか。本件では、復興の象徴となるような見事な仕事振りによって、必ずや、失われた10名以上の挽回を成し遂げて頂きたい。何故、それが王国にとって必要なのかは、わたくしの説明を何度でも見返されよ。質問は、以上で終わらせて頂く』


 威風堂々と議員席へ戻っていくドライヴァーの姿が映されたところで、ハルトは再生を終えた。

 そして再び、深い溜息を吐く。

 戦災に遭って自宅が壊れて、どなたもお迎えできないです。と、お断りしたのはハルト自身だ。ついでに、戦場に赴く身で婚約者は増やせません。とも言ったような気がする。

 それに対して、美しい白銀の髪をした聖女様が、子狐のようにイタズラな笑みを浮かべながら『ご安心下さい。王国貴族女性にとって、戦いに赴く殿方を支えるのは当然です。それと邸宅に関しては、手配致しますのでお待ち下さいね』とメッセージを送り返してきた。

 首を傾げていたハルトだったが、結果はご覧の有り様だった。

 王族や上級貴族家の有志女性が集う『弦の会』。彼女達を敵に回すと、領地を持つ王族と上級貴族で全議員を選出する爵貴院を通じて、首相ですら弾劾裁判で実刑まで追い込まれる。


「諦めなさい」


 コレットに諭されて力尽きたハルトは、意気揚々と突き進む増援艦隊に引き摺られるように、ノロノロと宇宙を進んでいった。




 王国が子爵邸の復旧で騒いでいた頃、太陽系から120光年の彼方にあるヘラクレス星系では、増援艦隊の詳細情報がもたらされていた。


「王太子は足枷です。わざわざ始末してやる必要は無いのでは」


 ヘラクレス方面軍の総参謀長を務めるホーキンズ中将が、上官である総司令官のデクスター上級大将に進言した。

 王国のグラシアン王太子が地球を制圧して以来、王国の情報は連合へ筒抜けになっている。

 王国軍の動きを例えるのであれば、チェスの指し手が愚直で、駒を真っ直ぐに進める事しか知らない。

 そのような相手の動きなど、考えるまでも無く、手に取るように分かる。誰でも簡単に思考を読めてしまうため、総参謀長であるホーキンズは、自らの存在意義にまで思いを馳せた。そして王太子を殺さない方が、連合のためになるのでは無いかと進言した次第だ。

 だがデクスターは、進言を却下した。 


「足枷であるのは事実だ。だが敵の弱点を突かなければ、大攻勢を受けるヘラクレス星系を守り切れないかもしれない。我々は、ヘラクレス方面軍の総司令部だ」


 ホーキンズは内心では残念に思いつつも、デクスターの意志を受け入れて頷いた。

 開戦以降、人類連合軍の25個艦隊と移動要塞10基が失われた。

 引き替えに王国首星への特攻が一定の効果を上げて、地球への特攻に対する意趣返しが458年越しで叶ったと連合内で政治宣伝された結果、連合加盟国の国民からの支持は高まっている。

 だが開戦当初ほどの余裕は無くなっている。

 連合と王国は、魔力者の総数から『14対10』の戦力差と計算されており、事前の戦争準備でも連合側が有利だった。

 それが実際に開戦してみれば、王国の首星を叩けた引き替えに太陽系を奪われており、一進一退といった状況だ。

 フロージ星系の出だしに躓かなければ、フェンリル艦隊によって王国直撃が成り、今頃は王国領域の過半を制圧して、残党の掃討戦に移行していたかもしれない。

 現実は思い通りには進まないものだ。と、ホーキンズは振り返りながら、王太子を殺した後の展開を検討した。


「第一王子を殺した場合、王太孫が繰り上がって次王となります。第三王子から臣籍に下ったストラーニ司令長官との王位継承争いは、フロージ共和国経由で煽り続けるべきでしょう」


 ホーキンズの言に、デクスターも同意する。


「役者が交代しても争いを続けさせるよう、本国に念を押しておくべきか」

「その方が宜しいでしょう。こちらから言わなくても行うと思いますが」


 王制は、王位継承権の低い方が優秀だと国が割れて、愚かな者が王位に就けば容易に滅びる。王国という国家体制の在り方について、連合は冷ややかに見ると共に、崩壊の後押しにも余念なかった。

 グラシアン王太子とヴァルフレート第三王子では、兄と弟の上下関係があって、最後の一押しが出来ない。だがレアンドル王太孫とヴァルフレート第三王子では、甥と叔父の関係で、グラシアン王太子の時以上に関係を悪くさせられる。

 デクスターは状況の好転を期待して、王制の弱点を突くように指示を出した。


「王太子を殺した後、レアンドルとヴァルフレートが争うように手配してくれ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前話読んでて思ったことをドライヴァーが全部言ってくれてめっちゃすっきりした。
[一言] 戦争の火力に直結するのが遺伝に左右される魔力量って設定では、主人公の種馬化は不可避でしょうね。 まあそれがこの世界のノブレス・オブリージュになるんでしょう。
[良い点] 予想の10倍以上にひどいことになってて草 まぁ戦時中に、国の為にもなる権力者の提案全ツッパしちゃダメよなぁ 全ツッパじゃ落とし所も何も無いもの [一言] 一般国民ならともかく仮にも子爵令嬢…
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