25話 ディーテ貴族のお仕事
恒星ディーテが放つ強烈な煌めきが、人類が生み出した発電衛星という名の無数の宝石箱に閉じ込められ、マイクロ波電力伝送システムを使って地上へ送り届けられて、夜に入った首星ディロスの地表を天の河のように輝かせている。
918年前、惑星ディロスの一画に灯された小さな光は、やがて惑星全土へと広がって、美しく生命力に満ち溢れた星を宇宙に輝かせた。ディロスの輝きは一時期に大きく減じたが、すぐに力強い光を取り戻して、今も地表を輝かせている。
その宇宙に煌めく美しい星の衛星軌道上には、星の流れに身を委ねるように、巨大な豪華客船がゆっくりと周回していた。
フューチャーアロー号。
その船名を耳にすれば、ディーテ王国民の多くは立ち止まり、歴史に思いを馳せる。
それは王国が地球に放った独立の矢に次ぐ、新たな恒星系へと放った初の星間移民の矢に名付けられた名前だ。
放たれた矢の処女航海は400年前。
王国民10億人を乗せて、12年の歳月を掛けて、150光年彼方のアポロン星系まで放たれた矢は、やがてディーテ星系外に280億人を移民させる礎となった。
この世界に生み出された意義を果たしたフューチャーアロー号は、アポロン星系で疲れ切った船体を横たえた。
その後、移民船団長を務めたコースフェルト公爵家が移民船を譲り受けて、何度かの改修を経た後に、新たな役目と共に生まれ変わらせた。
新たな役目とは、ディーテ王国の歴史の語り部である。
ディーテの歴史を忘れないように。
ディーテ王国の先人達が繋げてきた思いを、決して途切れさせないように。
そんな王国の歴史に一幕を刻んだ船に、今日はアポロン星系に属する貴族、王国上下院議員、名士らが参集していた。
「「乾杯!」」
豪華な衣装に、栄えある記章を付けた上流階級の男女が、交流会場の各所で煌びやかな盃を打ち交わしていた。そして参列者たちの中には、彼らに劣らぬ立派な記章を付けた、ハルトとフィリーネの姿もあった。
アポロン系貴族であるカルネウス侯爵家代表のカルネウス侯爵家令嬢フィリーネが、遺伝子提供者であるアマカワ子爵ハルトを伴っての参加である。
ハルトにとっては、ストラーニ公爵に傾いた天秤をカルネウス侯爵家に多少戻すという政治的配慮の一環だ。
「宇宙空間で滝を流すとか、上級貴族の考えは想像を絶するな」
全長2万2000メートル級。王国の一等要塞艦すら上回る、公爵級以上の高魔力者のみがワープ可能な超巨大移民船の内部に設けられた滝を見上げたハルトは、そのスケールの大きさに瞳をしばたかせた。
「あまりキョロキョロしないで下さいませ」
フィリーネは苦笑しながら、威厳の欠片もない子爵閣下を姉のように引き連れて、カルネウス侯爵派の人々へと引き合わせていった。
王国爵貴院(上院)は、人口1億人に対して1議席が割り振られる。領地に人口8億を有する侯爵家であれば、上院に8議席を持っている。
領地を有する上級貴族家90家は、一般貴族1410家に議席や領地の代官を貸し与える事もしており、彼らを従属させている。それは上級貴族が艦隊指揮官、一般貴族が艦長となって、連合との戦いや船団移民を行って来た王国の歴史から生まれた伝統的な姿だ。
「子爵はそれなりの立場だと勘違いしていたけど、こういう場所に来ると、伯爵と子爵の壁が厚いと身に染みるな」
ハルトは自身の胸元に付けられた子爵の記章と、フィリーネが付けている侯爵家の記章とを見比べた。
伯爵とは、領地と2億の国民を任された領地内の国王代理。
子爵とは、領地を持たず、王家や上級貴族に従う居候。
ジギタリスが一般貴族以下の子女を虐めても反撃を受けなかった背景には、このような絶対的な力の差がある。
「それでは幾人かに、挨拶へ参りましょう」
カルネウス派の人々に挨拶を終えたフィリーネは、次に参列者たちの位置を確認しながらハルトの腕を引き始めた。
「随分と挨拶回りが多いな」
「同一星系では利害も共通しますので、このような交流会を定期的に催しています。挨拶が欠かせないのはカルネウスと同格以上の家だけですから、ハルトさんも最初に顔合わせをしてしまえば、次からはもう少し楽になりますよ」
「それを聞いて、少し安心したよ」
アポロン星系でカルネウス侯爵家と同格以上の家は、コースフェルト公爵家と、ゼッキンゲン侯爵家の2家だけだ。
今回は両家とも当主が参加しているため、フィリーネ側から挨拶に向かうのが礼儀となる。
フィリーネは遠目に両者の様子を窺い、コースフェルト公爵に挨拶の列が出来ていたのを見て、先にゼッキンゲン侯爵の方へ向かって歩み寄っていった。
ゼッキンゲン侯爵は、加齢停滞技術で引き延ばされた寿命を、半ば消費した中年男性だ。
前髪はライオンのように後ろへ流しており、顔の造形は天狗を連想させる強面。
長身に筋肉が付いてガッシリとした体格で、派手な色合いの礼服には退役中将の記章も付けられている事から、軍で鍛えられた肉体を維持しているのだろうとハルトは察した。
侯爵はフィリーネの父より年上であるものの、未だに後継者は定まっていない。だが愛人は沢山居ると有名で、今回も若くて見目麗しい女性を一人連れて参加していた。
「ゼッキンゲン侯爵閣下、ごきげんよう。カルネウス侯爵家当主の孫娘フィリーネでございます」
フィリーネが優雅に挨拶すると、ゼッキンゲン侯爵は振り返って大きな口を釣り上げて笑顔を見せた。
「おおっ、カルネウス侯爵家のフィリーネ嬢。何ヵ月振りだったかな。また派手に活躍したそうではないか。地球から大量の資源をかっぱらって来たのだろう。我らの祖先が聞けば、酒蔵から有りっ丈の酒樽を運び出して、盛大な祝宴会を開いて褒め称えるだろう。祖先の思いを受け継いで、このゼッキンゲンが褒め称えるぞ。実によくやった! 見事だ! 大変素晴らしい! フィリーネ嬢は王国貴族の鑑である!」
侯爵は盃を高らかに掲げながら、盛大に祝辞を述べた。
陽気なゼッキンゲン侯爵に、フィリーネは苦笑を返した
「恐れ入ります、ゼッキンゲン侯爵閣下。ですがわたくしは、あくまで要塞の運行補助者ですわ。実際に要塞を動かした方をご紹介致します。こちらがケルビエル要塞司令官の王国軍少将、アマカワ子爵ハルト様です」
紹介を受けたハルトは一歩前に出て、ゼッキンゲン侯爵に一礼してから名乗った。
「侯爵閣下、はじめまして。私は一昨年に子爵位を叙爵されました、アマカワ子爵ハルトと申します。父方はヒイラギ男爵、母方はメレンデス男爵でございます。このたびは縁を得て、このような栄えある場への参加が叶いました」
ハルトが挨拶をすると、ゼッキンゲン侯爵はハルトに向き直って、天狗面に満面の笑みを浮かべた。
「王国から侯爵位とアポロン星系の一画を預かっているゼッキンゲン侯爵アルテュールだ。高名な子爵のことは、大変よく知っている。ようこそ我らアポロン星系貴族の集いへ。もちろん大歓迎するぞ。卿は子爵位を持つに相応しい、大変立派な王国貴族だ!」
侯爵がハルトを高名だと称えた点については、言われた本人にも心当たりがある。
第一に、人類連合による奇襲作戦の報告者。
第二に、王国独立以来の戦功による叙爵者。
第三に、精霊結晶の独占会社の全株所有者。
第四に、超巨大要塞を運行できる高魔力者。
第五に、ロキ星域会戦で敵要塞9基を撃破。
第六に、首星防衛戦で敵の半数を単独撃破。
連合による開戦理由の捏造を防ぎ、首星壊滅を防いだ経歴は、人類に知れ渡っている。
但しメディアを介した情報であり、フィリーネを猫耳メイドに変身させた性格まで細かに知られているわけでは無いが。
「恐縮です。ゼッキンゲン侯爵閣下。王国貴族の一員としてお役に立てて、私も誇らしく思っております」
ハルトが礼を述べると、ゼッキンゲンは口元を大きく釣り上げながら、力強く頷いた。
「謙遜する事は無いぞ。私は子爵に対して、伯爵への陞爵の推薦状を書いても良いと思っている。領地経営など迷惑かも知れぬ故に自重しているが、推薦状が必要であればいつでも言ってくれ。私も、王国軍には居た事がある。卿が打ち立てた武勲の凄まじさは、他の貴族やメディアより、余程詳しく理解しておる」
不敵に笑う侯爵に、ハルトはゼッキンゲンの記章を一瞥してから答えた。
「ありがとうございます。侯爵閣下は、退役中将でもいらっしゃるのですね」
「如何にも!」
ゼッキンゲンは、胸元の記章を見せつけるように胸を迫り出した後、陽気に語り出した。
「私は侯爵令息の立場だったが、父に啖呵を切って士官学校に進んだのだ。貴族家であれば王国民を守るのが使命。ならば士官学校に行かなくてどうすると。その後は貴族が一般国民に負けて使命を果たせるものかと食らい付いて、艦隊司令官までのし上がってやったわ!」
若かりし頃のゼッキンゲンの武勇に、ハルトは唖然とした。
「開戦前は将官の定数が厳格で、上には大変上がり難かったと聞き及びます。爵位の継承前に艦隊司令官まで栄達されたお話は、大変凄い事だと存じます」
「私の経歴が一番役に立ったのは、ディーテ星域会戦だ。私は退役中将の侯爵だ。右往左往する貴族子女を叱り飛ばして、軍に従わせて防衛を果たさせてやった。迫り来る敵をそれなりに防いだぞ。あれが私の人生で最高の瞬間だった」
ゼッキンゲンは嬉しそうな表情を見せ、自ら回顧した戦いに歓喜の溜息を吐いた。
「閣下のような方が、私たちの後方を守って下さったのですね。現役の王国軍人として、閣下にお礼申し上げます」
「おう。私は王国のために、いつでも死ぬ覚悟だ。しかし軍を経験すると、王太子殿下が総指揮官を務められる侵攻軍に対しては、色々なものが見えていかんな」
ゼッキンゲンは首を振りながら、吐き出しかけた言葉を飲み込んだ。
「王侯貴族を名乗る者は、皆が士官学校に行くべきだろうな。連合と戦うのは王侯貴族の責務であるし、士官学校で全てを学べば、軍がお守りを付けずに済む」
「なるほど」
冷静に持論を述べるゼッキンゲンに、相違点を見出せないハルトは頷いた。
「いずれにせよ未来のカルネウス侯爵と、その相手である卿が、私が考える理想の貴族である事は大変喜ばしい限りだ。アポロン星系貴族として大変誇らしい。これからも卿の活躍に期待している。壮健であれよ」
「ありがとうございます。ゼッキンゲン侯爵閣下」
ゼッキンゲンが右手を差し出してきて、ハルトはゼッキンゲンと握手を交した。
それで顔合わせは終わりとばかりに、片手を上げたゼッキンゲンは愛人を従えて、背中を見せて歩み去って行った。
相手のペースに引き摺られたハルトは、ゼッキンゲンが立ち去ってから軽く息を吐いた。
「なかなか、インパクトの強い人だったなぁ」
「ああいう性格の方ですわ」
フィリーネが苦笑する姿を見て、ハルトは「百聞は一見に如かず」と感想を纏めた。
ゼッキンゲンとの挨拶を終えた二人は、次にコースフェルト公爵の下へと向かった。
コースフェルトは交流会の主催者であり、この場における最上位の公爵でもある。参加者で子爵のハルトにとっては、挨拶を欠かせない相手だ。
コースフェルト公爵家とカルネウス侯爵家は血縁関係でもあるのか、公爵とフィリーネは同じ銀髪だった。
コースフェルトの顔を動物に例えるならば、銀狐だろうか。と、ハルトは考えた。
慌てることなく、周囲を静かに観察する老年の銀狐。そんな印象を受けたハルトは、ゼッキンゲンの時と同じように挨拶を交したが、公爵は機先を制してきた。
「アマカワ子爵は、貴族1500家の令嬢から、最初にフィリーネ嬢の遺伝子提供者となる事を決めたと聞き及んだ。子爵にとってフィリーネ嬢は、好みだったのかな」
コースフェルトに問われたハルトは、隣のフィリーネに視線を向けてから肯定した。
「あまり女性を褒める言葉を知らず、上手く表現できる自信はありませんが。まるで妖精のように見目麗しき令嬢です。清水のように流れる美しい銀髪、端整な顔立ち、華奢で愛らしい姿。私などには大変勿体ない女性だと思っております」
ハルトにしては上出来の表現だったらしく、フィリーネは顔を綻ばせた。
「成程。ところで子爵の魔力値は、かつては国内最高峰と謳われた王太孫殿下の3万を上回ると発表されていたが、ケルビエル要塞の全長から推察するに、実際には9万以上だな」
「詳細な数値は、機密に属しておりますが」
ハルトの魔力値は機密扱いとされていたが、ケルビエル要塞の全長を見れば、魔力9万以上は一目瞭然だ。
もはや公然の秘密であり、相手が公爵でもあったため、ハルトは敢えて否定しなかった。
コースフェルトは二度ほど頷き、ハルトの魔力に対する見解を述べる。
「すると子爵の子供への魔力継承は、それが平均値であろうとも、相手が子爵相当では公爵級。伯爵相当で王族級。2倍以内でも当たりが出れば、全長4万8000メートル級の防衛要塞すら星間運用させられるな」
「願わくば、平均値の0.9倍以上が出て欲しいものですね」
爵位の継承には最低値が定められており、それを満たさなければ爵位が下がるため、各貴族は魔力をとても重視する。むしろ最重要視していると言っても過言では無い。
コースフェルト公爵はハルトの魔力に関心があるのだろうか。と、会話をしているハルトは考えた。
「子爵の両親は、大成功を引き当てた事になるな」
「はい。両親は男爵家の次男と長女で、2人とも男爵級の魔力者でした。まさか孫がこのような魔力になるなど、一族の誰もが想像だにしなかったでしょう」
「子爵の兄も、1.8倍を引き当てて伯爵の基準を1000以上上回る高魔力だったと聞き及ぶ。ヒイラギ士爵の遺伝子は、今や注目されているな。複数の貴族家から、婚姻を打診されているようだ」
ハルトの高魔力に関しては、王国が様々な調査を行った。
両親は高魔力者を生み出すコツが無いかと根掘り葉掘り聞かれたし、ハルトが散々に調べられた魔力検査を兄も受けさせられていた。その件に関してハルトは、家族に対して申し訳なく思っている。
もっとも複数の貴族家から婚姻の打診があったことは、ハルトの兄にとっては嬉しい話かも知れないが。
魔力的に家の存続が危うい一般貴族家であれば、婿養子を打診する事も有り得るだろう。
打診する家は、他の貴族家から婿をもらえば借りが出来てしまうが、士爵が相手であれば代わりに子孫の誰かを出す必要も無い。それにヒイラギ家は両親が共に男爵家の出自であるため、一般貴族家が婿養子に迎え入れる家柄としては悪くない。
「私の兄に関しては、兄が決めることなので特に意見はございません。ですがヒイラギ家に関しては、特別な何かがあったわけでは無いと存じます。一族に技術があれば、ヒイラギ男爵家が高魔力になっていましょう。私の祖父達も、私の魔力には驚いておりました」
ハルトの言い分に納得したコースフェルトは、理解を示して頷いた。
「ところでアマカワ子爵。私は博打が好きではない。勝てる方法があれば、そちらを選ぶ。子爵はどうかね」
「軍人ですから、勝てる方を選びます」
コースフェルトは首を縦に二度振ると、腕の情報端末を操作してハルトにデータを送った。受信したハルトが中身を一瞥すると、それは幾人かのパーソナルデータだった。
パーソナルデータとは、貴族が婚姻を検討する際に用いられる履歴書のようなものだ、
「我が公爵家に縁のある娘たちだ。フィリーネ嬢が好みであると答えた場合に渡そうと思っていた。何度か血が混ざった親戚故、子爵の好みからさほど外れておらぬはずだ。もちろん本人たちと両親の同意は取ってある」
「公爵閣下、わたくしが同席しております場で、困りますわ」
ようやく公爵の意図が明確になったところで、会話を静かに見守っていたフィリーネが苦情を申し立てた。
だが公爵は、一向に気にする素振りを見せず、むしろフィリーネに事情を言い聞かせた。
「配慮しようにも、子爵は士官学校の寮か、軍務で要塞に篭もっている。新興で、一族の伝手も介せない。領地は無くて、屋敷も戦災で無くなった。パーソナルデータを渡せるタイミングは、今日を除いて他に無かった」
「……う゛っ」
「公爵家とは、いずれも王家から分家した元王族の末裔だ。植民支配で苦しめられた民から、なけなしの星間船と末代までの未来を託された我ら一族は、民に捧げられた絶大な権力と引き替えに、帯びた責務を果たす労を惜しまぬ」
コースフェルトは、会場の上部に映し出されているフューチャーアロー号の船体を指差した。
「この船は、かつて10億の民を乗せてアポロン星系へと辿り着いた。丁度、首星防衛戦で焼き殺された民の数と同じだ。移民中のフューチャーアロー号が、移民の半ばにして破壊され、10億の民が殺し尽くされたのと同じ事が起きたのだ」
かつてフューチャーアロー号の船団長を務めたコースフェルト家の後継者は、フューチャーアロー号に視線を向けたまま語り続ける。
「カルネウス侯爵家令嬢の魔力は公爵級。首星防衛戦に従軍して、数百隻の敵を撃沈し、主星の数億人が焼き殺されずに済んだ。アマカワ子爵が子爵級の娘と1人子供を作ってくれれば、数億人が焼き殺されずに済む」
静かに拳を握り締めて語るコースフェルトは、破壊されて沈んでいくフューチャーアロー号から、乗員の移民たちを他の船へ移して助けようと、必死に足掻いているようにハルトには感じ取れた。
「私は、爆心地の周辺から引きずり出された黒焦げの人々を見た。黒焦げの母親が死ぬまで抱えていた幼い子供は、最後に水が欲しいと言って息絶えた。死者10億人は、子爵が3人ほど子供を作ってくれれば、次に襲われた時には0人になるかもしれない」
戦災者の救助に狩り出された際の光景が、ハルトの脳裏を過ぎった。
439年の自然休戦期間を経た王国と連合は、共に資金も資源も有り余っている。単に作るだけであれば、艦隊100万隻でも、要塞100個でも建造できる。
互いに魔素機関を稼働させられる魔力者を揃えられないために、数万隻と数個の要塞で削り合いながら、惑星1つを半壊させ、あるいは征服しているのが今の状況だ。
防衛戦で移動要塞があと1基あれば、首都の死者は1億人以上減っただろう。10基あれば、敵軍を首星に辿り着かせずに済んだかも知れない。
フューチャーアロー号を見上げるコースフェルトの背中に、ハルトは掛ける言葉が見つからなかった。
「私がデータを送った貴族の娘たちは、いずれも王国民に託された財物で豊かに暮らしてきた。責務が嫌なら権利を放棄すれば良いと念を押したが、いずれも責務を果たすと選択した。子爵の好みで無ければ、そう伝えてくれれば良い。その時は、いくらでも他の娘を探そう。私は王国の公爵として、王国民を守る労を一切惜しまぬ。どれだけでも駆けずり回ろう」
振り返った老狐の厳然たる瞳が、静かにハルトを見下ろした。